▼第1位 来客数「1日120人→250人」創業90年、荒川区の小さな銭湯がサウナを廃止して始めた超高付加価値サービス
▼第2位 なぜアメリカ人は「くら寿司」に10時間も並ぶのか…現地社長が気づいた「日本では日常でも米国にはなかった要素」
▼第3位 羽田空港へのドル箱路線"が JR東日本に奪われる…東急・京急の"直通構想"がモタモタしているあいだに"
くら寿司がアメリカで大人気となっている。日本経済新聞社記者の杜師康佑さんは「『ビッくらポン!』や回転レーンなどは残しつつ、寿司ネタは現地にあわせた。8割のグローバルスタンダードと2割のローカライズが成功の要因だ」という――。(第2回)
※本稿は、杜師康佑『超凡人の私がイノベーションを起こすには』(日本経済新聞出版)の一部を再編集したものです。
■回転ずしを進化させてきた「くら寿司」の挑戦
米国でいま注目を集める外食チェーンがある。日本の回転ずし「くら寿司」だ。
くら寿司といえば、日本の回転ずしビジネスに数々のイノベーションを起こしてきたことで知られる。
もともと回転ずしは店内中央に職人が立ち、職人を囲むようにレーンが流れるカウンタータイプが一般的だった。くら寿司はこの内装を一変させ、アルファベットの「E」の字にレーンを配置して子連れでも座りやすくした「E型レーン」を1987年に導入した。1996年にはテーブルに配置したポケットに皿を投入すると水流に乗って皿が洗い場まで運ばれる「水回収システム」を取り入れた。
客席にあるポケットに5枚の皿を入れると抽選ゲームが始まり、当たりが出ると景品がもらえる「ビッくらポン!」は2000年にスタートし、今でもファミリー層に人気のコンテンツとなっている。回転ずしはもはや単に寿司を食べに行く場所ではなく、楽しい体験を組み合わせた「食×エンターテインメント」を提供する体験型アミューズメント施設として独自の進化を遂げている。
■8時間から10時間待ちが当たり前
そんなくら寿司が米国に進出したのは2009年のことだ。カリフォルニア州に第1号店をオープンし、その10年後の2019年には日本の外食企業としては初めてナスダック市場に上場した。
カレーハウスCoCo壱番屋や一風堂など、ほかの外食チェーンも米国に進出するが、20店舗を超える多店舗展開の壁に苦しむ企業は少なくない。そんな中でくら寿司は2024年末時点でおよそ70店舗を米国に構え、ロードサイドの店舗では8時間から10時間待ちも当たり前。朝5時からテントを張ってオープンを待つ人もいるほどだ。くら寿司はどのようにして米国人のハートを握ったのか。
米国事業の立役者がくら寿司USAの姥一(うばはじめ)最高経営責任者(CEO)だ。
関西出身の姥さんは大学生の頃、友人と大阪府堺市にあるくら寿司の泉北店を訪れた。当時はまだ珍しい150席の大型店に溢れる活気に感動した。高校と大学で飲食店のアルバイトを経験していたこともあり、就活でも真っ先にくら寿司を選んで2000年に入社した。
「一番忙しくて、一番厳しい店長のいる店に配属してください」と志願し、大阪市にある加賀屋店で徹底的に仕事を叩きこまれた。同期で一番先に店長に昇格した後は複数の店を渡り歩き、レーンに流す寿司ネタをマイクパフォーマンスで来店客に知らせたり、チラシを配って集客したり、「くら寿司の成長とともに自分も成長してきた」と振り返る。
■挫折バネに大陸横断で描いた未来予想図
そんな姥さんが米国に渡ったのは2007年のこと。ロサンゼルスに和食店を出店することになり、責任者をサポートする立場として駐在した。だが、残念なことに和食店は駐車場がない不便な立地だった。来店客は係員に車を預ける手間もあったことから、経営はうまくいかずにすぐに店を畳む事態に。当時は2008年の金融危機で景気が低迷していたという不運も重なった。
このまま自分も帰国するのか……。
「回転ずしで勝負していないのに、このまま帰国するのはもったいない。店を出す場所を選べばもっとやれる」。姥さんは自分の首をかけて本社に志願し、1億円を投資してもらう約束を取り付けて再出発を試みた。
