■定年前にキャリア集大成の花火をぶち上げたい!
「主人公に起こる出来事がリアルすぎて心がザワザワする」
「フィクションとわかりつつもセリフの一つひとつが胸に沁みる」
今、ドラマウオッチャーの間で話題を呼んでいるのが、「続・続・最後から二番目の恋」(フジテレビ、以下「続・続・最後」)だ。
小泉今日子と中井貴一のダブル主演。2012年に第1シリーズ、14年に第2シリーズが放送された。どちらもロケ地の神奈川県・鎌倉市に“巡礼者”が出没するほど、好評を博した。過去2シリーズは木曜の10時に放送されていたが、今回は局の看板である“月9”に格上げされた。
かつての月9ドラマのような高視聴率は望めないが、見逃し配信のTverでは視聴ランキング上位に入っている。
小泉演じる吉野千明(千明)は59歳、中井演じる長倉和平(和平)は63歳というアラカン世代になり、前シリーズのメインの視聴者層と年齢がほぼ重なる。それゆえ、なおのことストーリーへの共感度が高くなるのだろう。
中居正広氏や石橋貴明氏による性加害問題、組織としてその事実の隠蔽を図ったことで、多くのスポンサーが次々と撤退したフジテレビにとって、ほとんど唯一の明るい話題と言えるかもしれない。
さて、「続・続・最後」のストーリーを少しだけ紹介したい。
千明はテレビ局のジェネラルプロデューサー。
和平は鎌倉市役所を部長職で定年退職した後、再雇用でヒラ職員に。かつての部下が上司になり、その部下から無理難題の解決を押し付けられることに。しかし、人から頼られると嫌とは言えない(むしろ喜びを感じるタイプ)性格の和平は、まんざらでもない様子。なぜか未亡人にモテる。
そんなとき和平の同期が亡くなり、千明の上司も突然死。死がすぐ近くに忍び寄っていることを実感する。
■ハンサムなイケおじとの邂逅で、テンションアップ
千明が動でアクティブ派とするなら、和平は静で実直。正反対のキャラゆえか相性は悪くない。
そんななか、千明は三浦友和演じる、ハンサムなかかりつけ医に淡い恋心を抱く。これでテンションが上がった千明は「定年も還暦もどんと来い!」と和平に宣言。この二人の不思議な関係性に、主に女性視聴者が共感している。
■体の関係なし、何かことが起きれば寄り添いあえる関係がいい
今シリーズの第1話では2020年のコロナ禍で千明が罹患するシーンがある。その時、和平は隣家の千明宅のへすぐさま行き、一晩中彼女を見守る。独身女性にとって、こんなに安心できる存在の男性がいるだろうか。
50代半ばのバツイチ女性A子さんはこの展開を踏まえ、自身の人生についてこう話す。
「たぶん独身を通すような気がするけれど、完全にパートナーを諦めたわけじゃないです。
A子さんは千明と同じマスコミ業界で働く。老後の生活に不安を覚えるが、勝手気ままな暮らしを送ってきたので、この先誰かと共同生活をするのは難しいと考える。千明と和平のようなスープの冷めない距離で、肉体関係のないステディがほしいという。
しかし、そううまくいくものなのか?
閉経後の女性の中には、さっぱり性欲がなくなる、あるいは交渉があっても最小限に抑えたい人も少なくない。一方の男性側は、アラカンとはいえ(否、70~80代でも)、女性との性交渉を求める男性もいる。これは筆者周辺の人々の声を基にした仮説だが、男女の性に対する考え方の違いは50代以上になるとより鮮明になる。
では、A子さんのような願望を男性はどう思っているのか。60代で結婚歴のない公務員のB夫さんはこう言う。
「若い頃と違って、パートナーに精神的な安心感に重きを置いています。でも長年暮らした夫婦ならいざ知らず、独身同士で付き合っていてセックスがないなんて、考えられないです」
「精神的な安定感」の他に、付き合う女性に求めるものは何だろうか。根掘り葉掘り聞き出していくと、出てくる出てくる。本心は「料理上手、家事上手、できれば床上手で優しい人がベスト」と、まあ、昭和の価値観のままだ。
この聞き取りの概要をAさんに伝えたら、こう返ってきた。
「老後に一緒に暮らすならそんな面倒くさい男じゃなくて、女友達がいいかもしれないです。女性同士なら共感し合えるし、恋愛にありがちな変な駆け引きをしなくてもいいし」
そう、何歳になっても、恋に駆け引きは存在する。これがまた大人の男女の関係性の障壁となる場合もある。
■婚活アプリで繰り広げられるのは、イニシアチブ先取り合戦
B夫さんは目立った恋愛歴はないものの、なぜか「自分はイケてる」と思っているフシがある。彼がふだん会話する異性は、バーやスナックなどの接客業の女性。実際は年相応でも、プロの女性からの「若く見える」だの「シブい」だのという社交辞令を鵜呑みにしている可能性が高い。
