※本稿は、川野泰周『半分、減らす。』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■脳過労、人間不信、孤独感……SNSとの関わり方を見直すサイン
複数のSNSをコミュニケーション・ツールとして利用している方は多いでしょう。たとえば親しい人と、ときにはリアルで会ったことのない人も含めた“友だち”と、互いの日々の行動や、ある問題をめぐる意見・感想などを交換したり、不特定多数の人に向けてメッセージを発信したり、情報を共有しながら「いいね!」の輪を広げたり。
SNSには、いろいろな意味で「世界が広がる」楽しみがあると思います。ただ反面、SNSをやりすぎることの弊害もまた、数多く指摘されるようになりました。「スマホ脳過労」も、まさにそうです。
実際、オーストラリアでは世界で初めて、若年者(16歳未満)のSNS使用を禁ずる法案が国民の賛成多数で可決されています(2025年より施行)。
それから、「炎上」による攻撃を受けて自らの心を苦しめてしまう、人間不信に陥る、あるいは大勢の人とつながっているはずなのに孤独感が深まるなど、以前よりも“心の闇”を抱えこんでいる人が多いように感じています。
SNSをやりすぎている方は、そろそろ「半分、減らす」ことをメドに、SNSとの関わり方を見直してみることをおすすめしたいと思います。
■「見に行く頻度」をどう減らすか
SNSをやっていると、どうしても「見に行く」頻度が増えますよね。
「つながりのある人の投稿が気になる」
「ウォッチしている人の言動が気になる」
「自分の投稿に対するリアクションが気になる」
「SNS上でどんな情報が行き交っているのか気になる」
といったさまざまな理由があると思います。
SNSにつながる頻度を最も高くしている要因の一つに「通知」の機能があります。
「SNSでメッセージが来たら音が鳴る」というふうに設定していると、音が鳴るたびにどうしたって「見に行かなきゃ」という気持ちになってしまうのです。
そこで思い切って一度、「通知機能をオフ」にしてみていただきたいと思います。
ほかにも、「フォローしている人の半数くらいをタイムラインに表示しない設定にする」、あるいは「リアルの人間関係にヒビが入らない範囲でフォローしている人の数を半分減らす」のもいいでしょう。
そうすれば、単純に「○○さんが新しい写真を投稿しました」「○○さんが記事をシェアしました」といったお知らせも半分減り、「つい見てしまう」ことも減らせます。
でも、もっといいのは、「使っているSNS自体を半分減らす」ことです。
「そんなこと、怖くてできない」という声が聞こえてきそうですね。でもちょっと考えてみていただきたいのです。
SNSから得ている情報は、それほど必要性の高いものでしょうか?
SNS上のコミュニケーションは、それほどなくてはならないものでしょうか?
ご自身がSNSで発信している情報は、心底伝えたいことでしょうか?
