※本稿は、須田慎一郎氏のYouTubeチャンネル「ただいま取材中」の一部を再編集したものです。
■収まる気配がない「WLB捨てる発言」の炎上
今回は高市早苗新総裁に関して、大変な事態が起きていることを皆さんにお伝えしたい。この件については、きちんと説明を申し上げた方が良いと判断した。
それは一体何かというと、時間の経過とともに多少は収まるかと思われていたが、高市早苗・自民党新総裁に関する話である。
去る10月4日、総裁選の当日、高市早苗氏が新総裁に選出された後、両院議員総会が開かれた。
その場で、自民党所属の国会議員を前に高市氏が演説、あるいはスピーチを行った。その中で、次のようなフレーズが出てきたことをご存じの方も多いと思う。
「私自身もワーク・ライフ・バランスという言葉を捨てる」との発言である。
この発言が、悪意を持って解釈されたとしか思えないが、特定の意図を持つメディアや政党から激しい批判を受けている。
現在、まさに袋叩きのような状況が続いており、いわゆる“炎上状態”と言っても差し支えないであろう。
当初は、単なる難癖あるいは揚げ足取りの一種であろうと私自身も受け止めていたため、いずれ沈静化するものと考えていた。
しかしながら、時間が経っても一向に沈静化の兆しが見られないため、こうした事態が実際に起きていることを、ぜひ皆さんに知っていただきたく、筆を執った次第である。
■高市氏の考えがわかるコラムの存在
一体、何が起きているのか。
この点については、これまでも部分的にはいくつかの動画でお伝えしてきた。しかし今回は、その総集編として、丁寧に説明を試みたいと考えている。
今、私の手元には一つのコラムがある。これは、高市早苗氏の公式ホームページに掲載されているものである。
もちろん、高市早苗氏自身が自ら執筆した内容である。その内容には本人の考えが色濃く反映されている。
執筆されたのは今からおよそ10年前、2016年9月25日のことである。当時、高市早苗氏は総務大臣を務めており、その在任中に「総務省の働き方改革の悩み」というタイトルのコラムを発表している。
文章自体は長文ではないが、その冒頭と一部の内容について、ここで紹介したい。
このコラムは、次のような書き出しで始まっている。
臨時国会召集を明日に控えて、8月上旬から今まで方針を決めかねて悩んでいたことがあります。すごく些細なことなので、笑われてしまうかもしれませんが…
このように注釈を交えながら話が展開されている。
■官僚の睡眠時間を削る「早朝レク」問題
次のような記述がある。
私の総務大臣就任は一昨年の9月3日でしたが、就任以来2年あまり、いわゆる“早朝レク”というものを受けたことがありませんでした。総務省職員や自身のワーク・ライフ・バランスの観点から、就任早々に廃止したのです
ここで言う「早朝レク」とは、国会答弁の準備を目的に、委員会開始前の早朝4時台から8時台にかけて、大臣が課長や局長から答弁書の内容について説明を受ける慣習である。
多くの省庁では、慣例としてこのような早朝レクが実施されていたようだが、国会会期中は多くの官僚が深夜まで答弁資料の作成に追われ、課長や局長がその内容をチェックしている。
それに加えて早朝レクを行うとなれば、彼らの睡眠時間がほとんど確保できなくなるという問題が生じる。
この点については後ほど詳しく説明するが、前日の深夜――いや、正確には未明まで、官僚たちは国会答弁書の作成に追われている。
そのうえで、朝4時から8時にかけて早朝レクを行うとなれば、官僚たちにはまったく眠る時間がなくなってしまう。
この状況を憂慮した高市早苗氏は、国会の答弁書作成は重要であるとして、それは引き続き丁寧に行ってもらうべきだと考えた。
しかし、その一方で早朝レクについては、「自分が頑張れば対応できる」と判断し、自らの意志で総務大臣就任早々にこれを廃止する決断を下した。
■早朝レクは「課長一人」に変更
ところが、ここで思わぬ問題が生じた。
早朝レクが存在することで、局長や審議官クラスの幹部職員はもちろんのこと、普段大臣と面談する機会が少ない課長クラスの職員も、日常的に大臣と直接面談する機会を得ていたというメリットがあったのだ。
つまり、早朝レクの場が、課長クラスにとっては貴重な意見交換や情報共有の場になっていたのである。
その早朝レクが廃止されることによって、課長クラスの職員が大臣と直接対話する機会が失われるのではないか、という指摘が官僚サイドから出てきたのである。
この点を考慮すると、早朝レクの廃止は、結果的に高市大臣による「余計なお世話」(高市氏)であったのかもしれない――。
こうした反省を踏まえ、高市氏は大いに悩んだという。
そして、コラムには次のように記されている。
国会召集ギリギリまで早朝レク再開の是非について迷いがあったのは、課長が早朝出勤すると、深夜まで作業をした若手職員も含めて、彼ら全員が付き合いで早朝出勤をすることになりかねず、健康を損なうのではないかという心配からでした。この点は、私への説明を希望する課長1人だけの出勤しか認めないことに限定したいと思います
つまり、高市大臣に対して説明を希望する課長1人のみの出勤とし、それ以外の職員については早朝出勤の必要はない、という形で方針を一部修正したのである。
