「船で行ける万博」を掲げた大阪・関西万博。しかし、計187億円を投じて整備された航路は、定期船が就航することなく閉幕を迎えた。
■「万博は成功」で済ませていいのか
構想当初から「船で行ける万博」と喧伝されていた大阪・関西万博は、まわりを海に囲まれた「夢洲(ゆめしま)」という立地を活かし、神戸・京都や大阪市内の各地から、渋滞しらずの船でスイスイとアクセスできる……はずだった。
半年経ったいま、どうだろうか? 開幕の2年前に検討されていた12航路のうち、就航できた5航路は「出る船が次々と満員御礼」にまで成長した。しかし、大半の航路は船の就航自体なし。中には、船着場と同時に計画した「年間30万人を集客する旅客船ターミナル」もろとも手付かず、といったケースもある。どうやら万博の船運は、場所によってくっきりと成功・失敗の事例が分かれているようだ。
なぜ、ここまで「“明”と“暗”」が分かれたのか。半年間にわたる万博が閉幕を迎えるいま、「万博の船運」を振り返っていく。
■【明】当初ガラガラも満席続きに
万博が閉幕しようとしている中、堺旧港・中之島・ユニバーサルシティ~夢洲(万博会場)航路を運営している「ユニバーサルクルーズ」の予約ページを見る限り、8月5日時点で最終日までほぼ全便が満席、予約できない状態となっている。
しかし、ユニバーサルクルーズによると、万博開幕当初は「利用率は軒並み1~2割。1人か2人しか乗っていない便も多い」状態であった。
当初伸び悩んだ最大の理由は、電車だと数百円で済む区間で2800~3800円を要するという「高額な運賃」にあった。同社は7月に「他の交通機関に対抗するには値下げしかない」と決意の上で、最大7割の値下げに踏み切ったことで、利用者が一定数増加したという。
また運賃値下げに加え、万博協会より全旅客船利用者に特典が付与された。内容は「10~12時台のチケット保持者は、予約の1時間前から西ゲートの優先レーンを利用可能」というもの。
この頃にはすでに、午前9時台の万博チケットが入手困難になっており、船を利用して「優先入場利用証明書」をもらえば、まだ入手が容易であった10時台を購入して、9時台に会場入りできる。いわば、船の利用がファストパスのような扱いになったようなもので、各航路は「家から遠くても乗りに行く」(例:家が大阪市北部でもわざわざ堺市まで回り込んで船に乗る)人々が激増。「値下げ」「優先入場」効果が相まって、8月上旬ごろにはチケット売り切れ・満席が続くようになったという。
■人気の秘密はミャクミャク&ナウルくん
ただ、値下げを実施してもまだ運賃は高く、優先入場特典も、急いで入場しない方には関係ない。それでもなぜ、船の利用は激増したのか……実際に「堺旧港」発の船に乗り込んだところ、意外な秘密が隠されていた。
まず人気の秘密は、この航路に就航しているのが「ミャクミャク号」であること。万博の公式キャラクター「ミャクミャク」が大きく描かれた船を撮影するために、入港前から多くの人々が写真撮影のために早くから待ち構えており、待つ人々からも「何度もこの船に乗りに来ている」という話が聞かれた。
さらに、船内にはミャクミャクグッズや、コラボを行ったナウル共和国パビリオンの公式キャラ「ナウルくん」のグッズが、空きスペースに溢れんばかりに飾り付けられている。
■交通手段ではなく「楽しめる船旅」
そして、日によっては地元・堺市から「勝手に盛り上げ隊」が出動、沖縄の三線(さんしん)・クラリネット演奏などで船を見送ってくれる。こうして見ると、「ミャクミャク号」が多くの万博利用者・リピーターで賑わうようになった理由は「船会社・地元が一体となって、楽しめる船旅を作り上げた」ことだろうか。
