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■「喫茶店離れ」が起きている?
日本の「喫茶店消滅」に歯止めがかからない。
帝国データバンクによれば、2024年度に発生した「喫茶店(カフェ)」の倒産は今年2月までで66件。前年度から1.5倍に急増した23年度(68件)を上回るペースで増えているという。
全日本コーヒー協会の調査資料では、全国の喫茶店数は1981年の15万4630をピークに減少をはじめ、91年には12万6260、2021年には5万8669まで減っている。この40年で10万近い喫茶店が日本から消滅したことになるが、倒産件数の急増によってこのペースにさらに拍車がかかる恐れがある。
「寂しい話だけれど、全国どこにでもあるコンビニに行けば挽きたてのコーヒーが買えて、自宅でもいろんな家電で美味いコーヒが飲めるんだから時代の流れだよね」と納得する人も多いかもしれない。
ただ、日本人が「喫茶店・カフェ」に足を運ばなくなったのかというと、そんなことはない。休日ともなれば行列ができる人気喫茶店やカフェも少なくない。
その代表が米カフェチェーン「スターバックス」である。
■日本のスタバは健全に成長している
本国アメリカでは他ファストフードと代わり映えしないフードメニューやアプリの使い勝手の悪さなどで消費者からの評判が芳しくなく、業績も苦戦しているスタバだが、100%子会社のスターバックスコーヒージャパンは多くの客で賑わっていて「絶好調」なのだ。
国内1991店舗(4月1日現在)は日本のカフェチェーンのトップ。しかも、ただ店舗が多いわけではなく、それぞれの店舗がしっかりと稼いでいる。
下の記事によれば、1店舗当たりの売上高は1億6200万円で、23年比で105.4%。つまり、外食チェーンに多い「とにかくバンバン新規に店をオープンさせていく」という強引な成長スタイルではなく、「既存店もこれまで以上に稼げるようさせていく」という健全な成長スタイルなのだ。
※ITmediaビジネス〈日本のスタバは、なぜ「絶好調」なのか 米国本社が不調なのに、成長を続けられているワケ〉
さて、そこで気になるのは「喫茶店」が閑古鳥でバタバタと倒れていくなかで、なぜスタバには客が殺到しているのかということだろう。そこで「アンチ」の方たちがよく持ち出すのが「承認欲求」である。
■若者が嫌う「コスパ最悪」なのに…
「あそこで長居する客は“スタバでパソコン開いているオレ”に酔っているだけでしょ」
「列に並んで高いだけのコーヒーを買う人たちは、スタバのカップで飲んでいる自分を周囲にアピールしたいだけ」
スタバ愛好家が聞いたら、「なんでそんなにひねくれているの?」と驚くだろうが、今の日本には一定数、こういう人たちがいらっしゃる。ではなぜスタバを憎むのかというと「コスパが悪い」からだ。
マックが値上げしただけで「高い!」「もう行きません」と文句を言う人たちがたくさんいるように今の日本は「いいものを安く」という価値観を最優先する消費者が多くいる。こういう人からすれば、コンビニで挽きたてのカフェラテLが250円前後で飲めるご時世に、その倍以上の価格で、しかもレジで列に並ばなくてはいけないスタバは「コスパ最悪」なのだ。
にもかかわらず、スタバはいつも混んでいるということは、この店にいる者は純粋に「コーヒー」を味わいにきているのではないと考える。そこで「承認欲求や虚栄心を満たすため」という説へのめり込んでいるのだ。
■求められているのは味ではなく「空間」
ただ、個人的にはスタバが活況なのはそういう「現代人の心のスキマをお埋めします」的な話ではなく、日本人が「喫茶店」に求めているポイントを、手抜きすることなくしっかり押さえていることが大きいと思っている。
それは何かというと「ゆっくり休憩・リフレッシュできる空間づくり」だ。
先ほど取り上げたコスパ至上主義からすれば、喫茶店やカフェというのは「安くて美味いコーヒーを飲む店」となるだろうが、実は喫茶店愛好家の多くはそういう認識ではない。
十六銀行グループのシンクタンク・十六総合研究所(岐阜市)が2023年10月、中部地方(愛知県と岐阜県)の840人および全国420人の計1260人に聞いた「喫茶店・カフェの利用に関する消費意識調査」を公表した。
その中で「利用目的」を聞くと、最も多いのは「休憩・リフレッシュ」(23.0%)。次いで「食事・軽食をとる(モーニングを除く)」(18.2%)と続き、「おいしいコーヒー等を飲む」と答えたのはわずか11.5%にとどまっている。
■競合チェーンとスタバの決定的違い
データ・リストの販売や調査代行などを行うナビット(東京都千代田区)が2022年3月、男女1000人を対象に行った「喫茶店やカフェの利用」に関するインターネット調査も同様だ。
「喫茶店・カフェへ行く際、一番重要視している点は何ですか?」と質問したところ、最も多くの人答えたのは「ゆっくりできそうか」(41.5%)であり、「コーヒーの味」を挙げたのは8.8%だった。
つまり、日本人の多くは喫茶店・カフェに求めているのは「安くて美味いコーヒー」などではなく、「ゆっくり休憩・リフレッシュできる癒しの空間」と「小腹を満たす軽食」ということなのだ。
この現実を踏まえて、ご自分の地域にあるスタバの様子を思い出していただきたい。店舗によって違いはあるが基本的にスタバの店内は席と席の間も広く、ソファなどがあってゆったりしていないか。同一地域内にある競合のドトールやベローチェ、タリーズなどと比較すると、テーブルも大きく、店内も広く使われているというケースもあるのではないか。
■ニーズに対して「手抜き」しない結果
実はこれはスタバがかねてから掲げる「サードプレイス」というコンセプト戦略によるものだ。
