注意すべき詐欺師の話術にはどんなものがあるか。犯罪ジャーナリストの多田文明さんは「犯罪経験の長い闇バイトのリクルーターほど、相手の個人情報を把握した上でシナリオを立てながら話を進めていき、犯罪行為に駆り立てる。
特にお金に関する質問に正直に答えてしまうと、相手の術中から抜け出せなくなってしまう」という――。
※本稿は、多田文明『人の心を操る 悪の心理テクニック』(イースト・プレス)の一部を再編集したものです。
■闇バイトの募集で組まれている巧みな仮説思考
仮説思考のシナリオでターゲットを誘導する×ターゲットを定めず道筋を考えない
○ターゲットを把握して論理的に誘導する

SNSに書き込まれる闇バイトへの応募者たちが、犯罪に加担してしまうケースが続出して社会問題になっていますが、なぜ人々は闇バイト募集の罠にはまってしまうのでしょうか。
十数年の長きにわたり、闇バイトの電話調査をしてきて、リクルーター(闇バイトの募集をする者)らが犯罪未経験者を犯罪に駆り立てていく手法がいかに巧みなのかを感じています。
私自身「その手でくるのか」と、不本意ながら舌を巻くことがあったのも事実です。そこには、彼らが多くの人をだますという詐欺の経験をもとにした「仮説思考」がありました。
仮説思考とは仮のゴールを設定し、その実現に向けた道筋を考えることをいいます。つまり、詐欺においては、相手の状況や情報に合わせて様々なシナリオを用意し、相手を誘導するまで(金をだまし取るなど)のプロットを考えているのです。
闇バイトの募集では、巧みな仮説思考が組まれています。まずリクルーターは、SNS上に「高収入」「短時間」「即日即金」などという書き込みをして応募者を募ります。
以前は「闇バイト」というワードを直接使っていましたが、最近は警察やメディアを通じて注意喚起がなされ、多くの人がこの言葉に警戒感を持っているため、ブラック(詐欺)ではない「ホワイト案件」という言葉で、誘うことも多くなってきました。
■リクルーターが聞いてくるお金に関する3つの質問
このように募集することで、借金などに苦しみ「簡単に多額のお金を稼ぎたい」と思っている人物の目に留まるように仕向けられているのです。

そしてDMで連絡をさせるために、仕事内容について、「荷物を運ぶ」「簡単な仕事」「年齢不問」などの文言だけを載せて、SNS上の求人では詳しくは記さず、DMで問い合わせしなければわからないようにしています。
ここでは、「漠然とした募集内容を載せて、興味を持たせて、気軽に問い合わせをさせる」手を使っています。
その後、メッセージを後から消せる秘匿性の高い通信アプリで連絡を取ります。そのときに、面接と称してリクルーターが聞いてくるのが「借金はありますか?」「どのくらい稼ぎたいですか?」「今月、いくら返済しなければなりませんか?」といったお金に関する質問です。
通常の面接では、まずこうしたことを聞いてこないはずですが、応募者の多くは多額の借金を抱えて、明日の生活に不安を抱えているので、正直に答えてしまいます。これに答えてしてしまうと、個人情報や借金事情などの弱み、仕事に就けていない不安などの様々な情報がリクルーターに知られ、術中から抜け出せなくなります。
リクルーターは、応募してくる者たちの「お金に困っている」という心理状況を把握した上で、どのような話をすれば犯罪に加担させるという結論に導けるのかを考え、コントロールしてくるのです。
■寄り添うような話し方をされて、相手の言葉を信じてしまう
そして闇バイトのリクルーターたちは、臨機応変なアドリブ力にも長けています。
例えば、もし応募者が「逮捕されるかもしれない」という不安を持っているとみれば、それを打ち消すための話をします。
「うちのグループでは捕まった者は1人もいません。必ず、見張り役をおいて、警察がいないかを確認しているからね」「万が一、捕まっても、うちの顧問弁護士をつけるので、初犯だし、罪には問われないよ」ということをいってきます。
すべて嘘ですが、応募者たちは、寄り添うような話し方をされて、相手の言葉を信じてしまいます。

個人情報を把握した上で、この人には「この言葉が刺さるだろう」「仕事をすればすぐに借金すべてを返せることを強調すれば、犯罪行為に駆り立てることができるだろう」というシナリオを立てながら話を進めてきます。
犯罪経験の長いリクルーターほど、こうした仮説思考ができており、その結果、多くの応募者が犯罪行為をさせられてしまうわけです。
この仮説を考える論理的思考はビジネスにおいても必要不可欠です。例えば、とある商品を若者に購入してもらうことをゴールとした場合、ターゲットとなる消費者の人物像や消費行動のリサーチをした上で、どのように広告を打ち出していくかシナリオを論理的に考えます。
東京で若者向けに看板広告を出すのであれば、巣鴨より渋谷に出した方が有効でしょう。もしくは、新聞広告よりもSNSでの告知の方が目に留まりやすくなるかもしれません。
このように、ターゲットの心理や状況を把握し、そこから「消費者は○○を欲しているから、この広告が刺さる」と論理的に考えながらストーリー展開の仮説を立てていくのです。
POINT:仮のゴールを設定し、その実現に向けた論理的なシナリオで誘導する
■偽の警察官が突然、捜査協力の依頼をして来るワケ
急に話を方向転換させて動揺させる×マニュアル通りに話を進める
○「ところで、どう思いますか?」

