※本稿は、衛藤信之『傷つかない練習 つらい感情から「自分を守る」思考法』(大和出版)の一部を再編集したものです。
■「怒り」は”期待”が形を変えたもの
僕たちが誰かに対して「腹が立った」「イライラする」と感じるその感情は突然、空から降ってきたわけではありません。
心理学では、怒りや不満は「第二感情」と呼ばれます。
では、その前にある「第一感情」とは何でしょうか?
それは、ほとんどの場合は“自分の期待”です。
たとえば、職場の上司に「話も聞かずに一方的に注意された」とき。怒りの裏側にあるのは、こんな期待かもしれません。
「ちゃんと話を聞いてほしかった」
「味方でいてくれると思っていた」
「認めてくれる存在だと信じていた」
つまり、あなたが怒りを感じたのは、単にその人が“嫌い”だからではなく、「信じていた」「頼りたかった」「わかってほしかった」という、自分の期待が裏切られたからなのです。
このように、怒り(Youメッセージ)は心の中の「悲しみ」や「さみしさ」が、形を変えて出てきたものです。
■自分の感情を正直に伝える
その怒りの奥にある“自分の願い”に気づけたとき、僕たちは少しだけ自由になれます。
だからこそ、相手を責める言葉(Youメッセージ)ではなく、自分の感情を正直に伝える言葉(Iメッセージ)で語ってみてほしいのです。
自分の感情を正直に伝える言葉への言い換え
「ちゃんと話を聞いてくれない」
→ 「話を最後まで伝えらないのがつらいのです」
すると相手は「なにを伝えたかったの?」
「あなたの言うことがコロコロ変わる」
→ 「期待に応えたいのに、それがわからなくて悲しい」
すると相手は「どうしたらいい」
「あなたが責めてばかりですよ」
→ 「見守ってくれていると思っていたから、驚きました」。もしくは、「安心してもらいたくて頑張ったので悲しくて」
すると相手は「もちろん安心もしているよ」
こうした言葉は、あなたの心を守るだけでなく、相手との“対立”を“対話”へと変えるきっかけになります。
自分を伝えるのは勇気です。でも、勇気ある言葉には、人の心を動かす力があります。
心理的距離を保ちながら、相手との心の橋を作ること。それが、あなたの人生を豊かにしていくのです。
■同じことを言っても自分だけ怒られる…
社会生活を送っていると、ときに発言内容よりも“誰が発言しているか”が重要視されることがあります。同じことを言っているのに、受け取る側の印象が変化するのです。そういう反応をされると、傷つきますよね。
「会議で、○○さんと同じ意見を言ったのに、自分だけ反論された」
「○○さんだって同じ態度だったのに、自分だけが『失礼だ』と言われた」
「あの人も似たようなことを言っているのに、笑って受け止められている」
こういうとき、心の中で「なんで私だけ……」とつぶやいてしまいます。
まるで、特定の人にだけ厳しい先生や不機嫌な上司、気まぐれな親に振りまわされているようで、理不尽さに傷つくのです。
■出来事を客観的に見つめる
でも、少しだけ視点を変えてみましょう。
もしかすると、相手は“言った内容”ではなく、“言い方”や“関係性の文脈”を見ているのかもしれません。
あるいは、相手が、そのときすでにイライラしていたり、あなたの声のトーンが無意識に感情的だったりしていなかったか。
人間関係の相互作用です。相手の状態や、自分の状態、お互いの関係性、さまざまな要素が絡み合っています。
だからこそ、落ち込んだりイライラしたりせずに、冷静な状態でインナー心理カウンセラーと一緒に振り返る力が必要です。
「相手が怒ったのは、私の”言い方”がきつかったからかもしれない」
「今、相手は忙しくて余裕がなかったのかもしれない」
「そもそも私は、この相手と”丁寧に向き合いたい”と思っていたのか?」
「どの言葉に、私は傷ついたのだろう。自分はそれにどう感じたのだろう」
こうした問いかけが、自分を責めることなく、相手を非難することもなく、出来事を“客観的に見つめる視点”につながっていきます。
あなたの心を守る仕切りを「見える化」する
①あなたが「傷つきやすくなる場面」を思い出そう
以下のような場面に、心がざわついた経験はありませんか?
・いい人でいようと無理してしまった
・「あの人のこと」がなぜか怖い
・自分は叱られやすいと思っている
・同じことを言っても、自分だけ怒られた
思いつくまま、書いてみてください。
① あなたが「傷つきやすくなる場面」を思い出そう
②「自分の境界線」を感じてみよう
そのとき、自分の心の仕切りがどこにあったかをイメージして描いてみましょう。
・どこまでが「自分の責任」?
・どこからが「相手の問題」?
・どこで「譲りすぎて」いたか?
・どこで「言いすぎて」いたか?
② 「自分の境界線」を感じてみよう
■自分のせいにも相手のせいにもしない
③「第一感情」に光を当ててみよう
その出来事の中で感じた「怒り」「悲しみ」「不満」の奥に、どんな期待や願いがあったでしょうか?
「本当は○○してほしかった」
「こんなふうに伝えられたら【嬉しい】」
「私の中に、『~すべき』という価値観があった」
感情の根っこを見ていきましょう。伝えられたらIメッセージで伝えましょう。
そして、何よりも大切なことは、相手が少しでも、こちらの思った行動や言動に近づいてくれたときには、「その言葉で嬉しかったです」「あのサポートのおかげで頑張れそうです」と、感謝のIメッセージで伝える。
大切なことは、決して相手に完璧な行動を求めないことです。
少しでも変化してくれたら感謝を伝えましょう!
③「第一感情」に光を当ててみよう
④「心の仕切り宣言」を書いてみよう
あなたが感じた「心の境界線」「今後守りたいこと」「相手と自分を分けるためにできること」などを、自分の言葉で書いてみましょう。たとえば……、
・私は、相手の不機嫌を自分のせいにし過ぎないようにします
・私は、「いい人」より「自分の思いを大切にする人」でありたいです
・私は、怖い人にも、自分の境界線を保ちつつ、やさしさを忘れません
・私は、自分の感情を”悪いもの”として押し込めません
・私は、叱られても「自分を責めすぎない」方法を身につけたいです。
④「心の仕切り宣言」を書いてみよう
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衛藤 信之(えとう のぶゆき)
心理カウンセラー、公認心理師、日本メンタルヘルス協会代表
幼少期に両親の離婚や義理の母の自殺をきっかけに心理学に興味を持ち、アメリカで臨床心理学やサイコセラピーなど、多くを学ぶ。アリゾナでネイティブ・アメリカン(インディアン)と生活をし、生きる上での大切なことを知る。理論中心の心理学の学派を離れ、カウンセリングの現場で感じたことを提供している。代表を務める日本メンタルヘルス協会の卒業生は30年で5万人を超え、卒業生の中には、ひすいこたろう氏、マツダミヒロ氏、野口嘉則氏など多数。主な著書に、『心時代の夜明け――本当の幸せを求めて』(PHP研究所)、『イーグルに訊け』(飛鳥新社)、『今日は、心をみつめる日。』(サンマーク出版)、『「ほんとうの幸せ」の見つけ方』(サンマーク文庫)、『こころの羅針盤――人生を迷わないために…』(毎日新聞出版)などがある。
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(心理カウンセラー、公認心理師、日本メンタルヘルス協会代表 衛藤 信之)

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