お金持ちになるにはどうすればよいか。『進化するシン富裕層』(日刊現代)を書いた大森健史さんは「身の丈に合った生活を心がけているようではいつまでたっても普通の人だ。
周囲の目を気にせず、あえて空気を読まない人になると今までとは別の世界が見えてくる」という――。(第1回)
※本稿は、大森健史『』(日刊現代)の一部を再編集したものです。
■普通の人とお金持ちの違い
シン富裕層は、元々は「ごく普通の人」でありながら、一代で巨万の富を築いたという人たちです。
では、「ごく普通の人」からシン富裕層になれる人と、シン富裕層になれず「ごく普通の人」のまま一生を終える人たちとの差は、どこにあるのでしょうか。
私が2万人を超える富裕層と接してきて実感したのは、「ごく普通の人」たちは保守的だということです。何をするにも、「身の丈に合った」ものがいいのだという、思い込みの鎖に縛られています。常に「身の丈」という名の見えない壁に囲まれているように感じます。
その壁は、私たちの行動を制限し、可能性を狭めていると言ってもいいでしょう。
印象的なエピソードがあります。私の先輩で、外資系コンサルティング会社のマネージャーとしてバリバリと働き、推定年収が2000万円を超える優秀なビジネスマンがいます。高いコミュニケーション能力と論理的思考力を武器に数々の難関プロジェクトを成功に導いてきた人です。都心の高級マンションに住み、華やかな交友関係を持っています。

ある日、その先輩と一緒に中古車販売店へ行ったところ、BMWのM5という、スーパーカーに匹敵する性能を持つ人気のスポーツセダン車が店頭にありました。M5は、新車なら当時約1700万円で販売されていた、超高級車です(2025年10月時点での希望小売価格は2048万円)。
しかしその中古車は、ほんの1年落ちで、1000万円ほどで売られていたのです。当時新車で買うより700万円も安いわけです。
■憧れの高級車よりも「身の丈」を優先してしまう
先輩が「これめちゃいいやん、内装もお洒落だし、1万キロしか走ってない。ほとんど新車みたいなもんやな」と言うので、私は「先輩、これ買えばいいじゃないですか! 絶対似合いますよ‼」と子どもに戻ったようなテンションになり、購入を勧めました。
ところが、それまで子どものように目を輝かせていた先輩が急に真顔になり、「いや、俺にはまだ早い」と言ったのです。
先輩は昔からBMWが大好きで、その価値をよくわかっていて、当時もBMWの別モデルに乗っていました。
50歳を過ぎて外資系でバリバリと働き高年収で、借金だってありません。そんな先輩が買うのが「まだ早い」のだったら、誰ならいいんですか⁉ と、思わずのけぞりそうになったものです。
「まだ早いって、いったいいつになったら買うんですか? 先輩なら余裕で買えるじゃないですか」
という私の言葉に、先輩は静かにこう答えました。「確かに、俺は今ならこの車を買えるかもしれない。
でも、俺はまだこの車にふさわしい人間になっていない気がするんだ。もっと仕事で成果を出し、もっと人間的に成長してから、この車に乗りたい」と。にわかに納得できない話でした。
■なぜ「普通の人」は山手線の内側を恐れるのか
しかし、「ごく普通の日本人」は保守的で、常に「身の丈」を意識してしまうのは仕方のないことかもしれません。その先輩ほどの身分になっても「身の丈を超えた行動はリスクが大きい」「失敗したら取り返しがつかない」と考え、挑戦することを躊躇してしまうのです。
ここが、シン富裕層との大きな違いです。彼らは「身の丈」思考にとらわれず自由な発想と行動力でチャンスをつかみ取ろうとします。年収が高くなれば、それを惜しみなく自己投資や新しいビジネスに使い、さらなる成功につなげていこうとします。あなたがシン富裕層になりたいと思うのなら、まずはこの「身の丈」思考からの脱却が必要です。
こうした現象は、「ごく普通の人」たちにはよく見られます。
たとえば首都圏で自宅を購入するようなとき、多くの「ごく普通の人」たちは、金銭的には準富裕層と言ってもいいくらいの資産的余裕があったとしても、「山手線の内側のような“都心”なんて恐れ多い、自分の『身の丈』には合わない」などと考える人が多いようです。そして都心の一歩手前、たとえば中目黒や代官山、自由が丘などに居を構えようとします。
値段的にそれほど変わらない、広尾、四谷、三田などは、端から検討もしないのです。
JR山手線の外側と内側とで、見えない「“身の丈”バリア」があるかのようです。
■中野から都心に引っ越して分かったこと
私も大阪出身で東京の地理には不案内だったため、「都心の一等地に住む」ということがよく理解できなかったクチなので、気持ちはよくわかります。
東京に出てきたばかりの頃は、私にとって“山手線の内側”は「別世界」でした。高層ビルが立ち並び、高級ブランド店や高級レストランが軒を連ねる、華やかで洗練された街であるという印象を抱きながら、
「確かに都心にも、マンションや一戸建て、小学校などがあるけれど、こんなところに住むなんてどんな変わった人なんだろう?」「学校はあるけれど、子どもなんて住んでいなんじゃないか」「食品や日用品を買うにも、物価だって高いんだろう」などといった偏見を持っていました。
ところが、ひょんなきっかけで実際に山手線の内側に住んでみてわかったのですが、南青山だろうが六本木だろうが、住む人も物価もそれほど山手線の外側と違いがあるわけではありません。
家賃は以前、住んでいた中野の賃貸マンションより若干高くなったけれど、生活の利便性が各段に上がったのです。
仕事場に近くなったことで通勤時間が短縮されて、自由な時間も増えました。今ならウーバーイーツも使えるし、我が家御用達の西友ネットスーパーもあるのです。
そう考えると、いっそのこと賃貸ではなく購入してしまった方がいいのではないか?
購入時の物件価格が高めでも、職場に近くて利便性もあって、将来の値上がりも見込めそうな「一等地」に住んだ方がいいなと考えを改めたのです。
■背伸びしてでも一等地に住んだほうがいい理由
最初のマンションを購入した時は少しチャレンジングだったような気もしますが、その後、山手線内側の一等地にあるマンションを何回か買い替えたことで、それほど苦労することなくある程度の資産を築くことができたのです。これは私の実体験です。

