■建築費の上昇傾向は再び明確になっている
新築住宅の価格は、土地取得費、建築費、そして分譲会社の経費と利益を合計して、分譲戸数で割った金額が販売価格になる。2025年4月現在、そのいずれもが上昇傾向であり、今後の当面の間、新築住宅の価格アップは避けられない見通しだ。
まず、円高などによる資材高、人材難による建築費の高騰が再び深刻化している。図表1にあるように、建設工事費デフレーターは2024年の後半には横ばいに転じたものの、2024年末から2025年に入って上昇傾向が強まっている。建設物価調査会の調査でも鉄筋コンクリート造のマンション、木造住宅ともに工事原価は、前年同月比5%程度の上昇が続いていて、下がる気配はなく、住宅価格の押し上げ要因となっている。
実際、不動産経済研究所のデータでは、首都圏の新築マンション平均価格は、2025年2月は7943万円で、前年同月比11.5%の上昇となっている。なかでも東京23区は1億0474万円と1億円台が続いている。平均的な会社員ではとても手が届かないレベルになりつつある。
■ローンが1割増えると返済額も1割増える
建築費アップがどのように影響するのか、価格上昇によって住宅ローンの借入額が増えた場合の負担額の増加を試算してみよう。35年元利均等・ボーナス返済なし、金利1.0%の条件で住宅ローンを利用する場合の毎月返済額は図表2のようになる。
借入額5000万円の毎月返済額は14万1142円で、年間の返済額は約170万円だ。それが、建築費が上がった結果、住宅ローンの利用額を5500万円に増やさざるを得ない状態になると、毎月返済額は15万5257円、年間では約186万円の負担になる。
さらに借入額が6000万円になると月額17万円近くの負担で、5000万円に比べて2割の負担増になってしまう。そうなると、「とても返済できない」と諦める人たちが多くなるのではないだろうか。
■2025年は住宅ローン金利の上昇も本格化
しかも、2024年から2025年にかけては住宅ローン金利の上昇が本格化しており、ますます購入を難しくしている。2024年までは、専ら長期金利に連動する固定金利型のローン金利の上昇だったが、2025年になって、日銀による短期金利の引き上げによって、短期金利に連動する変動金利型の上昇が始まっており、今後はそれが加速しそうな見通しだ。
大手銀行の2025年当初の変動金利型の金利は、0.3%台から0.6%台だったのが、2025年4月には0.5%台から0.7%台に上がり、景気が順調に推移すれば、年内にはもう一段の金利引き上げが見込まれ、変動金利型の金利上昇に弾みがつく可能性がある。
変動金利型の金利が上昇傾向とはいえ、固定金利型ローン金利は1%台から2%前後となっていて、これだけの差があると返済額が大きく違ってくる。変動金利型には、金利上昇による返済額増額のリスクがあるとはいえ、変動金利型ローンを使いたくなるのが人情というものだろう。
住宅金融支援機構などの調査では、住宅ローン利用者の7割から8割は変動金利型の住宅ローンを利用しているだけに、変動金利型の金利が上がると、住宅ローンを利用してマイホームを取得しようとする意欲がそがれることになるのではないだろうか。
■金利上昇で住宅ローンを断られる人が増える⁉
金利上昇でどれくらい返済負担が増えるのかは図表3にある通りだ。借入額5000万円当たりの毎月返済額は金利0.5%では12万9792円で、年間では約156万円になる。それが金利1.0%に上がると毎月14万1142円で、年間約169万円だから8.7%の増額になる。
返済負担が増えれば、年収が変わらない限り借入可能額が減少して、購入に必要な金額の借入れができなくなったり、場合によっては借入れを断られる事態も想定される。
国土交通省の、住宅を取得した人たちを対象とした調査である「住宅市場動向調査」では、1割前後の人が融資を断られたり、減額を申し入れられたりする経験を持っているが、金利が上がればその割合が高まるのではないだろうか。
■郊外のリーズナブルな物件が減少する
2025年のこうした変化に対して住宅市場はどのような影響を受けるのだろうか。三菱UFJ信託銀行不動産コンサルティング部の「不動産マーケットリサーチレポート」では、マンションや戸建住宅のデベロッパーを対象に、建築費の上昇や金利アップの影響に関する調査を行っている。
それによると、建築費の上昇については図表4のようになっている。都心部の駅近での素地(マンション用地)の仕入れを増やすとするデベロッパーが多く、反対に郊外分譲住宅では仕入れを抑制する傾向が強い。
特に郊外分譲住宅の駅遠に関してはほとんどのデベロッパーが仕入れを減らすとしている。郊外部の駅遠のリーズナブルな価格帯のマンションの購入を考える人たちはギリギリの資金繰りの人が多く、建築費の上昇などで価格を引き上げると簡単には購入できなくなる。それだけに、価格を上げるのは難しいため、販売を減らさざるを得ないと考えるデベロッパーが多いわけだ。
■都心の駅近は増えるが価格はますます高騰
デベロッパーとしては郊外部駅遠の採算性が悪化、物件数を絞らざるを得なくなる。そのため、今後は比較的リーズナブルな価格帯の郊外でのマンション購入が難しくなる可能性が高いので、リーズナブルな価格帯のマンションを考えている人は、物件数が減る前に取得を急いだほうがいいかもしれない。
対して都心の駅近に力を入れるデベロッパーが多い。都心の駅近は価格の高騰が続いていて、1億、2億といった高額物件が中心だが、このエリアの高額物件を狙っている層は高額所得者や富裕層がメインで、多少の価格上昇には影響を受けない。むしろ価格アップは資産価値の上昇につながるとして購入意欲が高まる可能性が強い。だからこそマンションデベロッパーは、都心部駅近に力を入れるわけだ。
建築費の上昇に伴う価格上昇は、新築マンションの立地に大きな影響を与えるので、今後に注意しておきたい。
■金利上昇で3社に2社が「マンション供給は減る」
住宅ローンの金利上昇については、図表5のような影響がある。これは、住宅ローンの金利が0.5%上がった場合、新築マンション市場にどのような影響が出るかを聞いた結果で、「供給戸数が減少する」とするデベロッパーが合計65%と、ほぼ3社に2社に達した。先に見たように、ローン金利上昇で消費者の負担が増えて購入意欲が減退、売り上げの減少が想定されるため、販売戸数を抑制せざるを得ないと考えるデベロッパーが多いわけだ。
消費者の立場からみれば、金利の上昇で負担が増える上に、物件数が減って選択肢が狭まるというダブルパンチになりかねない。
取得を考えるのであれば、そうなる前に購入に踏み切るか、逆にじっくりと腰を据えて取り組むか、これからは判断が難しくなりそうだ。
建築費と金利の上昇、住宅市場の在り方に大きく影響しそうなので、変化の方向性を見極めながら行動する必要がある。
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山下 和之(やました・かずゆき)
住宅ジャーナリスト
1952年生まれ。
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(住宅ジャーナリスト 山下 和之)