オフィスカジュアルで注意すべきことは何か。セクレタリーアドバイザーの渡邉華織さんは「ビジネスにおいて身なりを整えるのは、自分をよく見せるためではなく、相手に敬意を表すためだ。
会う人に不快感を与えないことに注意すべき」という――。
※本稿は、渡邉華織『好かれる人のさり気ない気配り100式』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
■相手に敬意を表すための「身なり」
ビジネスにおいて身なりを整えるのは、自分をよく見せるためではなく、相手に敬意を表すためです。
プライベートのファッションは自分の個性を表現したり、自分が心地よく過ごしたりするためのものですが、ビジネスにおいては会う人に不快感を与えないことが最優先であるべき。そのための服装をしてほしいと思います。
それは高価なものを着るということではありません。今はご存じの通り、ファストファッションでも、品質もデザインも優れたものがたくさんあります。
私自身、普段着ているブラウスは数千円のものですし、パンツもファストブランドです。靴を入れてもトータルで2万円もかかっていません。
私が心がけているのは、シャツやブラウスには必ずアイロンをかけること。Tシャツにだってアイロンをかけます。値段の安いものでも仕事の場に着ていく以上、「きちんと感」は絶対に必要。
どんなに高いものでも、シワが寄っていたり、シミがあったりはいただけません。
■大事なのは清潔感
大事なのは、服のフォルムがどうとか、色や柄が派手だとか地味だとかということよりも、清潔感が漂っているかどうか。
時代とともに装いの基準は移り変わっていくもの。最近はヒゲを生やしたり、髪の色を変えたりしている人もいます。ピアスやリングをしている男性もよく見かけます。私はヒゲを剃れとか、髪を黒くしろとか、校則のようなことを言うつもりはまったくありません。
また「派手なネイルはビジネスにふさわしくない」という声もよく耳にしますが、それよりも重要なのは「清潔かどうか」だと思います。伸ばしっぱなしで、ささくれだらけの爪よりは、ネイルで整えている人のほうが、見ていて気持ちがいいのではないでしょうか。
基本は常識の範囲内で、相手に不快を感じさせなければいい。とはいえ「常識」というのも曖昧な概念です。私はその業界のルールとか雰囲気に合わせた装いならOKだと思っています。
■「カジュアル」と「きちんとしすぎ」で迷ったら
今はオフィスカジュアル、クール(ウォーム)ビズの会社が増えました。
しかし経営に携わる人たちは、まだまだジャケットやスーツを着ているところが多い。たとえノーネクタイでもジャケットは必ず羽織っている方が多かったりします。
私は知人や友人から、私の元上司を紹介してほしいと言われて、紹介の労をとることがあります。そんなとき、当日はだいたいその会社の受付で待ち合わせをします。
あるとき、相手が姿を現した瞬間、「終わった……」と思ったことがありました。50代の大人なのに、「そのネルシャツとリュック、これから山登りに行くんですか」みたいな姿で現れたからです。
驚いた私を見て、「渡邉さん、ごめん、こんな格好で」と言われましたが、「謝るくらいならちゃんとしてきてよ」と思ってしまいました。
相手が親しい人だったり、社会人経験の浅い人だったら事前に、「ちゃんとした格好できてね」と注意していたかもしれませんが、経験を積んでいる人がそんな恰好でくるとは。頭脳明晰な経営者なのに、常識がすっぽり抜けてしまうこともあるのかと唖然としました。
ほかにも、夏に黄色のTシャツに赤の短パンで現れた人もいます。彼が前を歩いて行くのが見えましたが、声をかける気にもなれず、30メートルくらい後ろをずっと歩いていました。もしかしたらどこかに寄って着替えるかもしれないと期待していたのですが、ついにそのまま会社の中に入っていってしまいました。