「身の丈」思考をちょっと乗り越えるだけで別の世界が見えてきます。
なお、一度一等地に住んでその快適さを知った人は、逆にそこからは出られなくなるものだということも付け加えておきましょう。一等地には、それだけの魅力があるのです。
保守的な「ごく普通の人」とは対照的に、シン富裕層は「身の丈に合った」という思い込みから解放されて、とても自由に生きています。私がこれまでにお会いしたシン富裕層の方々は、自由過ぎて、むしろ「KY」と言っていいような人がほとんどでした。
KYだからこそ、起業や投資にチャレンジしてもあきらめずに続けたり、情報ビジネスや暗号資産などに早くから飛びついたりすることができるのです。
■起業家の多くが「ややこしい人」なワケ
特に起業に関しては、KYな人の方が成功する確率が高いと言われています。日本人は失敗することを恐れ、親からも大企業勤めを勧められることが多いため、優秀な人であればあるほど起業にはKY力が重要になります。
KYであるがゆえに、会社内で「扱いづらい」「ややこしい」などと評価されていた人が起業をする。それが日本だと言っていいかもしれません。
理由は以下の通りです。まず、人が「会社を辞めたい」と思ったとき、優秀な人であれば転職活動を始めると、他の企業から今より好待遇、年収もアップするようなオファーが来ます。
そのため優秀な人はサラリーマンとして好条件で「次の会社」に転職をしていきます。
しかし「扱いづらい」「ややこしい」扱いをされている人が転職活動をすると、たいていは、それまでの年収以下で待遇が“改悪”されるような企業しか見つかりません。そのため、KYな人ほど、思い切って起業を選択することになるわけです。
私は多くのシン富裕層と接するうちに、この人たちは空気を読まないからこそ成功をつかめたのだと確信するようになりました。
■「空気が読めない」を武器にする
シン富裕層は、常識を疑い、既存の枠にとらわれない発想をします。「そんなことは無理だ」「前例がない」といった周囲の声に耳を貸さず、自分のビジョンを信じて突き進みます。「KY」とは、常識を打ち破る力だと言ってもいいでしょう。
例えば、ソフトバンク孫正義氏は学生時代に「人生50年計画」を立てて起業家として成功することを決意したといいます。周囲からは「無謀だ」「現実的でない」と反対されたのですが、自分のビジョンを信じてソフトバンクを創業し、世界的企業へと成長させました。
あるいは、楽天グループの三木谷浩史氏も「英語の社内公用語化」など、従来の日本企業の常識を覆すようなことを実行し、常に世間の注目を集めてきました。彼らはまさにKYな才能を開花させ、時代を動かすイノベーションを起こしてきたと言えるでしょう。
逆に、「空気」は変化を阻みます。
「空気を読む」ということは、裏を返せば「周囲の期待に応えようとする」「波風を立てないように行動しようとする」ということに他なりません。だから、空気を読んだ行動は、本当に自分がやりたいことや、やるべきことから目を背けてしまうことになりかねません。
シン富裕層は、空気を読むことにエネルギーを費やすのではなく、自分のビジョンを実現するためにあらゆる行動を起こすのです。

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大森 健史(おおもり・けんじ)

アエルワールド・代表取締役

1975年生まれ。国際証券株式会社等を経て、現職。投資家・資産家向けの海外生活コンサルティングにも精通し、サポートを行う。

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(アエルワールド・代表取締役 大森 健史)
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