※本稿は、須田慎一郎氏のYouTubeチャンネル「ただいま取材中」の一部を再編集したものです。
■ベネズエラ攻撃は「パーフェクトゲーム」
現地時間1月3日、アメリカ軍はベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領夫妻の身柄を拘束した。
今回の軍事作戦については、国際法違反ではないかという指摘も出ている。しかし、ベネズエラ攻撃後、アメリカ大使館関係者と連絡がついた際、彼らからは「パーフェクトゲームである」という言葉が発せられた。この一言が、今回の作戦に対するアメリカ側の認識のすべてを物語っているといえる。
1月5日、身柄を拘束されたマドゥロ大統領夫妻はニューヨーク州の連邦裁判所に初出廷した。いくつかの罪状で起訴されたが、マドゥロ氏はそのすべてにおいて無罪を主張している。加えて、自身は現在もベネズエラの大統領であり、今回の身柄拘束は不当であると訴えた。
次回公判は3月17日に開かれる予定である。いずれにせよ、アメリカによる電撃的な作戦によって、マドゥロ大統領夫妻の身柄が拘束されるという異例の事態となっている。
今回の電撃的な動きにおいて、最も衝撃を受けたのはベネズエラ側であることは間違いないが、それと同等のショックを受けているのが中国である。本日話を聞いたアメリカ大使館関係者も「中国」というキーワードに強く反応しており、「中国側はさぞ驚いたことだろう」と述べていた。
■完全に足元をすくわれた中国
すでにベネズエラ国内のメディアでも報じられているが、マドゥロ大統領が拘束される前日の1月2日、習近平国家主席の指示により、中国の訪問団が首都カラカスを訪れていた。
一行は邱小琪(きゅう・しょうき)ラテンアメリカ問題担当特別代表らで構成されており、マドゥロ大統領と親密な様子で面談を行っていたという。これはベネズエラのテレビ放送が伝えている事実である。
この前日の動きから推察されるのは、中国側がアメリカの軍事作戦に関する情報を一切キャッチできていなかったという事実だ。それほどまでにアメリカ軍の行動は隠密に進められていたのである。
さらに、ベネズエラと中国の関係は極めて親密かつ深い。ベネズエラは世界最大の石油埋蔵量を誇る国として知られている。近年は設備の劣化により原油生産量が激減していたものの、生産された原油の8割以上が中国へ輸出されていた。この点からも、ベネズエラ経済の柱である石油産業がいかに中国に依存し、支えられていたかが浮き彫りとなっている。
■「キューバ危機」と同じ構造
もう一点、今後の公判で焦点となるのが麻薬問題である。
アメリカ側の主張によれば、ベネズエラはアメリカに密輸されている「コカイン」をはじめとする麻薬の主要な中継地と位置づけられている。ベネズエラを経由して流入する麻薬によって、多くのアメリカ国民が深刻な被害を受けてきた。アメリカ側にとって、今回の件は単なる政治的対立ではなく、一種の「麻薬戦争」という位置付けなのである。
今回起訴された容疑には、麻薬に関連する事実や、アメリカへの密輸に対するマドゥロ大統領の関与が含まれている。
アメリカ国務省の指摘によれば、マドゥロ大統領は「太陽のカルテル(Cartel of the Suns)」と呼ばれるベネズエラの麻薬マフィア組織のボスだったという。アメリカ当局はこの「太陽のカルテル」を外国テロ組織に指定しており、マドゥロ大統領はその組織を実質的に指揮する人物であると位置づけてきた。
したがって、今回の身柄拘束は、麻薬撲滅戦争の一環として行われたという立て付けになっているのである。
麻薬問題が表面上の理由であるとするならば、実態としては、アメリカの「裏庭」と称されるラテンアメリカにおいて、ベネズエラが中国との結びつきを強め、その影響力下に入っていたことが背景にある。
この状況は、かつて旧ソ連の影響下にあったキューバに対しアメリカが圧力を強めた「キューバ危機」を彷彿とさせる。今回の軍事作戦には、南米における中国の影響力拡大を阻止するという戦略的意図が見え隠れする。
■稼働しなかった「中国製防空網」
