■「teppay」はなぜ叩かれたのか
JR東日本、パスモ、PASMO協議会は、交通系ICカード「Suica(スイカ)」で2026年秋に新たに導入されるコード決済サービスの名称を「teppay(テッペイ)」とすることを発表した。
しかしながら、サービスと名称に対して、サービス開始前から批判的な意見が出てきてしまっている。
名称に関しては、SNS上で「人名のように見える」「レジで言うのが恥ずかしい」「この名前はないだろう」といった意見が出ている。
商品やサービスに人名のような名称を付けるのは、親しみを抱かせる上で有用だ。
人名風の商品は、赤城乳業の氷菓「ガリガリ君」、サントリーの緑茶飲料「伊右衛門」や果実入り飲料「なっちゃん」、日清食品のカップうどん「どん兵衛」、正栄デリシィのチョコレート菓子「サク山チョコ次郎」など、食品や飲料を中心に多数ある。また、その多くは親しみがあるロングセラー商品だ。
同じJRの新幹線「ひかり」「のぞみ」、個人型確定拠出年金「iDeCo(イデコ)」も人名風と言っても良いだろう。同じ電子マネー関連ではセブン&アイ・ホールディングスの「nanaco(ナナコ)」の事例もある。
また、生成AIの「ChatGPT(チャットGPT)」は人名風ではないが、「チャッピー」の愛称で親しまれている。
■ペンギンキャラの「変更」で風当たりが強くなっている
上記のような例を見ると、必ずしも「人名風だからダメ」というわけでもなさそうなのだが、どうして「teppay(テッペイ)」は批判されてしまったのだろうか?
理由として、下記の2点が考えられる。
●これから導入されるサービスで、まだイメージが固まっていない
●「Suica」がコード決済の導入に乗り遅れたり、これまで親しまれてきたペンギンのマスコットキャラクターが変更になるという報道があったりしたため、サービスへの風当たりが強くなっている
要するに、親しまれることを意図したはずの名称にもかかわらず、現時点では親しみが持ちづらい状況にあるために批判される結果となっているということだ。
逆に言えば、これらの点が解決できれば「teppay」の名称は次第に定着していくということでもある。
■「teppay」のネーミングは工夫が凝らされている
商品やサービスの名称は、利用者側が意識するとしないとにかかわらず、提供側の思いが込められている。
「teppay」という名称は「Travel(移動)」「Easy(簡単)」「Partnership(連携)」の3つの英単語の頭文字と「pay(支払い)」を組み合わせたものだという。また、「移動も買い物も簡単に、Suicaと連携して使える」という意味が込められているという。
名称が発表されたとき、筆者は「鉄道」と「pay」を掛けたものではないかと推測したが、この名称にはその要素も込められているのではないかと考えている。
企業はさまざまな思いを名称に込めるが、利用者からすると覚えやすく、記憶に残る必要がある。人名のような呼び掛けやすい名称のほうが覚えやすく、口にしやすい。上に挙げた商品・サービス名の多くは3文字か4文字だが、「teppay」も、小書き文字を含めて4文字、抜いて3文字に収まっている。
「teppay」は男性的で無骨な印象を受けるが、鉄道会社のサービスであることを考えると、むしろふさわしいようにも思える。実際、「ガリガリ君」「伊右衛門」「どん兵衛」も男性的な名前だが、人々に自然に受け入れられている。
■「不気味」と言われたミャクミャクも大人気キャラになった
大阪・関西万博のマスコットキャラクター「ミャクミャク」は、発表当初は「気持ち悪い」「不気味」と不評だったが、徐々に「かわいい」という評価に変わっていき、人気キャラクターへと成長した。
「teppay」も同様に評価が一変する可能性はあるのではないかと思う。ただし、そこに至るまでには、越えなければならないハードルがいくつかある。
■名称浸透のための3つの条件
「teppay」の名称が浸透するためには、以下の3つのハードルを越える必要がある。
1.コード決済サービスの普及
2.新マスコットキャラクターの発表と人々の受容
3.ブランドイメージの浸透
名称を普及させることと、サービスを普及させることはセットである。しかしながら、コード決済で出遅れた「Suica」が「teppay」を普及させることはそう容易なことではないと思われる。
キャッシュレス決済の雄である「PayPay」は、2018年に「100億円あげちゃうキャンペーン」という大規模な利用者還元キャンペーンを行った。いわゆる「PayPay祭り」には利用者が殺到し、最終的にキャッシュレス決済市場で覇権を握ることに成功した。
「teppay」が同様の施策を行うのか、あるいは行うことで現状の市場で覇権を握ることができるのかは未知数だが、大規模な普及施策を取る必要があることは間違いない。一方で、「Suica」は交通を利用する際に不可欠なインフラ的な地位を築いていることも事実なので、これを有効活用することで、普及促進を加速させることは可能だろう。
■新キャラクターの浸透がサービス浸透の条件
2点目のキャラクターに関しては、これまでの「Suica」のペンギンのキャラクターが親しまれてきたという経緯があるだけに、新キャラクターへの切り替えは困難が伴うことが予想される。
「teppay」のサービスも包含する新たな「Suica」のキャラクターが設定されるのか、「teppay」独自のキャラクターが別途設けられるのかは定かではないが、いずれにしても、浸透させるには一定の時間とコストを要するだろう。
3点目のブランドイメージの浸透は1、2とセットではあるが、コード決済は無形のサービスであり、すでに多くのコード決済サービスが乱立している状況であることを考えると、他のサービスとは異なる独自のブランドをどう構築するのかがカギになりそうだ。
「teppay」の名称が叩かれたのは、単純にネーミングの問題ではなく、むしろその背後にある、コード決済サービス、さらには「Suica」も含むキャッシュレス決済サービスのあり方の問題でもある。
----------
西山 守(にしやま・まもる)
マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授
1971年、鳥取県生まれ。大手広告会社に19年勤務。その後、マーケティングコンサルタントとして独立。2021年4月より桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授に就任。「東洋経済オンラインアワード2023」ニューウェーブ賞受賞。テレビ出演、メディア取材多数。著書に単著『話題を生み出す「しくみ」のつくり方』(宣伝会議)、共著『炎上に負けないクチコミ活用マーケティング』(彩流社)などがある。
----------
(マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授 西山 守)

![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 昼夜兼用立体 ハーブ&ユーカリの香り 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Q-T7qhTGL._SL500_.jpg)
![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 就寝立体タイプ 無香料 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51pV-1+GeGL._SL500_.jpg)







![NHKラジオ ラジオビジネス英語 2024年 9月号 [雑誌] (NHKテキスト)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Ku32P5LhL._SL500_.jpg)
