※本稿は、石井玄『正解のない道の進み方』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■超多忙な人のマルチタスク攻略法
マルチタスクをどうやってこなしていくか聞かれることが多い。私なりのマルチタスク攻略法を書いていきたい。まずは連絡について。
2020年以降、ラジオ業界でも連絡ツールは日々進化し、さまざまな新しいアプリが使われるようになってきた。それまですべての連絡をメールと電話で行っていたが、私がオールナイトニッポンのディレクターをしていた頃にはLINEが普及し、番組の制作現場にも変化が起きた。
当時、オールナイトニッポンの各番組には「放送日以外で週に1回スタッフで打ち合わせをする」という文化があり、私もそれを素直に踏襲していた。打ち合わせは30分~1時間で終わるものから、長いものだと3時間、半日かかるものもあった。
LINEで番組ごとにグループを作り、制作現場で活用するようになった。普段から「○日までに企画案をください」「スペシャルウィークのゲスト案をください」などとLINEをしていれば、打ち合わせの必要はなくなる。
■スピード感が高まったチャットツール
私の担当する番組数が増えた結果、各番組で打ち合わせを行うことがスケジュール的に難しくなったという側面もあるが、放送日に直接話せるし、もはや別日にわざわざ集まって話すことが無駄に思えたので、「週1回の打ち合わせ」をなくすことにした。
どんな状況でもスタッフと連絡が取れるようになったのは大きな変化の1つ。PCでもLINEは使えるから、たとえ別の会議中であっても緊急性のある指示を出すことができるようになった。疑問点が出てきて作家やスタッフに問い合わせると、その場で返信が届くから、進行も早くなった。これはみんな言わないけどこっそりやっていると思う。
コロナ禍以降で使うようになったのがSlack。もはや当たり前に使っている人も多いだろうし、何をいまさらと思う人も多いかもしれない。イベントプロデューサーになったあとは、今まで以上のスピード感を求められるようになった。
イベントになるとセクション数が膨大で、1つの企画に少なくとも10個以上のLINEグループが必要になる。どこのグループに誰がいるのか、今はどこのセクションの話をしているのか、毎回判断するのが大変で、必死に対応していたのを覚えている。
■SlackとLINEの違い
そんな状況が一変したのは、2022年に開催した舞台演劇生配信ドラマ『あの夜を覚えてる』がきっかけだ。このイベントには広告業界のチームが関わっており、すでに広告業界では主流になっていたSlackというツールを「使ってください」と勧められた。
LINEの場合、それぞれのセクションで“グループ”を組み、それを切り換えながら個別に対応するしかなかった。
『あの夜を覚えてる』の現場ではさまざまな事件が勃発した。すべての原因は“共有が足りなかった”から(詳細は『正解のない道の進み方』第1章に記述)。
そんな状況を変えるために、私はすべてのチャンネルをチェックすることにした。「演出」「制作」「運営」「技術」「脚本」「デザイン」「グッズ」「予算」などそれぞれ別のチャンネルを組んでいたが、『あの夜を覚えてる』のときは合計で15チャンネルを超えるほどの規模になっていた。
■直接話すことの大切さ
Slackの一番良い点は情報共有のしやすさにある。それぞれのやり取りを全員が見られるからだ。個別にLINEやメールで連絡を取ることを禁止し、全員が見ているSlackのみで発言するよう徹底した。
それでもこっそりDMを送ってくる人もいたが、「隠しごとはなしでいきましょう」と伝えた。すべてが明らかになっていると、周りにいる人間もフォローをしやすいし、プロデューサーとしても指示が出しやすい。ここもSlackを使って改めて感じた点だ。
ただ、人によって読解力や文章力に差があるから、文章のみのSlackでやり取りを続けていると、どうしても齟齬が生まれてしまう。定期的にオンラインでもよいので話をして、改めて内容を共有することも大切だと明記しておきたい。
■メールの返信の最適なタイミング
以前、とある会社の新入社員採用ページを見ていたら、社員の1日のタイムスケジュールが載っていた。そこで「まず出社したら、メールを確認して返信する」と書いてあって、意味がまったくわからなかった。
それは一般的な考え方なのかもしれない。私にとってのメールの返信は「いつでも」。仕事のスピードを上げる方法として「とにかく早く伝えて、相手が考える時間を増やす」ことが大切で、プロデューサーになってからはスピードがさらに速くなっている。
ただ、これも条件があり、前の項で書いたような「全チャンネルチェック」のような行きすぎたことをやると、あまりに膨大な量のため、スマートフォンから通知音が鳴り止まなくなる。他の仕事ができないため、PCも含めて通知を切っている。通知音が鳴ると、人はどうしてもその瞬間にチェックしたくなる。だが、それが打ち合わせ中など別のことに頭が取られているときだと、文面を読むだけで返信は後回しにしてしまい、対応が遅れてしまう。
私の場合も以前はそうだった。
■「いつもお世話になっております」は不要
スピード感が上がっていることを実感してからは、移動中でも、食事中でも、トイレでも、隙間でスマホを触って返信するようになった。たとえ誰かに確認する必要があることでも、「一旦確認するので少々お待ちください」と即返信する。
LINEのように既読がついたとしても、実際にこちらがちゃんと読んだか相手にはわからない。だから、読んだ上で対応を止めているのには事情があることを伝えたほうが結果的にスピードアップする。
数えたことはないが、すべてのツールを足すと、忙しい時期は数百件になっていた時期もあった。そもそもは『あの夜を覚えてる』の現場で追い込まれたからはじまったことだが、私にはとても向いている対応方法だった。
文面についてもスピード化を図ってきた。チャットツールを利用するにあたって、形式的な文面を一切使わないと決めている。メールを使うときに入れる「いつもお世話になっております。○○の▲▲です。
■黙っているよりは打ったほうがいい
LINEやSlackの場合、いちいち挨拶をつける必要はない。無駄な要素を省いたぶん、スピード感のあるやり取りができる。ちなみに、ニッポン放送社内とのやりとりはメールが主流であった。社内と社外でスピード感の違いを体感できて、チャットツールの利便性をより感じることができた。
最近では、Discordを使用しているチームも多く、チームに合わせて最適なツールを使用できるようになっておくことが大事だ。
時間がない状況で仕事を続けてきた結果、伝えるべきことを考えながら同時に文字を打つようになることもある。文章をじっくりとまとめていたら処理が追いつかない。
だから、思いついたことを次々と短い文で弾幕のように送っている。考えながら文字を打って送信し、その間に次のことを考えてまた送る。つなげて読むと全体がわかる。
すべてのアプリの未読がゼロになると、すっきりした気分で常に過ごせるので、未読がある方はすぐに返信を。
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石井 玄(いしい・ひかる)
ラジオプロデューサー
株式会社玄石代表取締役。ラジオプロデューサー、イベントプロデューサー。2020年8月、ニッポン放送入社。『オードリーのオールナイトニッポン in 東京ドーム』、『東京03 FROLIC A HOLIC feat. Creepy Nuts in 日本武道館「なんと括っていいか、まだ分からない」』、『あの夜を覚えてる』など担当。21年、自身の半生を振り返ったエッセイ本『アフタートーク』を刊行。24年3月に退社。25年4月、株式会社玄石(げんせき)を立ち上げる。現在は『佐藤と若林の3600』『鳥羽周作のうまいはなし』、『林士平のイナズマフラッシュ』、『日刊佐倉綾音~天才・天久鷹央になる100日間~』、『岸田奈美のおばんそわ』などのポッドキャストを手掛けながら、ラジオ・イベントなどさまざまな企画を進行中。
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(ラジオプロデューサー 石井 玄)