■物価が高くなった原因「円が弱すぎる」
高市総裁の「責任ある積極財政」とは、一体なんなのか。成功すればどうなり、失敗するとどんな結末を迎えるのか。
女性初の総理というだけでも輝いて見えるし、ここ数年、方向性が不明確で「決められない政治」が続いてきたが。そうした混沌とした状況を打開できる光が見えてきた。だが、市場との対話、特に金融市場との対話を重視しなければ、最悪の場合、1ドル=250円という「屈辱」が待っている。
現在の物価高は、何も量的金融緩和政策によって景気が良くなったからではない。むしろ、市場原理を否定し続けてきた量的金融緩和のせいで、円が弱くなってしまったことと、企業の価格支配力が高まっていることによる。
企業利益が企業内部に貯められ、ないしは株主に還元されるのか、それとも労働者に分配されるのか、これも大事な側面だが、円の対外価値が異常に弱いことが、物価高の要因として重要である。いま求められているのは、円の価値が弱すぎる現状を解消させることなのだ。
トランプ大統領が米国の金融政策に影響を及ぼして金利を上げさせないように働きかけている一方、日本は行き過ぎた低金利政策の是正が必要であり、日米の金利差は縮小に向かうとみられており、日銀は12月19日、政策金利を0.50%から0.75%への引き上げを決定した。
それでもなお、円の価値が異常に弱いのはなぜか。
■「アベノミクスの再来」が危惧されている
高市氏が自民党総裁に選出された2025年10月4日、ドル円市場で円が一気に売られた。金融や経済学の教科書では、金利差が外為レートの決定要因のひとつとして紹介されるものの、市場を動かす国内外のディーラーがどう見通すか、それが大事なのだ。だからこそ市場の信認がもっとも重要だ。
2022年から円の弱さは、それまでの異常な量的金融緩和政策による日銀の当座預金残高の急拡大を下地に、米国の政策金利が上昇して日米金利差が拡大したことが要因だった。それは教科書的な解釈で十分説明できる。
しかし、今回、高市総理の誕生によってさらに円が一気に弱くなったのは、金利差ではなく、市場が危機感を持ったからだ。
どんな危機感なのか。それは、高市政権がアベノミクスを推進した安倍政権の二の舞になるのではないかという危機感だ。
■総理就任から円は一気に弱くなった
黒田元日銀総裁の時期には、国債発行残高の約半分を日本銀行が購入して長期金利を意図的に抑えることによって、マーケットメカニズムを完全否定してしまった。
本来、国債の発行残高が増大すると、需給バランスが崩れて国債価格は下落(国債利回りの上昇→長期金利の上昇)するが、国債残高は増えるのに長期金利は低下するという「奇妙で滑稽な」現象を作り出してしまった。
植田総裁になってからは、その奇妙で滑稽な現象を解消するという明確なスタンスを打ち出し、これからいよいよマーケットメカニズムを回復させるというメッセージを出せていたのに、高市政権がまたそれをひっくり返すのではないかと疑われ始めたのだ。
その疑念が払拭されず、円の信認が崩壊した場合、一体どこまで円は弱くなるのか。
高市氏が自民党総裁に決まった時に、1ドル=147円だったドル円レートは、わずか3日間で153円と6円も弱くなった。これは1日ごとに1.3%弱くなるということで、年利にすると500%近くになる。その後、総理就任後1カ月間で5%程度も弱くなった。
仮に高市総理になってからの円の弱さのペースが続けば、最悪の場合、2026年6月には1ドル=200円に、10月には1ドル=250円になってしまうのだ。
■「異次元」金融緩和の重い代償
ドル円レートの変動要因は無数あり、高市政権に対する疑念だけで動くものではないが、再び長期国債を中央銀行が無理やり買って、長期金利を抑え込むような素振りが見られれば、堰を切ったように円が一気に弱くなることは十分考えられる。
市場規律という節度ある世界では、国家財政の大幅な赤字は、国債増発によって国債価格の下落を引き起こし、結果として長期金利の上昇を招く。せっかく、財政支出で需要を無視やり押し上げても、金利が上昇してはむしろ民間投資に迷惑をかけてしまう。
これを「クラウディングアウト」というが、安倍政権は「異次元」だと言い張ってアベノミクスを実行した。金融市場は、「サナエノミクス」によって、またこのような状況を作り出し、市場原理を否定するのではないかと心配しているのだ。
積極財政派の人は、政府債務残高の対GDP比が先進国で突出していても問題ないと言う。しかし、たとえ日本の国内でそのような意見が多数派になったとしても、外国はそのようには考えてくれない。市場原理を否定して外国からも信頼されなくなった、「異次元」の過去が付きまとう。
■それって、本当に物価高対策ですか?
