※本稿は、内田和成『客観より主観 “仕事に差がつく”シンプルな思考法』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■イーロン・マスクの「常識を突破する」考え方
一見すると「常識外れで、無謀なこと」であっても、それを「当然」とみなせるような価値観が組織内に形成されていれば、ときに不可能を可能にすることもできる。
イーロン・マスクがつくり上げた民間の宇宙開発会社「スペースX」が、まさにその好例だ。2020年には民間で初めて、ISS(国際宇宙ステーション)に到達する有人宇宙船を開発し、現在も有人宇宙輸送を続けている。
彼はまさしく、“常識を超えるスピード”でロケットを開発し続けているわけだが、それができるのは、開発者や技術者の優秀さもさることながら、理念やビジョンなどの「上位概念の共有」が大きいのではないかと思う。
ロケットというのは、宇宙空間で修理することができないため、NASAでもJAXAでも、「できるだけ完璧なもの」を仕上げてから、宇宙へ飛ばす実験をしようと考えるのが普通だ。そのため開発には、どんなに早くても数年単位で時間がかかる。
しかしイーロン・マスクは、実験の段階で人が乗っていなければ、「いくらでも爆発させていいから」と、スピード最優先で開発を行わせている。
すると湯水のようにお金を使うことにはなるが、開発のスピードは格段に早くなる。ようは、とにかく試行回数を増やして、結果的に成功したものを実用に回していこうという発想だ。
■壮大なビジョンの実現に向けた徹底したスピード主義
イーロン・マスクは、なぜそんなにもロケットの開発を急ぐのか。
そのためには、貴重な人生の時間を浪費するわけにはいかない。エンジニアもそれを理解しているから、徹底したスピード主義で開発を進めるのだろう。
A、B、Cの案があるとき、普通ならどれが最善か、机上での検討やシミュレーションを行うが、彼の場合は3つともつくって試してみる。仮に2つが失敗しても、ひとつでもうまくいけば、それでいいのである。
このように、トップの人間が「上位概念を明確化」することが、常識を超える成果を導いたわけだ。
■パナソニックを支える松下幸之助のストーリー
こうした「想い」というのは、論理的に説明できるものではない。
人や組織を動かすために真に必要なのは、「筋の通ったロジカルな説明」よりも、たとえ非合理でも、「人々の共感を呼ぶようなストーリー」だ。
なぜなら、人間の行動や意思決定に大きな影響を与えるのは、「論理」よりも「感情」だからだ。
そもそも会社の理念とは、多くの場合、創業者が会社を誕生させたときに成立させたものだ。
トヨタであれば織機を開発した豊田佐吉の時代から、すでに「新しいものを開発しよう」という信念があり、ホンダにしろ、ソニーにしろ、ユニクロにしろ、ソフトバンクにしろ、会社の創業者が培ってきたストーリーが、現在の経営を支えている。
たとえばパナソニックの創業者の松下幸之助は、非常に貧しい家庭に生まれ、丁稚奉公から身を起こした。
そして幸之助は、ソケット(電気器具の接続具)の改良を試み、会社を設立した。しかし、不況に見舞われ、倉庫には製品在庫が山積みに。多くの社員が辞めようとする中、彼は「会社は社会からお預かりしたものであり、使命を果たさなければならない」と訴え、全社員が在庫品の販売に徹した。
■理念・ビジョンに「感情」を吹き込む
この経験が松下幸之助の経営哲学の根幹となり、「企業は社会の公器である」という今日のパナソニックの企業理念につながったという。
こうしたストーリーを知ると、「ただの言葉」だった理念やミッションに、深い納得感や共感が生まれる。そのうえで、日々の業務や習慣を通して、理念を「行動」に落とし込んでいくことで、それが当人たちにとっての「共通認識」に変わり、組織に一体感が生まれるのだ。
ストーリーとは、別に「大きくて歴史がある会社にだけ備わっている」というものではない。1年前に出来上がった社員が数人のベンチャー企業にだって、「会社をつくるまでのストーリー」は必ずあるはずだ。そしてそれは、ロジカルで戦略的なものである必要はまったくない。
むしろ個人的で、感情的で、「その人だけの主観」に基づくようなストーリーを、人々は求めているのだ。
■「経験に裏打ちされたストーリー」に説得力が宿る
これまで繰り返し述べてきた通り、人の意欲を高め、行動に駆り立てるのに必要なのは、ロジックよりもストーリーである。
にもかかわらず、これまでビジネスでも教育の現場でも、私たちは「ロジカルな思考」を重要視しすぎてきた。
ストーリーというのは、なにも「会社の設立秘話」のように、壮大なものである必要はない。たとえば、あなたにはあなたの「人生というストーリー」があり、それはあなたのこれまでの経験や力を注いできたことなどによって、形成されている。
そして、そうしたストーリーは、ときにどんな論理よりも強い説得力を持つ。
こんな人間を思い描いてみてほしい。普段から身なりがだらしなく、およそファッションには無頓着で、部屋着と変わらないような服装で外出している人。
そんな人間が、「この色のシャツには、この色のジャケットを合わせるべきだ」などと、ファッション雑誌に書かれているようなことを一生懸命に語ったとして、説得力があるだろうか?
「お前が言うなよ」と、おそらく話も聞いてもらえないだろう。
たとえ話す内容にどんなに説得力があっても、そもそも聞く耳をもたれない。やはりファッションの話は、普段からファッションに詳しいことを周囲が認め、実際におしゃれな人間がするからこそ説得力がある。
■「何を言っているか」より「誰が言っているか」
逆に、そんな条件を満たしていれば、「この服の組み合わせはおかしいんじゃない」と普通であれば思うようなコーディネイトであっても、「彼が言うならば、それでいいんじゃないか」と納得してしまうかもしれない。
「何を言っているか」よりも、実際は「誰が言っているか」のほうが、聞き手にとっては重要だったりするのである。
かく言う私も、残念ながらファッションの話を一生懸命に語ったところで、おそらく誰も聞く耳を持ってくれないだろう。
その一方で、マーケティングの話やビジネスに関する話なら、かなり説得力を持って話をすることができるし、聞いてくれる人も多いと思う。
それはひとえに、普段から私がその分野について話をしていたり、ずっと仕事をしている分野だから、話に価値が付与されているということだ。
「その件には詳しいだろうから、内田さんの言うことに従いましょう」と、その人のストーリーがものを言っているのである。
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内田 和成(うちだ・かずなり)
早稲田大学名誉教授/東京女子大学特別客員教授
東京大学工学部卒業。慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了(MBA)。日本航空株式会社を経て、ボストン コンサルティング グループ(BCG)入社。2000 年から2004年までBCG日本代表を務める。2006年度には「世界の有力コンサルタント25人」に選出。2006年から2022年3月まで早稲田大学教授。早稲田大学ビジネススクールでは意思決定論、競争戦略論、リーダーシップ論を教えるかたわら、エグゼクティブプログラムにも力を入れる。
主な著書に、『仮説思考』『論点思考』『右脳思考』『イノベーションの競争戦略』(以上、東洋経済新報社)、『リーダーの戦い方』(日本経済新聞出版)など、ベストセラー・ロングセラーが多数ある。
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(早稲田大学名誉教授/東京女子大学特別客員教授 内田 和成)

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