■支持率が低迷するトランプ政権
2026年11月には米国で中間選挙が実施される予定であるが、現時点ではトランプ大統領を支える共和党にとって厳しい選挙戦となる可能性が高い。
最大の理由は、トランプ大統領自身の支持率が低迷している点にある。
各種世論調査をみると、支持率はすでに「トランプ1.0」期の平均水準まで低下しており、特に経済・インフレ政策に対する評価が顕著に悪化している(図表1)。
皮肉なことに、トランプ氏は前回大統領選で「インフレ」を最大の争点とし、バイデン政権の物価高対応を批判することで勝利を収めた。
しかし現在では、同じインフレ、すなわち米国国民にとって「手ごろな価格(アフォーダビリティ)」が実現できていないことが政権への逆風となり、トランプ氏自身を追い詰めるキーワードになっている。インフレ率を勘案した、米国の労働者一人一人の賃金(実質賃金)については、バイデン前政権時からの上昇ペースとさして変わらないだけでなく、足元では雇用悪化を背景に足踏みすらしている(図表2)。
この点は、2025年11月に実施された地方選挙の結果にも端的に表れた。生活必需品価格や住宅費の高止まりに対する国民の不満を背景に、トランプ大統領を支持する共和党候補は民主党に全敗する結果となった。
地方選挙は国政選挙に比べて争点が限定されやすいものの、「生活が苦しい」という実感が投票行動を左右した点は、中間選挙を展望するうえで重い示唆を含んでいる。
■トランプが恐れる「弾劾リスク」
経済以外の分野における情勢変化も、トランプ政権が支持率低迷から脱却できない要因となっている。とりわけ見逃せないのが、トランプ氏の性的人身売買との関連疑惑や、イスラエル支援を含む海外介入姿勢に対する批判である。
これらは、従来「内向き志向」を強めてきたMAGA(Make America Great Again)支持層の一部に動揺を生じさせ、連合内部の分裂の兆しも浮上した。
一方で、ベネズエラ軍事攻撃に代表される、米国の国土安全保障や西半球重視の姿勢のように、判断が難しいテーマも存在する。ただし、それが支持層の結束を強めるのか、逆に外交介入への反発を通じて分裂を拡大させるのかは、現時点では見極めが難しく、引き続き注視が必要である。

こうした状況を踏まえると、現状のままでは2026年中間選挙で下院を民主党に奪還される可能性は相応に大きいとみられる。上院については、改選議席の構成から共和党が優勢とみられるものの、下院は歴史的にも「政権与党が負けやすい」傾向にある。
仮に共和党が下院を失えば、2027年以降の政策運営は大きく制約される。加えて、民主党主導でトランプ大統領に対する弾劾の動きが再燃する可能性も否定できない。トランプ氏自身も、中間選挙で敗北すれば「弾劾される」と公言し、共和党議員に結束を呼びかけている。
もっとも、過去の経験を踏まえれば、仮に弾劾訴追に至っても、最終的に失職を免れる可能性は高いとの見方も強い。ただし、弾劾論議が再燃するだけでも政権運営の不確実性は高まり、政治的コストは無視できない。
■中間選挙に向けて景気浮揚に躍起
こうした政治的逆風を和らげるため、トランプ政権は米国国民の生活実感改善を軸とした景気浮揚策を重視するとみられる(図表3)。
まず、2025年に成立したトランプ減税「1つの大きく美しい法案(One Big Beautiful Bill Act、OBBBA)」の効果が2026年にかけて本格化し、当社の試算では実質GDP成長率を0.3~0.5%ポイント程度押し上げる可能性がある。ただし、支持率回復を図るには、これだけでは力不足との判断が強いだろう。
中間選挙対策として打ち出されつつあるのが、金利の引き下げ策である。トランプ氏自身が金利動向に大きな影響を受ける不動産業を生業としてきただけあり、金利低下が景気を押し上げる効果を強く意識していると考えられる。