そこからメンバー5人とカリフォルニア州での共同生活が始まった。「タウンハウス」と呼ばれる集合住宅に住み込み、自室のキッチンを使って社員研修をしたり、リビングルームで会社の会計処理をしたりした。
姥さんにとって忘れられない体験が2009年に第1号店を出店する前に出掛けたアメリカ大陸横断の旅だ。
■「食×エンタメ」の斬新さで人気爆発
広大なアメリカ大陸の中で、サンフランシスコやニューヨークなど都会はごく一部。富裕層だけ見ていても米国のことは何も分からない。「米国の99%は郊外。ここで成功することこそが米国での成功につながる」と確信した。
当初はオープンキッチン形式の店を出していたくら寿司USAだが、様々な認可を取得して2015年にようやく日本と同じエンターテインメント要素を取り入れた店をサンディエゴに出店することができた。
姥さんは「これが完全にブレークスルーだった。とんでもない繁盛店になった」と話す。
ハリウッド映画やメジャーリーグなど華やかなイメージがある米国だが、意外に娯楽は少ない。
当時はスマートフォンが普及し始めていたこともあり、店内で食事を楽しみ、その様子を撮影してSNSに投稿する来店客も増え、話題が話題を呼ぶように。タッチパネルで注文し、寿司ネタが高速でレーンを流れ、景品のおもちゃをもらえる。何もかもが斬新だった。
日本では日常ともいえる「食×エンターテインメント」が米国ではイノベーティブに映った。
■コラボ展開が新たなソフトパワーに
「ソフトパワー」という言葉がある。米ハーバード大学教授やクリントン政権の国防次官補などを歴任し、外交・安全保障分野で米国を代表する研究者として知られたジョセフ・ナイ氏が提唱した言葉だ。軍事力や直接的な経済力ではなく、価値観や文化を共有することで他国に対して影響を及ぼす考え方を指している。
日本でいえばアニメや漫画のようなコンテンツ、禅のような伝統が分かりやすい。最近ではインバウンドの増加で和食に対する関心が高まってきていることもあり、くら寿司のような「食×エンターテインメント」もソフトパワーの一つに位置づけられるようになっている。
くら寿司の店舗で展開する「ビッくらポン!」では、景品に「鬼滅の刃」や「ワンピース」のようなコンテンツとコラボした景品を出す。食というカルチャーを通じて、間接的にこうしたアニメや漫画の魅力が米国に伝わっている側面もある。
■アメリカで人気の寿司ネタ
ただし、日本で展開しているものと全く同じ仕組みを輸出してもうまくいかない。くら寿司の鉄則は「8割のグローバルスタンダードと2割のローカライズ」だ。「ビッくらポン!」や回転レーンはグローバルスタンダード。
ではローカライズとは何か。分かりやすいのは寿司ネタだ。日本の一番人気は「ふり塩熟成まぐろ」、二番手は「サーモン」で三番手は「はまち」だ。だが米国では「炙りサーモンマヨネーズ」「ゴールデンクランチロール」「サーモン」の順に人気があり、見た目や味にインパクトのあるネタを充実させている。
日本では客席に置かれたお茶を自分で入れて飲むのが一般的だが、飲食店におけるセルフサービスの習慣がない米国では、セルフ式を取り入れると「なぜ自分でやる必要があるのか?」と来店客に疑問を持たれてしまう。そのためドリンクを運ぶのは店員やロボットに任せるなど、オペレーションを現地に合わせている。
(初公開日:2025年10月9日)
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杜師 康佑(とし・こうすけ)
日本経済新聞社記者
1987年生まれ。広島県出身。
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(日本経済新聞社記者 杜師 康佑)

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