生活習慣病にならないためには、普段の食生活が重要だ。自身も糖尿病歴があり糖質制限食を推奨する江部康二医師は「果物に含まれる果糖は、老化や血管障害の要因となるAGEsを増やしやすいので避けるべきだが、唯一食べてもOKの果物がある」という――。

※本稿は江部康二『75歳・超人的健康のヒミツ』(光文社新書)の一部を再編集したものです。
■糖とタンパク質が結合、AGEsが老化を早める
近年、医学界において、AGEs(終末糖化産物)が注目されています。
「Advanced Glycation End Products」の頭文字をとって、AGEsです。
では、「糖化」とは何でしょう?
糖化とは、ブドウ糖・果糖などの単糖が、直接、体内のタンパク質などに結合する反応のことです。
糖尿病の管理指標として一般的に使われている「HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)」は、糖化したヘモグロビンのことです。赤血球の中にあるヘモグロビンというタンパク質に、血糖がへばりつくわけです。
高血糖であるほどたくさんへばりつき、HbA1cが高値となるので、糖尿病の検査として便利な存在なのです。
HbA1cは、タンパク質と糖が結合する「糖化反応系」の初期段階で作られます。
さらに糖化反応が進むと、最終的に「終末糖化産物(AGEs)」というものが生成されます。HbA1cは、まだ分解・代謝できる段階ですが、AGEsの段階になると、分解代謝が困難となります。
■血管がボロボロに…“糖によるダメージ”が進む仕組み
AGEsが注目されるようになったのは、さまざまな糖尿病合併症の元凶と考えられるようになったからです。そのプロセスは多様ですが、最もわかりやすいのは、AGEsが血管の内壁にたまり、動脈硬化を引き起こす場合でしょう。

動脈硬化によって障害を受ける血管の部位によって、生じる糖尿病合併症は異なりますが、いずれも血管病といって過言ではありません。
血管壁のAGEsは消えない借金であり、「高血糖の記憶」と呼ばれています。
AGEsによる合併症発症のリスクは、「血糖値×持続期間」で決まります。高血糖であればあるほど、そして高血糖である期間が長ければ長いほど、AGEsの生成、蓄積量は多くなるからです。
したがって、長年糖尿病を患っている患者は糖化が生じやすく、AGEsの蓄積も、糖尿病でない人に比べて必然的に多くなります。
その結果、三大合併症といわれる、糖尿病網膜症、糖尿病神経障害、糖尿病腎症や、大血管合併症である心筋梗塞や脳梗塞にもなりやすいのです。
このように、コントロールの悪い糖尿病は、血管の老化が早く進む病気ともいわれてきました。
なお、食事由来の外部からのAGEsが、動脈硬化に影響するか否かについては、世界中で論争中です。
■人類が火を使い始め、食べ物由来のAGEsは激増したが…
私自身は、「体内で産生されるAGEsは、動脈硬化の元凶であるが、食事由来の外部からのAGEsは、ほとんど動脈硬化への影響はない」と考えています。
その大きな歴史的な証拠として、「人類が火を使い始めてから、食べ物由来のAGEsは激増しているが、人類の寿命は延びている」ということがあります。
ちなみに、火の使用をはっきり伝える最も古い遺跡は、焼けた種(オリーブ、大麦、ぶどう)、木、火打ち石が発見された、75万年前のイスラエルのゲシャー・ベノット・ヤーコブ遺跡です。
■果物に多く含まれる“甘さ”に注意が必要な理由
果物はヘルシーなイメージがあり、食べてもよい、もしくは積極的に食べるようにいわれることが多いのですが、はたしてそうでしょうか?
果物に含まれる糖質は、果糖・ブドウ糖・ショ糖などです。
果物と果糖について、その安全性を検討してみます。
果糖(フルクトース)とブドウ糖(グルコース)は単糖類です。
ショ糖(砂糖の主成分)は、「ブドウ糖+果糖」です。
ショ糖も、人体に吸収される時は、ブドウ糖と果糖に分解されて吸収されます。
なんとなく、果糖もブドウ糖も似たようなものと思いがちですが、じつは、化学的にも栄養学的にも、果糖(フルクトース)はブドウ糖(グルコース)と極めて異なる物質です。
ブドウ糖は、体内に吸収されたあとの代謝は、ほぼ解明されています。
一方、果糖は、生体内に入ってからの動態の詳細がほとんど判明していません。唯一、果糖がAGEsを極めて生じやすいことだけは確定しています。
帝京大学医学部の山内俊一教授は、
「血液中の糖は、エネルギーとして使われる一方、体のたんぱく質と結びついてAGEs(終末糖化産物)を作り出し、毛細血管を傷つけるなど“毒性”を持つ。果糖は体内のたんぱく質と結びつく力が理論上、ブドウ糖の約100倍であることが分かってきた」
と述べておられます(*1)。
また、『食と医療』では、山内教授は、「試験管内の実験では、果糖は体内のタンパク質と結びつく力が、ブドウ糖の数十倍に達する」とされています(*2)。