ファッションに悩んだときは、たとえ堅苦しいと思われたとしても、「きちんとしすぎ」のほうに重点を置いたほうが後悔せずに済むでしょう。
■相手がTシャツ短パンでも
世界的なスポーツブランドやIT企業に行くと、社員はTシャツ短パンです。だからといって、こちらもTシャツ短パンでは行きません。相手がTシャツ短パンであったとしても、こちらがスーツを着ているぶんには失礼ではないからです。
また、重い荷物を持ち歩くのにリュックは便利ですが、目上の方や得意先を訪問するときだけはカジュアルなデザインのものは避けたほうがいいでしょう。
■女性の「肌見せ」は控える
男性のビジネスにおける服装は、白いシャツにダークカラーのパンツ、というように一定のパターンがあります。だから迷ったときに何を着ればいいかがわかりやすいのですが、女性のファッションアイテムは種類が多いぶん、何を着るかがなおさら難しいところがあります。
女性は男性よりも服装の自由度が高いということは、逆にいうとあまり厳しいルールがないということでもあります。したがって基本的にそれほど難しく考える必要はないと思っています。
しかし、一つだけ気をつけたいのが、「肌が露出しない服を着る」ということ。
夏はノースリーブがNGの会社もありますし、足の指が出るようなサンダルも禁止になっていることも。
服装規定のない会社だとしても、例えばキャミソールで出勤して、急に誰かと会うことになったようなときは、ジャケットやカーディガンなどを羽織って肩を出さないようにするのがいいでしょう。

また女性の襟ぐりが開いた服は、背筋を伸ばしているときは気にならなくても、お茶を出したり書類を配ったりするときに前かがみになるため、胸元が見えそうになることも。そういう服であるということは、普通に試着をするだけではわかりません。試着のときにいろいろな動きをしてみることが必要だと思います。
■男性も注意が必要
ここまで女性について書いてきましたが、男性も注意が必要です。そもそも男性のビジネスの服はあまり肌が見えないようになっていますが、脚を組んだときにズボンの裾とソックスのすきまから脛がチラッと見えることがあり、これはビジネスシーンのスーツスタイルではNGとされています。
仕事の場で肌を見せないほうがいいのは、女性だけではなく男性も同じですね。
■清潔感は「三つの元」から
清潔感って、大事ですよね。男性は「三つの元」に気をつけると、清潔な感じになります。その三つの元とは、「襟元、袖元、足元」。
ワイシャツの襟元、つまり首の皮膚と接する部分が垢で黒ずんでいたり、皮脂の黄ばみがあったりすると、「この人ってそういう人なんだな」と思ってしまいます。仮にその人に優れたところがあっても、不潔さで台無しになってしまうのが恐ろしいところ。
シャツの袖のボタンもほつれやすいところです。
ボタンが取れかけているのに気づかないまま過ごしていると、一気にだらしない感じに。
また足元は汚れやすい部分だけに、特に清潔さに気を配りたいところです。仕事で人の家やお店のお座敷に上がる機会の多い人は、足そのものを清潔にしておくべきなのは言うまでもありません。
■靴はデザインよりも手入れ
靴については、どういうデザインや色の靴を履くかよりも、いかに手入れをするかのほうが大事だと私は思います。
靴の先が極端に尖っているような流行の靴でも、その業界や職場において許容範囲内だったらかまわない。それよりちゃんと汚れを落としたり、磨いたりして手入れすることのほうが大事です。
例えば、靴のかかとが極端にすり減っていたりすると、階段をのぼるときに後ろからくる人の視線の高さに靴があるため目につきます。
女性の足元で気になるのは、ヒールのかかとのゴムがとれて、一歩踏み出すごとにカツカツと音がすること。本人はそんなつもりがなくても、足音の大きな人に真後ろを歩かれると、急き立てられるような気がしてしまうことも。
「大きな足音を社内で立てないような靴にすること」と服装規定で定められている会社もあります。そういう会社の人たちは、相手の立てる足音にも敏感です。
見た目だけでなく、自分の立てる物音にも気を配れたら言うことなしです。


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渡邉 華織(わたなべ・かおり)

セクレタリーズ アドバイザー、お福分けコンシェルジュ

秘書歴30年以上。上場企業からスタートアップまで多岐にわたる企業の経営者のサポートを継続しながら、秘書コミュニティ「セクレタリーズ」を運営。テレビ朝日『七人の秘書』、スピンオフドラマ『ザ・接待~秘書のおもてなし~』の秘書監修なども行う。

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(セクレタリーズ アドバイザー、お福分けコンシェルジュ 渡邉 華織)
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