※本稿は、南井健治『鉄道車両デザインの教科書』(イカロス出版)の一部を再編集したものです。
■電車にフリースペースが増えている
2020(令和2)年から3年間続いたコロナ禍は、世の中の仕組みを大きく変えた。鉄道もガラガラで駅にも人はいない状態であった。人に会うな、移動するな、密になるな、が声高に言われていたから大量輸送の鉄道は大きな打撃を受けた。
コロナが第2類から5類へとなった後も未だ完全に旧に復しているとは言えない状況と聞く。特に通勤輸送ではリモートワークが定着し、働き方改革とも相まって必ずしも会社に出勤しなくても良くなったことも大きい。
通勤輸送・大量輸送が鉄道の独壇場というこれまでのありようは大きく変化し、半世紀前のような混雑が復活することはあり得なくなった。これは当然通勤電車のデザインにも大きな影響を及ぼす。
現実に、2017(平成29)年、西武鉄道が40000系で「パートナーゾーン」と呼ばれるフリースペースを設け、車椅子やベビーカー、荷物を持った人への対応を始めた。京都市交通局の20系が「思いやりエリア」を先頭車に設け、ここでは伝統産業の展示も行っている。
近鉄の8A系では「やさしば」という名称で、また東武アーバンパークラインの80000系でも「たのしーと」と名付けられたこれまでにないスペースを設けることが発表されている。
■課金して座る「有料座席サービス」が好調
さらに京阪特急で始められた有料座席サービス「プレミアムカー」は8両編成のうち1両を座席指定とするもので、3000系にも拡大した。
もともとJR東日本ではグリーン車が編成の中にあったのだが、編成中の1両を指定席車両にするものは関西では初めてで、続いてJR西日本のAシートが新快速に、阪急もプライベースと名付けられた車両が京都線の特急に組み込まれた。
一般用を1両分減車して混み具合がどうか、と思うのだが、逆に言えば1両減らしても十分だからこのようなサービスができた、ということもできよう。多少なりとも指定席料金も売り上げにもプラスになる。
■昔ほど電車に人が乗らなくなった
ロングシートとクロスシートを変換できる車両もある。東京方面では編成中の1両ではなく、全部がそうなる指定席列車が投入されている。
東武では「TJライナー」や「THライナー」がそうで、「THライナー」では乗り入れ先の日比谷線の線内でも走行する。
乗降客の多い東京都心の地下鉄でもそれができるだけのゆとり、悪く言えば昔ほど人が乗らない、ようになってきたのが現実である。
今や過去のように黙っていてもお客が乗ってくれる時代ではなくなった。
これまでの大衆対応ではなく、それぞれの小衆にできるだけ高い満足度を持っていただくのにはどうするか、もちろん車両だけでなくダイヤや駅設備のこともあるが、これまでの大量輸送の通勤電車からデザインを新しく考えていかなければならない。
■豪華な列車が次々に誕生しているワケ
鉄道輸送のありようを変える事例も出てきた。本来鉄道はAからBへの移動の手段であったが、Aから出発してAへ戻る、つまり移動ではなく乗車そのものが目的となるサービスが登場した。
九州の「ななつ星」、西の「瑞風」、そして東の「四季島」といったクルーズトレインである。
豪華な設備と盛りだくさんの趣向で、新しい旅行の形態を創り出した。国鉄の末期に流行ったジョイフルトレインは団体列車で日帰りユース、そして改造車ベースであったが、こうしたクルーズトレインは個人のお客で宿泊すること、新造車を対象としているところに違いがある。もちろんサービスのレベルはまったく違う。
こうしたスペシャルティな車両は移動を目的とした特急車両でも登場している。JR東日本の「サフィール」や近鉄の「ひのとり」、東武の「スペーシアX」などがそうであろう。
これらの車両では、これまでの公共交通としての鉄道というコンセプトではなく、もっと違う、なおかつよく練られたコンセプトとそのソフト、そしてそれを実現するハードのデザインが必要となってくる。
もちろん車両は長く使われるものであるために、そうしたソフト・ハードが古びないようにすることは言うまでもない。
■人口減少の時代に「鉄道」はどうあるべきか
社会の変化に応じて、鉄道デザインも変わってきた。輸送力が問題とされた時代はいかにたくさんの人を運べるか、が主題となったし、地域文化や競争力が問われるようになるといかにして鉄道の魅力を発揮するかがテーマとなった。そしてこれからの人口減少時代の鉄道では、鉄道車両はどうあるべきだろうか。
当初デザインは物に付加価値を与えるために進化してきた。
しかし車両に関わるデザイナーはそれ以上にこの先を見据えた、ソリューションとしてのデザインを考えなければならないし、車両のデザインはその最右翼であると確信する。
これからも時代を先取りした、その地の文化に根ざした優れたデザインの車両が登場することを願ってやまない。
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南井 健治(みない・けんじ)
鉄道車両デザイナー
1957年、京都市生まれ。1979年、京都市立芸術大学卒業後に近畿車輌株式会社に入社。以後30年にわたって鉄道車両のデザインに従事。JR西日本、東京メトロ、大阪市交通局などの車両のほか、叡山電鉄の観光列車や広島電鉄のLRVなど、多彩な車両を手がけ、アメリカや香港、ドバイなど、海外案件にも多くの実績を残す。2015年より役員となり、取締役常務執行役員を2024年に退任。現在はフリーの立場で、雑誌などに多数寄稿し、鉄道車両のデザインの裾野を広げるべく精力的に活動している。日本インダストリアルデザイン協会会員。
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(鉄道車両デザイナー 南井 健治)

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