なお万博閉幕後も、「ミャクミャク号」で大屋根リングを海上から観察する鑑賞クルーズが開催されており、全便満員が続いているという。その後も2026年3月までは、現在の「ミャクミャク」ラッピングを維持する見込みのようだ。
ほか、ユニバーサルシティ港~夢洲間の旅客船「まほろば」は値下げこそしなかったものの、船を所有する「岩谷産業」によると、万博閉幕に向けて乗客数は順調に増加しているという。万博会場行きの船は、どの航路も会期終了に向けて、急激に利用者が増加している。
ここまでは、万博の入場者数増加や経営努力などで、旅客船が満員となった「明」の事例だ。しかし「お役所仕事」で、船の運航そのものが消滅したという「暗」の話もしなければいけない。
■【暗】計187億を投じるも使われず閉幕
大阪市淀川区の淀川河川敷には「十三(じゅうそう)船着場」が2025年3月に開業。
この船着場は、京都・枚方から淀川を下った川船と、夢洲行きの海船の乗換拠点でもあり、ほど近い場所にある阪急電鉄・十三駅から乗り換える客の滞留も見込める「船の一大ターミナル」となるはずであった。賑わいを見込んで、約30店舗・600席の屋台村「淀川つつみ市 ミナモ十三」が、2025年4月に一部先行開業すると発表されていた。
このエリアの改修は、大阪市・国土交通省などが関わる「淀川河川敷十三エリア魅力向上事業」として「年間30万人の賑わい創出」という目標値が各種資料に書き込まれ、令和7年度には2198万円の予算が計上されている。かつ、十三船着場の整備に9500万円、上流の「淀川大堰」を船が通過可能な構造に変更するための事業(淀川ゲートウェイ)に186億円が投じられており、事業としてはなかなか大がかりなものだ。
■年間30万人を見込むも、船来ず
さて、一帯は「年間30万人」の賑わいを生むエリアに変貌したのか? 現地はただの河川敷のままで、構想にあったような景色は見られない。長閑で美しい光景ではあるが、再開発の成否を「明か暗」かでいえば、明らかに“暗”だ。
まず、「1日8便・3社で月約250便」が就航すると見込まれていた十三船着場~夢洲間の定期航路が、夢洲側の着岸料の問題(一部報道では2~3万と言われる)もあってか、1社も実現しなかった。さらに、当初の構想にあった淀川上流からの航路も、京都~十三~夢洲間が乗り換え込みで8時間ほどかかるという“万博ついで”として使えないものであったこともあり、社会実験扱いで数回のツアーが組まれたのみ。もちろん、ただの1社も定期就航に手を挙げなかった。
河川を管轄する近畿地方整備局に4月時点で伺ったところ、基本的には「運行を希望する船会社待ち」状態とのことだったが……結局「待ち」のまま、万博は閉幕を迎える。
屋台村「ミナモ十三」開業も4月開業が10月に延期となったが、淀川区に確認したところ、「敷地占用に関する河川事務局などとの調整が完了していない」という、定期航路以前の別問題が発生していた。
■無視できない「不手際の連鎖」
なお「ミナモ十三」を運営する予定の「株式会社RETOWN」に聞いたところ、今から許可が出たところで「屋台村のオープンが真冬」となりかねず、オープンは来年春になる見通しだという。行政側の不手際による開業遅れによって契約業者の離脱も生じており、「RETOWN」もある意味、お役所同士の不手際の連鎖に振り回された被害者と言えるかもしれない。
そもそも、賑わいの源である定期船が1隻も来ないとあっては、集客施設を作る意味すら疑わしい。地元での説明会資料でも「年間30万人集客」という文言はしれっと削除されており、期待されていた万博の波及効果・経済効果とは、何だったのだろうか?