近年続出している、詐欺の実行犯の逮捕を逆手に取り、これらを装った劇場型詐欺が登場しています。この手口にも被害者の心理を手玉に取るテクニックが潜んでいました。
私が知る手口では、80代の女性のもとに、警察官を装う詐欺師から「この地域で、特殊詐欺の被害が多く起きています」と注意をうながす電話がかかってきます。そして「不審な電話があれば、警察官が近くにいますので、こちらの番号に連絡をください」と電話番号を告げられます。
そして翌日、女性のもとに孫をかたった電話で「300万円が必要になった」というオレオレ詐欺の電話がかかってきます。
前日に警察から注意喚起の電話があったことを思い出して「これは詐欺だ」と確信した女性は、教えられていた番号に電話をかけます。
すると偽の警察官は突然、「犯人を捕まえたいので、だまされたふりをしてもらえませんか?」と捜査協力の依頼をしてきます。
女性は急な依頼に戸惑いますが、偽の警察官に「詐欺撲滅のために、お願いします」と畳みかけられると、承諾してしまいます。後で解説しますが、ここに詐欺グループの巧みな心理操作があるのです。
その後、偽の警察官は「犯人はいくらのお金が必要だといっていましたか?」と尋ね、女性が電話の通り「300万円です」と答えると、「お金は責任を持って全額戻しますので」と安心させた上で、その金額を用意させます。
■急に話を転換させて決断を迫る
そして、孫役の詐欺師から「今から伝える住所に宅配でお金を送ってほしい」と連絡を受けると、偽警察官の指示をあおぎながら300万円を送ってしまいます。
偽警察官は「ご協力感謝いたします。これで犯人を確保できるはずです」と現地に向かうふりをします。
その後もアフターフォローで「犯人を逮捕しました。ご協力ありがとうございました」という電話がかかってきますが、これは女性を安心させて詐欺の発覚を遅らせようとしているのです。こうして女性が配送した300万円は戻ってくるはずもなく、偽の警察官たちにも連絡がつかなくなるのです。
この手口のポイントは、急に話を転換させて決断を迫っている点です。
人間は、急な出来事に見舞われ、迅速な判断を迫られると、動揺してしまい冷静な判断ができなくなってしまうのです。
高齢の女性は、急な犯人捜査の協力依頼に動揺してしまい、自分で金銭を準備させて使われることに疑問を抱けなかったのです。
本物の警察官は、オレオレ詐欺に対して「だまされたふり作戦」を行うことはありますが、家人にお金を用意させることはありません。冷静に考えれば気づけそうなものですが、動揺するとそれだけ思考が充分に働かなくなるものなのです。
■思考がストップし、相手の言いなりに行動してしまう
キャッシュカードをだまし取る手口にも、急な方向転換でだます手法がみられます。
高齢の女性宅に、役所をかたり「払いすぎた保険料があるので、振り込みでご返金します」との電話をかけ、「振り込みの手続きのために、キャッシュカードを郵送してください」といってきます。
そして女性が手元にカードの準備をしていると、再び電話があり「偶然、近くに銀行員がいましたので、カードを渡してください」と急遽、方向を転換してくるのです。そして、偽の銀行員が家に来てカードをだまし取っていきます。
急な対応を求められ動揺しているところに、いきなり話の流れを変えられると、冷静さを失い誘導されやすくなります。
私も悪質業者と対峙しているときに、同様の手口を使われたことがあります。相手は、流暢に話していたかと思えば、急に話にブレーキをかけ「ところで、どう思いますか?」と質問をしてくるなど、話の急な転換が実に巧みなのです。
たいがいの人は、突然の質問に「答えが頭に浮かばない」状況となり、思考がストップします。
その結果、相手のいいなりに行動してしまいがちなのです。
具体的には、相手が次から次へと契約の説明をしていたかと思えば、突然「ところで、わからないことがあれば、質問してください」と迫るのです。
そして、なにを質問しようかと考えているうちに「質問がないということは、理解していただいたということですね」といって、契約に誘導されたりするわけです。
■相手の反応に応じて話の展開を組み立て直す
このテクニックは、研修やセミナーなどで相手の理解度を確かめながら話を進めていく方法として応用できます。
誰しも一度は経験があると思いますが、マニュアル通りの解説を延々と聞いていると、話が一方的すぎて頭に入らずに眠くなってしまうことがあります。
話を聞いている相手の反応が今一つ手ごたえがないときには、「ところで、どう思いますか?」などと、話にブレーキをかけて発問することで、相手の理解度や反応を把握しながら、その度合いに応じて話の展開を組み立て直すことができるのです。
POINT: 話を急に方向転換させ、自分の思い描く方向に誘導する

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多田 文明(ただ・ふみあき)

ルポライター

詐欺・悪質商法に詳しい犯罪ジャーナリスト、キャッチセールス評論家。1965年北海道生まれ、仙台市出身。日本大学法学部卒業。雑誌「ダ・カーポ」にて『誘われてフラフラ』の連載を担当。2週間に一度は勧誘されるという経験を生かしてキャッチセールス評論家になる。キャッチセールス、アポイントメントセールスなどへの潜入は100カ所以上。
悪質商法や詐欺などの犯罪にも精通する。著書に『ワルに学ぶ黒すぎる交渉術』(プレジデント社)、『信じる者は、ダマされる。元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)などがある。

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(ルポライター 多田 文明)
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