防犯対策などを目的に、小学生の子どもにスマホを持たせる親が増えています。4万人以上の小学生の保護者を指導してきた井上顕滋さんは「今現在、多くの中高生はかなりの時間をSNSに割いています。
一度触り始めるとSNSをやめられなくなる理由が、心理的、脳の構造上あるのです。10代の少年少女を対象にカリフォルニア大学が行った研究を紹介します」といいます――。
■SNSに関する事件の被害児童数が、1年で1500名以上も…
スマートフォンやSNSの普及により、子どもたちは容易にオンライン上のコミュニケーションを楽しめるようになりました。多くの中高生は、かなりの時間をSNSに割いているのが現状で、当たり前のようにSNSを用いて友人と交流します。
しかし、2023年の警視庁による報告では、SNSに起因する事件の被害児童数が1732人にのぼり、前年から4.4%減少しているものの依然として高水準であることがわかっています。
■子供がスマホを手放せない理由
実際、SNSに「自撮り写真」を投稿したことがきっかけで個人情報が拡散されてしまったり、誹謗中傷やなりすまし被害に遭ったりするケースは少なくありません。ネット上に一度アップロードした画像や情報が半永久的に残り続ける「デジタルタトゥー」のリスクも深刻です。
では、なぜ子供たちはSNSに依存し、また「自撮り投稿」が増えてしまうのでしょうか。
思春期の子どもにとっては、自分自身を写真や動画で表現し、同世代の仲間に共有することが「喜び」や「自己肯定感」につながるという側面があるようです。
オハイオ州立大学のリサ・K・リビーを含む研究チームによる2113人を対象とした調査では、写真に自分が写っている場合、単に出来事を記録する以上に「当時の感情や経験を鮮明に思い出せる」という心理的効果があることが報告されています。そのほか、米国のピュー研究所によって13歳から17歳までの若者1316人とその親を対象に行われた調査では、10代の80%がSNSによって「友人との近況を共有し、より繋がっていると感じる」と答え、71%が「SNSは創造的な一面を見せる場になっている」と回答しています。
また、カリフォルニア大学のロサンゼルス校(UCLA)が行った研究によると、10代の少年少女に自分の写真への「いいね!」の数を見せた際、脳の報酬系である側坐核(そくざかく)が強く反応することが分かりました。
側坐核は、人のやる気や頑張りをつかさどる脳の部位です。
このことから自撮りのアップが、子供の「自己肯定感」や「モチベーション」をアップさせえる良い側面も持っていることがわかります。
■1日3時間以上のSNS利用がいかに危険か
大切なのは付き合い方。過度に依存しなければ、SNSは子供の心の成長にプラスに働くのです。一方で、SNS依存が進んだ子どもは心の健康を損ないやすくなることが、研究結果にも出ています。
イタリアで行われた258人の10代を対象にした調査では、回答者の約11%が専門的に見て「SNS依存の状態」に該当し、自己肯定感の低下や不安傾向の高さといった問題が顕在化していました。日本でも厚生労働省の研究班が2018年に行った全国調査で、中学生の12.4%、高校生の16.0%(推計93万人)にインターネット依存の疑いがあると発表され、米国の12歳から15歳の6595人を対象にした研究でも、1日3時間以上のSNS利用が抑うつや不安感などのリスクを高めることが示唆されました。
子ども自身も「やめたいのにやめられない」と感じている場合は、SNS依存に近づいている可能性が高いと言えるでしょう。
■子供を守るため「親にできること」
子供のSNS利用については、世界的にさまざまな取り組みや法規制が進められています。
例えば、2024年にオーストラリアが16歳未満の子どものSNS利用を全面的に禁止する法律を世界で初めて承認し、EUにおいてもGDPR(一般データ保護規則)によって16歳未満の個人情報利用には保護者の同意が必要と定められ、各国で年齢確認の強化が図られています。
しかしながら、法律による規制だけではすべての子どもを守ることは難しく、最終的には家庭内での教育やルール作りが不可欠です。
以下の4つを参考にしてみてください。