万博に間に合わせたいなら、スケジュールを切って目標を共有してでも、お役所同士で「定期航路の誘致」「ミナモ十三開業」を同時進行で調整できなかったのか。万博そのものが成功したとしても、荒涼とした淀川河川敷から「失敗の連鎖反応」の理由をはっきりさせる必要がありそうだ。
■【暗】5億円かけて「レストランの飾り」に
もう1カ所、安治川沿いの「中之島GATEサウスピア」(以下:サウスピア)からも、万博会期終了まで定期船の就航が叶わなかった。なおユニバーサルクルーズの中之島~夢洲航路は「中之島GATEノースピア」(中央卸売市場前港)から発着しており、「サウスピア」の対岸とはいえ極端な遠回りを必要とするため、実質的には別の場所だ。
こちらは十三船着場と違って、2025年4月5日のグランドオープンでは、水素船「まほろば」がお披露目扱いで発着している。しかしその後、「技術的な問題」を理由に定期就航を延期(ユニバーサルシティ~夢洲間のみ運航)し、万博閉幕前になって、正式に「サウスピア就航断念」を発表した。
中之島GATEを管轄する「大阪府・府民文化部都市魅力創造局魅力づくり推進課水と光のまち・にぎわいの森推進グループ」に聞いても明言はされなかったが、この桟橋を設計した時点では、「まほろば」サイズの船(総トン数177トン・全長33m)の就航を想定していなかったのは確かだという。要するに、「定期旅客船は誘致できず、『まほろば』は就航できそうだったのに、何らかの問題に就航を阻まれた」ということだろう。
こういった事情で、ここから夢洲行きの定期船就航はなく、テナント入居している飲食店はそれなりに繁盛している。いまの中之島GATEサウスピアをたとえて言うなら「事業費5億円をかけた桟橋オブジェ付きシーフードレストラン」といったところか。
■また行政に振り回されることになる
こうして振り返ってみると、万博終盤にかけて一気に賑わうようになった堺・中之島など旅客船航路と、本来の「万博行き船運のターミナル」という役割をまったく果たせなかった十三船着場・中之島GATEで、「明暗」ははっきりしている。
ただし、後者は「暗」とはいえ、災害時の「物資供給」「孤立化した人々の避難」「京都方面からの瓦礫搬出」など防災の役目を期待されている。もしこれを「万博があるから」という名目で国から補助を引き出し、なかなか予算がつかない防災設備の整備には成功した、ということであれば……凄まじく好意的な見方ではあるが、考えた方は史上稀にみる策士ではあろう。
もし今後、万博のようなイベント開催で航路を開設する際は、中小企業も多い船会社の身の丈に合った支援体制・接岸料の提示から考えた方が良いのではないか。失敗の連鎖のほうが大きかった「万博の船運」事例から学ばないと、また行政の不手際で民間が振り回されることになる。
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宮武 和多哉(みやたけ・わたや)
フリーライター
大阪・横浜・四国の3拠点で活動するライター。執筆範囲は外食・流通企業から交通問題まで、元・中小企業の会社役員の目線で掘り下げていく。各種インタビュー記事も多数執筆。プライベートでは8人家族で介護・育児問題などと対峙中。
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(フリーライター 宮武 和多哉)
本当に万博は成功だったのか。フリーライターの宮武和多哉さんが、その明暗を取材した――。
■「万博は成功」で済ませていいのか
構想当初から「船で行ける万博」と喧伝されていた大阪・関西万博は、まわりを海に囲まれた「夢洲(ゆめしま)」という立地を活かし、神戸・京都や大阪市内の各地から、渋滞しらずの船でスイスイとアクセスできる……はずだった。
半年経ったいま、どうだろうか? 開幕の2年前に検討されていた12航路のうち、就航できた5航路は「出る船が次々と満員御礼」にまで成長した。しかし、大半の航路は船の就航自体なし。中には、船着場と同時に計画した「年間30万人を集客する旅客船ターミナル」もろとも手付かず、といったケースもある。どうやら万博の船運は、場所によってくっきりと成功・失敗の事例が分かれているようだ。
なぜ、ここまで「“明”と“暗”」が分かれたのか。半年間にわたる万博が閉幕を迎えるいま、「万博の船運」を振り返っていく。
■【明】当初ガラガラも満席続きに
万博が閉幕しようとしている中、堺旧港・中之島・ユニバーサルシティ~夢洲(万博会場)航路を運営している「ユニバーサルクルーズ」の予約ページを見る限り、8月5日時点で最終日までほぼ全便が満席、予約できない状態となっている。
しかし、ユニバーサルクルーズによると、万博開幕当初は「利用率は軒並み1~2割。1人か2人しか乗っていない便も多い」状態であった。
なぜ、打って変わって乗船客は激増したのか?
