■中国BYDが参入で軽自動車市場はどうなるのか
BYDは日本の軽自動車市場に本格参入を図る。BYD自らが日本の軽自動車規格に合わせて開発を進める「軽EV」は、2026年後半に日本向けに投入される予定である。BYDオートジャパン社長の東福寺厚樹は「国民車としての軽自動車に大きなポテンシャルがあると感じ開発に踏み切った」と参入の目的を語った。
世界で快進撃を続けるBYDであるが、実は、BYDトップの王伝福(ワン・チュアンフー)は日本の販売成果は非常に不満であると聞く。ディーラーを1カ所1カ所丁寧に開設しながら、ゼロからスタートしているわけであるから、筆者の目には妥当な進捗に見えるが、起死回生の策が「軽EV」ということである。
2023年10月、ジャパンモビリティショーに出席するため来日した王伝福BYD会長が、街中を走る軽自動車を目にして日本市場参入を決断した――。これがこれまで流布してきた通説である。だが、東福寺社長はあるメディアのインタビューで、この説を修正している。実際には、王会長がインスピレーションを得たのはブラジル出張の途上、成田空港でのわずか8時間のトランジット中だったという。
■まさに黒船襲来といえるワケ
千葉県内を移動する中で国内軽自動車の独自性を目の当たりにし、その特異な存在こそが彼の着想を刺激したと東福寺は語っている。
2024年10月、王会長は再びジャパンモビリティショーのため来日した。
バッテリー容量20キロワットアワー、航続距離約180キロメートル、価格は約250万円で日産サクラ(約260万円)を下回る水準を狙う――こうした報道は各メディアの憶測として散見される。しかし、BYDがこれまで築いてきた破天荒な実績を踏まえれば、その程度のスペックに収まるとは考えにくい。
筆者の見立てでは、より高い性能や付加価値を伴って登場する可能性が高い。国内メーカーが独占してきた難攻不落の軽自動車市場にとって、それはまさに黒船襲来となるだろう。
■ホンダ「N-BOX」と似た車体の意味
BYDは日本の軽規格に特化した専用プラットフォームによる軽EVを開発していると明言している。恐らく、その起点は公言どおりであろう。
しかし注目すべきは、その先に見据える市場ポジションである。流出しているスパイショットを精査すると、車体は軽販売台数で首位を誇るホンダ「N-BOX」、いわゆるトールワゴンと酷似している。このセグメントは年間約160万台の軽市場のうち、およそ40%を占める中核市場である。
日本専用からスタートすることは間違いないだろうが、それ以外の仕向け地への展開について東福寺は「実は議論の余地があると思うんです」と意味深長な回答をしている。
スズキやダイハツ工業は販売実績を築いてきた。
東福寺は興味深いコメントをしており、EVであれば、モーター自体を大きくしなくても、比較的容易にいろいろなタイプの出力を電子制御で実現できるという。要するに、車体構造の変化に対して柔軟に対応できるため、様々な市場に向けて拡張性のポテンシャルがあると言っているように聞こえる。
「ただ、今の段階でBYDがそういうことを想定して開発しているかといえば、そうではないと思います」と東福寺はくぎを刺すことは忘れなかった。
■中国メーカーの狙いは「小→大」の流れか
日本の農道や林道を走行するには、軽自動車規格の車幅が最適である。しかし、グローバル市場を視野に入れるなら、その車幅を拡大する必要があるだろう。
実のところ、軽自動車のプラットフォームはイノベーションの源泉となっており、スモールカー競争力を支える、日本固有の貴重な資産であるというのが筆者の持論である。大排気量車や大型車向けに開発された技術を小型車へ転用することは至難の業である。
一方で、小型車の技術やプラットフォームを拡張し、大型化することは比較的容易である。軽自動車は、全長3.4メートル以下、全幅1.48メートル以下、全高2.0メートル以下、エンジン排気量660cc以下(EVの場合は最高出力47キロワット以下)という厳格な枠組みが先に定められている。
そのため、メーカーはこの制約の中で燃費性能や衝突安全性を高めるべく技術開発を重ね、その過程で数多くの技術的ブレークスルーを生み出してきたのである。
