小泉進次郎氏が総理になったら、どのような政策を進めていくのか。ジャーナリストの須田慎一郎氏は「小泉陣営のメンバーを見ると、岸田派、および菅グループが全面的にバックアップしていることがわかる。
岸田政権で行われた増税路線が継承されることは明らかだ」という――。
※本稿は、須田慎一郎氏のYouTubeチャンネル「ただいま取材中」の一部を再編集したものです。
■「岸田派・菅グループ」が推す小泉候補
10月4日に投開票日を迎える自民党総裁選について、筆者は非常に興味深い資料を入手したので、そこから読み取れることを皆さんに報告したい。
手元にあるのは、小泉進次郎陣営の選挙対策実務班の組織図であり、小泉陣営の組織体制を示す内部資料である。
この資料を読み込むと、やはり小泉候補が岸田派および菅グループの丸抱えで、今回の総裁選に臨んでいることが、明らかになってきた。
今回の小泉陣営においては、さまざまな役割分担に基づき複数の班が編成され、それらを統括する司令塔が設けられているという、いわばピラミッド型の組織となっている。このピラミッド型の選対本部の中において私が注目したのが、小泉陣営が今回の総裁選に向けて打ち出している政策、いわゆる公約に関わる「政策班」だ。
この政策班で班長を務めているのが村井英樹衆議院議員である。「この人物が任命されるのか」と、私は少なからず驚かされた。
■岸田文雄の“左腕”となる人物
村井英樹氏とはいかなる人物か。
一言で表現すれば、岸田元首相の「左腕」である。「左腕」という表現は一般的ではなく、通常は「右腕」と言われることが多いが、岸田元首相にとっての右腕は、もはや説明の必要もない人物であり、かつて官房長官を務め、現在は自民党選挙対策委員長を務めている木原誠二氏である。

木原氏は財務省出身でもあり、岸田氏にとってまさに右腕と呼ぶべき存在であるとすれば、これまであまり名前が知られていなかった村井英樹氏は、いわば「左腕」と表現するにふさわしい存在である。
両者ともに、言ってみれば岸田氏の側近中の側近である。特に政策面においては、岸田氏が村井英樹氏の意見に耳を傾ける場面が多かったとされている。
もっとも、村井氏は攻撃的な性格ではなく、財務省と円滑な関係を築くことができる人物である。決して財務省と衝突するようなタイプではない。加えて、彼は強固な緊縮財政志向を持っているとの指摘もあり、財務省と対立構造を築くような場面も見られないようである。
もっとも、財務省に対して全面的に依存すれば、その影響力にのみ込まれてしまうという懸念を抱いているとも言われているが、かといって財務省と全面的に対決する姿勢を取る様子も見受けられない。
■緊縮財政が基本路線
こうした点を踏まえると、小泉進次郎候補の経済・財政政策は、極めて緊縮的な色合いを持っていることが明らかである。
消費税減税、年収の壁の引き上げ、ガソリン暫定税率の廃止といった減税政策については、この陣営からは肯定的な意見はほとんど見られず、否定的な反応ばかりが目立つと言ってよい。
■小泉陣営を支える財務省人脈
全体を統括する役割として「全体総括班」が設けられており、その責任者には田中良生氏が任命されている。この人物もまた、非常に興味深い経歴を持つ。
田中氏は、もともと先の自民党総裁選で「増税ゼロ」を打ち出した茂木敏充氏、すなわち茂木派に所属していた議員である。
しかし、前回の総裁選では茂木氏と袂を分かち、旧大蔵省出身の加藤勝信氏を支持し、同氏の推薦人として名を連ねた。加藤氏が第1回投票で敗れたことにより、決選投票では石破茂氏に投票した経緯がある。これは、茂木氏の意向に反する行動であり、田中氏が茂木氏から完全に離反したことを物語っていると言っていいだろう。
今回の総裁選においては小泉陣営の選対本部長に加藤氏が就任する運びとなった。このような流れを見るに、財務省との人脈が小泉陣営においても深く影響を及ぼしていることが明らかである。
■高市陣営とは真逆の経済政策
いや、そんなことはない。小泉進次郎候補は財務省に対して一定の警戒感を持っているのではないかと思われる読者もいるかもしれない。
とは言えその実態としては、全体総括班の責任者に田中良生氏が就いたことで、結果的には財務省の影響力の下に組織全体が置かれている構図だ。
この内部資料を読み込むだけでも、小泉進次郎陣営の特色や政治的カラーが浮き彫りになってきたと言える。
特に経済・財政政策の面においては、高市陣営とは180度異なり、明らかに緊縮財政・財政再建を重視する立場である。また、減税などの積極的な財政出動に対しては否定的な姿勢を示す人物が多く揃えられている。よくぞここまで同じ方向性の人材を集めたものだと感心するほどである。