当初伸び悩んだ最大の理由は、電車だと数百円で済む区間で2800~3800円を要するという「高額な運賃」にあった。同社は7月に「他の交通機関に対抗するには値下げしかない」と決意の上で、最大7割の値下げに踏み切ったことで、利用者が一定数増加したという。
また運賃値下げに加え、万博協会より全旅客船利用者に特典が付与された。内容は「10~12時台のチケット保持者は、予約の1時間前から西ゲートの優先レーンを利用可能」というもの。
この頃にはすでに、午前9時台の万博チケットが入手困難になっており、船を利用して「優先入場利用証明書」をもらえば、まだ入手が容易であった10時台を購入して、9時台に会場入りできる。いわば、船の利用がファストパスのような扱いになったようなもので、各航路は「家から遠くても乗りに行く」(例:家が大阪市北部でもわざわざ堺市まで回り込んで船に乗る)人々が激増。「値下げ」「優先入場」効果が相まって、8月上旬ごろにはチケット売り切れ・満席が続くようになったという。
■人気の秘密はミャクミャク&ナウルくん
ただ、値下げを実施してもまだ運賃は高く、優先入場特典も、急いで入場しない方には関係ない。それでもなぜ、船の利用は激増したのか……実際に「堺旧港」発の船に乗り込んだところ、意外な秘密が隠されていた。
まず人気の秘密は、この航路に就航しているのが「ミャクミャク号」であること。万博の公式キャラクター「ミャクミャク」が大きく描かれた船を撮影するために、入港前から多くの人々が写真撮影のために早くから待ち構えており、待つ人々からも「何度もこの船に乗りに来ている」という話が聞かれた。
さらに、船内にはミャクミャクグッズや、コラボを行ったナウル共和国パビリオンの公式キャラ「ナウルくん」のグッズが、空きスペースに溢れんばかりに飾り付けられている。
ユニバーサルクルーズによると「最初はミャクミャク数体しかなかったものの、従業員や関係者が次々と買い足していくうちにこうなった」という。終盤に向けて盛り上がった万博らしい華やかさ……というより、いい意味での「ゴチャつき具合」。乗船客も記念撮影の手が止まらない。
■交通手段ではなく「楽しめる船旅」
そして、日によっては地元・堺市から「勝手に盛り上げ隊」が出動、沖縄の三線(さんしん)・クラリネット演奏などで船を見送ってくれる。こうして見ると、「ミャクミャク号」が多くの万博利用者・リピーターで賑わうようになった理由は「船会社・地元が一体となって、楽しめる船旅を作り上げた」ことだろうか。
なお万博閉幕後も、「ミャクミャク号」で大屋根リングを海上から観察する鑑賞クルーズが開催されており、全便満員が続いているという。その後も2026年3月までは、現在の「ミャクミャク」ラッピングを維持する見込みのようだ。
ほか、ユニバーサルシティ港~夢洲間の旅客船「まほろば」は値下げこそしなかったものの、船を所有する「岩谷産業」によると、万博閉幕に向けて乗客数は順調に増加しているという。万博会場行きの船は、どの航路も会期終了に向けて、急激に利用者が増加している。
ここまでは、万博の入場者数増加や経営努力などで、旅客船が満員となった「明」の事例だ。しかし「お役所仕事」で、船の運航そのものが消滅したという「暗」の話もしなければいけない。
■【暗】計187億を投じるも使われず閉幕
大阪市淀川区の淀川河川敷には「十三(じゅうそう)船着場」が2025年3月に開業。
2024年時点の想定では、万博へのアクセス手段として十三~夢洲間の定期航路が開設され、「1日8便・3社で月約250便」が発着する予定であった。
この船着場は、京都・枚方から淀川を下った川船と、夢洲行きの海船の乗換拠点でもあり、ほど近い場所にある阪急電鉄・十三駅から乗り換える客の滞留も見込める「船の一大ターミナル」となるはずであった。賑わいを見込んで、約30店舗・600席の屋台村「淀川つつみ市 ミナモ十三」が、2025年4月に一部先行開業すると発表されていた。
このエリアの改修は、大阪市・国土交通省などが関わる「淀川河川敷十三エリア魅力向上事業」として「年間30万人の賑わい創出」という目標値が各種資料に書き込まれ、令和7年度には2198万円の予算が計上されている。かつ、十三船着場の整備に9500万円、上流の「淀川大堰」を船が通過可能な構造に変更するための事業(淀川ゲートウェイ)に186億円が投じられており、事業としてはなかなか大がかりなものだ。
■年間30万人を見込むも、船来ず
さて、一帯は「年間30万人」の賑わいを生むエリアに変貌したのか? 現地はただの河川敷のままで、構想にあったような景色は見られない。長閑で美しい光景ではあるが、再開発の成否を「明か暗」かでいえば、明らかに“暗”だ。
まず、「1日8便・3社で月約250便」が就航すると見込まれていた十三船着場~夢洲間の定期航路が、夢洲側の着岸料の問題(一部報道では2~3万と言われる)もあってか、1社も実現しなかった。さらに、当初の構想にあった淀川上流からの航路も、京都~十三~夢洲間が乗り換え込みで8時間ほどかかるという“万博ついで”として使えないものであったこともあり、社会実験扱いで数回のツアーが組まれたのみ。もちろん、ただの1社も定期就航に手を挙げなかった。
河川を管轄する近畿地方整備局に4月時点で伺ったところ、基本的には「運行を希望する船会社待ち」状態とのことだったが……結局「待ち」のまま、万博は閉幕を迎える。
屋台村「ミナモ十三」開業も4月開業が10月に延期となったが、淀川区に確認したところ、「敷地占用に関する河川事務局などとの調整が完了していない」という、定期航路以前の別問題が発生していた。
現在も同様の状態が続いており、船の就航に関わらず、どのみち開業できなかった可能性が高い。
■無視できない「不手際の連鎖」
なお「ミナモ十三」を運営する予定の「株式会社RETOWN」に聞いたところ、今から許可が出たところで「屋台村のオープンが真冬」となりかねず、オープンは来年春になる見通しだという。行政側の不手際による開業遅れによって契約業者の離脱も生じており、「RETOWN」もある意味、お役所同士の不手際の連鎖に振り回された被害者と言えるかもしれない。
そもそも、賑わいの源である定期船が1隻も来ないとあっては、集客施設を作る意味すら疑わしい。地元での説明会資料でも「年間30万人集客」という文言はしれっと削除されており、期待されていた万博の波及効果・経済効果とは、何だったのだろうか?