もしすべて必須のものだと感じておられるようなら、いまの使い方を続けることに意味があると思いますが、そうでないものが多いなと思われた方は、いまこそ「SNS削減」の好機を迎えているのかもしれません。
■私がFacebookをやめた理由
私自身がいま使っているSNSは、LINEだけです。Facebookは7年ほど前にやめました。
なぜ、Facebookをやめたのか――。当初は講演会や坐禅会のお知らせ、ラジオ、テレビなどに出演する際の告知などに利用させていただいていました。
それがだんだんと“友だち”が増えていって、気づけば1500人以上になっていたのです。もちろん、SNS上とはいえ友だちが増えることはとてもありがたいことです。
ただそのなかの多くの方から、Facebookのメッセンジャーで連絡が来るようになり、返信が追いつかなくなってしまいました。
いただいた連絡にはていねいに対応したいという思いがあった私は、一日の多くの時間をSNSの返信に割くようになっていたのです。さらにあるときを境に、日本だけでなく海外の方からもそれぞれの言語でメッセージが届くようになりました。
これもとてもうれしいことなのですが、ネットの翻訳機能を用いて日本語に訳して読み、返事を書いて向こうの言語に翻訳機能で変換して送信する作業は、大変多くの時間を必要とします。
やがてついに、一日にいただいたメッセージをその日のうちに返信しきれなくなってしまいました。
かといって、ある人には返信して、ある人はスルーして、といったことをするのはとても気が引けてしまい、悩みの種になってしまいました。
■自分が受けられる範囲をあらかじめ想定しておく
そこでまず、メッセージ機能をオフにしました。ところが今度は、コメントのほうに大量にメッセージが来るようになって、気がついたらその対応にも毎回一時間以上の時間を割くようになりました。
いただいたコメントのほとんどが温かく、思いやりのあるご意見でとてもうれしかったのですが、「コメントをもらいっぱなしにしておくのは申し訳ないし、せめて礼儀として、お返事を書かなければ。でもそんな時間はとてもつくれない」というジレンマに苦しんだ結果、「お手上げ」だと判断しました。その日のうちにアカウントを削除することにしたのです。
そんな経験から、SNSを利用するときは自分が受けられる範囲をあらかじめ、自分で規定しておくことが大切であると感じています。
でないと、上手につき合えば楽しいはずのSNSを使うことで、自分がバーンアウトしてしまうという、悲しい結果を招きかねないと思っています。
■脳はマルチタスクが苦手
いまはどんなビジネスパーソンの方も、複数の端末を使うことのある時代ですから、デスクに複数台のデジタル機器を置かないように注意が必要です。
デジタル機器は、使っていないものはすべて画面を閉じておくか、棚や引き出し、カバンにしまって、視界に入らないようにしましょう。
そもそも脳は、マルチタスクが苦手です。
いろいろなことを同時並行でやるより、一つのことに集中したいのです。それなのにさまざまなデジタル機器が起動状態になっていると、脳にストレスがたまります。
それが「脳過労」の原因になるのです。“ながらスマホ”にも同じことがいえます。
■画面の「色」も制御する
デスクトップやラップトップのPC、スマホなどの画面は、みなさん、フルカラーにしていますよね。画像技術が格段に上がって、画面に映し出される写真や映像は、どれも本当にクリアできれいです。
ただ、画面が発する「色情報」は、見ている人間の「注意資源」をかなり奪う可能性があると指摘されています。「情報を半分減らす」ためには、「色情報」を減らすのも一つの方法です。グレースケール、つまりモノクロに変えるだけで、情報量をかなり減らすことができます。
たとえば、iPhoneなら、「設定」画面の「アクセシビリティ」のなかにある、「画面表示とテキストサイズ」から「カラーフィルタ」をタップ。これをオンにして、グレースケールをチェックすればOK。簡単に変えられます。
実際、2021年に中国の研究者らが発表したデータによると、とくに夜間にスマホを見る際にスマホを「ダークモード(白黒画面)」に設定すると、視覚的な疲労が軽減されたといいます。
ちょっと味気なく、寂しい感じがするかもしれませんが、なんとなく懐かしい感じもあって、意外と悪くはないものです。
スマホだけではなくPCでもなんでも、だいたいのデジタル機器はグレースケールに設定できます。脳の疲労を回復させるためにも、ときどき取り入れてはいかがでしょうか。
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川野 泰周(かわの・たいしゅう)
林香寺住職、精神科医
RESM新横浜 睡眠・呼吸メディカルケアクリニック副院長。1980年横浜市生まれ。2005年慶應義塾大学医学部医学科卒業。慶應義塾大学病院精神神経科、国立病院機構久里浜医療センターなどで精神科医として診療に従事。禅修行の後、2014年臨済宗建長寺派林香寺(横浜市)住職。寺務の傍ら都内及び横浜市内のクリニック等で精神科診療にあたる。『人生がうまくいく人の自己肯定感』(三笠書房)、『「精神科医の禅僧」が教える 心と身体の正しい休め方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など著書多数。
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(林香寺住職、精神科医 川野 泰周)