BYDはそんなことは十分に理解しているだろう。「そんなガラパゴスの規格はさっさとやめなさい」と横やりを入れるメーカーはいるだろう。しかし、過去にこの市場へ本気で挑戦した海外メーカーが存在しなかったことも事実である。
BYDは軽市場への参入に本気で臨んでおり、そこから得られる知見と経験は、同社を一段と強くするに違いない。
■中国のEV軽自動車の驚きの安さ
「宏光(ホンガン)MINI」は日本の軽自動車とは車格が異なる。同モデルのヒットを契機に中国で「A00クラス(全長3.6メートル前後、全幅1.6メートル前後、排気量規制はない)」と定義される日本の軽自動車に近いセグメントが、ほぼ全てEVへと置き換わった。
同様の現象が日本でも起こるとは考えにくい。宏光MINIの低価格は、装備を極限までそぎ落とすことで実現したものであり、そもそも日本の軽自動車とは使用環境や想定されるユースケースが大きく異なるのである。宏光MINIも近年はかなり価格が上昇し、4ドアは4.48万~5.08万元(92万~104万円)となっている。参考までに、類似車種の吉利「パンダミニ」が4.69万~5.39万元(93万~107万円)である。
中国のA00クラスは、都市部の短距離移動やカーシェア、セカンドカー用途が中心で、地方でも日常の足として使われる。移動距離は短いが利用頻度が高く、中国の自動車情報サイト「汽車之家(Autohome Inc.)」の利用実態調査では、月間走行距離は約630キロメートルとの結果が示されている。
■日産サクラが示した親和性と限界
一方、日本の軽自動車は、公共交通インフラが手薄な地域を中心に「生活の足」として定着している。日本自動車工業会の調査では月間平均398キロメートルと、走行距離は相対的に短い水準だ。軽自動車の平均価格は総務省の小売物価統計調査に基づけば160万円程度と廉価である。
日産サクラの260万~308万円レンジに位置し、軽セグメント内ではプレミアム帯―言わば「軽のBMW」に相当する価格設定と言える。
軽自動車とEVの親和性が高いことは日産サクラの成功が示すところである。ただし、生活必需品としての特性を考慮した時、本当に手ごろな価格を実現しなければ本格的なEVシフトには結びつかないのである。
BYDは2025年末までに日本国内で約100店舗体制の確立を目標に掲げる。三大都市圏を起点に、空白地を残しつつも地方の県庁所在地へ着実に拡大してきた。日本のディーラーの販売効率は年間300台程度と非常に低い。また、地方に行けば行くほどディーラーのアフターサービスの重要性は高まる。
大手の業販店を含めれば、スズキとダイハツ工業にはそれぞれ6000拠点のネットワークがある。こうした強固な流通網にBYDが一刺しを入れられるなら、その意義は小さくない。
(※1)「【秘話】BYD「軽自動車」参入の裏に、破天荒な訪日ツアー」池田光史、2025年8月5日、https://newspicks.com/news/14802012/body/
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中西 孝樹(なかにし・たかき)
ナカニシ自動車産業リサーチ 代表アナリスト
オレゴン大学卒。山一證券,メリルリンチ証券等を経て,JPモルガン証券東京支店株式調査部長,アライアンス・バーンスタインのグロース株式調査部長を歴任。現在は,株式会社ナカニシ自動車産業リサーチ代表アナリスト。国内外のアナリストランキングで6年連続第1位など不動の地位を保った日本を代表する自動車アナリスト。著書に『トヨタのEV戦争』(講談社ビーシー),『自動車新常態』『CASE革命』『トヨタ対VW』(いずれも日本経済新聞出版)など多数。
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(ナカニシ自動車産業リサーチ 代表アナリスト 中西 孝樹)

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