万博に間に合わせたいなら、スケジュールを切って目標を共有してでも、お役所同士で「定期航路の誘致」「ミナモ十三開業」を同時進行で調整できなかったのか。万博そのものが成功したとしても、荒涼とした淀川河川敷から「失敗の連鎖反応」の理由をはっきりさせる必要がありそうだ。
■【暗】5億円かけて「レストランの飾り」に
もう1カ所、安治川沿いの「中之島GATEサウスピア」(以下:サウスピア)からも、万博会期終了まで定期船の就航が叶わなかった。なおユニバーサルクルーズの中之島~夢洲航路は「中之島GATEノースピア」(中央卸売市場前港)から発着しており、「サウスピア」の対岸とはいえ極端な遠回りを必要とするため、実質的には別の場所だ。
こちらは十三船着場と違って、2025年4月5日のグランドオープンでは、水素船「まほろば」がお披露目扱いで発着している。しかしその後、「技術的な問題」を理由に定期就航を延期(ユニバーサルシティ~夢洲間のみ運航)し、万博閉幕前になって、正式に「サウスピア就航断念」を発表した。
中之島GATEを管轄する「大阪府・府民文化部都市魅力創造局魅力づくり推進課水と光のまち・にぎわいの森推進グループ」に聞いても明言はされなかったが、この桟橋を設計した時点では、「まほろば」サイズの船(総トン数177トン・全長33m)の就航を想定していなかったのは確かだという。要するに、「定期旅客船は誘致できず、『まほろば』は就航できそうだったのに、何らかの問題に就航を阻まれた」ということだろう。
こういった事情で、ここから夢洲行きの定期船就航はなく、テナント入居している飲食店はそれなりに繁盛している。いまの中之島GATEサウスピアをたとえて言うなら「事業費5億円をかけた桟橋オブジェ付きシーフードレストラン」といったところか。
■また行政に振り回されることになる
こうして振り返ってみると、万博終盤にかけて一気に賑わうようになった堺・中之島など旅客船航路と、本来の「万博行き船運のターミナル」という役割をまったく果たせなかった十三船着場・中之島GATEで、「明暗」ははっきりしている。
ただし、後者は「暗」とはいえ、災害時の「物資供給」「孤立化した人々の避難」「京都方面からの瓦礫搬出」など防災の役目を期待されている。もしこれを「万博があるから」という名目で国から補助を引き出し、なかなか予算がつかない防災設備の整備には成功した、ということであれば……凄まじく好意的な見方ではあるが、考えた方は史上稀にみる策士ではあろう。
もし今後、万博のようなイベント開催で航路を開設する際は、中小企業も多い船会社の身の丈に合った支援体制・接岸料の提示から考えた方が良いのではないか。失敗の連鎖のほうが大きかった「万博の船運」事例から学ばないと、また行政の不手際で民間が振り回されることになる。
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宮武 和多哉(みやたけ・わたや)
フリーライター
大阪・横浜・四国の3拠点で活動するライター。執筆範囲は外食・流通企業から交通問題まで、元・中小企業の会社役員の目線で掘り下げていく。各種インタビュー記事も多数執筆。プライベートでは8人家族で介護・育児問題などと対峙中。
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(フリーライター 宮武 和多哉)
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