家庭(ファーストプレイス)や職場(セカンドプレイス)でもなく、気軽に人々と集うことができる場所をつくることで、コーヒーを提供する以外の「価値」を顧客に提供するというものだ。
また、もうひとつスタバの特徴としては、季節のフラペチーノやケーキなどの「食事・軽食」に力を入れている点だ。スタバにいるとたまにお店のスタッフから「これ今度発売されたケーキです、ぜひお試しください」という感じで試食を配られるはずだ。
ここまで言えばもうおわかりだろう。スタバが活況なのは、喫茶店・カフェ愛好家の多くが求めていることをしっかりと体現していることが大きい。「やるべきことを手抜きすることなくやっている」だけの話なのだ。
■小さな街の喫茶店には限界がある
そして、実はこれは「喫茶店消滅」の大きな要因でもある。冒頭で触れた帝国データバンクの調査でも、倒産した喫茶店のうち8割以上が資本金1000万円未満の中小零細店だった。つまり、個人経営の喫茶店・カフェだ。
そうなると「ゆっくり休憩・リフレッシュできる癒しの空間」と「小腹を満たす軽食」という消費者の求めるものを提供することは難しい。
まず、資本がないので「広い店」が持てない。その限られたスペースで商売として成立させるには、できるだけ席を多くしてそれなりに回転もさせないといけない。
また、喫茶店・カフェを個人で経営しようという人は基本的にコーヒーにこだわりがあって、「美味しいコーヒーを提供したい」というモチベーションが強い。しかし、それを求めている客はわずか1割程度だ。実際は、客を飽きさせない新作パフェや季節を感じる軽食メニューの開発が重要になってくる。
■喫茶店・カフェ愛好家はスタバを目指す
そこに加えて、個人経営の喫茶店・カフェは人によっては「癒しの空間」にならないという大きな問題がある。
この業態は、いわゆる「マスター」の世界観、雰囲気、キャラクターなどに基づく属人的ビジネスだ。そこにハマった人は「常連客」になって何度でもリピートするが、そこにハマらない人からすればかなり居心地の悪い空間だ。
例えば、おしゃべり好きなマスターから「仕事何してんの?」「最近の石破はダメだね」なんてガンガン話しかけられたら、休憩もリフレッシュもできない。店に入ったら常連客だらけで、マスターと友達のように盛り上がっている中で、1人だけ孤独感を味わいながら急いでコーヒーを飲み干す、なんてこともあるだろう。
もちろん、すべてがそうではないが、個人経営の喫茶店・カフェというのは消費者のニーズと、経営者側が提供したい価値に大きなギャップが生じやすいものなのだ。
スタバの場合、この問題が起きることは少ない。「安くてうまいコーヒー」を求める人はコンビニコーヒーやドトールなど安価なチェーンに行くので、この店にくる人は「ゆったりとした空間で休憩・リフレッシュをしたい」と目的意識が明確だ。
そして、「サードプレイス」を掲げる店内はそういうニーズを満たすものになっている。休憩やリフレッシュのお供になりそうなスイーツや軽食も用意されている。
だから、喫茶店・カフェ愛好家はスタバを目指すのだ。
■日本人にとってコーヒーは「おまけ」
「なんでスタバが繁盛するのかわからない」と首を傾げる人はこの店を「コーヒーを飲む店」と見ているからだ。実は繁盛しているのは「休憩・リフレッシュできる癒しの空間」であって、そこでコーヒーも売っていると捉えたほうがいい。
実は日本人にとって「喫茶店」というのはそもそもこういうものだった。江戸時代に流行した「水茶屋」というのは、各店の評判の「茶汲み女」に会えるというコンセプトがメインで、そこで茶も飲めるというものだった。大正時代の「カフェー」も同じだ。
その後にあらわれる「ジャズ喫茶」「シャンソン喫茶」「歌声喫茶」「ノーパン喫茶」を見てもわかるように、日本人にとって喫茶店は「コト消費」を提供する場だったのだ。
「いや、純粋にコーヒーを楽しむ純喫茶もあっただろ」というが、全国で15万ほど喫茶店があった時代の純喫茶の客の多くはタバコを楽しみに来ていた。つまり、ちょっと見方を変えれば純喫茶も「タバコ喫茶」というコト消費だったのだ。
■成長に必要なのは「付加価値」である
そのような意味では、「サードプレイス」を提供するスタバというのは、日本の伝統的な喫茶店の系譜にあると言ってもいい。
日本の歴史を振り返っても、喫茶店・カフェの経営を「コスパ」で語るのは誤りだ。庶民的な価格の街の喫茶店がバタバタと倒れるなか、高価格帯のスタバが繁盛している現実からわれわれが学ぶべきは、「成長に必要なのはコスパではなく付加価値」ということだ。
「安くてうまい」に執着しすぎる国民は、労働力も買い叩いていくので、どんどん貧しくなっていく。
「どうすればもっと安く売れるか」ではなく、「どういう価値を付ければもっと高く売ることができるのか」という考え方に変えなければ、日本の衰退に歯止めがかからないのではないか。
(初公開日:2025年4月7日)
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窪田 順生(くぼた・まさき)
ノンフィクションライター
1974年生。テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者等を経て現職。報道対策アドバイザーとしても活動。数多くの広報コンサルティングや取材対応トレーニングを行っている。著書に『スピンドクター“モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)、『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)、『潜入旧統一教会 「解散命令請求」取材NG最深部の全貌』(徳間書店)など。
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(ノンフィクションライター 窪田 順生)