■緊縮財政派VS.積極財政派の戦い
冒頭でも述べた通り、全体の構図としては、岸田氏および菅氏が丸抱えしている状況だ。この点から見るに、石破茂政権が「第3次岸田政権」と揶揄されたように、仮に小泉進次郎政権が発足すれば、それは「第4次岸田政権」とも呼べるような性格を帯びる可能性が高い。
この内部資料を読み込むだけで、小泉進次郎氏が今後どういった政策を打ち出すか、大まかな方向性はすでに明らかである。討論会における発言や公式な政策発表を待たずとも、陣営を構成するメンバーを見れば、その本質は見て取れる。
最終的には、自民党の国会議員および党員が、緊縮財政路線を選ぶのか、それとも積極財政路線を選ぶのかが問われる総裁選となる。
■ステマ問題の背景にある左派勢力
そして、ここに来て大問題となっている小泉陣営を巡る「ステマ問題」についても、その背景になにがあるのかについて述べたい。
9月25日、週刊文春オンラインで、小泉進次郎氏の総裁選出馬会見の様子がニコニコ動画で取り上げられた際に、コメントの例文集をつくり、ヤラセの書き込みを指示したということが報じられた。
その中心人物とされているのが、小泉陣営の広報担当班長・牧島かれん氏である。
今回の問題となっているのは、小泉進次郎氏を持ち上げるコメントだけでなく、対抗馬である高市早苗候補を揶揄・批判するコメントも用意されていたことだ。
24パターンのコメント例が記載されたメールが公開されたが、その中には「ビジネスエセ保守に負けるな」など、名前こそ挙げられていないが高市氏を意識したと見られるコメント案が含まれており、それがさらなる炎上を招く要因となった。
取材を進めていく中で、この騒動の背景には、牧島氏の個人的な意図や思惑が色濃く反映されていることが明らかになってきた。
具体的には、自民党内において、牧島氏は左派グループに属する人物であり、過去の活動を見ても、その傾向は一貫している。

■「選択的夫婦別姓」を推進
特に注目すべきは、賛否両論を呼んだ「LGBT理解増進法案」の成立にあたり、牧島氏はこの法案に対して全面的に賛成の立場を取り、法案成立のために先頭を切って積極的に行動していた人物である。
今回、小泉進次郎氏はこの件について表立った発言を控えているものの、前回の総裁選において彼が推進しようとしていた政策の一つに「選択的夫婦別姓」がある。
そして、現在の自民党内において、この選択的夫婦別姓の法制化を先頭に立って進めているのが、実は牧島氏である。
牧島氏は、かつてLGBT理解増進法案の成立に向けても非常に熱心に活動していた。あまりにも積極的にこの法案成立を推進していたため、当時の安倍晋三元首相から「牧島さん、少しやりすぎではないか。自民党は保守政党なのだから、そのあたりをわきまえるべきではないか」と問題視されていた、という事実もある。
この点については、安倍氏が既に故人であることから、具体的な裏付けを取るのは難しいと考えられるかもしれない。しかし、安倍氏から直接その発言を聞いたという国会議員は複数存在しており、私自身もそのうちの一人から話を聞いている。よって、これは裏付けのある事実として扱うことができる。
このように、LGBT理解増進法案や選択的夫婦別姓の法制化を推進してきた牧島氏は、自民党内において明確にその中心人物であった。
■リベラルな親中派
さらに言えば、彼女の選挙地盤は河野洋平氏――すなわち河野太郎氏の父親――の地盤を引き継いだものであり、その系譜を継承する立場にある。したがって、政治的にはリベラル、そして親中のスタンスを色濃く持っている人物であると言える。

そうした立場から見れば、高市氏は、牧島氏にとって最も対極にある存在である。両者は政治理念において全く馴染まない、「水と油」の関係性にあると言っても過言ではない。
したがって、こうした政治的背景があることから、今回の総裁選において、牧島氏が高市氏に対して敵対的な印象、つまり対抗意識を抱いていた可能性は極めて高いと考えられる。
それゆえに、高市氏を貶めるようなコメント案が登場した背景には、牧島氏のそうした政治的スタンスが色濃く反映されていたのではないかと私は見ている。
■保守政党にふさわしい候補者なのか
あのコメント案は、明らかに高市氏を意識し、「この人物だけは自民党総裁にしてはならない」という強い意識に基づいたものだと推察できる。
そうした点を踏まえれば、「秘書が勝手にやったこと」という説明は、場合によっては虚偽である可能性も否定できない。仮に、牧島氏の思想や政治的姿勢を日頃から知る秘書が、それを忖度して動いたという解釈もあり得るが、いずれにしても秘書単独の判断であのような問題が発生するとは考えにくい。
やはり根底には、牧島氏自身の考え方や、何らかの指示が存在していた可能性が高い。
この点を理解した上で今回の「ステマ問題」を捉えると、単なる広報戦略の誤りではなく、より深い政治的文脈の中で生じた事案であることが見えてくる。
広報担当班長を辞任したからといって、それで問題が収束したわけではない。
ステマ問題そのものだけでなく、その背景に何があったのかを掘り下げなければ、仮に小泉進次郎氏が将来的に総裁・総理となった際に、いかなる政治方針を打ち出そうとしているのか――それが保守政党としての自民党の路線と合致しているのか否か――という根本的な問いにも関わってくる。
これが単なる偶発的な問題ではなく、一定の政治的意図に基づくものだった可能性が高いことをご理解いただければ幸いである。


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須田 慎一郎(すだ・しんいちろう)

ジャーナリスト

1961年東京生まれ。日本大学経済学部を卒業後、金融専門紙、経済誌記者などを経てフリージャーナリストとなる。民主党、自民党、財務省、金融庁、日本銀行、メガバンク、法務検察、警察など政官財を網羅する豊富な人脈を駆使した取材活動を続けている。週刊誌、経済誌への寄稿の他、TV「サンデー!スクランブル」、「ワイド!スクランブル」、「たかじんのそこまで言って委員会」など、YouTubeチャンネル「別冊!ニューソク通信」「真相深入り! 虎ノ門ニュース」など、多方面に活躍。『ブラックマネー 「20兆円闇経済」が日本を蝕む』(新潮文庫)、『内需衰退 百貨店、総合スーパー、ファミレスが日本から消え去る日』(扶桑社)、『サラ金殲滅』(宝島社)など著書多数。

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(ジャーナリスト 須田 慎一郎)
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