個人が無理なく資産運用を続けるにはどうしたらいいのか。シデナム慶子さんは「資産運用で大事なのは、大きく儲かる可能性の高い投資対象を探すことではない。
まずは、個人投資家が一番やってはいけないことを紹介しよう」という――。
※本稿は、シデナム慶子『投資に必要なことはすべて海外投資家に学んだ』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
■個人投資家が一番やってはいけないこと
投資をするうえで、個人投資家が一番やってはいけないことは、落ちたときに焦って売ること、いわば「狼狽売り」をしてはいけない、ということです。
なぜ狼狽売りをしてはいけないのでしょうか。その理由の1つとしては、それは大概のケースにおいて、狼狽売りしたところが底値だったりするからです。「あーあ、売らなければよかった」というのがこれに当たります。
ここで大事なのは、メンタルの問題です。
自分の買値を下回ったところで売却した時点で損失が確定されるわけですが、損失確定の大きな問題点は、その後、マーケットが上昇に転じたとしても、なかなか買いに入れなくなることにあります。
最初の買値が1000円だとしましょう。それが600円まで値下がりしたところで売却し、損失を確定したとします。その後、さらに値下がりして550円になったところが大底で、そのまま上昇に転じました。
本来、ここで買えれば400円の損失を回復できるかもしれません。
でも、株価がさらに上昇するか、再び下落に転じるかの見極めは、非常に困難です。結果、買うことができないまま、さらに価格が上昇してしまい、悔しい思いをすることになります。
■冷静な投資判断を下せる指針が必須
もちろん、株価がさらに下がるような状況であれば、「買わなくてラッキー」ということになりますが、それでもどこかで底を打つ局面が来ます。そうなればなったで、また買うべきか、それとも見送るべきかで悩むことになります。
いずれの場合においても、「買う」「売る」の投資判断をするのは極めて難しいですし、心理的ストレスも大きいです。とりわけ、市場が大きく下落する局面では、パニック売りが多く起こります。
マーケットには様々な投資家がいます。本書を読んでくださっている個人もいれば、物凄い額の資金を瞬時に動かすプロの投資家もいます。ますます値動きの大きい市場になる昨今のマーケットを相手に資産運用を行なうには、冷静に投資判断を下せる指針が必要となってくるのです。
■アセット・オーナーの動きをモデルにしよう
学びたい投資の仕方があります。それは「アセット・オーナー」の考え方を学ぶ、ということです。
「アセット・オーナー」とは、年金基金や、大学、ある目的を持った団体などがあたります。

共通するのは「長期にわたり資産を維持し続けなければいけない」ということです。年金基金が運用に失敗しては受給者の老後は目も当てられないことになりますし、大学は廃校を免れない、団体なら活動が続けられなくなります。そのため、絶対に負けない投資が必要です。
巨額な資金を投ずるアセット・オーナーを真似するなんて、そんなことは難しいのではと思う方もいるかもしれませんが、「減らさないように運用する」という点では、私たち個人も、アセット・オーナーも目的は同じです。
それに、よく考えてみてください。皆さん自身、預貯金や株式、債券、投資信託などの金融資産を、金額の多寡はありますが、保有しているはずです。これら個人資産の運用に関しては、皆さん自身が自分で判断するアセット・オーナーであるはずです。
私自身はこれまで、アセット・オーナーと呼ばれている様々な機関投資家の運用を見てきました。その経験から見えてきた結論は、アセット・オーナーの運用手法を真似ることこそが、個人の資産運用にとって最適だということです。
■パニック売りを防ぐために「自分ルール」を決めておく
そもそも狼狽売りをしてしまう一番の原因は、自分のルールを持っていないからです。
マーケットの先行きを正確に予測するのは困難です。そのような状況と対峙する以上、自分が守るべきルールをしっかり持たないと、マーケットの値動きに翻弄されることになります。