① ルールづくりとテクノロジーの活用
アメリカ心理学会(APA)は「SNSが十代の睡眠不足や身体活動の欠如を招かないよう、使用時間を制限すべきだ」と勧告しています。スマホのスクリーンタイム機能やペアレンタルコントロール機能、YouTubeの視聴制限モードなどを併用すると、子どもの利用状況を把握しつつ、年齢不相応なコンテンツに触れないようコントロールしやすくなります。
夜遅くの使用を制限したり、食事中や就寝前の利用を避けたりすることにつながるルールを家庭内で明確に定めると、健康面への悪影響を減らせるでしょう。
② オープンなコミュニケーションとリテラシー教育
「なぜSNSの使い方に気をつける必要があるのか」「万一トラブルに巻き込まれたらどうするのか」といったテーマを、日常的に子どもと話し合う姿勢が大切です。
ユニセフも「お子さんと日頃からインターネットの安全についてオープンに話し合い、オンラインでの経験を共有させてください」と呼びかけています。ネット情報に対する批判的思考力(メディア・リテラシー)を育てるため、ネット情報を鵜呑みにしない習慣や誹謗中傷を受けたときの対処法など、具体的な知識を繰り返し伝えていくことも重要です。
そうした日頃の対話によって、子どもが嫌なことや不安なことを相談しやすい関係が築かれ、トラブルの早期発見にもつながります。
③ 子どものプライバシーと自立心の尊重
小学生の段階では、保護者がSNSアカウントのログイン情報を管理したり、投稿をチェックしたりすることも時には必要かもしれません。
ただし、中高生になるとプライバシーを尊重しつつ、様子を見守るスタンスに移行するほうが、子どもの自立心を育むうえで望ましいと言えます。強制的な監視や禁止だけでは反発心を招き、親子の関係性が壊れるなど、かえってリスクが高まることもあるからです。
いずれの場合も、危険な兆候を早期にキャッチできるように、普段から子どもとオープンに情報を共有し合っておくことが大切です。
■自分を満たす「選択肢」の提示
④ オフラインの充実と代替経験
SNSに過度にのめりこまないためには、現実世界での充実感を高めることが何より効果的です。

ケンブリッジ大学とオックスフォード大学を含む複数の研究機関が84000人以上を対象に行った大規模調査では、10歳から21歳までの17409人のデータを分析した結果、女児では11~13歳、男児では14~15歳の時期にSNS利用が増えると、その1年後に生活満足度が有意に低下することが報告されています。
家族と過ごす時間や外でのレジャー、友達と直接会って遊ぶ機会、部活動や趣味など、画面越しではない実体験をどんどん増やしましょう。そうすることで、子どもは「SNS以外にも自分を満たす選択肢がある」と気づきやすくなります。
SNS時代の子育ては、従来とは異なる新たな課題を突きつけられています。最終的に大きな役割を担うのは、子どもを身近で支える「親の存在」です。親の関わり方次第で、SNSは有益なツールにもなれば、トラブルを招く危険な存在にもなり得ます。
適切なルールを設定し、トラブル時には相談しやすい環境を整え、子ども自身が自分の行動をコントロールできるようサポートする工夫が欠かせません。

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井上 顕滋(いのうえ・けんじ)

非営利型一般財団法人日本リーダー育成推進協会(JLDA)特別顧問

1970年生まれ。2004年 Result Design株式会社を設立。最先端の心理学および脳科学を学び、それらを融合させることで人それぞれの持つ能力を最大限に引き出す、独自の能力開発メソッドを確立。3000社以上の企業で経営者・経営幹部への指導や研修を行い、「1年間で離職率8分の1」「2年間で経常利益26.8倍」「営業成約率平均31.9%アップ」などの実績をもつ。エグゼクティブコーチ、メンタルトレーナーとしてオリンピック出場の日本代表選手や世界一に輝いたプロスポーツ選手のサポートも行っている。
自らも経営者として30年以上の部下育成の経験を持つ。2011年に未来の成功者を育てるため、小学生を対象とする日本初の非認知能力専門塾Five Keysを設立。2015年には非営利型一般財団法人日本リーダー育成推進協会(JLDA)を創設し代表理事に就任。現在は特別顧問。講座などを通じてこれまで指導した小学生の保護者は4万人を超える。著書に『7つの“デキない”を変える “デキる”部下の育て方』『子育てママに知ってほしい ホンモノの自己肯定感』(ともに幻冬舎)などがある。

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(非営利型一般財団法人日本リーダー育成推進協会(JLDA)特別顧問 井上 顕滋)
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