かつては存続の危機すら噂された企業がここまでの大躍進を遂げるとは、1年前の時点で一体どれほどの人が想像できたであろうか――。
キオクシアホールディングスは2月12日、2025年度第3四半期決算の発表において、通期の業績見通しを、売上収益2兆1797億~2兆2697億円(前期比28~33%増)、営業利益7095億~7995億円(同57~77%増)へと上方修正した。
この数値は、事前の市場予想平均を大幅に上回る内容であり、同社の収益力が単なる回復にとどまらず、AI特需を背景とした新たな成長フェーズへ突入したことを強く印象付けるものとなった。
これを受け、同社の株価も記録的な急騰を見せており、2024年12月の再上場時の公開価格1455円に対し、足元では2万円台の大台を突破。この1年あまりで約15倍という驚異的な水準へと上昇した。時価総額も一時10兆円を超える規模に達するなど、市場からの評価は劇的に高まっている。
■東芝の“経営危機”で売却対象に…
キオクシアは、半導体の一種である「NANDフラッシュメモリ(以下、NAND)」を製造する、今や唯一となった「日系大手メモリメーカー」だ。
台湾の調査会社トレンドフォースによれば、2025年第3四半期時点で、キオクシアは世界のNAND市場で15.3%のシェアを占め、韓国サムスン電子、同SKグループ(SKハイニックス+ソリダイム)に次ぐ世界3位に位置している。
競合各社がDRAMとNANDの両方を手掛ける総合メモリメーカーであるのに対し、キオクシアはNAND一本で事業展開している点が大きな特徴となっている。
キオクシアの歴史を紐解いていくと、その源流は、総合電機メーカーであった東芝に辿り着く。そもそも、1987年に世界で初めてNANDを発明したのは、当時東芝の研究者であった舛岡富士雄氏だ。電源を切ってもデータが消えず、大容量化に適した構造を持つこのメモリは、デジタルカメラやスマートフォン、データセンターへと用途を広げていき、現代のデータ保存における標準技術となった。
だが、技術的な成功とは裏腹に、親会社である東芝は2010年代半ば、米国原発事業の巨額損失により経営危機に陥る。債務超過を回避するため、グループ内で最も高い収益力を持っていたメモリ事業が売却の対象となった。
■メモリ市場の不況、上場延期の迷走
しかし、再出発したキオクシアが歩んできた道のりは、決して平坦なものではなかった。むしろ、再上場に至るまでの数年間は、半導体市況の変動に翻弄された「苦難の歴史」であったといってよいだろう。
2020年10月に予定されていた最初の上場計画は、米中貿易摩擦の激化や市況の不透明感を理由に直前で中止された。その後も再挑戦の機会をうかがっていたキオクシアだが、2022年後半から2023年にかけて、メモリ市場は過去最大級の不況に見舞われた。
スマートフォンやPCの需要減退に加え、データセンター投資の一時的な減速が重なり、NAND価格は大幅に下落。2023年度には巨額の最終赤字を計上するなど、厳しい経営環境に置かれた。
この苦境を象徴するのが、岩手県北上市にある「北上工場第2製造棟(K2棟)」を巡る決断である。当初、この新工場は2023年内の稼働を目指して建設が進められていたが、前述の市況悪化を受けて稼働開始時期は大幅に延期。当時は、こうした稼働延期や度重なる上場延期を「迷走」として揶揄する声も挙がるなど、同社の先行き自体を悲観する声も決して少なくなかったのが実情だ。
こうした閉塞感を一気に打破するきっかけとなったのが、足元で進行中の、AI市場における需要構造の変化だ。
■「AIブームの蚊帳の外」だった
生成AIブーム当初の2023年~24年頃、「学習」フェーズが主体の時代においては、主役となったのはNVIDIAのGPU(画像処理半導体)と、それに組み合わされる「HBM(広帯域メモリ)」と呼ばれる高性能のDRAMであった。
この頃、HBMの供給で先行したSKハイニックスなどが「時代の寵児」として市場からもてはやされる一方、NAND専業のキオクシアに対する市場の評価は「AIブームの蚊帳の外」などと冷ややかなものだった。
しかし、2025年に入り、AIのフェーズが「学習」から「推論」へと急速にシフトし始めたことで状況は一変する。
学習済みのAIがユーザーの質問に答えたり、コンテンツを生成したりする推論の段階では、過去の膨大な学習データや、RAG(検索拡張生成)と呼ばれる技術で参照する外部データベースへの高速アクセスが必要となる。ここで爆発的に需要が高まったのが、大容量かつ高速なデータ読み出しが可能な「エンタープライズSSD(eSSD)」、すなわち「NANDの塊」だったのである。
■「AI推論需要」が追い風に
この市場環境の変化により、かつて「苦渋の決断」と思われたK2棟の稼働延期が、結果的に極めて有効な戦略として機能することになった。
サムスンやSKハイニックスなどの競合大手は、直近まで利益率の高いHBMの増産に設備投資を集中させており、相対的にNANDへの投資を抑制していた。その結果、世界的にNANDの供給能力が伸び悩む中でAI推論需要が急増し、需給が逼迫する事態となったわけだが、ここで、稼働を先送りしていたK2棟が、満を持して2025年9月に稼働を開始したのである。
本格的な量産・出荷開始は2026年前半となる見込みだが、他社が新たなNAND生産ラインの構築に時間を要する中、キオクシアは待機させていた最新鋭工場を即戦力として活用することで、最先端製品を市場に投入する体制を整えつつある。
