■炎上の典型パターンだったチョコプラの発言
芸能人や政治家、大物財界人など、著名人の不祥事があるたび、謝罪会見を求める声が上がります。しかし謝罪会見をしたらしたで、さらなる批判を集めて大炎上するケースもあり、いったいどうしたら良いのでしょうか。謝罪という危機対応においては、戦略がカギとなります。
地上波レギュラー番組を多数抱え、自身のYouTube登録者も約250万人という大人気お笑いコンビ、チョコレートプラネット・松尾駿さんが、SNS利用について発言したことで炎上しました。SNSの攻撃性への批判という意味で「素人はSNSをやるな」という発言が注目され、それがネットニュースで伝播するという、典型的なネット炎上パターンとなったのです。
その「素人」発言自体、主旨はあくまで悪質な中傷などへの批判なのですが、こうした本意は届かなくなるのがネット炎上です。だいたいの炎上事件は本来の主旨とは異なるメッセージに変換され、それが伝播する過程でさらに情報がゆがみ、元となった番組や発言を聞いていない圧倒的多数の人が批判をし始めるのが炎上構造です。
■二人で坊主頭は悪手だった
チョコレートプラネットさんは、「素人」発言動画の1週間後、今度は「皆様へ」と題して「お騒がせして申し訳ありませんでした」と謝罪する動画を公開しました。この動画は現時点で再生回数が250万回と注目を集めました。
発言をした松尾さんは気持ちを引き締めるためと言って髪の毛を刈りますが、元から坊主頭のため、いまいちよく変化がわかりません。さらに相方の長田さんも自分の頭を刈り、二人そろって反省の意を表する内容となっています。
これがまたまたネットニュースになり、拡散していったのですが、果たして良かったのでしょうか。反省動画では、「松尾さんが含み笑いしているように見える」とか、そもそもコント仕立ての演出は「反省などしていないのでは」という、批判の声も上がっています。
筆者は、この謝罪動画は悪い方向に注目を増強したという意味で悪手だったと思います。炎上過程では通常のコミュニケーションは成り立ちません。誤解が誤解を生み、言ってもいないデマ、フェイクが飛び交います。250万回再生という注目を浴びてしまったことは、事態鎮静化の逆に向かいかねないと考えています。
■誰にも得がない謝罪動画
戦略家クラウゼヴィッツは、戦いに勝つための技法、方法論が戦略だと言っています(クラウゼヴィッツ『戦争論』)。戦いにおいては通常、100対0の圧勝も完敗もなく、99から1の間で微妙なバランス結果となるものだと思います。すべて自分の思う通り、100%の勝ちなど現実的ではなく、少しでも自分の目的達成の度合いを増やすことが、リアルな戦略だと私は理解しています。
コミュニケーションにおいても、例えば自らがスポンサーとしてお金を出して発信するコマーシャルであっても、100%自分の意思を伝えることはまずできないでしょう。自らの手を離れたメッセージをどう解釈されるかは受け手が決めます。完全な情報管制はできません。
謝罪を求められるような炎上状態=危機状況であれば、人々は熱狂して冷静さを失うことで、情報の制御もできなくなります。まさに「祭」状態となります。
チョコプラさんの謝罪動画は、それによってどんな成果を狙ったのかがわからないことが最大の問題だと思います。本気のようなおふざけのような、どうとでも取れてしまう謝罪動画は、結局よくわからない、何となくネガティブな雰囲気だけが残るという、誰にも得がない効果を呼んだのではないかと思います。
動画を見る
チョコレートプラネットチャンネル「皆様へ」
■アンジャッシュ渡部に感じる戦略性
ここで一つ、不祥事を起こし謝罪会見も失敗しましたが、その後の動きに戦略性を感じるアンジャッシュ・渡部建さんの謝罪を考えてみます。
2020年に女性との不適切な行為で大批判を受け、芸能活動休止に追い込まれた渡部さんは、その事件のあった年の12月、年末特番に出演するのではないかという注目を浴びて行った記者会見が、伝説的大炎上となりました。そのため、目論んでいた復帰どころか、メディア露出がさらに遠のいてしまったのです。
この会見は確かにひどいもので、この大失敗会見により渡部さんは事態鎮静化どころか、さらなる休養、メディアから消滅することになったのでした。結局再びメディアに出られるようになったのは2年近く経った2022年でした。
千葉テレビ放送の「白黒アンジャッシュ」に復帰となったのです。その際まだまだ多くの批判はありましたが、千葉テレビ放送という地方局だったこともあり、時間の経過とともに批判は少しずつ減っていったと思います。さらにYouTube番組やABEMAにも出演をはじめ、徹底的にイジられるという、事件前とは正反対の「いじられキャラ」として、露出は少しずつ増えていきました。
■用意周到に作り込まれた謝罪会見番組
そんな中、今年9月14日、これまでも出演してはイジり倒される場だった、ABEMA「チャンスの時間」では、「渡部の謝罪会見をやり直そうSP」という、ついには自身の破滅につながった謝罪会見まで題材にする番組に出たのでした。
