健康的にお酒と付き合うにはどうすればいいか。肝臓外科医の尾形哲さんは「アルコール度数は低くても、果糖やブドウ糖を加えて飲みやすくしたお酒や、度数が高いお酒はとくに注意が必要だ」という――。

※本稿は、尾形哲『甘い飲み物が肝臓を殺す』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。
■アルコールはひとまず減らしてみる
スマート外来には、お酒をよく飲まれる脂肪肝や肥満の患者さんも数多くいらっしゃいます。そうした患者さんは、アルコール量を減らすと、確実に体重が減って脂肪肝も改善へ向かうようになります。この点から言っても、アルコールが脂肪を蓄積させて体を太らせる大きな原因になっていることは間違いありません。
とりわけ、アルコール性脂肪肝の人は、アルコールを減らすことなく脂肪肝を改善することはできません。多量飲酒者(1日のアルコール摂取量が純アルコール換算60g以上)の場合、90%以上に脂肪肝が認められます。心当たりがある人は、まず酒量を減らさないことには何も始まらないのです。
また、アルコール性脂肪肝とまではいかずとも、そこそこ飲む程度で脂肪肝の診断を受けている人も数多くいると思いますが、そういう方々も、ひとまず自分のアルコール量を減らしてみることをおすすめします。
それにしても、アルコールを飲むと、どうして肝臓の脂肪化や肥満が進んでしまうのでしょうか。これには大きくふたつの理由があります。
■アルコールが脂肪を肝臓へ流れ込ませる
まずひとつめは、アルコールが「皮下脂肪・内臓脂肪から肝臓へ向かう遊離脂肪酸を増やしてしまう」からです。
血液中には皮下脂肪や内臓脂肪から溶け出た脂肪が常に遊離脂肪酸として漂っています。
アルコールを飲んでいると、そうした血中の遊離脂肪酸がより多く動員されて、肝臓へ流れていってしまうようになるのです。すると、大量の脂肪が肝臓に流入し、肝細胞内での中性脂肪合成の働きも高まって、肝臓の脂肪化を促進してしまうわけです。
また、もうひとつの理由は、アルコールが「脂肪をエネルギー源として使う機能」を低下させてしまうからです。これも先述しましたが、肝臓には「糖新生」をはじめ、脂肪を変換してブドウ糖エネルギーをつくり出す機能が搭載されています。
アルコールを飲んでいると、この機能の効率が低下してしまい、ろくに脂肪が消費されず、結果的に肝臓の脂肪化が進んでしまうことになるのです。
つまり、普段からアルコールを飲んでいると、肝臓の「脂肪をため込む機能」が高まって、逆に、肝臓の「脂肪をエネルギーとして消費する機能」はダウンしてしまうということ。しかも、アルコールを飲んでいると食欲が増して、ついついつまみをたくさん食べてしまうもの。
■下りのエスカレーターを逆走するようなもの
油っこいつまみや糖質の多いつまみを好む人も多く、アルコール以外にも大量のエネルギーが入ってくることになります。さんざん飲んで、さんざんつまんだあげく、締めにラーメンやお茶漬けなんか食べたりしたら、エネルギーの過剰摂取で脂肪肝や肥満が悪化していくのも当然ですよね。
私はよく患者さんに対して、「アルコールを毎日飲みながら肝臓の脂肪を落とそうとするのは、下りのエスカレーターを逆走して上がろうとするようなものですよ」と話します。
すなわち、がんばって上がろうとしてもいつの間にか下がってきてしまい、一向に前に進むことができない、非常に効率の悪い努力だということになります。
ですから、脂肪肝を治したいなら、まずはアルコールの量を減らすのが必須。
たくさん飲む人も、あまり飲まない人も、とにかく量を減らし、アルコールの弊害をなるべく減らしたうえで減量や脂肪肝改善に取り組んでいくべきなのです。
■「飲んでも太らない」は大きな誤解
ところで、「アルコールはエンプティーカロリーだから、飲んでも太らない」という話を聞いたことがある人もいらっしゃるのではないでしょうか。
これは、大きな誤解です。「エンプティーカロリー」というのは、カロリーが空っぽという意味ではなく、「生きるために必要な栄養素が含まれていない」「摂っても栄養素として活用されない」という意味なんですね。
だから「飲んでも太らない」わけではありません。むしろ逆であり、アルコールをたくさん飲めば、必ず太ります。アルコールには、1gに約7kcalという高いエネルギーが含まれていて、アルコールを1日60g(5%ビール500ml3本分)摂っている多量飲酒者は、それだけで約420kcalのエネルギーを摂取していることになります。
当然、アルコールを飲む以外に普通に食事で栄養を摂っているとすれば、過剰栄養で太ってしまうことになりますよね。
しかも、先ほど述べたように、アルコールには脂肪を蓄積する働きを高めて、脂肪を消費する働きを阻害する作用があるわけで、飲み続けていれば、体内の脂肪が確実に増えることは間違いありません。
そのため私は、講演などで「飲酒習慣は『4回目の食事』と考えたほうがいい」と話しています。つまり、お酒好きの方がやせるには、その「4回目の食事」をどれだけ減らせるかがカギになってくるわけです。
■「醸造酒」と「蒸留酒」の違い
また、アルコールが好きな人にとっては、「どんなお酒が太りやすいのか」というのも気になるところでしょう。

