※本稿は、橘玲、樺山美夏『しんどい世の中でどうすれば幸せになれますか?』(文響社)の一部を再編集したものです。
■年収400万円で「FIREできるかな」
Q 「FIRE」をして、仕事やお金に縛られない人が正直うらやましいです。ぼくみたいに平凡な会社員には別世界の話に思えますが、ずっと会社に縛られ続ける人生にも耐えられません。40代になったら仕事より趣味のキャンプや山登り中心の生活がしたいのですが、年収400万円でもFIREすることは可能でしょうか?
(20代 ECサイト営業 男性Cさん)
【Cさん】大手企業で働きながら毎月給与の8割を資産運用に回し、30代で7000万円の資産をつくってFIREした人のインタビュー記事をWebで読んだ。いいなあと思った。自分は年収400万円だから、FIREなんてムリだよね?
【AI】FIREの意味を知っておるのかね? 「Financial Independence, Retire Early」(経済的自立と早期退職)の頭文字じゃ。資産運用によって経済的に自立し、運用益によって生活して早期リタイアする生き方のことをいう。
【Cさん】早期リタイアして毎日遊び暮らせるなんて最高だよ!
【AI】そうかな? 人生100年時代に40歳で仕事を辞めたら、残り60年は何をする? 今ではFIREは、仕事を早く辞める「RE」を目指すものではなくなっているぞ。
【Cさん】え、そうなの?
【AI】重要なのは「FI(経済的独立)」のほうで、会社や組織から自由になるために、会社に縛られなくても生きていけるだけの資産をつくることだ。
■「FI」だけしてゆるく働き続けるべき
【Cさん】そういえば記事に載っていた人も、セミリタイアしたあと、農作業や資産運用コンサルティングで収入を得ているらしい。
【AI】生活のために働く必要がなくなれば、趣味でやりたい仕事をやればいい。それで誰かに感謝されて収入も得られたら嬉しいだろう。
【Cさん】そういう人生のほうがたしかに幸せそう。いくら自由で時間があっても、誰にも相手にしてもらえなかったら寂しいからね。
【AI】好きなことをしながら収入を得て、資産運用でお金にも働いてもらって、両輪で稼げるようになれば、老後もゆたかに暮らせるはずじゃ。
【Cさん】そうか。無職になった後の生活まで想像したことなかった。
【AI】FIREの「FI」だけしてゆるく働き続けたほうが、お金の心配も孤独の不安もなくなるぞ。
■資産1億円をつくる再現性のある方法
【Cさん】ところで、毎年いくらずつ資産運用に回せば40歳でFIREできるの?
【AI】リタイア目的のFIREの目標額は1億円といわれておる。世界株インデックスの期待利回りを年7%とすると、26歳から40歳までの15年間、毎月35万円ずつ積み立てれば投資元本の6000万円が1億円を超える計算だ。
【Cさん】ムリムリ! 年収400万円でそんなの無理ゲーだよ。
【AI】FIREして無職になるなら、1億円では足りんじゃろう。しかし、「FI」だけしてそのあとも働き続けるなら、5000万円くらいの資産形成をすればセミリタイアできる。これなら毎月16万円ずつ15年間積み立てすれば達成できる計算じゃ。
【Cさん】ホントに?
【AI】キミは実家暮らしじゃろう。徹底的に節約して、アパートの家賃を払う代わりに積み立て投資をすれば実現できる可能性は高い。
【Cさん】好きな仕事をやりながら自由に生きられるなら、チャレンジしたい!