また、冒頭で述べた「パーフェクトゲーム」という言葉に関連して、ベネズエラは「南米最強」と称される防空網を誇っていた点に注目すべきである。通常、アメリカの敵対国にとって最大の脅威は、ステルス戦闘機「F-22」や「F-35」である。
F-22が主に制空戦闘を担うのに対し、F-35は高度な情報収集能力とシステム制御機能を備え、「空飛ぶ作戦室」とも称されるなど、両機の役割は大きく異なる。しかし、いずれも高いステルス性を備えている点は共通している。ベネズエラ側は、これらのステルス機を自国領土に近づけることなく容易に撃墜できると豪語し、それを自国の軍事力の象徴としていたのである。
ベネズエラが「南米最強」と自負してきた防空網は、主に2つの要素によって構成されている。
1つは、中国製の高度なレーダーシステムである。具体的には、中国電子科学技術集団(CETC)が製造した3次元監視レーダーや、いわゆる「ステルスキラー」と称されるレーダー網が導入されていた。
もう1つは、ロシア製の対空ミサイルシステムである。中国製のレーダーによって、ステルス機を含むアメリカ軍の空からの接近をいち早く察知し、それをロシア製のミサイル網によって迎撃する。この中露の技術を組み合わせた防衛体制こそが、ベネズエラが誇る防空システムの根幹であった。
しかし、今回の軍事作戦において、この防空網は全く稼働しなかったのである。
作戦開始からわずか数分で、ベネズエラのレーダーシステムはすべて無力化され、無用の長物と化した。
■疑問符が付いた「中国本土の防衛力」
以前から、このレーダー網の稼働率の低さは指摘されていた。
その背景には、ベネズエラ軍内部の腐敗や、マドゥロ大統領に対するベネズエラ軍の忠誠心の低さといった組織的な問題があったのかもしれない。
しかし、ベネズエラが長年かけて構築してきたこの高価な防空システムが、実戦においてこれほどまでにあっけなく沈黙した事実は重い。ハードウェアとしての技術力は高くとも、運用ソフトや実戦での有効性において、アメリカ軍の圧倒的な電子戦能力(EW)の前には無力であったと言わざるを得ない。
さらに、軍の腐敗という観点から見れば、同様の問題は中国の人民解放軍にも共通しているのではないか。ベネズエラ軍に見られた組織的な脆弱性が、中国軍においても同様のレベルで存在する可能性は否定できないだろう。
近年、習近平国家主席は「腐敗撲滅」を掲げ、軍内部に対して度重なる粛清を行ってきた。しかし、そのプロセスが完了したという報告はいまだに聞こえてこない。軍の腐敗という点において、中国人民解放軍はベネズエラ軍と同列の課題を抱えているのではないか。
たとえ非常に優秀で精度の高い防空システムを保有していたとしても、アメリカ軍の圧倒的な電子戦や攻撃の前では、それらが容易に無力化されてしまう。今回の件は、アメリカと敵対する国々にとって極めて大きな課題を突きつけることとなった。
■戦略見直しを迫られる中国と親中国家
強大な経済力を背景に勢いづく中国と手を結ぶことで、アメリカの強大な軍事力に対抗しようとする国々が存在したことは事実である。しかし、巨額の資金を投じて構築したシステムが実戦で全く役に立たないという実態が、今回のアメリカ軍の作戦によって露呈してしまった。
中国製防空システムの有効性が疑問視され、その権威は地に落ちたといっても過言ではない。稼働率の低さという個別の事情を差し引いても、公表されているスペック通りの効果を全く発揮できなかった事実は、信頼性の著しい低下を招くだろう。
中国共産党、および「台湾統一」という野望を抱く中国人民解放軍にとって、今回の事態は戦略の抜本的な見直しを迫るものになるのではないか。果たして自らの計画をスムーズに進めることができるのか、その展望には大きな疑問符が打たれたといえる。
今回の一件は、アメリカ軍の圧倒的な実力と恐ろしさを中国に対し改めて見せつける結果となった。
■影響は中東の大国イランにも波及
今後、ベネズエラはアメリカの管理下に置かれることになるだろう。これまでの反米路線から親米へと切り替わる可能性は極めて高い。
さらに、この動きに連動するかのように、翌1月4日にはイギリスの権威ある高級紙『タイムズ(The Times)』が、驚くべきニュースを報じた。
