健やかに生きる秘訣は何か。メンタルヘルス・コンサルタントの船見敏子さんは「5年間、うつ病に苦しんでいたKさんは主治医からはバランスのいい食事を摂るよう指導されていた。
しかし体調が少し良くなったある日、趣味だった食べ歩きを思い出し、大好きな食べ物の店に通い始めると、症状は回復に向かっていった」という――。
※本稿は、船見敏子『結局、いいかげんな人ほどうまくいく』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
■ラーメン友達を作ることの驚きの効果
ラーメン友達を作ったら、うつ病が治ったという人がいました。
その人、Kさんとは、カウンセリングで出会いました。製造業の会社で働くKさんは、5年ほど前に過労でうつ病になり、以来、薬を飲みながら働いてきました。体調が良くなったり悪くなったりを繰り返し、苦しい5年間だったと言います。
うつ病は、きちんと治療をすれば改善します。でも、薬だけでは良くならないことも実は多いのです。考え方を柔軟にするトレーニングをしたり、生活習慣の改善をしたりといった、プラスアルファの工夫が必要になります。
Kさんにもそういった工夫をすすめました。
そして少し体調が良くなってきたある日。外に目を向け始めてほしいという思いで、楽しめそうなことがあれば、思い切ってやってみてと伝えました。

3か月後。Kさんは別人のようにいきいきした表情で私の前に現れました。
驚いて、何があったのか尋ねると、ラーメン友達を作ったと言うではありませんか。
Kさんはラーメンが大好き。病気になる前は食べ歩きが趣味でした。それを思い出し、久しぶりに店に行ってみたのです。すると、常連客に再会。数年ぶりに楽しい時間を持てたそうです。
■理論より心の声に従うことがいい方向に進むきっかけに
その後も店に通うと、何人もの友達ができたと教えてくれました。主治医からは、バランスのいい食事を摂るよう指導されていました。
しかし、そんなものより大好きなラーメンが食べたい! と、Kさんは自分の心の声に従ったのです。結果、他愛のない会話を仲間と楽しむことができるようになり、心が穏やかになったそうです。

「もう大丈夫だと思います」とKさんは自信を持って私に告げ、カウンセリングを卒業していきました。理論よりも心の声に従うこと。それがいい方向に進むきっかけになることもあるのです。
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■健康の秘訣は「医者の言うことを聞かないこと」
テレビドラマのモデルになった江戸前寿司のC。御年90歳のときに取材する機会がありました。
戦時中、兵士として戦地で戦った体験がある方です。戦後は、職人として道を極めました。寿司の技だけでなく義理人情に厚い人柄でも有名でした。
緊張しながら店に行くと、「いらっしゃい!」と威勢のいい声で迎えてくれました。背筋がピンと伸びていて、かくしゃくとしています。お寿司を握る姿も拝見しましたが、まぎれもなく現役の職人でした。
なぜそんなに健康でいられるのか、秘訣を訊きました。
すると、イキのいい口調で、こう答えてくれました。
「血圧が高いから、医者には塩分を控えなさいって言われてるけど、塩っ気のねえもんなんてまずくて食えねえ。まずいもん食ってまで生きてることはねえよ。だからね、しょっぱいもんを食っちゃうんだよ」
医者の言うことなど聞かず、食べたいものを食べる。年だからと引退せず、好きな仕事をやる。わがままに生きることが健康の秘訣だと、大将はその言葉と生きざまで教えてくれたのです。
■「生きてるだけなら、バイキンだって生きてんだよ」
私はコレステロールが高めで、脂肪の多い肉や卵は控えるようにと医師に指導されていました。ビビりな私はそれを忠実に守り、大好きなイクラをガマンしていました。
しかし、
「生きてるだけなら、バイキンだって生きてんだよ」
人間なんだから、やれることをわがままに思い切ってやれ、という意味の大将のこの言葉で、私はガマンするのをやめました。
今は亡き大将を思い出しながら食べるイクラの軍艦巻き。これ以上ない幸せを感じるひとときです。ガマンをやめたからか、なぜかコレステロールが下がりました。

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■年賀状もお歳暮も贈るのをやめた理由
近頃は、年賀状じまいをする人、お歳暮をやめる人が増えてました。時代の流れを感じます。
ここで紹介するのは、少し前の話。年賀状もお歳暮も、ビジネスでは必須と考えられていた時代に取材した社長の話です。
半世紀以上続く会社の社長に就任してすぐ、お歳暮も年賀状もやめてしまいました。誰に贈るのか、何を贈るのか、考えるだけでも時間がかかります。
相手からもらったとしても、お返しをしたらまた贈られてくるからお返しもしないといいます。
ずっと伝統的に続いていた習慣をパタリとやめたのですから、秘書をはじめ社員たちは大慌て。取引先との関係が崩れるのではないかと、不安になったそうです。
しかし、社長が伝統をやめた本当の理由は、深いところにありました。
「そもそも、ものを贈ることでビジネスがうまくいくのか。本質を考えたほうがいい」ということを、社員に考えてほしかったのです。

■業務改善は、現状に疑問を抱くことから始まる
長く続いていることを変えたり壊したりするのは、なかなかできることではありません。それは、私たちの中に、変化を避けて現状維持を求める「現状維持バイアス」があるからです。同じことを続けることで、どこか安心しているのです。
思い切って伝統を変えたこの社長の会社は、業績が伸び続けました。本当に必要なことのみに注力するようになった結果、業績が上がったのです。
自分が現状維持バイアスに縛られていないかどうか、ときどき見直してみるといいでしょう。
いつも同じ店に行く、いつも同じ席に座るなど、変化を避ける行動を取っていませんか? たまには違うことに挑戦すると、「いつもと同じ」では得られなかった景色が見えますよ。
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船見 敏子(ふなみ・としこ)

メンタルヘルス・コンサルタント

公認心理師、元雑誌記者。大手出版社で雑誌編集に携わり、1,000名超の著名人を取材。インタビュアーとしてのスキルを身につけるべくカウンセリングを学んだことを機に、2005年にカウンセラーに転向。以後、全国の企業・自治体等でカウンセリング、研修などを通じメンタルヘルス支援を行う。これまでに1000社・10万人の支援をしてきた。
産業カウンセラー、1級キャリアコンサルティング技能士などを保有。株式会社ハピネスワーキング代表取締役。著書に『仕事で悩まない人の相談力』(WAVE出版)、『幸せなチームのリーダーがしていること』(方丈社)など。モットーは「幸せに働く」。

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(メンタルヘルス・コンサルタント 船見 敏子)
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