■中国は「高市発言は対立煽る」と激しく反発
高市早苗首相の台湾有事をめぐる発言から2カ月以上が経った今も、中国メディアは高市氏に対して激しいトーンで批判を繰り返している。
中国共産党機関紙『環球時報』は、指導部の立場を世界に発信する英字版『グローバル・タイムズ』紙において1月27日、高市氏のテレビ出演の一コマを取りあげた。
高市氏は26日夜のテレビ番組で、「そこで(台湾で)大変なことが起きたときに、私たちは台湾にいる日本人やアメリカ人を救いに行かなければいけない」と説明。台湾海峡で危機が起きた場合の対応については、現行法の範囲内で状況を総合的に判断しながら対応するとし、「米軍が攻撃を受けた時、日本が何もせずに逃げ帰れば、日米同盟がつぶれる」との見解を示した。
これを受けて同紙は、中国外務省の郭嘉昆(グオ・ジアクン/かく・かこん)報道官が猛烈に反発していると強調。郭氏は翌27日の記者会見で、「日本の右翼勢力が対立を煽り、再軍備を進め、戦後の国際秩序に挑戦しようとする野心を改めて露呈した」と批判した。その上で、「地域の平和と安定、そして日中関係の政治的基盤を深刻に脅かしている。国際社会は警戒を強め、断固として拒否すべきだ」と述べた。
■論拠不明の主張「日本は米国を利用している」
グローバル・タイムズ紙はまた、中国の専門家の見解も交えながら高市氏の言動を批判している。
遼寧大学米国・東アジア研究所の呂超(リュー・チャオ)院長は同紙の取材に対し、「高市氏の主張の核心は『アメリカを利用して中国に対抗する』という発想にある」と分析した。
呂氏は高市首相が、アメリカ軍が台湾に必然的に関与するという「根拠のない前提」を置いたうえで、「日本も追随すべきだ」という結論を導いていると主張。
さらに同氏は、高市首相の発言には別の危険な意図も潜んでいると指摘する。それは「日米中の三角対立」という構図をあおり、アメリカと中国の間に戦略的な摩擦を引き起こそうとするものだという。大国間の対立を利用して日本が漁夫の利を得ようとしており、右翼的な政策を推進するための政治的な余地を作り出す狙いがある、と独自の説を披露した。
こうした言論は明確な根拠を欠いており、国営紙が掲載する質の高い議論というよりは、もはや陰謀論の類いにも近い。また、あたかも中国に任せておけば台湾の和平は守られるかのような論調だ。
しかし、日本の首相発言にここまで激しく反応する中国自身が、実は台湾に対して大規模なスパイ活動を展開し、内部からの崩壊を狙っている。その実態が、複数の海外メディアの報道から明らかになってきた。
■台湾総統府に巣くう中国スパイ網
中国のスパイ網は恐るべきことに、台湾総統府の心臓部にまで及んでいた。その実態を、米ウォール・ストリート・ジャーナルが1月21日に報じた。
記事によると、総統府や政府高官を警護する憲兵大隊に所属していたある軍曹が、2022年4月から約2年にわたり、中国のスパイとして活動していたという。
きっかけは借金だった。
軍曹が提供した情報は、総統府に勤務する政府職員の氏名と顔写真、警備員の名簿やコールサイン、業務訓練資料など広範囲にわたった。台北に位置する淡江大学の安全保障の専門家は同紙の取材に対し、こうした情報は中国が「大きなパズルを完成させる」ために利用できると指摘する。末端の情報員から断片的な情報を積み上げれば、台湾の防衛体制の全体像を把握することが可能だ。
軍曹はさらに、台湾軍内において自ら中国のスパイ網を拡大。国防部サイバーセキュリティ・電子戦司令部の隊員もスパイ活動に引き込んだ。こうして、自身が総統府の警護任務から他部署に異動した後も、引き続き総統府の機密情報にアクセスできる同じ大隊の軍曹と伍長を新たに勧誘し、情報収集を継続させた。
このスパイ網は2024年8月、別の兵士が当局に通報したことで発覚した。同年12月に軍曹ら4人が逮捕され、2025年3月までに全員が有罪判決を受けた。軍曹には懲役7年が言い渡された。
