高市政権が決定した122兆円の2026年度予算案をめぐり、新聞やテレビは「過去最大」「バラマキ」と報じた。本当にそうなのか。
ジャーナリストの須田慎一郎さんは「テレビや新聞は額面だけをとらえて財政悪化の懸念を伝えているが、事実を捻じ曲げた報道だと言わざるを得ない。片山さつき財務大臣は名目GDP対比で予算を見ると、過去30年間の中で12番目に少ない水準だと説明している。主要メディアはほとんど伝えなかった」という――。
※本稿は、須田慎一郎氏のYouTubeチャンネル「ただいま取材中」の一部を再編集したものです。
■経団連に衝撃を与えた片山発言
昨年末に片山さつき財務大臣が、「大ホームラン」と言ってもいい本質を突く発言を行った。しかし、不思議なことに、新聞やテレビといったオールドメディアはこの件について全く報じておらず、伝えようとする姿勢も見られない。2026年の日本経済の行方を考えるうえでも重要な成果であるため、本稿で読者の皆さんにお知らせしたい。
一体何が行われたのかというと、昨年12月25日、日本経済団体連合会(経団連)の第14回審議員会が開催された。この審議員会は、経団連において非常に重要な組織である。日本の財界の総本山である経団連自身も、経済、産業、社会、環境、科学技術に関する幅広い事項を審議する重要な機関であると位置づけている。
この審議員会は最大70名の審議員から構成され、経団連会長の諮問に応じて活動を行う組織である。この日の審議員会には、各メディアも取材に訪れていた。

当日は、植田和男日銀総裁や高市早苗総理が出席した。日銀総裁による講演や、高市総理が経団連に対して賃上げを要請したことについては、メディアでも少なからず報じられている。この審議委員会において、片山さつき財務大臣もスピーチを行ったが、その内容が経団連に極めて大きな衝撃を与えたと思われる。
一体どのようなスピーチであったのか。片山氏は経団連の会員企業に対し、現在編成作業が行われている「2026年度当初予算」について次のように言及した。
■名目GDP比で見れば抑制的
世間では122兆円という予算規模ばかりが注目されているが、名目GDP対比で投資予算を見ると、過去30年間の中で12番目に少ない水準に留まっている。122兆円という数字を見て「過去最大だ」と騒ぎ立てる向きもあるが、結局のところ名目GDP比で見れば、決して大騒ぎするような大型予算ではない。片山氏はそのように指摘したのである。
しかし、メディアはこの事実を報じない。昨年末、12月26日付の朝日新聞朝刊では「当初予算122兆円」と一面トップで大きく扱われているが、まさに片山氏が「規模ばかりに目を向けるな」と釘を刺した通りの報じ方となっている。
記事は「税収最大83兆円見込む」「借金残高 過去最大に」と見出しを打ち、歳出総額が過去最大であることを棒グラフで示している。これを見ると、過去最大に膨らんだ予算規模によって日本の財政が破綻するのではないか、というトーンで書かれていることがわかる。

朝日新聞は、25日の経団連審議委員会に取材に行かなかったのだろうか。
もし行っていなかったとすればあまりにお粗末であり、行っていた上でこの記事を書いたのであれば、予算を所管する財務大臣の発言を全く理解していないことになる。これは理解力の欠如か、あるいは意図的に悪意を持って事実をねじ曲げた報道であると言わざるを得ない。
■“緊縮”石破政権の置き土産
実態としては、むしろ抑制された予算であることは間違いない。
予算規模の数字そのものは過去最大かもしれないが、対GDP比で見れば、当初予算としてさらに積み増してもおかしくない状況である。高市早苗総理としても、本来はもっと予算額を積み上げたかったはずである。しかし、この2026年度当初予算は、昨年6月に石破政権下で策定された「骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)」に縛られている。そのため、名目GDP対比で十分な金額を積み上げたくとも、この方針による制約で叶わなかったというのが、政権側の内心の忸怩たる思いであろう。
それにもかかわらず、朝日新聞を中心とするオールドメディアは、予算規模が非常に大きく膨らんでいることばかりを騒ぎ立てている。こうした報道が出る前に、片山財務大臣はあえて財界の総本山である経団連の重要な会合において釘を刺したのである。
これにより、経団連側から122兆円という財政規模を問題視されることはなくなった。あらかじめ火を消した上で、今回の当初予算が決して十分な金額ではないことを論理的に説明した点は、まさに「大ホームラン」であったと評価できる。