この番組は80万回以上と、普段の倍の再生回数でした。たしかにふざけた内容ですが、この番組は良くできていたと思います。これがネットニュースで報道されても炎上することは無く、番組を実際見た人からはおもしろかったという声が多く上がりました。
千鳥の二人に加え、脇を固める出演者にインパルス・板倉俊之さん、みなみかわさんといった腕利きをそろえ、しっかりとした番組作りになっていました。さらにこの番組が、ABEMAというネット番組であり、地上波テレビのように、見たくない人にも届いてしまうリスクが少ない存在であることも重要です。
宥和的に見てくれる視聴者と腕利き芸人、さらにABEMAというテレビ朝日にサポートされたちゃんとした番組制作と、実は非常に周到に計算された、正に戦略コミュニケーションを実践したのがこの番組だったのではないかと考えています。
■謝罪会見の本来の目的とは
謝罪はコミュニケーションの一部であり、そこに戦略性があるかないかで、大きく成果も違ってきます。戦略性とはすべて自分の思う通りになる、やらかしたことが帳消しになるのではなく、必ず「捨てる」決断が必要です。
ゼロか100かではなく、99から1の間のグラデーションにおいて、どこまで自身が重視するメッセージを届けられるかだと思います。その結果として、芸能や政治、ビジネスという、本業の事業継続ができることが、究極の謝罪の目的なのであって、謝罪会見が目的ではないのです。
チョコプラさん事案についてはまだ決着はついていません。
さらにもう一人、今年岐路に立たされた女優・永野芽郁さんは、今後の戦略をどのようにすべきか考えます。
■永野芽郁の謝罪会見は不要なのか
永野さんは、清純派女優として大人気を博しましたが、今年4月に俳優・田中圭さんとの不倫報道で大批判を浴び、表舞台から姿を消しました。炎上後にも自身のInstagramを更新し、活動を継続する素振りでしたが、いまだにメディアに出てこれていません。
筆者はさまざまなメディアから永野さんの謝罪会見の必要性についてコメントを求められましたが、結局謝罪会見をするもしないも、本人次第です。
法律でも何でもない記者会見を強要することはもちろんできないですし、何より本人がどうしたいのか、正に目的がわからなければ展開のしようがありません。事態鎮静化や事業継続という目的達成のための選択肢として、会見するかどうかなのです。
永野さんもこの先の女優キャリアの岐路にいるのだと思います。年齢という避けられない時間の変化において、これまでのような若手清純派女優の路線をずっと続けることは難しいでしょう。どこかでモードチェンジをするなら、悪女のような人間の暗黒面も演じられる役者になるというのは、十分現実的な選択肢ではないでしょうか。
自身の欠陥やミスも受け入れて、新たなステージに舵を切るという岐路にあるのではないかと思います。
■3人に共通すること
ここで例に挙げたチョコプラ・松尾さん、アンジャッシュ・渡部さん、永野さんに共通しているのは、「自分の希望、都合、意思」を通そうとした結果、窮地に至ったということです。賛否のあるSNSの中傷批判、理想とする高視聴率年末特番という晴れ舞台での復帰、これまで通りの清純派女優の継続--いずれも強引に押し通すのは無理があるでしょう。
決めるべきは「何を捨てるか」です。
すべてを手にすることはできないので、これだけは残したいという要素を見出し、そのプライオリティによってとるべき行動を決めるという、戦略性こそが求められています。何も捨てずに自分の希望を通そうとした結果、せっかくの謝罪会見は何も成果を生まず、事態収拾が遠のいてしまうのです。
ただ渡部さんの場合は、2020年末の謝罪会見は炎上しましたが、地上波を見切り、ABEMAに戦線を縮小することで、メディア露出増の可能性は高くなったかもしれません。
謝罪は負け戦です。負け戦は不利な戦いを強いられる、一番難しい戦いだといわれます。負け戦では勝利を目指すのではなく、いかにダメージを少なくして生き延びるかが勝負です。「負け」は揺るぎませんが、上手に負け戦を戦って生き延びることができれば、いつか起死回生の機会が得られるのです。
クラウゼヴィッツは「戦争とは政治的な目的を達成するための手段(クラウゼヴィッツ『戦争論』)」だと定義しました。
----------
増沢 隆太(ますざわ・りゅうた)
東北大学特任教授/危機管理コミュニケーション専門家
東北大学特任教授、人事コンサルタント、産業カウンセラー。コミュニケーションの専門家として企業研修や大学講義を行う中、危機管理コミュニケーションの一環で解説した「謝罪」が注目され、「謝罪のプロ」として数々のメディアから取材を受ける。コミュニケーションとキャリアデザインのWメジャーが専門。ハラスメント対策、就活、再就職支援など、あらゆる人事課題で、上場企業、巨大官庁から個店サービス業まで担当。理系学生キャリア指導の第一人者として、理系マイナビ他Webコンテンツも多数執筆する。著書に『謝罪の作法』(ディスカヴァー携書)、『戦略思考で鍛える「コミュ力」』(祥伝社新書)など。
----------
(東北大学特任教授/危機管理コミュニケーション専門家 増沢 隆太)