2026年の国民の生活レベルは下がるのか持ち直すのか。書籍160冊計400万の読者がいるベテランの経営コンサルタント小宮一慶さんは「来年は、短期・長期金利ともに上昇すると予想される。
日米金利差が縮まることで円高に振れると、高騰した都心の不動産価格に下落圧力かかり、これから家を買う人には朗報となるかもしれない」という――。
■2026年は不動産が下落する
2026年の日本経済で起こること。それは金利の上昇です。短期金利、長期金利ともに上昇することが予想されます。その状況で、何が起こるのかを考えてみます。良いこともあれば、悪いこともあります。
一つの焦点は、2025年はインフレの影響でマイナスが長く続いた「実質賃金」が来年はプラスになるかどうか。実質賃金がプラスにならなければ、私たちの暮らしは上向くどころか、さらに貧しくなります。
もう一つの焦点は不動産価格です。都市部で高騰している不動産価格ですが、私はこの先、下落に転じると見ています。これは、冒頭に触れた金利上昇の影響もあります。すでに購入した方は住宅ローン金利が上がり、持ち家の価格の低下を強いられる可能性がある一方、新たに家を買う人たちには金利上昇は朗報になるかもしれません。

■なぜ金利を上げるのか
まず、金利が上がる話から説明しましょう。日銀の政策決定会合が今月18~19日に行われますが、市場の大方の見方は、最近の日銀の植田和男総裁の発言からして、政策金利(コールレート翌日物)を0.25%上げるというものです。
政策金利は、1日だけ銀行間で貸し借りする金利で、そこに日本銀行が毎日介入し、金利を維持しています。その政策金利は、現状上限が0.5%ですが、0.75%になると見られています。
金利が上がる理由は簡単です。インフレが収まらないからです。
図表1は、このところのインフレ率(消費者物価指数・生鮮除く総合)の推移ですが、一時2%台後半まで落ちた消費者物価ですが、10月にはまた3%に戻りました。
インフレを抑制しないといけない理由は、実質賃金のマイナスが続いているからです。
表で見るように、実額での給与(現金給与総額)は、このところ上昇しています。しかし、インフレ率を考慮した実質賃金はおおむねマイナスの状態が続いています。実質賃金は「名目賃金-インフレ率」で計算されますが、名目賃金の伸びよりもインフレ率のほうが高いのです。
これでは、国民生活は豊かになれません。
同じ品物を同じ量、買えなくなっているのです。食べ盛りの子供などがいる家庭では、食品などの量を確保しなければなりませんが、その場合は質を落とすしかないのです。
■パート募集が数カ月前からなくなった
実質賃金をプラスにするには、名目賃金を上げるか、インフレ率を下げるしかありません。完全失業率、有効求人倍率はまだ良い数字ですが、有効求人倍率は、コロナが明けるころには1.35倍まで上昇していたのが、最近では1.18倍まで低下しています。
まだまだ低くはありませんが、雇用の過熱感は薄らぎつつあります。私が代表を務める会社(東京都千代田区)の近くのファミリーレストランでも、パートさんの募集ポスターが数カ月前から貼られなくなっています。
正社員の賃上げは、来春まではありませんから、実質賃金を上げるには、インフレ率を下げるしかありません。そのためには、短期金利の上昇が必要で、政策金利を上昇させる必要があるのです。(図表2)
では、日銀がどこまで政策金利を上げるのか。最近までは1%という意見が多かったのですが、インフレ率が高止まりしていることから、それ以上という意見も多く、1.5%と考えている人もいます。現状の3倍の金利になります。
高市政権は、インフレ時にインフレになるような政策を行っており、当然のことながらインフレは助長されがちです。
アベノミクス初期のように、デフレで円高だったのとまったく状況が違うのに、アベノミクスと同じインフレ政策をとっています。
また、高止まりしているコメ価格についても、「おこめ券」という、価格維持のためとしか思えない政策をとり、いずれにしてもインフレが収まるにはかなりの時間がかかると考えられます。
高市政権発足以降、円安が進んでいることも輸入物価の上昇を通じてインフレを助長します。短期金利が上がると、企業の短期での借入金利も上昇しますし、変動金利で住宅ローンを借りている人ももちろん影響が出ます。返済額が上がる、家計負担は確実にアップします。金融資産、とくに預貯金を持っている人には恩恵ですが、資産は高齢者のほうが潤沢で、現役世代には金利アップは逆風となることは多いでしょう。