皮肉なのは、国家を揺るがすスパイ事件に対し、少なすぎた対価だ。活動期間を通じて軍曹が受け取った報酬は、わずか1万5000ドル(約229万4000円)相当にすぎなかった。検察官は、「(裏切りは)時に我々を困惑させる。大した金額でもなかったのに」と述べている。
■スパイ容疑の起訴件数は3年間で5倍
スパイを送り込む手口は、巧妙かつ大胆になってきている。
昨年11月、台湾当局は香港の居住権を持つ中国人をスパイ容疑で拘束した。ロイターによれば、この人物は中国軍の指示を受け、ビジネスや観光を口実に台湾へ繰り返し渡航。退役軍人2人をスパイ網の中核メンバーとして取り込んだ上で、彼らを通じて現役軍人の勧誘を図っていた。
通常、中国のスパイ工作は台湾在住の協力者を介して行われるが、今回は中国本土から直接工作員を送り込むという大胆な手口だった。この捜査では当人を含む計7人が拘束され、国防部は現役将校2人の起訴を別途発表している。
こうしたスパイ工作が台湾でいかに深刻な問題となっているかは、起訴件数の推移を見れば明らかだ。
台湾国家安全局のデータによると、2024年に中国スパイ容疑で起訴されたのは15件・計64人に上り、2021年のわずか3件から5倍に急増した。
とりわけ深刻なのは、起訴された容疑者のおよそ3分の2が現役または退役済の軍人だった点だ。国防の要である軍が、中国の浸透工作の格好の標的にされている構図だ。
台湾英文新聞は、国家安全局が2023年以降に把握したものだけで、中国による工作活動とみられる国家安全保障上の事件は84件に上ると報じる。今年1月には、軍の将校に賄賂を渡して機密情報を得ようとした疑いで記者が摘発された。
米ボストン・グローブ紙は、この記者が軍人に数千~数万台湾ドルの見返りを渡し、中国に情報を漏洩させた疑いで拘束されたと報じている。政府とのパイプの有無は明らかになっていないものの、流出先は「中国の個人」とされている。
■米国製兵器の抑止力が損なわれる
一連のスパイ工作を通じ、中国は何を意図しているのか。漫然とした情報収集ならまだしも、台湾侵攻を念頭に置いた作戦がすでに始まっているとみる専門家もいる。
米政治ニュースサイトのポリティコは、工作員が台湾の軍や民間組織に広く浸透した今、侵攻を防ぐうえで本来有効であるはずの数十億ドル規模のアメリカ製兵器が、期待通りの能力を発揮できない恐れがあると指摘する。
パトリオットミサイルやF-16戦闘機といった高性能兵器であっても、運用に関する情報が敵に筒抜けであれば、その抑止力は大きく損なわれると記事は指摘。有事の際にアメリカが派遣する米軍部隊にもリスクが及びかねないと憂慮する。
台湾を担当していた元米情報当局者は同サイトに対し、中国側のスパイが一度に大量に浸透する、あるいは数年をかけて台湾の組織内部にじっくりと浸透するいずれのシナリオであっても、「中国は台湾との戦争において、ひいてはアメリカとの戦争において、情報面で圧倒的な優位を握る可能性がある」と警鐘を鳴らす。
加えて、台湾国民への心理的ダメージも計り知れない。中国側は、台湾海兵隊員に中国国旗を持たせて忠誠を誓う動画を撮影させるなど、台湾国民の軍への信頼を揺るがす「認知戦」も展開。台湾の頼清徳(ライ・チンドー)総統は中国を「外国の敵」と明言し、スパイ摘発を強化している。
■1人1万9000円で雇えるスパイは「コスパが高い」
中国がこうしたスパイ活動へ台湾軍関係者を次々に引きずり込めるのは、費用負担が非常に低いことが影響している。
ウォール・ストリート・ジャーナルが台湾の軍関係者や捜査当局、検察官に取材したところ、メッセージアプリやオンライン融資の勧誘を通じて下級兵士を狙うケースが増えている実態が明らかになった。
ある軍関係者が挙げた事例では、フェイスブック上でポッドキャストを名乗るアカウントが、軍経験者に対して「取材」を打診。情報提供の謝礼として最大で125ドル(約1万9000円)程度を持ちかけていた。
台湾調査局の許副局長は同紙に対し、下級兵士に少額を支払う手法について、「費用対効果が高い」と評する。高官を高額で買収するより、低コストで多数の協力者を確保できるという計算だ。