■[解説]FIREは「好きな仕事をして生きていく」ため
日本人は、世界でもっとも仕事が嫌いで会社を憎んでいるということが、さまざまな国際調査で明らかになっている。早期リタイアを夢見る若者が増えるのも、当然の成り行きだろう。
FIREを目指す人たちの間では「30代で1億円」が目標だと言われているようだが、平均的な年収のサラリーマンが10年で1億円つくるのは難しい。
ところがネットには、「ビットコインで儲けてFIRE達成!」「給与の大半を株式投資で運用して10年でFIRE」といった成功談がゴロゴロ転がっている。
本当にそれが実現可能なら、世の中FIREした人だらけになっているはずだ。成功者の背後には、短期で稼ごうとして失敗した膨大な数の「敗者」がいる。
■FIRE=無職という現実
では年収400万円の会社員がFIREできないかというと、そんなことはない。
40歳で会社を辞めてもフリーランスとして働き続けるのなら、1億円も資産を蓄える必要はない。FIREを目指している人は、FI(経済的な自立)とRE(アーリーリタイア)を分けて考えてみよう。
ここでいうアーリーリタイアとは、「自由」と「労働」は両立しないと思われていた1970年代の価値観によるものだ。当時は、「自分らしく生きる」ためには仕事を辞めなければいけないと思われていた。
しかし今では、無職になったからといって幸せに生きられるわけではないことに、みんな気づきはじめている。
ウォール街のある金融マンは、40代でリタイアして、ロッキー山脈の山小屋を建て、“自由な暮らし”を楽しんで生きようと決めた。しかし、2年も経たないうちに「やることがなくて耐えられない」とウォール街に戻ってきた。
人は、お金の不安から解放されても、社会的なつながりが絶たれると心は満たされない。リタイアした後ずっと働きもせず、暇つぶしをするだけの人生なんて退屈なだけだろう。
■「ゆるく働き続けるセミリタイア」がベター
資産運用だけでゆたかな生活ができる著名人でさえも、SNSや動画のインフルエンサーとして“仕事”をしている人が目立つ。
FIREのあともゆるく働き続けるセミリタイアなら、40代で5000万円の資産があればじゅうぶんだ。
NISAはものすごく有利な制度で、成長投資枠とつみたて投資枠を合わせて、年間360万円、総額1800万円までの投資が非課税でできる。
とはいえ、毎月30万円の投資は厳しいだろう。実家暮らしをするか、家賃や光熱費を安く抑えるなどして、毎月10万円の積み立てができれば上出来だ。このケースでも、40歳までの15年間積み立てを続ければ、予想される金融資産は3000万円を超える。
カップルで共働きをし、2人とも月額10万円をNISAに積み立てれば、40歳で世帯の総資産は6000万円になる。実際、地方に移住して家賃の安い家を借り、リモートで東京の会社の仕事をしながらFIREを目指しているカップルもいる。
仕事が嫌いでなければ、生活を優先して毎月の積み立て額を減らし、FIRE達成目標を50歳に延ばすのも1つの方法だ。
■人を絶望させるのは「貧困」より「失業」
「結局、ずっと働かないといけないのか」と思うかも知れないが、「貧困」よりも「失業」が人を絶望させるというデータがある。
アメリカの中高年の白人労働者階級は2000年以降に失業者が増え、社会から見捨てられた彼らは、屈辱のなかで自暴自棄になりアルコール、ドラッグ、自殺などによって死んでいった。経済学者はこれを「絶望死」と名づけた。
FIREで早期退職したら、お金はあっても、よほど社交的な人でなければ社会から孤立してしまうだろう。
■「好きな仕事」をして生きていく
FIREの「FI」を達成したら、あとは収入に関係なく好きな仕事をすればいい。
たとえ年収200万円でも、10年で2000万円、20年なら4000万円になる。こうした収入があるだけで、「FIRE」後の生活の安心感は大きく変わる。
仕事を通じて他者や社会とつながり、自分という人間の存在を認められることが、幸福な人生には不可欠だ。
昨今のFIREブームは、「経済的独立を達成して、イヤな仕事をさっさと辞めよう」「好きな仕事をして生きていこう」という運動なのだ。
〈幸福な人生設計の法則〉
無職で遊び暮らしても人は幸せを感じられない。
「FI(経済的独立)」だけ目指して好きに働ける自由な生き方を考えよう。
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橘 玲(たちばな・あきら)
作家
1959年生まれ。早稲田大学卒業。2002年、国際金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。同年、「新世紀の資本論」と評された『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部を超えるベストセラーに。
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樺山 美夏(かばやま・みか)
ライター
リクルート入社後、書籍情報誌編集部を経て独立。雑誌、WEBメディアで主に人物インタビューを執筆。2018年、「上阪徹のブックライター塾」第5期を修了し、ブックライターとしても活動中。協力した書籍は「言いかえ図鑑」シリーズ(大野萌子著、サンマーク出版)、『投資家の思考法』(奥野一成著、ダイヤモンド社)、『社会問題のつくり方 困った世界を直すには?』(荻上チキ著、翔泳社)など多数。
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(作家 橘 玲、ライター 樺山 美夏)

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