■WLBの実現に頭を悩ませてきた
ただし、高市大臣自身が早朝に登庁する場合、大臣室の職員9名、SP(警護官)、そして大臣車のドライバーも早朝出勤を余儀なくされることになる。
そのため、やはり職員の健康面が懸念される。また、全員が使用するタクシー代も無駄になってしまうという実務的な問題もある。
高市氏は、「総務省は、他省に先駆けて働き方改革を進めている役所であるという自負を持っており、テレワークの利用率も霞が関でナンバーワンです」と記している。
この記述からも明らかなように、高市氏は「ワーク・ライフ・バランス」という課題に対して極めて真剣に取り組んできた。
はっきり申し上げれば、高市大臣は、ワーク・ライフ・バランスの推進において、他の誰よりも熱心に取り組んできた人物である。
もちろん、対象はあくまでも自身が所管する役所であり、他省庁にまで権限が及ぶわけではないが、少なくとも自身が責任を持つ総務省の職員に対しては、プライベートの確保や健康を損なわないよう最大限の配慮を行ってきたという自負がある。
こうした背景と経緯があることを、まずは事実として知っておいていただきたい。
■なぜ、官僚は深夜まで働いているのか
そして、その上で問うべきなのは、なぜ官僚たちは深夜、あるいは未明まで国会答弁書を作成しているのか、という点である。
この問題については、野党側にも決して少なくない責任があると私は考える。
その理由は、与野党間の申し合わせにより、次のようなルールが設けられているからである。すなわち、「土日祝日を除く質疑の2日前の正午までに質問通告を行うこと」という決まりである。
これは、国会における議論の質を高める目的で、質問予定の議員があらかじめ質問内容を通告することになっている。
ところが、現実にはこのルールが守られないことが多く、質問通告が直前になってしまうケースが後を絶たない。
その結果として、各省庁が答弁準備に十分な時間を確保できず、作業が深夜、あるいは未明まで長引くのである。
■質問通告の締め切りを守らない野党
内閣による調査によれば、質問通告後、答弁書の作成が完了する平均時刻は午前1時48分である。
さらに、1つの答弁書の作成に必要な平均時間は7時間16分であり、これは昨年よりも46分長くなっているという。
つまり、事前通告のルールがあるにもかかわらず、それが守られないため、結果的に答弁準備が遅れに遅れ、当日の未明、午前1時48分という時間帯にようやく完成するという状況が常態化している。
そのうえで、さらに早朝レクが行われるとすれば、官僚たちのワーク・ライフ・バランスは完全に無視されているとしか言いようがない。
このような状況を生み出している一因は、野党側のルール不履行にあると私は考える。野党は、申し合わせた締切りを守らず、国会運営に支障を来すばかりか、官僚の生活環境にも深刻な影響を与えている。
したがって、野党側にも一定の責任があると言わざるを得ない。
■「国民に働けと言っている」という解釈は的外れ
こうした背景があるにもかかわらず、高市新総裁の発言を揚げ足取りの対象とするような批判が続いている。
今回の発言をもって、高市新総裁が「日本国民全員にもっと働け」と要求しているかのような解釈は、明らかに的外れである。
高市氏は、少なくとも自らの立場において「私はこういう覚悟で臨む」という姿勢を示したに過ぎない。
こうした背景を踏まえずに一方的に批判を加える野党の側にも、一定の責任があると私は考える。この問題については、多くの方に冷静に考えていただきたい。
また、高市氏がこれまでどのような取り組みをしてきたのか、そしてそれを示すコラムが過去に存在していたということについて、無視している人々がいることも懸念している。これは単なる取材不足なのか、あるいはコラムの存在を知っていながら意図的に黙殺しているのか、いずれにしても悪意ある批判と受け取られても仕方がない。
繰り返しになるが、高市氏が過去に取り組んできた具体的な実績や姿勢を踏まえたうえで、発言の真意を正しく理解していただきたいと強く願う次第である。
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須田 慎一郎(すだ・しんいちろう)
ジャーナリスト
1961年東京生まれ。日本大学経済学部を卒業後、金融専門紙、経済誌記者などを経てフリージャーナリストとなる。民主党、自民党、財務省、金融庁、日本銀行、メガバンク、法務検察、警察など政官財を網羅する豊富な人脈を駆使した取材活動を続けている。週刊誌、経済誌への寄稿の他、TV「サンデー!スクランブル」、「ワイド!スクランブル」、「たかじんのそこまで言って委員会」など、YouTubeチャンネル「別冊!ニューソク通信」「真相深入り! 虎ノ門ニュース」など、多方面に活躍。『ブラックマネー 「20兆円闇経済」が日本を蝕む』(新潮文庫)、『内需衰退 百貨店、総合スーパー、ファミレスが日本から消え去る日』(扶桑社)、『サラ金殲滅』(宝島社)など著書多数。
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(ジャーナリスト 須田 慎一郎)