財やサービスの価格を下げたいのなら、消費者が高いまま買えてしまう状況を後押しする政策は愚策だ。
緊急的な家計支援は必要だが、「これでお米を買ってください」とおこめ券を配ってもコメ価格が下がるわけでもなく、むしろ少し高くなってもいいやと思う消費者が出てくる。コメの価格を下げたいのなら、代替材の小麦製品を買いやすくして、米価を引きずり下ろすほうが得策だ。
ガソリン価格が高くなったのも、電気代やガス代が高くなったのも、円が異常に弱いからだ。ドル建てで取引される原油価格が下落しても、日本で燃料代の上昇が止まらなかったのは、円が弱すぎるからだ。
消費者物価で比べた場合のドル円の理論値は1ドル=108円、以前は卸売物価と呼んでいた企業物価で比べた場合の理論値は1ドル=93円なのだ。ドル円市場は市場であって理論値が「正しい」わけでもないものの、ガソリン価格をさらに3割程度は安くできる可能性を有している。
■「学習能力のない国」の通貨は弱くなる
物価高対策と称して、消費者が高いまま買えてしまう状況を支援し続け、「政府によって需要を生み出すこと自体が責任とか言っていては、止めどない国債増発と、それによる長期金利を意図的に抑え込むために中央銀行の独立性を蔑ろにする、という悪夢が蘇る。
そうなれば、外国から学習能力のない国家だと判定されると円が暴落し、かえって物価が高くなってしまう。従来型の物価高対策は、やればやるだけ悪性の物価上昇を引き起こしてしまうのだ。
物価高対策として、ガソリン税と軽油取引税の暫定税率を廃止することは、確かに店頭価格の引下げになるので統計的に物価を下げる。しかし、それは文字通り「暫定」のものを元に戻すという約束を果たすことに意義があり、ガソリン価格を本来的に下げることではない。
■弱い通貨より強い通貨のほうが絶対に良い
ドル円レートが示していることは、円がドルに対して安いか高いかではなく、弱いか強いかである。
所得が高いとはどういうことか? 自分が労働によって得た所得で、他人が作った財やサービスを簡単に買えるということだ。人よりも賃金が高いということは、自分の1日の労働が他人の労働よりも優位であり、結果的に少しの労働で他人の作った多くの財やサービスと交換できるということだ。
自分たちの国の通貨が強いということは、他国が作った商品やサービスを簡単に買えるということだ。この「強さ」こそ、実力ある成熟国の証ししであり、自国通貨が弱いことを売りにするのは、後発国の思考だ。
幸いにして、ここ35年間、バブル経済が崩壊した後も、無駄に物価が上昇することなく、通貨価値が維持されてきた。景気が良すぎて物価が上昇し、賃金も上昇する「良い物価上昇」ならばいい。しかし、現在のように、賃金も上がらない中での「悪い物価上昇」でメリットがあるのは、借金まみれの国家財政だけだ。物価が上昇してくれれば、国債残高が実質的に目減りするからだ。
これを巷ではインフレ税と呼ぶのだが、「税」ばかり支払っていては、個人も企業も疲弊してしまう。
■「育てる歳出」なら、積極財政は支持できる
せっかく、高市氏が輝かしく総理になったのだから、アベノミクスとは毛色の違う経済政策を期待したい。
食料の確保も難しくなって、最終的にはハイパーインフレーションが起きる。それは、もはや要支援国家を意味する。
サナエノミクスを成功させるために必要条件は、市場原理を守ることに尽きる。急激な歳出の削減も危険なので、財政出動の質を向上させ、間違っても中央銀行に長期国債を買い増しさせるような愚策だけは避けなければならない。
経済対策がどうも予算規模ありきになっている点も気がかりだ。
規模ではなく質に焦点を当てる経済政策とはどのようなものか。自立しないビジネスを生む不透明な補助金は一切カットする一方、技術革新に貢献する知的財産には報酬を与え、画期的な新商品やサービスの実現を本気で目指すのなら積極財政は支持できるし、それが「責任ある」財政というものだ。
予算という考え方は、消化するために何を買うかという発想を招いてしまう。ただの予算枠の設定で満足し、古くなった技術にいつまでも予算を付けていても、負担を後世に押し付けるだけだ。
積極財政自体を重視してきた旧来型のただの予算枠の増大では、金融市場が納得せず、1ドル=250円の世界が首を出して待っている。
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近廣 昌志(ちかひろ・まさし)
中央大学准教授
1978年広島県生まれ。
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(中央大学准教授 近廣 昌志)

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