その報道の内容とは、イランの最高指導者であり軍の最高司令官でもあるハメネイ師を、ロシアへ脱出させる計画があるというものである。このニュースは世界的に大きな波紋を広げている。タイムズ紙は情報源を「情報機関関係者」としており詳細は伏せられているが、同紙が報じる以上、かなりの確信を得た裏付けのある情報と推察される。
現在、イランで何が起きているのか。
日本の新聞やテレビは、この件についてまったくと言っていいほど報じていない。それにはやむを得ない事情がある。現在、イラン国内におけるジャーナリズム活動は著しく制限されており、移動の自由すらままならない。イラン当局にとって不都合な取材や報道を行えば、逮捕、あるいは嫌がらせを受けるといった事態が常態化している。
自由な取材活動が封じられ、イラン発の情報が著しく制限されていることが、大手メディアがこの件を沈黙せざるを得ない要因となっている。
イラン国内の窮状については、大手メディアが沈黙する一方で、ネット上の情報や人権活動家団体による独自の発信からその実態が垣間見える。
■イランで激しさを増す反政府活動
現在、イラン国内は凄まじい経済的混乱に陥っている。
インフレ率は42%から52%に達するとされ、猛烈な物価高が国民を苦しめている。経済活動がほぼ停止し、国民の収入が途絶える中で、なぜこれほどの物価高騰が起きているのか。その最大の要因は、イランの通貨「リアル」の大暴落にある。
リアルの対ドル価値は、15年前と比較して44分の1にまで急落した。この通貨安によって輸入品の価格が跳ね上がり、狂乱的な物価高騰を招いているのである。
こうした状況を受けて、国民の不満はついに爆発し、イラン全土で激しい暴動や抗議活動が頻発している。アメリカに拠点を置くイランの人権団体が公表したデータによると、抗議活動はイラン全31州のうち25州、計170箇所にまで及んでいるという。
さらに、これらの抗議活動は激しい反政府活動へと発展している。先日入ったニュースによれば、イラン西部の都市ボルジェルドにある、イラン軍の精鋭部隊「革命防衛隊」の本部が反政府勢力による攻撃を受けた。この拠点は間もなく制圧されるのではないかという情報も飛び込んでいる。
経済問題に端を発した抗議活動は、いまや現体制を覆そうとする本格的な反政府運動へと変貌を遂げた。現体制への批判がかつてないほど高まっており、こうした情勢の悪化が引き金となって、冒頭で述べたイギリス『タイムズ』誌の「ハメネイ師のロシア脱出計画」という報道に繋がっているのである。
■中国のエネルギー戦略に暗雲
ハメネイ師をロシアへ脱出させる計画が存在するという事実は、中東の地政学的な状況を一変させかねない極めて驚くべき事態である。
イランは、ロシアおよび中国と同盟関係にあり、非常に親密な関係を築いている。特にロシアに対しては、ウクライナ侵攻の継続を軍事面で強力に支援してきた。イラン製のドローン兵器を積極的に供給することで、ロシア軍の作戦遂行能力を支えているという実態がある。
イランは豊富な石油資源を背景に、中国へエネルギーを供給することで経済的な結びつきを深めてきた。中国にとって、ベネズエラがアメリカの管理下に入り石油供給が途絶える事態は大きな打撃である。そのため、中国は代替措置としてイランとの関係強化を模索していた。
しかし、その頼みの綱であるイランまでもが、今まさに体制の根幹から揺らいでいる。イスラム指導者が長年牛耳ってきた体制が崩壊の危機に瀕している事実は、中国のエネルギー戦略にさらなる暗雲を投げかけているのである。
■かつてない苦境に立たされている中国
このイラン国内で激化している反政府運動の背後には、アメリカやイギリスの存在がある。体制転換が実現すれば、イランと中国の関係は事実上遮断されることになるだろう。
反政府勢力を支援する米英の狙いも、まさにそこにある。イランが親米政権へと転じれば、中国との協力関係を断ち切ることができるからである。
中国にとっては、ベネズエラに続き、中東における戦略的拠点であるイランまでも失うという、極めて憂慮すべき事態に追い込まれている。エネルギー供給網の喪失と地政学的な影響力の減退という、かつてない苦境に立たされていると言えるのである。
■トランプ大統領はイラン介入を示唆