「結婚はしたいんです。
ドラマ内で、日常生活の中で自然に未亡人にモテてる和平とは大違いのようだ。しかも、B夫さんは仮にデートにこぎ着けても、お茶代は割り勘にしている。付き合えば、ファミレスで1000円程度の定食ならば奢るのは可能。ただし、「会う」だけなら、たとえコーヒー1杯でもきっちり割り勘を貫くB夫さん。定年後の給料が大幅に下がることを考えて、無駄な出費は1円でも抑えたいからだそう。このような金銭感覚に加え、上から目線の持ち主でもある。
幸運にもアプリで女性と会えるとなった際も、落ち合う場所も、自分の住所の近くを指定してしまう。「よっぽど若くてかわいい子ならば考えますよ。でもそうでもない相手の家の近くまで僕が行くのは、“負け”な気がするんですよ」
何が負けなのかはわからないが、ただ会うだけなのに、奢るなんてバカらしいそうだ。「イケてる自分」はもっと価値があると内心思っているのだろうか。前出のA子さんはB夫さんの言動を冷静に分析して言う。
「そういう人、意外に多いかも、です。別に奢ってほしいとは思わないけど、会う場所はせめて2人の家の中間地点か、私の家からアクセスがいい場所にしてほしいですよ。交通費を払ってわざわざ男性の家の近くまで行くのはありえない。そういう男性は一事が万事、自分本位。こっちもよほどいい条件の男性とか、好みのタイプでない限り、下手に出るつもりはないです。女も男もどっちもどっちですね。年をとると純粋な恋愛は難しいですよ」
千明と和平と同世代のA子さんもB夫さんも、パートナーを求めているがうまくいかない。前途は多難だ。
■息子のような年齢の相手に、ピュアな恋心を抱く
もうひとり、中高年の恋愛にあるよくあるパターンを紹介しよう。30歳近く年下の男性と交際しているバツ2のC子さん(50代)だ。彼女はこれまで年下の外国人男性との恋愛を繰り返してきた。
「自分が利用されていると薄々わかっていても、相手にお金が必要と言われれば、お金を渡してきたこともありました。ある男性には黙ってお金を持ち逃げされたこともあり、その時はかなりつらかったです」
そんな傷心のC子さんの前に最近現れたのが、中米出身20代Dさん。「続・続・最後」で千明がふいに恋心を抱いた医師のように、たちまちテンションがアップした。
Dさんとは外国人と交流するアプリで出会った。インスタのダイレクトメッセージでやりとりを続けた結果「そのうち日本に行きたい」と彼が言い出し、本当に来日した。「びっくりしましたが、そのまっすぐな気持ちが嬉しくて」と感激する。
DさんはC子さんの家に転がり込み、ほどなく男女の仲になる。C子さんが食住の面倒を見る代わりに、Dさんは家の力仕事、掃除や洗濯などの家事を一手に引き受けている。現状、ギブ&テイクのバランスがいい。Dさんから金銭の要求も今のところはない。Dさんは貧しいカトリックの国出身のせいか、家族想いでまめで優しいのだという。
「私を見る目に曇りがないんです。おばさんを利用してやろうとか、騙してやろうとかそんなのはないです。それに年長者の私の言うことを素直に聞いてくれるし、スポンジのように吸収してくれる。同年代の男性にはない魅力ですよね」
明らかにのめり込んでしまっている様子のC子さんだが、越えなければいけない壁がある。Dさんは3カ月の観光ビザで来日しているので、近いうちに別れがくる。その後どうなるのか。
「その時はその時で考えます。今はこの恋の喜びに浸っていたいです」
刹那的なC子さんの幸せは続くのか否か。また、次の男性を探す旅に出るのか。
「続・続・最後」のテーマは、物事は自分の人生は思い通りにはならず、つらいことや泣いてしまいたいことも多いけれど、それでも人生は愛おしい――というもの。このドラマを支持する多くの中高年も、人生の終盤で日々もがいている。そして人生を“愛おしい”ものとするためには、誰と出会って、そして自分がどのような選択をするのか、それにかかっているように思う。
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東野 りか
フリーランスライター・エディター
ファッション系出版社、教育系出版事業会社の編集者を経て、フリーに。以降、国内外の旅、地方活性と起業などを中心に雑誌やウェブで執筆。生涯をかけて追いたいテーマは「あらゆる宗教の建築物」「エリザベス女王」。編集・ライターの傍ら、気まぐれ営業のスナックも開催し、人々の声に耳を傾けている。
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(フリーランスライター・エディター 東野 りか)