物事がうまくいく人はどんな行動をしているのか。メンタルヘルス・コンサルタントの船見敏子さんは「かつて一緒に働いていた先輩は、いつもおいしいところだけをもっていくが嫌われず、いい仕事ばかり任されていた。
その人は、ことあるごとに感謝の言葉を口にしていた」という――。
※本稿は、船見敏子『結局、いいかげんな人ほどうまくいく』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
■機嫌が悪いときは、電話に出ない
いつも機嫌がいい友人、Tさん。
職場では管理職をしていて、社長肝いりのプロジェクトを任されるほどの存在。いくつもの役割を兼任し、目が回るほどの忙しさです。
ある日、私はTさんに電話をしました。いつもならすぐに出てくれるのに、その日はまったく電話に出ません。何度かけても出ないし、折り返しの連絡もありません。何かあったのかなと、ちょっと心配になりました。
翌日、折り返し電話がかかってきました。
イライラしていたから昨日は電話に出なかったと、いつもの柔らかい口調で謝ってきました。聴けば、機嫌が悪いときは、電話に出ないようにしているというのです。

機嫌が悪いときに出たら、つっけんどんな言い方をしてしまう。だったら出ないほうがいいという潔さ。機嫌が悪い姿を人に見せないから、いつも機嫌がいい人だと周囲に思われているのです。
■感情のコントロールには「時間薬」が効く
Tさんが行っているのは「アンガーマネジメント」という感情コントロール法です。アンガーマネジメントとは、自分の怒りを管理すること。
怒りとは、安全を脅かすものから自分や大事な人を守るために生じる防衛感情です。大切な感情ですが、怒りをそのまま相手にぶつけたり、不機嫌をまき散らせば、周囲に迷惑がかかります。だから管理が必要なのです。
怒りは、少し時間をおけば収まります。相手と距離を置くなど、感情が収まるまで時間稼ぎをする方法を考えておくことが大事です。
Tさんは、急ぎの用事なんてそうそうないのだから、その場で電話に出なくたって問題なんかないという持論も持っています。確かに。

無理して慌てて電話に出なくてもいい。それより、いつも機嫌よくいることのほうがよっぽど大事です。
いいかげんのすすめ

イライラするときは引きこもる
■あざといけど嫌われない人のやっている行動
おいしいところだけ持っていく人、いますよね。
かつて一緒に仕事をしていた先輩編集者がそうでした。
その人は、リサーチやアポ取りといった手間のかかる作業は、いつもアシスタントの私に押し付けてきます。しかし、好きなアーティストの取材や新作発表会など楽しい場には必ず参加。
さらに、誰かが差し入れをしてくれたら、真っ先に「いただきまーす」ともらっていくのです。
ちょっと変わった存在ですが、不思議と周囲から嫌われることなく、疎まれることもなく、なおかつ、なぜかいい仕事ばかり任されていました。
私も、あざとい人だなと思いつつも、嫌いではありませんでした。
なぜならその人は、ことあるごとに「ありがとう!」と感謝してくれるからです。
原稿を書けば、「すごく心に響いた。この表現は秀逸だね。
ありがとう」。
本が完成したら、「あなたのおかげでおもしろいページが作れた。ありがとうね!」と言ってくれます。しかも、満面の笑みで。
だから、ついつい、作業を押し付けられたことを許してしまうのです。
■最後に取った行動がその人の印象になる
それは、人間には、感謝されると相手に好意を持つメカニズムがあるからです。
私は、「ピークエンドの法則」をそのときに経験していました。
最も感情が動いたとき(ピーク)と、終わったとき(エンド)の記憶によって、できごとの全体的な印象が決まるという法則です。
「終わりよければすべてよし」という言葉があるように、最後にいい感情になると、全体の印象は良いものとして記憶に残ります。
先輩に最後に感謝され、その喜びが「エンド」の記憶として私の中に強く残ったのです。だから、途中でイラっとしたことなどどうでもよくなっていました。
今、思い返しても、本当にあざとい人でした。

いいかげんのすすめ

「ありがとう」は、すべてを丸く収める言葉
■ちょっと抜けている人ほど、人を安心させる
あなたは大雑把な人? それとも几帳面ですか?
カウンセラー仲間のEさんは、超がつくほど大雑把な人です。
彼女の報告書は、誤字脱字(タイピングミス)だらけ。
例えば、「鯛推してください」→「対応してください」の間違い。
「容子を見ることにしました」→正しくは、「様子を見ることにしました」です。容子さんという仲間がいるので、その人のことかと思いました。
またあるときは、「チャックしてください」→「チェックしてください」の誤り。
思わず笑ってしまう誤字脱字が満載なので、彼女の報告書を見るのがちょっとした楽しみになっていました。
おそらく報告書を見直すことなく書きっぱなしにしているので、このようなことが起きるのですが、それで彼女がとがめられたことは一度もありません。
なぜなら、それは社内用の報告書だから。少々間違いがあっても問題ないのです。Eさんもそれをわかっているから書きっぱなしにしているのです。
■取引先の人との関係性も良好で、仕事が次々と舞い込む
「ビッグファイブ」という性格分析法があります。

人には①開放性、②誠実性、③外向性、④協調性、⑤神経症的傾向の5つの因子があり、その強弱によって性格が異なるという理論をベースにしたものです。
5つの因子のうち、神経症的傾向は、刺激やストレスに対する敏感さ、不安や緊張の強さを表す因子。これが弱い人は情緒が安定しており、細かいことを気にしない傾向があります。
まさにEさんは、神経症的傾向が弱め。いつもおおらかで、ストレスをため込みません。そのためか、取引先の人との関係性も良好で、仕事が次々と舞い込んでいます、Eさんのようになるには、深呼吸が有効な手段のひとつ。
不安を落ち着かせるように、ゆっくり呼吸を繰り返すと、気分がゆったりしますよ。
いいかげんのすすめ

ストレス耐性の強さは、図太い神経にあり

----------

船見 敏子(ふなみ・としこ)

メンタルヘルス・コンサルタント

公認心理師、元雑誌記者。大手出版社で雑誌編集に携わり、1,000名超の著名人を取材。インタビュアーとしてのスキルを身につけるべくカウンセリングを学んだことを機に、2005年にカウンセラーに転向。以後、全国の企業・自治体等でカウンセリング、研修などを通じメンタルヘルス支援を行う。これまでに1000社・10万人の支援をしてきた。
産業カウンセラー、1級キャリアコンサルティング技能士などを保有。株式会社ハピネスワーキング代表取締役。著書に『仕事で悩まない人の相談力』(WAVE出版)、『幸せなチームのリーダーがしていること』(方丈社)など。モットーは「幸せに働く」。

----------

(メンタルヘルス・コンサルタント 船見 敏子)
編集部おすすめ