※本稿は、和田秀樹『喪失感の壁 きもち次第で何があっても大丈夫』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
■「大好きなラーメンを食べられなくなってきた」
「30代の頃から、趣味でラーメンの食べ歩きブログを書いてきました。
仕事で出張が多いこともあり、全国の有名店に赴き、休日にはやや遠方の行列店まで足を運ぶのが何よりの楽しみでした。それでも健康診断で引っかかったことはなく、同世代の友人たちのなかでは胃腸が丈夫だと言われることも、ひそかに誇りに思っていました。
ところが最近、どうにも胃がもたれるのです。
先日も、昔から愛してやまなかったこってり系の一杯を食べきれずに残してしまい、帰り道にひとり落ち込んでしまいました。
念のために胃の検査もしてみましたが異常はなく、医師からは「年齢的なものでしょう」と言われました。直に還暦。仕方がないとは思いつつ、なんとも言えない寂しさを感じています。
いまは胃薬を常備して臨んでいますが、これからどんどん食べられなくなっていくのかと思うと、なんだか気が滅入ってしまいます。 (50代後半・男性)」
■元気な高齢者は、食べることが好きなグルメが多い
私もラーメンは好きでよく食べますが、こってり系はあまり食べなくなりましたね。
年齢とともに食の好みが変わるのは、ある意味当然のこと。特に日本人は、欧米人に比べて胃腸の働きが弱い人が多いと言われています。年を取るとさらに消化酵素の分泌量が減り、腸内環境が変わりますから、脂っこいものが苦手になる人は多いですね。
しかしここで、「もう背脂たっぷりラーメンは無理なのか」と悲観するのは、まだ早いです。
私は高齢者専門の精神科医として、これまで6000人以上の高齢者の方を診察してきました。その経験から断言できるのですが、お元気な方はみなさん、食べることが好きなグルメが多い。そして、好きなものを好きなように、自分の身体と相談しながら、堪能しておられます。
逆に、ラーメンや焼肉が大好きだったのに、「もう年だから」とそうめんや刺身ばかり食べるようになったら、そのほうが問題です。栄養不足になって、どんどん老化が進んでしまう。
ですからまずは、どうしたら引き続き楽しめるかを考えてみましょう。
たとえば、「背脂の浮いたスープは飲み干さない」「麺を少なめにする」「食べるペースをゆっくりにする」。
■60代以上は栄養不足の方が害が大きい
これは、ラーメンに限らず、焼肉やとんかつでも同じです。
塩分や脂肪分は健康の敵のように扱われることが多いですが、実際は60代以上になると、栄養が余っているより、不足しているほうがはるかに害が大きい。そして、日本人の約4割はタンパク質が足りていないと言われています。
先ほど、日本人は欧米人と比較して胃腸機能の弱い人が多いと言いましたが、食生活を比較しても、脂肪分の摂取量は欧米人よりはるかに少ない。なのに、欧米流のヘルシー志向をそのまま取り入れて「コレステロールを減らしましょう」などと言っている。シワシワヨボヨボの老人を増やしたいのかと思ってしまいます。
食が細くなった、と言って食べる楽しみを放棄したら、どんどん痩せこけシワシワになってしまいます。シワシワ化しないためにも、脂肪分とタンパク質はしっかり摂りましょう。ラーメンにもぜひチャーシューやたまごをのせてほしいですね。
■「食べられなくなった」と嘆く必要はない
好きな食べ物を長く楽しむ秘訣は、自分の身体の声をよく聞くことです。
本当に身体に合わなくなったときは、食べたいという気持ちが自然と薄れるでしょう。私たちの身体は、必要なものを欲するようにできています。
生物としての自然な変化を頑なに認めずに「まだ食べられる」と無理をするのは、あまり好ましいラーメン道ではありません。
そのときは「食べられなくなった」と嘆くより、「これからの自分に合ったラーメンの楽しみ方を見つけよう」と考えてみてください。
たとえば、それまでは行かなかった店に行ってみる。最近はヘルシー嗜好のラーメンも増えています。こってり系の好きな方は、物足りないと思って敬遠してはいませんでしたか? もしかしたら、あっさり系ラーメンの美味しさに目覚めるかもしれません。実際、私のよく行く専門店ではスープに20種類以上のだしを使っていて、さっぱりしているのに非常に味わいが深い。もちろん私はスープも飲み干しています。
それに、ラーメンブログの読者にも、同じような悩みを持った人がいるかもしれません。ブログの読者層を広げるチャンスと考えて、新規開拓をしてみてはいかがでしょうか。
■「趣味のワインを楽しむ機会が減った」
「もうすぐ70になる男性です。