■長期金利も上昇する
一方、見逃せないのは長期金利も急上昇していることです。今年初めに1.2%台だった10年国債利回りは、高市政権誕生で1.7%を超え、それが、11月に入り1.8%、1.9%をあっという間に超え、この原稿を書いている時点では、1.96%まで上がり、2%目前です。2%超を予測する人も少なくありません。
これは、高市首相が「責任ある積極財政」を掲げながら「責任ある」のほうはあまり意識されず、積極財政だけが前面に出て、財政悪化懸念から国債の増発が懸念され、金利が高騰しているのです。
長期金利の高騰は、企業の金利負担を増やし、設備投資意欲を減退させます。また、これから住宅を購入しようとする人の固定での住宅ローン金利負担を上げることとなります。
ただし、新しく家を買う人には少し朗報があります。
■住宅価格は下がる
私は不動産価格がこの先、2026年以降に下がると予測しています。理由はこうです。
前述したように、日本の金利はかなり高い確率で来年にかけて短期、長期ともに上昇します。米国では、日銀の政策決定会合にあたる中央銀行(FRB)のFOMC(公開市場委員会)が12月9日、10日に開かれ0.25%の利下げが行われましたが、今後も、来年5月のFRB議長の利下げ推進派への交代も含めて金利下げが続くと予想されます。
その結果、米ドル売り・日本円買い、つまり円高に振れると思われます。実質金利(名目金利からインフレ率を引いたもの)は、未だに日本はマイナスで、米国はプラスで、そのせいで円安が長く続いてきましたが、それでもその差が縮まることは、円安が是正されやすいと考えられます。
そうすると国民の生活にどんな影響が出るのか。
日本に来る外国人観光客の増加にブレーキがかかります。円安の是正により、これまで超割安だった日本での宿泊や買い物が高くなるからです。さらには、高市首相の台湾有事をめぐる「存立危機」発言で中国が日本への渡航自粛要請したことで中国人観光客が激減しています。私が大阪で泊まるホテルも以前は中国人観光客が大勢いましたが、ホテルに聞いてもかなり減っているとのことです。
しばらくはこの傾向が続くでしょう。
そうすると、ホテルがこれまでのように集客できなくなります。ダイナミックプライシングという、需給に合わせた料金を設定しているホテルが多いですから、ホテル料金が下がります。
■都心の不動産価格に下落圧力がかかる
ここ数年、訪日客増加によりホテル料金が上がり、それによりホテルの用地取得意欲が高いですが、訪日観光客が減れば、ホテル料金下落とともに、用地取得のインセンティブも下がります。それは、マンションの用地取得価格にも大きく影響してきます。
また、外国人の不動産取得にも歯止めをかけようとする国会議員や千代田区をはじめとする自治体の動きも出始めています。これらのことから、とくに高騰した都心の不動産価格に下落圧力がかかると考えられ、そのことは周辺地域にも波及していくと私は考えています。さらには、金利上昇は、企業の土地取得や個人の不動産購入にはマイナスです。
このことは、すでに不動産を取得している層、とくに最近高値で不動産を買った人たちには、金利上昇も含めてあまり良い話ではありません。一方、金利は上昇するものの、これから不動産を買おうとする層には、物件や土地の相場が下がり、良い話となります。
このように、2026年の日本経済は、短期・長期の金利が上がることで、これまでとは違った経済の大きなターニングポイントとなるのではないかと考えています。

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小宮 一慶(こみや・かずよし)

小宮コンサルタンツ会長CEO

京都大学法学部卒業。
米国ダートマス大学タック経営大学院留学、東京銀行などを経て独立。『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座2020年版』など著書多数。

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(小宮コンサルタンツ会長CEO 小宮 一慶)
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