収入が多いのに、借金しなければいけないのはなぜか。ファイナンシャルプランナーの横山光昭さんが相談を受けた夫婦2人に子供4人の世帯は、年収約2000万円にもかかわらず、毎月クレジットカードの支払いで首が回らない。
原因を探っていくと、異常な支出項目が次から次へと出てきた――。
■世帯年収約2000万円なのに貯金は雀の涙で、借金も
今回ご紹介するのは、会社経営者の北村さん一家の例です。北村タケシさん(仮名・42歳)は従業員が数名の貿易系の会社を経営していて、妻のミヨコさん(仮名・40歳)は夫の会社の事務を手伝っています。二人合わせて年収は2000万円近く。
そんなお二人の相談内容は、「家計管理が苦手で、どうしても貯金ができない」というもの。聞くと、貯金は相談時点で収入に比して言えば雀の涙の約100万円。お子さんが4人(8歳、6歳、4歳、2歳)いて教育費も貯めなければならないにもかかわらず、です。どういうことでしょうか?
「私は夫の会社の事務を手伝っているのですが、数字が苦手で、家計管理ができないんです。なんとか保険でつみたてはしているんですけど……」と、ミヨコさん。聞くと、クレジットカードの支払いで首が回らないのだそう。
何に使っているのか、支出の内訳を見せていただきました。
6人家族のためか全体的にボリュームがありますが、中でも大きな支出は、4人のお子さんの教育費(学費含む)が計25万円、それに次ぐのが食費20万円で、以降、被服費6万円、生命保険料4万5000円となります。
あと、これを忘れてはいけません。小遣いはタカシさん25万円と、ミヨコさん15万円でした。かなり大きい出費です。
合計すると、月の支出は119万5000円。世帯の月収は手取りにして148万円ですので、28万5000円の黒字になるはずです。
月によって変動があるとはいえ、約29万円も黒字があれば余裕で貯金ができそうです。なぜ「首が回らない」のでしょうか。
■夫はゲーム課金、妻は美容費、子どもは英語教育に…
実は、黒字になった月は、そっくりそのまま「返済」に充てていたのです。
ミヨコさんは、衣服に始まり、エステやネイル、ヘアサロンなどの美容関係に、覚えがないほどの金額をつぎ込み、タカシさんは、ゲーム課金に月10万円以上を費やしていたそう。これを、一枚のクレジットカードで決済することが常態化していました。すると、多いときで100万円単位の支払い請求書が届きます。
そこに、4人のお子さんの学費も重なります。
4人のお子さんは「全員海外で生活できるようになってほしいから」との親の思いで、上の2人は英語教育に力を入れた私立小学校に、下の2人はインターナショナルスクールに通っています。関西地方ですので、東京ほど高額ではないにせよ、4人のお子さんの学費は年間600万円はかかります。月の教育費は月25万円しか計上できず、不足額25万円を後述するように学資保険の契約者貸し付けなどから借りている有り様です。
浪費の原因はもう一つ。会社の経費とプライベートの家計を、同じ1枚のクレジットカードで管理していたことです。
北村家では、とりあえずゲーム課金もエステもネイルも、一枚のクレジットカードで決済。請求が来て払えないときに、会社から打ち出の小槌のようにお金を借り、それでも足りなければ生命保険の契約者貸付制度を利用して、お金を借りてきたというわけです。
一般的に、会社の経費とプライベートの家計は、明確に区別するためにクレジットカードや引き落とし口座を分けることが推奨されています。そうでないと、家で使う文具を、会社の経費で使ってしまうなど、公私混同して経費と家計がごっちゃになる恐れがあるからです。
会社の水道光熱費などは会社のカードを使い、会社の口座で引き落とさなければ、家計から補填してしまうことだってあり得ます。もちろんその逆も。カードと引き落とし口座を分けないことで、家計に影響が出てしまうことは十分考えられます。