ところが60代半ばから急に飲めなくなってしまい、以前ならボトル1本でほろ酔いくらいだったのに、最近ではグラス1、2杯でも酔いがまわってしまいます。同世代の妻もほとんどアルコールを口にしなくなり、コロナ禍以降は一緒に飲み歩いていた友人も付き合いが悪くなりました。私はワインにまつわる友人たちとの交流も愛していたので、そういった機会が減って、孤独を感じてしまいます。和田先生もワイン好きと聞いていますが、年を取ったらどのように付き合っていけばいいと思いますか。 (60代後半・男性)」
■寂しさを感じるならインターネットで情報収集を
おっしゃるとおり、ワインは私にとっても生涯楽しめる趣味の一つです。30代の頃に仕事の打ち上げなどで美味しいワインを飲む機会が増えてハマってしまい、いまは自宅のセラー2台。150本を常備しているほか、専用の保管倉庫にも預けています。
日常的に飲むワインは数千円のカジュアルなものが多いですが、100万円を超えるボトルもあります。値段の張るものは「同じようなワイン好きの人と」「お祝いなどの特別のときに」と楽しみに取ってあるのですが、最近は人生が終わるまでに飲みきれないことのほうが心配になってきて、どんどん飲んでいこうと思っているところです。
そんな私も、最近はあまり量を飲めなくなりました。
同世代のワイン仲間が減っていくのはある意味、仕方がありません。もともと日本人は、体質的にアルコールを受け付けない人が半分くらいいます。それに、年齢とともに肝機能も落ちてアルコールの分解速度が遅くなるので、どうしてもお酒に弱くなります。
健康を気にし始める年頃でもありますし、コロナ禍で飲み歩く機会が減ったことで、アルコール耐性が落ちた人も多いかもしれません。
その状況に寂しさを感じているのであれば、インターネット上でワイン会、試飲会などの情報を集めてみるのはいかがですか。
あるいは趣向を変えて、ランチなどで一人飲みできる名店を探してみるのはいかがでしょうか。
■初心に返ってワインの勉強をするのも楽しい
また、初心に返ってワインの勉強をしてみるのも楽しいと思います。
ワインは有名であればいい、高ければいいというものでもありません。私はワインの勉強を始めた頃、まずは100万円を投資して高級と言われるワインを20本くらい飲んだあと、価格の相場があがっていない国のワインを探しました。
そしてそういった情報をSNSなどで発信していくことで、新しい仲間に出会える可能性もあります。
■急に飲み仲間が減ったら「前頭葉チェック」を
ただ、飲み仲間が減っていくケースとして、ひとつ注意が必要な点があります。
酒癖がよろしくない、という場合もあることです。お酒を飲んでくだを巻いたり、愚痴や自慢話ばかりだったり、そういう人は一緒に飲んでいても楽しくないから、飲み仲間が離れてしまいます。
それから、お酒をケチるのもよくないですね。無理をする必要はありませんが、どちらかだけが負担の多い付き合いは長く続きにくいものです。
逆にこちらが高いワインを提供する場合は、一緒にワインを飲んでもらっている、というくらいの謙虚な気持ちでいたほうがいいでしょう。
特に加齢により前頭葉の働きが衰えてくると、感情のコントロールが効かなくなって、若い頃よりも自分本位な言動が表に出やすくなります。ふだんは気をつけていても、アルコールを飲むと自制が効かなくなるケースは多いですから、もし急に飲み友だちが減ってきた場合は、念のため、パートナーやお友だちに確認してみると良いかもしれません。
■過度のアルコールは「幸せホルモン」を枯渇させる
お酒に弱くなることは、悪いことではないんです。特に孤独を感じやすい方の場合は、その寂しさを紛らわすために一人で飲み続け、アルコール依存症になってしまうというケースもよくあります。お酒に弱くなれば、そのリスクが減ります。
抑うつ的な気分のときには、アルコールは厳禁です。過度のアルコールは、幸せホルモンとも呼ばれる脳内物質・セロトニンを枯渇させるといわれています。お酒は脳や心にとって薬にも毒にもなるということは、忘れずにいたいものです。
ワインには、生涯の趣味にふさわしい奥深さがあります。長く楽しむために、いろいろな角度からワインを堪能していこうではありませんか。
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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。
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(精神科医 和田 秀樹)

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