台湾各地の軍施設には、中国の工作員への警戒を呼びかけるポスターが掲示されている。工作員はSNSを通じて近づき、金銭やビジネス上のメリット、さらには性的な関係まで持ちかけてくると警告する内容だ。特にギャンブルや異性にのめり込みやすい兵士がターゲットになりやすいとして、ポスターは注意を呼びかけている。
軍や政府への信頼が揺らげば、社会の結束も弱まる。中国が狙うのは、まさにこの信頼の土台を内部から崩すことだ。
■「サイバー経済戦争」で台湾を内部から疲弊させる
物理的なスパイ工作だけではなく、中国はサイバー空間でも攻勢を強めている。
台湾国家安全局の年次報告によると、重要インフラへのサイバー攻撃はこの1年で6%増えた。エネルギー分野、病院のネットワーク、通信システム、政府機関と、標的は多岐にわたる。
米シンクタンクの民主主義防衛財団は、中国が大規模な政治イベントの時期を狙い、医療システムや電力網を集中的に攻撃していると分析する。電力網を乗っ取ろうと産業制御システムに侵入したり、医療データを盗んでダークウェブで売りさばいたりする手口が確認されているという。
また、台湾の半導体メーカーや軍需産業への侵入も繰り返し試みられている。企業秘密を奪って中国自身の技術力や防衛産業の強化に役立てる狙いがある、と同シンクタンクは分析している。
台湾の国家安全局は1月4日、中国が「サイバー経済戦争(CEEW)」の準備を加速させていると警告する報告書を発表した。CEEWとは武力による全面侵攻に頼らず、サイバー攻撃で経済・社会機能を麻痺させて台北を降伏に追い込む戦略を指す。
報告書によると、Flax TyphoonやAPT41といった表面上は独立している複数のハッカー集団が連携し、それぞれ異なるセクターを分担。攻撃手法を専門化することで、社会全体に混乱を広げる体制がすでに構築されているという。
■スパイ行為こそ無用な対立を煽っている
台湾も手をこまねいているわけではない。
台湾英文新聞によれば、頼清徳総統は昨年、中国共産党の脅威に対抗する17項目の対策を発表した。中国共産党は台湾社会に浸透し、内部から切り崩しを図る「統一戦線工作」を展開している、と台湾政府は指摘。対策にはサイバースパイ活動への対処や、台湾と中国の交流を利用したスパイ浸透の阻止などが盛り込まれた。
アメリカでも対策の議論が進んでいる。シンクタンクの民主主義防衛財団は今年1月の報告書で、中国がサイバー空間を通じて台湾への経済戦争を続けていると指摘した。そのうえでアメリカに対し、いくつかの提言を行っている。中国による海上封鎖に備えた護送船団作戦の訓練、台湾でのエネルギー備蓄の推進、そして技術アドバイザーを派遣して台湾の重要インフラの防御力を高めることなどだ。
同財団はさらに、台湾・アメリカ・同盟国が足並みを揃えてサイバー防衛を強化するとともに、台湾が北京に反撃できるサイバー能力を身につけ、それを抑止力とするよう支援すべきだと主張する。台湾側にも、官民の連携を強め、重要インフラを運営する民間事業者と政府の間で迅速に情報を共有できる体制を築くよう求めている。
もっとも、軍や大統領府にもたやすく侵入するほど、中国によるスパイ工作は巧妙化している。こうした対策で十分かどうか、予断を許さない。
台湾側としては用心を重ねざるを得ず、民間レベルでの正常な交流すら難しくなる。日本の高市首相発言が対立を煽っていると批判する中国だが、国家間の交流を真に妨げているのは誰だろうか。
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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。
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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

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