実際、トランプ氏は大統領就任以来、ことあるごとにFRBへの利下げ圧力を強めてきた。2026年5月に就任予定の次期FRB議長候補は、トランプ氏への忠実度がFRB議長への指名要件とも言われている。現在のFRBが示すものより、利下げペースが加速する可能性が十分にある。
■生活コストを下げるための政策調整も
トランプ氏は、これ以外にも、住宅ローン金利引き下げを狙った住宅ローン債券の政府系企業への購入指示、クレジットカード金利に1年間の10%上限設定を要求など、各種の金利引き下げのために異例の政策介入も辞さない姿勢を示している。
また、トランプ関税に関連する施策で、国民不満を和らげることも示唆している。具体的には、関税収入を原資として、米国の勤労世帯に2000ドルの小切手を支給する意向などを示した。ただし、現金給付は議会との調整が必要でハードルが高い。
他方で、トランプ関税自体を修正して、物価高への不満を和らげる動きも見せる。2025年11月には、相互関税の対象から、牛肉やバナナ、オレンジ、ココア、コーヒーなど200品目ほど、約400億ドル相当の輸入食品を除外した。11月上旬の地方選で共和党が全敗した直後でもあり、国民不満を認識した機敏な政策修正といえる。
さらに、トランプ関税に関する司法判断を利用する可能性もある。相互関税やフェンタニル関税などは、IEEPA(国際緊急経済権限法)を根拠としており、その合憲性が最高裁判所で争われている。

仮に違憲となった場合でも、トランプ政権は他の法律を根拠として関税政策を維持していく構えをみせるが、司法判断に責任を押し付けて関税率を引き下げる可能性もゼロではない。トランプ関税を巡る通商交渉で一定の成果を上げた現在、生活コストを下げるための調整する手段として現実的な選択肢といえる。
■先送りされるインフレリスク
これらの政策の実施が進めば、金利低下、株価上昇、実質所得の改善を通じて、個人消費や住宅市場など内需が押し上げられる可能性が高い。
株式市場にとっても、①金利低下によるハイテク関連株の評価改善、②金利低下による不動産関連株の押し上げ、③関税コスト低下による内需・消費関連株の見直し買いといった追い風が想定される。
まず、①ハイテク株については、AI関連を中心に中長期の成長期待は依然として強いものの、足元では高いバリュエーションや投資回収への警戒感から調整の兆しがみられている。もっとも、ハイテク株は将来のフリーキャッシュフローを基に評価されやすいため、金利低下は割引率の低下を通じて理論株価を押し上げる効果が大きい。調整局面にあるからこそ、金融緩和が進めば評価修正を伴う見直し買いが入りやすい点は重要である。
次に、②不動産関連株については、これまで高金利を背景に住宅市場が低迷し、需要の抑制が株価の重しとなってきた。しかし、金利が低下すれば住宅ローン金利も下がり、住宅取得環境は徐々に改善に向かう。住宅投資は裾野が広く、建設、建材、関連サービスへ波及効果をもたらすため、出遅れてきた不動産関連株の回復余地は相対的に大きい。
■米国経済の足元は揺らいでいる
さらに、③関税や物価高への警戒から売られてきた内需・消費関連株については、関税コストの低下や適用除外拡大が進めば収益環境が改善し、見直し買いが進む可能性がある。これまで不透明感の中で出遅れてきた分、政策転換が確認されれば株価の反応は相対的に大きくなるだろう。

もっとも、景気刺激策が行き過ぎれば、インフレ率の下げ渋りや再燃というリスクが顕在化する。足元の失業率は依然として低水準にある一方、景気が過熱に転じれば、賃金上昇と物価上昇が再び強まる可能性がある。FRB内部でも、インフレ重視か雇用重視かで意見が割れており、米国経済は極めて微妙な均衡点にある。
加えて、トランプ大統領の介入によってFRBの独立性が弱まれば、中央銀行への信認低下を通じて、インフレ抑制が一段と難しくなる恐れがある。「中間選挙の後」を見据えると、想定外の利上げ再開や金利上昇が、株価や景気を下押しするシナリオも否定できない。
中間選挙を有利に進めるための政策が、将来的には米国経済への「しっぺ返し」となるリスクには、十分な注意が必要であろう。

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高橋 尚太郎(たかはし・しょうたろう)

伊藤忠総研上席主任研究員

2005年日本銀行入行、国際経済調査や金融市場調査等に従事。2017年有限責任監査法人トーマツ入社、マクロ経済分析サービスやリスク管理アドバイザリー等のプロジェクトに従事。2019年伊藤忠商事入社後、伊藤忠総研へ出向。東京大学大学院情報理工学系研究科修了。London School of Economics and Political Science(LSE)経済学修士課程修了。

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(伊藤忠総研上席主任研究員 高橋 尚太郎)
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