しかし、重要なのはここからである。
■オールドメディアが片山発言を報道しないワケ
片山財務大臣がこのような発言をしていることが、財務省OB、特に事務次官経験者からの怒りを買っている。
例えば、2021年11月の月刊誌『文藝春秋』に「財務次官、モノ申す『このままでは国家財政は破綻する』」と題した寄稿を行った矢野康治元事務次官などがその代表である。当時、現職の事務次官がこのような主張を展開すること自体驚くべきことだったが、現在、矢野氏を中心とした財務省OBたちは、片山財務大臣に対して激怒しているという情報が漏れ伝わっている。
多くのオールドメディアは、こうした緊縮財政路線に固執する守旧派や抵抗勢力から頻繁にレクチャーを受けている。例えば『モーニングショー』のメインコメンテーターなども矢野氏と非常に親密な関係にあると聞き及んでいるが、そうした繋がりを通じて「緊縮財政を行わなければ国家財政が破綻する」という論調が作り上げられているのである。
■ウソ報道の中身
筆者の取材で明らかなウソが判明した報道もあった。
それは12月12日に時事通信が配信した記事だ。タイトルは「首相官邸、リフレ派にお灸すえた? 『積極財政で円高』の説に疑問抱く」というものである。その内容は以下の通りである。
「植田日銀総裁が12月1日の講演で追加利上げの可能性をほのめかしてから、不思議なことに『リフレ派』が鳴りを潜めている。高市政権の発足で完全復活し、早期利上げは認められないとの主張を続けてきたリフレ派だが、ここにきてのトーンダウン。
政府部内では『どうやら首相官邸におきゅうをすえられたらしい』との解説が流れている」
高市政権は「責任ある積極財政」の象徴として、経済財政諮問会議の民間議員に若田部昌澄・早稲田大学教授(前日銀副総裁)と、永濱利廣・第一生命経済研究所首席エコノミストを指名した。また、経済政策の新たな司令塔と位置づける「日本成長戦略会議」にも、元日本銀行政策委員会審議委員の片岡剛士氏と、クレディ・アグリコル証券の会田卓司チーフエコノミストを招聘した。
彼らは金融緩和と財政出動で成長を目指すリフレ派の中心人物であり、自民党総裁を目指してきた高市氏が主催する勉強会の常連でもあった。
高市氏が総裁選に勝利した後、若田部氏は時事通信のインタビューにおいて「今が利上げをする環境かと言えば少し違う」と日銀を牽制した。さらに、11月12日、初回の経済財政諮問会議では、基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化目標について「デフレ時代の歴史的産物であり、もはや歴史的使命を終えた」と発言し、財務省を硬化させた。
記事は続けて、次のように断じている。「リフレ派による利上げ阻止の動きが円安ドル高を再燃させ、積極財政への後押しが金利上昇を加速させる一因となった」というのである。
市場の判断に驚いた高市首相は、財務省や日銀からの情報に加え、新聞や雑誌に掲載されるエコノミストや経済学者のコメントを逐一取り寄せ、詳細に読み比べたという。政府関係者の証言によれば、その結果、高市首相は「これまで聞かされていた話と全然違う」と、リフレ派の言い分に疑問を抱き始めたとのことである。
記事はさらに政府関係者の言葉として、「首相の不信感を察知した内閣府幹部が、リフレ派の複数のメンバーを呼び、高市政権のためにも行き過ぎた発言を慎むよう要請したようだ」と報じている。
■「そのような事実は一切ない」
果たしてそのような事実があるのか。
私は、名前の挙がった4氏に直接取材を試みた。
内閣府幹部から「お灸を据えられた」という事実があるのか、一人一人に確認したところ、全員から「そのような事実は一切ない」という回答を得た。
例えば若田部氏は、「内閣府幹部といえば事務次官だろうが、次官からお灸を据えられた事実は一切ない。それ以下の役職の人間から何かを言われたり、批判を受けたりした経緯も一切ない」と断言している。