みなさんご存じのように、アルコールは大きく「醸造酒」と「蒸留酒」に分かれます。醸造酒はビール、日本酒、ワインなど、麦や米、ブドウなどに酵母菌を加えて発酵させたものであり、糖質が含まれています。
一方、蒸留酒は焼酎、ウイスキーに代表される、原料を発酵させた液体を蒸留したもの。こちらの場合、糖質は含まれていませんが、醸造酒に比べてアルコール度数が高くなります。
みなさんは当然、糖質が含まれている醸造酒のほうが太りやすく、糖質ゼロの蒸留酒のほうが太りにくいと思うでしょう。ただ、蒸留酒の盲点は、糖質はゼロでもアルコール度数が高い点です。
たとえば、市販されている同量のビールとハイボールとを比べると、ハイボールのほうがアルコール度数が高い分、高カロリーとなります。また、焼酎やウイスキーは、ソーダや甘い炭酸で割ったり果汁フレーバーが加えられていたりすることが多く、それらに含まれている糖質をプラスすると、かなりの高カロリー飲料になっていることが少なくありません。
さらに、たとえアルコール度数は低くても、果糖やブドウ糖を加えて飲みやすくしたカクテル・サワーは、先述した通り、肝臓にとってかなり危険な「甘い飲み物」だと思ったほうがいいでしょう。
飲み口がよく、ジュースのように甘くておいしいからといって、毎日夕食時に飲んでいたりしたら、それだけで脂肪肝になってもおかしくありません。
少なくとも、脂肪肝、糖尿病、肥満が気になる方は、甘いアルコール飲料を気軽に飲むのは控えたほうがいいと思います。
■「危険ドラッグ」並みのリスクのある飲み物
それと、近年、「コスパよく酔える」と人気の「ストロング系缶チューハイ」は、肝臓を少しでもいたわる気持ちがあるなら、飲むのはやめるべきだと思います。
9%のストロング系チューハイ500mlには36gもの純アルコールが含まれています。これを習慣的に多飲したとしたら、脂肪肝どころか肝硬変に陥りかねません。
ちなみに、薬物依存症の専門家である松本俊彦先生(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部・部長)は、「ストロング系チューハイは『危険ドラッグ』として規制したほうがよいのではないか」という内容の文を2019年末にフェイスブックに投稿しておられます。
私もまったく同感であり、少なくともこれを飲むのであれば、肝機能に与えるダメージの大きさや肝硬変の怖ろしさ、アルコール依存症に陥る可能性などを十分に理解しておく必要があると思います。それを知らずして、気軽に何本も飲んでしまうのは、“自殺行為”と言っても過言ではないのです。
もっとも、こうした健康への懸念を考慮しての対処なのか、酒類販売大手各社にはストロング系チューハイの販売を見直す動きが広まってきています。
すでにアサヒビールやサッポロビールは、今後8%以上の缶チューハイの新商品を発売しない方針を決めていますし、他の大手でも見直しが検討されているようです。
「多くの人に長く健康にお酒を楽しんでほしい」のであれば、当然、こうした見直しがどんどん進められていくべきでしょう。
■「やめろ」とは言わない医師の本音
ここまで、アルコールの肝臓に対する弊害ばかりを挙げてきましたが、私はお酒を飲むという習慣を全否定するつもりはまったくありません。お酒はおいしいし、心身をリラックスさせたり幸福感をもたらしたりするなどのよい面もあります。
だから、「やめる」ばかりが能ではない。肝臓の機能を低下させることなく、一生楽しくお酒とつき合っていけるのであれば、それに越したことはないのではないでしょうか。