上昇局面で買ったらそこが天井で値下がりしてしまう。下落局面で売ったらそこが大底で値上がりしてしまう。このようなことを繰り返していたら、損失だけが積み重なり、まったく利益を得ることもできず、何のために資産運用しているのかわからなくなってしまうでしょう。そうならないようにするためにも、自分自身のルールを決めて、それを守る必要があるのです。
ルールと言っても、それほど難しいものではありません。たとえば自分の買値から10%下げたら一部売却する、20%下げたら全部売却して一部損失を確定させて市場の様子を見る。下げ止まって5%上昇したら買い戻す。その程度のものでよいのです。
■財産が下落したとき、アセット・オーナーは何をする?
その点で、長期運用を前提とするアセット・オーナーは、リスクマネジメントを大事にしています。
たとえば、もし保有している財産が下落した場合、アセット・オーナーはまず何をするでしょうか? 彼らは、その商品の騰落ではなく、市場全体と比較して、その商品がどのような動きをしているのかを確認します。
株式市場が20%下落したとき、保有している株式ポートフォリオの値下がりが10%で済んだとしたら、それは株価の下落に対して強い耐性を持つ株式ポートフォリオだということになりますから、そのままにして今後も継続的に値動きをウォッチし続ければよいでしょう。
しかし、株式市場が20%下落したときに、保有している株式ポートフォリオ全体が30%下げたとしたら、それは株式のリスクを過大に取っていることになります。
何らかの対処を行なう必要がある、という考え方です。
このようなときのリスクマネジメントとして、アセット・オーナーは様々な対応法を考えています。詳しくは、本書第3章のアセット・アロケーションで紹介していますが、事前に設定した投資配分の10%以上の変化がある場合には、配分を元に戻すべく下落している資産を買い、上昇している資産を売却したりします。
■資産運用で大事なこと
ただ、1つだけ絶対に守らなければならないことがあります。それは、事前に決めたルールは絶対に守る、ということです。
これは個人投資家でもよく見られるのですが、この銘柄への投資は短期でと決めていたのに、損をした途端に長期保有に切り替えるケースがあります。これは絶対にやってはいけないことの1つです。
なぜなら、短期売買を前提に選んだ銘柄と、長期保有を前提に選んだ銘柄は、そもそもまったくの別モノだからです。
その対象が株式で、企業価値が長期的に高まるという前提のもとで投資したのであれば、長期保有するのも一つの手ではあるのですが、往々にして短期の値上がり益を狙って投資する株式は、長期的な企業価値の向上を狙うというよりも、短期的に株価を押し上げる材料が出ることを前提にした投資です。その当てが外れて株価が下落に転じた場合は、最悪、それこそ買値よりも5分の1、10分の1まで株価が値下がりしてしまうこともあります。
そのような株式を長期保有し続けたら、資産価値が大きく目減りしてしまうだけでなく、自分の買値に戻るまで極めて長い時間を費やすことにもなりかねません。短期を前提に選んだ投資対象の目論見が外れたときは、素直に撤退するべきなのです。

自分自身のルールを設けることは、すなわちリスク管理だと考えてもらってもよいでしょう。資産運用で大事なのは、大きく儲かる可能性の高い投資対象を探すことではありません。一にも二にもリスク管理なのです。

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シデナム 慶子(しでなむ・けいこ)

LUCAジャパン代表取締役CEO・共同創業者

2003年よりヘッジファンド投資に従事、その後2007年より米系運用会社日本拠点にてプライベートエクイティ、不動産、インフラ、プライベートクレジットなどのオルタナティブ投資ファンドの戦略説明、資金調達、機関投資家リレーションシップを統括。JPモルガン・アセット・マネジメントでのオルタナティブ投資戦略室長を務めた後、ブラックストーン・グループにおけるマネージングディレクターを経て、2021年オルタナティブ投資のデジタルプラットフォームを運営するLUCAジャパンを共同創業。米ジョンズホプキンス大学高等国際問題研究大学院修士。

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(LUCAジャパン代表取締役CEO・共同創業者 シデナム 慶子)
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