これは「ためにする記事(特定の目的を持って捏造された記事)」と呼んで差し支えないだろう。つまり、高市早苗総理が積極財政派の言説に疑問を抱き始め、リフレ派がトーンダウンしている、あるいは総理自身がリフレ派を信用していないという憶測を、永田町や霞が関に蔓延させようとする意図がうかがえる。
■「責任ある積極財政」は揺るがない
繰り返すが、時事通信が報じた「お灸を据えた」という事実は存在しない。これが第1点である。
そして第2点として、2026年度当初予算の122兆円についてである。高市首相は記者会見において、「これは決してばらまきではなく、規模ありきの予算でもない」と述べている。122兆円という総額が問題視されているが、名目GDP比で見れば決して大きくはなく、過去30年間の推移と比較してもさほど大きな水準ではないと説明した。
これこそが、まさに積極財政派の方々が一貫して主張してきた内容である。
加えて、首相側近に話を聞いても、積極財政派に対する信頼にはいささかの揺らぎもないようである。
高市総理は、2026年も「責任ある積極財政」を継続していく方針を明確にしている。もちろん金融マーケットの動向には注意を払っているが、来年以降もその路線を継続することは明言しており、積極財政派の主張に対して疑問を持っている事実は一切ないとの回答であった。
これらの点から考えると、時事通信の記事にある「内閣府幹部がお灸を据えた」という政府関係者の証言は、極めて疑わしい。この「政府関係者」が誰なのかは不明だが、場合によっては意図的に誤った情報を記者に流した可能性もある。
■今後もファクトチェックを続けていく
私は、記事中で名前を出された4名に対し、記者から裏取りの取材があったのかを確認したが、全員が「取材は一切なかった」と答えている。
記者から確認の電話一本あれば、事実ではないことが即座に判明したはずである。なぜそれをしなかったのか。裏を取ってしまうと記事そのものが成立しなくなるため、あえて確認を避けたのではないかと推測せざるを得ない。そこに「世論誘導」という特別な意図を感じる。
政府関係者から伝えられた内容をそのまま配信し、特定の方向に世論を向けることが目的だったのではないか。「ガセ」であると判明すれば配信できなくなるため、あえて取材を控えたとも見える。
今後も、オールドメディアからは「誤報」とも言えるような、特別な意図を持った情報発信が続くだろう。筆者としては、それらの一つ一つを検証し、ファクトチェックした結果を皆さんに伝えていきたいと考えている。

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須田 慎一郎(すだ・しんいちろう)

ジャーナリスト

1961年東京生まれ。日本大学経済学部を卒業後、金融専門紙、経済誌記者などを経てフリージャーナリストとなる。民主党、自民党、財務省、金融庁、日本銀行、メガバンク、法務検察、警察など政官財を網羅する豊富な人脈を駆使した取材活動を続けている。週刊誌、経済誌への寄稿の他、TV「サンデー!スクランブル」、「ワイド!スクランブル」、「たかじんのそこまで言って委員会」など、YouTubeチャンネル「別冊!ニューソク通信」「真相深入り! 虎ノ門ニュース」など、多方面に活躍。『ブラックマネー 「20兆円闇経済」が日本を蝕む』(新潮文庫)、『内需衰退 百貨店、総合スーパー、ファミレスが日本から消え去る日』(扶桑社)、『サラ金殲滅』(宝島社)など著書多数。

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(ジャーナリスト 須田 慎一郎)
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