(*1)『日経ヘルス』日経BP、2013年10月号

(*2) 山内俊一「フルクトース(果糖)の代謝と影響」『食と医療』(講談社)2017 SUMMER ― FALL Vol.2.
■果物に含まれる果糖の“代謝されにくさ”はやっかい
果糖が脂肪合成を誘導しやすい糖質であることは、以前から知られています。


ヒトにおいて、高果糖食が肝臓での脂肪合成を促進し、血中の中性脂肪濃度を上昇させ、インスリン抵抗性を生じることが報告されています。
果物中の果糖は、GLUT(フルクトース輸送体)によって吸収されますが、果糖のGI(Glycemic Index:食後血糖値の上昇を示す指標。食品に含まれる糖質の吸収度合いを示す)は20と低く、血糖値はほとんど上昇させません。
果糖は血糖にはほとんど変わらずに肝臓まで運ばれ、ブドウ糖代謝経路に入ります。
この時、果糖は、ブドウ糖より急速に代謝されるという特徴があります。果糖は、ブドウ糖よりも数十倍から100倍、AGEsを生成しやすいので、急速に代謝する必要があるのかと思われます。つまり、毒消しのようなものですね。
果糖は、肝臓での脂肪合成酵素群の発現を促進させる作用も持っており、急速に代謝されることと併せて、とても中性脂肪に変わりやすいのです。
このように、果糖は、中性脂肪をためやすく、肥満しやすい性質を持っていますし、AGEsを生じやすいので、現代では果物は、NG食材といえます。
特に、品種改良により、糖度が高く、大きくなった果物には、ショ糖・ブドウ糖・果糖のすべてが多く含まれています。
したがって、血糖値を大きく上昇させ、AGEsも多く生じるので、危険な食材です。
なお、果物の中でアボカドだけは、100g中に糖質がわずか0.9g(2023年のデータでは0.8g)なので、糖質制限食ではOK食材です。

■ジュースや清涼飲料水に潜む“液体の糖”の落とし穴
また、主にトウモロコシが原料の高フルクトースコーンシロップは、砂糖よりもコストが安価なので、米国で大量に使用されるようになりました。
たとえば、コーラなど清涼飲料水の原材料の1つとして、「果糖ブドウ糖液糖」がよく使用されます。これは、デンプンを酵素でブドウ糖(グルコース)に分解し、さらにブドウ糖の一部を酵素によって果糖(フルクトース)に変えた、液状の糖です。
果糖ブドウ糖液糖での果糖の含有率は、50%以上90%未満です。
当然、高フルクトースコーンシロップも、ブドウ糖の100倍くらいAGEsを生成しやすく危険な食材です。
■アボカドは果物で唯一、糖質制限食でもOK
果糖(フルクトース)のほうが多いと「果糖ブドウ糖液糖」、ブドウ糖のほうが多いと「ブドウ糖果糖液糖」です。
「果糖ブドウ糖液糖」は果糖が多いので、血糖値はやや上昇させにくいですが、AGEsを生じやすく、肥満しやすいという特徴があります。
「ブドウ糖果糖液糖」は、当然、血糖値を急速に上昇させやすいです。
いずれにせよ、「こんなもの要らない」食材です。
結論です。
1)現代の果物は、血糖値を大きく上昇させるので、糖質制限食ではNG食材です。

2)果糖は、血糖値はほとんど上げないのですが、ブドウ糖の数十倍から100倍、AGEsを生じやすく、さらに肥満の元凶なので、そもそもNG物質です。
現代の果物は、その果糖を多く含んでいるので、危険な食材です。

3)果物で唯一、アボカドは、糖質制限食でOK食材です。

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江部 康二(えべ・こうじ)

医師

1950年京都府生まれ。高雄病院(京都市)理事長。日本糖質制限医療推進協会代表理事。74年京都大学医学部卒業。京都大学胸部疾患研究所を経て、78年から高雄病院に勤務。2001年から「糖質制限食」による糖尿病治療に取り組む。02年、自らの糖尿病発症を機にさらに研究に力を注ぎ、「糖質制限食」の体系を確立。05年『主食を抜けば糖尿病は良くなる!』(東洋経済新報社)で話題となり、以降、糖質制限のパイオニアとして活躍中。

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(医師 江部 康二)
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