■クレジットカードの支払いのために会社や保険から借金
前述の通り、黒字が出ていて返せる月は、月20万~30万円を返します。それでも足りないときは、学資保険や会社から借りたりして、やりくり。
多いときで、会社からは300万円、学資保険の契約者貸し付けから100万円、合計400万円を借りていたことも。
学資保険の契約者貸付というのは、保険の契約者が、解約返戻金の一定範囲内で、保険会社からお金を借りることができる制度です。要は、自分が積み立ててきたお金から、金利が乗っかった状態で貸してもらうこと。
その金利は、年利1.5~5%が相場です。冷静に考えれば、自分が積み立てたお金に金利を払うのはちょっとバカげていますね。ましてや、浪費でできた借金(クレジットカード)を支払うために、会社や自分のお金から借金をするのもどうかと思います。
なぜこれほど、タガが外れたような使い方をしていたのでしょうか。
ミヨコさんの弁。
「夫は仕事が忙しくて、会社の事務を手伝っている私が、家のことを全部ワンオペでまわしています。下の子2人は車で1時間かかるインターに通っているから、送迎しますよね。
英語でプレゼンする授業の前は宿題に加えてプレゼン準備のサポートもします。学校行事、子どもの友達のなんちゃらパーティー、それらが子ども4人分あるんです。節約するどころか、時間をお金で買ってしまうほどの忙しさなんです。それで……」
もともと苦手だった家計管理がおろそかになり、ストレスを溜めては浪費してしまう悪循環になったそう。
片や夫のタカシさんはタカシさんで、買い物やゲーム課金を上限なく使い放題。ミヨコさんが「もっと抑えて」といっても「月100万円以上収入があるんだから、これくらい使ってもいいだろ」と、聞く耳持たず。
でもね、タカシさん。厳しいことをいえば、実際は月100万円で全然まかなえていないわけですよね。4人のお子さんの高額な学費も踏まえると、月100万円超は、お二人の希望をかなえるほどの収入からほど遠いのではないでしょうか。
お子さんの今後の教育費、お二人の老後、そして自営業者ですから万一に備えて、本当はもっともっと残していかなければならないんです。「(ゲームの点数)ランキング上位を目指したいから」お金をかけていたようですが、その意欲を家計にまわしてほしいと思います。
■改心のきっかけは経営悪化による減収
私がこう話すと、お二人はハッとした表情を見せました。
しかし、指摘されたからといってその後すぐに心を切り替え、行動に移せる人はなかなかいません。今回もそうでした。
そんなお二人がようやく心を切り替えられたのは、会社の経営悪化がきっかけ。これまでのように気軽に会社からお金を借りられなくなり、タカシさんの収入も20万円減ったのです。
ようやく危機感を持ったお二人は、小遣い、食費、被服費、生命保険料などを大きく減らし、月計24万8000円の大幅カットが実現しました。特に被服費は、自分の小遣いで買ってもらうようにしました。
小遣いは、夫は25万から15万円に。妻は15万から12万円に減らしています。
「小遣い10万円でも多すぎる」と思う人もいるでしょう。
ですが、タカシさんの場合、出張も多いですし、出先で飲食することを考えると、一般的な3万円、4万円のお小遣いでは収まらないと思います。必要なものはやはりきちんと出さないといけない。そう考えると、妥当な金額です。

ゲーム課金に関しても、タカシさんにとっては趣味でもあり、ストレス解消の一助になっているのでしょうから、いきなり止めるのは酷です。反動にもなりかねません。15万円の範疇で存分に楽しんでいただくことにしました。
もう一つ、クレジットカードを会社用とプライベート用の2枚に分けてもらいました。すみわけをすることで、公私混同したルーズな使い方がなくなり、家計も引き締まってきたようです。
お二人が私共の家計改善プログラムに通い、1年目になります。浪費癖は少しずつ落ち着いてきました。ただし、人はそう簡単に変わりません。気を抜けば、一瞬で以前の生活に戻ります。そこを、私共の方で、時々喝を入れて(笑)、気持ちの整理をつけてもらいながら新しいやり方になじんでいってもらう。「喝」と言っても、当たり前のことをお話しているだけなんですけどね。
今は貯金も600万円に増えました。目標額は、生活費120万円の7.5カ月分、900万円なので、まだもう少し時間がかかるでしょう。がんばって貯められたら、自分へのご褒美はそこそこに、ぜひiDeCoやNISAなどのつみたても始めてもらいたいですね。

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横山 光昭(よこやま・みつあき)

家計再生コンサルタント、株式会社マイエフピー代表

お金の使い方そのものを改善する独自の家計再生プログラムで、家計の確実な再生をめざし、個別の相談・指導に高い評価を受けている。これまでの相談件数は2万6000件を突破。書籍・雑誌への執筆、講演も多数。著書は90万部を超える『はじめての人のための3000円投資生活』(アスコム)や『年収200万円からの貯金生活宣言』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を代表作とし、著作は171冊、累計380万部となる。

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桜田 容子
ライター

明治学院大学法学部を卒業後、男性向け週刊誌、女性向け週刊誌などで取材執筆活動を続け、気付けばライター歴十数年目に突入。にもかかわらず、外見は全然ライターっぽく見られない。趣味はエアロビとロックンロールと花見など。

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(家計再生コンサルタント、株式会社マイエフピー代表 横山 光昭、ライター 桜田 容子)
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