3月9日、トランプ大統領はイラン攻撃に対して軌道修正を図った。それまでは「無制限の攻撃」を公言していたが、突如として「戦争の終わりは近い」と述べたのである。
この態度の変化には何があったのか。筆者は、戦争の長期化に伴う次の3つの懸念がトランプ大統領を襲ったのではないかと考えている。①米国の物価高、②MAGA(岩盤支持層)の反発、③米中首脳会談への悪影響、である。
米国のイラン攻撃開始から約1週間、原油価格は1バレル60ドル前後から70ドル台へ上昇した。当初、市場では「中東情勢の悪化は比較的短期間で収束する」との見方が支配的であった。
しかしその後、戦況は長期化の様相を呈し始める。トランプ政権が望まないモジュタバ・ハメネイ師が新最高指導者に選出されたことなどで米国の計算違いが露呈し、長期化懸念が一気に拡散。原油価格は、日本時間3月9日に一時1バレル120ドル近くに達した。
米国は原油の純輸出国であり、日本などと違って交易条件上の悪影響はないと考えられる。しかし、米国内のガソリン価格は原油相場と強く連動している(図表)。原油価格120ドルが続けば、ガソリン価格は、米国民の心理的・実質的負担の限界とみる1ガロンあたり4ドルを大きく超える計算だ。
■マーケットには抗えない
トランプ大統領の支持率は低迷しており、そのアキレス腱は経済政策にあるとの見方が大勢を占める。
トランプ政権の目玉政策であった関税政策についても、物価への影響を考慮して除外品目を増やしたり、発動延期を繰り返したりとトーンダウンせざるを得ない状況にある。そこにきて、国民生活に直結するガソリン価格の高騰は、民主党からの格好の攻撃材料となる。11月の中間選挙への大打撃は避けられない。
また、原油高による米経済への悪影響が懸念され、株価も下落した。米国の個人消費は株価に支えられてきた側面があり、足元で減速している消費に拍車がかかる恐れがある。トランプ大統領は金融市場が実体経済に与える影響を直感的に理解しており、昨年4月に相互関税を公表した際も市場の大混乱を見て態度を軟化させるなど、柔軟な対応を繰り返してきた。今回も同様の連想が働いたと考えられる。
■MAGA派のトランプ離れ
イラン戦争の長期化に対し、トランプ氏が掲げるMAGA(Make America Great Again=米国を再び偉大に)を信奉する人々、いわゆるMAGA派が反発する懸念が生じたことも、彼を動かした要因とみられる。イラン攻撃に関するMAGA派の当初の支持率は高く、約9割近が賛成しているとのデータもあった。もっとも、これはイラン攻撃が「短期間で終了する」との前提があってのことだろう。1月のベネズエラ作戦が早期に終了した成功体験から、今回も同様の展開が想定されていたはずだ。
MAGA派は、外国への軍事関与は抑制して、国内問題を最優先にするという考え方で結束してきた。トランプ政権の政策に関しても、不法移民の流入阻止などの治安維持には強い賛同を示してきた一方で、対外干渉には否定的だ。ウクライナ支援を最も強く拒否してきたのも彼らである。米国民の血が流れないウクライナ支援でさえこの状況であり、戦争が長期化し米兵の死傷者が増える事態が想定されれば、反対の声が強まるのは当然だ。
■「エプスタイン問題をかわすため」の批判も
実は、イラン攻撃には当初から反対の声が上がっていた。MAGA派のオピニオンリーダーの一人であるタッカー・カールソン氏は、イラン攻撃に対し「完全に嫌悪すべき、邪悪なもの」と批判した。
カールソン氏はメディアでの情報発信でトランプ氏を支え、大統領選の勝利に貢献し続けてきた人物だ。このように一部のMAGA派は事態悪化を見越していた。うまく収束を図らなければ、彼らの懸念が現実となり、MAGA派の支持離れが進むリスクがある。
エプスタイン問題がくすぶり続けているタイミングも悪かった。性的虐待罪で起訴された故・エプスタイン氏とのトランプ氏の関係性を問題視しているのも、一部のMAGA層だ。
MAGA派の重要人物であったマージョリー・テイラー・グリーン氏はこの点を取り上げ、トランプ氏と対立し下院議員を辞職するに至った。
■米中会談を有利に運ぶため
外交スケジュールの面では、3月末から4月初めとされるトランプ氏の訪中を控えていることも影響した可能性がある。トランプ氏の訪中時には米中首脳会談が開催され、トランプ関税や貿易不均衡に加え、台湾問題も議題にのぼる見込みがある。
今回のイラン攻撃自体、対中政策を意識したものとの見方は多い。ベネズエラ攻撃に続き圧倒的な軍事力を見せつけることで、交渉を控えた中国に圧力をかける狙いがあったとの見方である。また中期的にも、中国との結びつきが強いイランを叩くことは、中国への逆風となり圧力材料になる。
さらに、サウジアラビアなどの中東湾岸諸国の脅威となってきたイランへの軍事作戦を成功させれば、米国の中東における存在感を一層高め、中国の影響力にくさびを打つ目算もあっただろう。
しかし、イラン攻撃長期化の懸念が出たことで、こうした目算は狂い始めた。原油価格の高騰は前述の通り米国経済にもダメージを及ぼす状況を作り出してしまった。イランから中東湾岸諸国への攻撃が拡大したことで、米国のイラン攻撃に対する強い協力姿勢は今のところ窺えない。
加えて、戦争の長期化は軍事戦略上の懸念も増大させる。米国にとって最大の脅威が中国であることは間違いない。
■「勝ち逃げ」するしかない
中東に軍事力が割かれ続ければ、アジアへ振り向けるパワーは削がれる。長期戦は軍事戦略の見直しを迫るものであり、結果として中国を利することになる。また、米中首脳会談では、中国のレアアース供給に関する交渉は最重要課題である。中東でミサイル等の兵器を消耗すれば、その製造に必要なレアアースの需要は高まり、中国側の交渉カードを強めてしまう。
こうした背景から、中国に対して圧倒的な軍事力と作戦能力だけを見せつけ、イラン攻撃を早めに手仕舞いする、いわば「勝ち逃げ」をしたいという誘因が働いたと考えられる。
この先、米軍が攻撃を緩和するタイミングで、イラン側も呼応して攻撃を緩めるかどうかはイランの新体制次第の面がある。また、米国と共同作戦を進めるイスラエルが強硬姿勢を崩さず、状況悪化が続く可能性も否定できない。トランプ氏としては、自ら始めた戦争を何とかして終わらせるタイミングを、虎視眈々と見計らっていることだろう。
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髙橋 尚太郎(たかはし・しょうたろう)
伊藤忠総研上席主任研究員
2005年日本銀行入行、国際経済調査や金融市場調査等に従事。2017年有限責任監査法人トーマツ入社、マクロ経済分析サービスやリスク管理アドバイザリー等のプロジェクトに従事。
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(伊藤忠総研上席主任研究員 髙橋 尚太郎)

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