職場の人間関係を最適化するにはどうすればいいか。心理カウンセラーの大嶋信頼さんは「『いい人でありたい』という人を否定するつもりはないが、その考え方が、自分を息苦しくさせたり、裏目に出ることもある。
いい人の仮面を着けたままで、虎視眈々とドライな人を目指すといい」という――。
※本稿は、大嶋信頼『最低限の人間関係で生きていく』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
■ビジネスパーソンが「ドライな人」を目指して大丈夫なのか?
会社に勤めるビジネスパーソンであれば、「ウエットな人と関わらないとか、ドライな人になるなんて、所詮はムリな話だろう」と思うのではないでしょうか?
フリーランスの立場であれば、ドライになるのも自己責任でどうにでもできますが、会社勤めの身であれば、そんな身勝手なことはできない……と感じる人も多いと思います。
正直なところ、私もそうした懸念を持っていました。
あまりにもドライの度合いが過ぎると、「会社をクビになることだって、あるに違いない」と考えていましたが、実際には、その正反対の結果が出ていることで、心理カウンセラーとして、逆にビックリしています。
ある男性クライアントの体験談を紹介します。
人間関係に悩んで、ストレス過多の状態にあったビジネスパーソンが、三つのステップを実践して、ドライな人間になる……と決意したケースです。
この男性は、職場の人たちと明確に距離を置くことを意識して、上司や同僚に対する忖度もスッパリとやめました。
彼の急激な変化に、周囲の人たちも戸惑いの表情を見せていたといいます。
私が懸念したのは、その変化のスピードがあまりにも極端だったことです。
周囲の人たちに、「ドライな人間になる」と宣言する必要はありませんが、段階を踏んで、徐々に変わっていかなければ、職場で孤立する可能性があります。
最終的には、会社をクビになることだって、ありえるのではないか……と考えて、ヒヤヒヤしながら彼の動向を見守っていたのです。

■心の「自由」を手に入れて活躍の場を広げる
私の心配が杞憂に終わったとハッキリとわかったのは、それから数年が経ってからのことです。
その間、彼の変化を観察してきましたが、人間関係のストレスが減ったことで、ネガティブな感情が薄まり、前向きな考え方ができるようになっていました。
自分に自信が持てるようになり、仕事に前向きに取り組める環境を手に入れたことで、責任のある仕事を任されるようになりました。
会社をクビになるどころか、逆に昇進して、活躍の場を飛躍的に広げることになったのです。
その理由は、人間関係のストレスが減って、ポジティブ思考ができるようになったことだけではありません。
職場の人たちが、彼をドライな人間と認識したことで、彼の「邪魔」をする人がいなくなったことが一番の要因だと考えています。
上司や同僚たちが、良くも悪くも、彼に「チョッカイ」を出さなくなって、人間関係に悩む必要がなくなり、自分のやるべきことに専念できたことが、大きく影響しているように思います。
もう一つ要因をあげるならば、「見捨てられる不安」がなくなったことです。
人の心の根底には、相手に見捨てられるのではないか……という不安が、どんなときでも、誰に対してもあります。
その不安によって、悩んだり、ストレスを抱えることを日常的に繰り返していますが、ドライな人間になることによって、それを振り払うことができたため、心の「自由」を手に入れることができたのです。
ドライな人間になると、周囲の人から、「性格が悪くなった」と揶揄されることもありますが、それと引き換えに、メンタルの自由を獲得することで、自分が目指す方向に向かって、真っ直ぐに歩みを進めることができるのです。
■「いい人」が誰にでも好かれるわけではない
ドライな人になると、性格が悪いと受け取られて、周囲の人たちが自分から離れていくに違いない……と心配になる人も多いと思います。

ほとんどの人は、「自分はいい人でいたい」と思っているでしょうが、いい人でいることが、必ずしも人間関係を良好にするわけではありません。
「いい人でありたい」という人を否定するつもりはありませんが、その考え方が、自分を息苦しくさせたり、裏目に出ることもあります。
女性不信に陥って、私のところに相談に来た男性が興味深い体験をしています。
そのクライアントは、マッチングアプリを使って、女性との出会いを求めていましたが、100人を超える女性から選ばれるほどのハイスペックな男性でした。
デートのセッティングを完璧に整えて、女性に尽くすことだけを考えるタイプの「性格のいい人」でしたが、相手からことごとくフラれることに悩んでいたのです。
彼の話を聞いてみると、性格がいい人に特有の問題があることがわかりました。
女性のためと思って、自分を犠牲にしながら、相手に合わせた行動を取り続けていたことで、相手をモンスター化させていたのです。
■女性がモンスター化するメカニズム
女性の側から見た場合、次のような感情の変化があったことが想像できます。
①「最初はハイスペックな理想の男性と感じた」→②「実際に会ってみたら、優しくていい人だった」→③「デートの途中で、ムリをしているように思った」→④「この人には、自分というものがないと感じた」→⑤「私に合わせるばかりで、楽しそうに見えないのも気になる」→⑥「この人ならば、少しくらいムリを言っても、大丈夫そうだな」……。
相手の女性はこんな思考のプロセスを経て、自分の欲望に忠実なモンスターとなり、最終的には相手に物足りなさと不安を感じて、男性との別れを決意したのだと考えています。
その男性に自分の行動の問題点や、相手の受け取り方を説明すると、頭のいい方ですから、すぐに修正すべきポイントを理解しました。
「これまでは、いい人でいることばかりを考えてきましたが、それだけではダメなんですね」
そんな彼の言葉が、強く印象に残っています。

■いい人ばかりを演じていると、人には見せない裏の顔が歪んでくる
人間には、誰にでも「表の顔」と「裏の顔」があります。
人から見える表の顔は、自己防衛のための「手段」であり、周囲の人と上手に接するための「仮面」ですから、いい印象を与えることが大切です。
その一方で、いい人ばかりを演じていると、人には見せない裏の顔が歪んできて、息苦しい思いをします。
ドライな人になるとは、自分の裏の顔を解放することを意図しています。
ムリにいい人の仮面を脱ぎ捨てる必要はありません。
いい人の仮面を着けたままで、虎視眈々と、心密かに、ドライな人を目指すことが、人間関係の最適化を可能にして、自分自身を解放することになるのです。

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大嶋 信頼(おおしま・のぶより)

心理カウンセラー

インサイト・カウンセリング代表取締役。米国・私立アズベリー大学心理学部心理学科卒業。FAP療法(Free from Anxiety Program不安からの解放プログラム)を開発し、トラウマのみならず幅広い症例のカウンセリングを行っている。アルコール依存症専門病院、東京都精神医学総合研究所等で、依存症に関する対応を学ぶ。人間関係のしがらみから解放され自由に生きるための方法を追究し、多くの症例を治療している。カウンセリング歴31年、臨床経験のべ10万件以上。
著書にベストセラー『「いつも誰かに振り回される」が一瞬で変わる方法』(すばる舎)のほか、『無意識さん、催眠を教えて』(光文社)など多数。

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(心理カウンセラー 大嶋 信頼)
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