市況悪化を耐え忍ぶための策が、結果として、競合の供給余力が乏しい時期に攻勢をかけるための布石に転じたといえるだろう。
■長年磨いてきた独自の技術
もちろん、キオクシアの躍進は外部環境の変化のみによってもたらされたのではない。
NANDの本家本元として長年磨いてきた独自の技術戦略も、競争力の源泉となっている。
特に注目すべきは、「3次元NAND」の開発において、競合他社とは異なるアプローチをとっている点だ。
しかし、積層数を増やすことは、製造工程における加工の難易度を高め、歩留まりの低下やコスト増を招くリスクにもつながる。これに対し、キオクシアは積層数の多さだけを追求せず、メモリセル自体の大きさを小型化することで配置密度を高める「横方向の微細化」を重視している。
現在主力の「第8世代BiCS FLASH(ビックスフラッシュ)」と呼ばれる製品も、競合他社より少ない積層数で同等の記憶容量を実現し、高いコスト競争力を有している。
キオクシアの技術のもう一つの要が、メモリセルと制御回路を別々のウエハで製造して貼り合わせる「CBA(CMOS directly Bonded to Array)」と呼ばれる技術だ。
従来の製法では、メモリセルの横、もしくは下に制御回路を作り込む必要があり、高性能な回路を形成することが難しかった。しかしCBA技術では、メモリセルと制御回路をそれぞれ別々のウエハ上に製造してから貼り合わせる。
これにより、制御回路に最先端のロジックプロセスを適用することで高速化を実現しつつ、メモリセルは高密度化に専念できる。つまり、「高速化」と「大容量化」という相反しやすい要素を、製造プロセスの分離によって高い次元で両立しており、他社に対する大きな技術的アドバンテージとなっている。
■「NAND専業」状態からの脱却、新領域へ
さらにキオクシアは、市況変動に対して脆弱な「NAND専業」状態からの脱却を図るべく、次世代の新型メモリの開発にも注力している。その一端が伺えるのが、2024年12月の国際学会「IEDM2024」において同社が発表した一連の研究内容だ。
まず挙げられるのが、「ストレージクラスメモリ(SCM)」と呼ばれる新領域への取り組みである。
このSCMを実現する有力候補として、キオクシアが開発を進めるのが「MRAM(磁気抵抗メモリ)」である。MRAMは、電源を切ってもデータが消えない不揮発性と、DRAMに近い高速動作を併せ持つ。IEDM2024においてはその大容量化に向けた技術成果が示されており、既存のメモリ階層に変革をもたらす存在として位置づけられている。
さらにとりわけ注目される研究が、酸化物半導体を用いた新型DRAM「OCTRAM(オクトラム)」の開発である。これは、NAND専業であるキオクシアが、かつて日本企業が撤退したDRAMの領域に、新たな技術アプローチで再参入を試みるものだ。
OCTRAMは材料にシリコンとは異なる「酸化物半導体」を用いることで、リーク電流(電源オフ時の電流の漏れ)を極限まで低減し、既存のシリコン製DRAMと比べて消費電力を大幅に削減できる特性を持つ。さらに、キオクシアがNANDで培った「3次元積層技術」を応用し、メモリセルを垂直に積み上げることで大容量化と低コスト化を同時に実現しようとしている。
もしOCTRAMが実用化されれば、AIサーバーにおいて、プロセッサの直近に配置される大容量・低消費電力メモリとして、既存のDRAMを代替あるいは補完する可能性がある。NAND専業としての知見を活かしたこの独自のアプローチは、日本企業が再びDRAM市場のメインストリームに関与するための一手となり得る重要な取り組みといえるだろう。
■「日の丸半導体」は終わっていない
もちろん、今後の道のりにリスクが存在しないわけではない。半導体市場は「シリコンサイクル」と呼ばれる激しい市況変動を繰り返してきた歴史があり、現在の好況が永遠に続く保証はない。
特に現在の状況は、サムスン電子やSKハイニックスなどの競合他社がHBMへリソースを集中させていることによる面が大きいため、今後彼らがNANDへの設備投資を再び積極化させれば、需給バランスが緩和し、価格競争が再燃する可能性も否定できない。
好業績に沸く現在だからこそ、市況の変化に左右されにくい強固な財務体質の構築と、将来の成長機会を逃さないための冷静な経営判断が、これまで以上に求められることになるだろう。
それでもなお、「日の丸半導体の凋落」の象徴として扱われてきたメモリ分野でのキオクシアの躍進は、市場変化の潮流さえ掴めれば、日本企業はグローバル市場で今なお十分に戦える競争力を有しているということの証明に他ならない。
AI推論需要という構造的な追い風を受けながらも自らの抱えるリスクを直視し、次世代技術への投資によって次なる成長シナリオを描こうとする同社の挑戦を、期待とともに見守っていきたい。
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小林 泰斗(こばやし・たいと)
伊藤忠総研 副主任研究員
2013年東京大学法学部卒業。同年に三菱東京UFJ銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行し、産業・政策調査等に従事。2024年1月より伊藤忠総研にて、半導体産業の調査を担当。
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(伊藤忠総研 副主任研究員 小林 泰斗)

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