そのため、私はスマート外来の患者さん方にも、「お酒をやめろ」とはあまり言いません。もちろん、断酒や禁酒をしたほうが脂肪肝治療効果も減量効果も高くなることは分かっているのですが、なかなかお酒をやめられない患者さんに対しては、「とりあえず飲む量を半分にしてみてください」と言うようにしています。
そもそも、アルコールによる肝障害でいちばん避けなくてはならないのは、いまのまま大量に飲み続けて恐ろしい病気である肝硬変になってしまうことです。肝硬変だけは何としても回避しなくてはいけませんが、それを確実に回避できるような「自分にとって適量のアルコール」を日々たしなむのであれば、まあ、許容範囲としてもいいのではないでしょうか。
つまり、アルコール好きの人は、酒量を少し減らして「肝硬変にならない程度に飲む」ようにしていけばいいのです。とにかく、毎日飲んでいたお酒を1日置きにしたり、毎日4合飲んでいたお酒を2合にしたりして、「ひとまず減らしてみる」ことにトライしてみてください。
酒量を減らしてみれば、肝機能の数値が改善してきたり、おなかの脂肪が落ちてきたりといった効果が必ず現われてきます。そういった効果を身をもって感じながら減らしていくほうが、減酒が成功しやすいんですね。
■アルコールの1日の最大量の目安
さらに、自分が飲めるタイプなのか飲めないタイプなのかの「適性」をちゃんと知っておくことも大切です。
一般に、お酒を飲んで顔が赤くなる人は、アセトアルデヒドの分解に時間がかかるタイプ、お酒を飲んで顔が赤くならない人は、アセトアルデヒドの分解が早いタイプだとされています。
すなわち、前者は「飲めはするけれど、鍛えて飲めるようになったようなもの」であり、本来は飲酒があまり向いていない人です。
一方、後者は「もともとお酒に強くて、飲んでもあまり酔わない人」です。
ただ、アルコール依存症に陥る人の大多数は、後者のお酒に強いほうのタイプだとされています。
そして、1日の最大量は、男性で純アルコール40g、女性で20gとなっています。顔が赤くなる人はさらに少ない量が適当とされています。これはあくまで「最大量」であり、節度ある適度な飲酒としては男女ともに1日20g程度が推奨されています。
最大量の目安は図表1の通りです。
ぜひみなさんも、自分の「適性」を把握しつつ、まずはこの酒量を目指してみてはいかがでしょう。そのうえで、肝臓の健康を極力損ねることなく、末長くアルコールを楽しむようにしていってください。

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尾形 哲(おがた・さとし)

肝臓外科医

長野県佐久市立国保浅間総合病院外科部長、同院「スマート外来」担当医。医学博士。一般社団法人日本NASH研究所代表理事。1995年神戸大学医学部医学科卒業、2003年医学部大学院博士課程修了。パリ、ソウルの病院で多くの肝移植手術を経験したのち、2009年から日本赤十字社医療センター肝胆膵・移植外科で生体肝移植チーフを務める。さらに東京女子医科大学消化器病センター勤務を経て、2016年より長野県に移住。2017年スタートの「スマート外来」は肥満解消と脂肪肝・糖尿病改善のための専門外来。著書に『専門医が教える 肝臓から脂肪を落とす7日間実践レシピ』『専門医が教える 1分で肝臓から脂肪が落ちる食べ方決定版』『専門医が教える肝臓から脂肪を落とす食事術【増補改訂版】』(いずれもKADOKAWA)などがある。

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(肝臓外科医 尾形 哲)
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