ベネズエラ情勢とイラン情勢は、互いに連動していると捉えるべきである。ベネズエラにおいてマドゥロ大統領が排除された事実は、イラン国内の活動家や国民にも大きな影響を与えている。
現在イランでは、最高指導者であり軍最高司令官でもあるハメネイ師、およびイスラム革命勢力の排除を望む声が多数噴出しており、その実現のためにアメリカの助力を求める情報が拡散している。アメリカ側もこうした状況を強く意識しており、トランプ大統領は「いつでも介入できる準備は整っている」とのメッセージを発信し、牽制を強めている。
実際にアメリカがイランの混乱へ直接軍事介入に踏み切るかどうかは、慎重な議論が必要な別次元の問題ではある。しかし、米英という大国の後ろ盾を得たことで、イランの反政府活動がさらに勢いを増しているのは紛れもない事実である。
■今後のイラン情勢に注目
イランの反政府活動を後押しするもう一つの重要な要素が、イスラエルの存在である。
現在、イスラエル国内のロシア大使館関係者に対し、本国への帰国指示が出されたとの情報がある。これはイスラエルに対する軍事的リスクや、イランとの直接的な衝突を懸念したものではない。
実態は、イラン国内の混乱に拍車がかかりロシアが対応に窮する中で、イスラエル国内に潜伏するロシア工作員(スパイ)への摘発の動きが強まっていることにある。この動きを察知したロシア側が、事態の悪化を防ぐために撤収を命じたのである。
ここで帰国指示の対象となっている「大使館関係者」とは、通常の職業外交官ではない。実質的には情報機関に属する諜報員たちであり、彼らに対して緊急の退避命令が出されたという状況である。
イラン情勢のみならず、イスラエル情勢を含めた中東全域を注視する必要がある。イランはこれまで、レバノンやシリアなどに展開する反イスラエル武装勢力の主要な資金源となってきた。イスラエルにとって、イランは「不倶戴天の敵」と呼ぶべき存在である。
ハメネイ師は、最高指導者であると同時に軍の最高司令官というポストを兼ねている。反イスラエル勢力への支援は軍事活動の一環として行われてきたため、ハメネイ師自身の存在が現在、極めて大きなリスクにさらされている。イスラエルが今後どのようなアクションを起こすかが焦点となるだろう。
加えて、イスラエル側の情報機関や軍によれば、イランはトランプ大統領の暗殺未遂事件にも関与しているとされる。こうした背景を踏まえると、アメリカが今回のイラン問題に対して、かつてないほど本気で臨んでくることは間違いない。
ベネズエラ以上に世界へ甚大なインパクトをもたらしかねないのが、このイラン情勢である。残念ながら、現時点では日本のテレビや新聞はこの事態をほとんど報じていない。
しかし、ネットメディアなどを中心に、イランを巡る情報には細心の注意を払っていただきたい。現在、イラン情勢は極めて緊迫しており、体制が転換する可能性は非常に高い状況にある。
この歴史的な転換点に注目すべきであることを強調し、本稿を終えたいと思う。
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須田 慎一郎(すだ・しんいちろう)
ジャーナリスト
1961年東京生まれ。日本大学経済学部を卒業後、金融専門紙、経済誌記者などを経てフリージャーナリストとなる。民主党、自民党、財務省、金融庁、日本銀行、メガバンク、法務検察、警察など政官財を網羅する豊富な人脈を駆使した取材活動を続けている。週刊誌、経済誌への寄稿の他、TV「サンデー!スクランブル」、「ワイド!スクランブル」、「たかじんのそこまで言って委員会」など、YouTubeチャンネル「別冊!ニューソク通信」「真相深入り! 虎ノ門ニュース」など、多方面に活躍。『ブラックマネー 「20兆円闇経済」が日本を蝕む』(新潮文庫)、『内需衰退 百貨店、総合スーパー、ファミレスが日本から消え去る日』(扶桑社)、『サラ金殲滅』(宝島社)など著書多数。
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(ジャーナリスト 須田 慎一郎)

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