米アルファベット傘下のウェイモが、東京で自動運転タクシーの試験走行を始めた。第1段階としてはデータ収集のため、訓練を受けたドライバーが手動で運転。
■Google系列の企業が東京で実証実験をスタート
自動運転タクシーの試みが、ついに日本でも始まった。
Googleの親会社「アルファベット」傘下の自動運転部門「Waymo(ウェイモ)」は4月、東京での自動運転タクシーの実証実験を開始すると発表。この動きは海外でも報じられており、ロイター通信は、Waymoがアメリカ以外の公道で自動運転車を走らせる試みとして初のものだと解説している。
カリフォルニア州を拠点とする同社はこの実証実験に、電気自動車(EV)のジャガーI-PACE 2台を投入。東京の主要部で地図データを収集し、現地のインフラや自動運転に求められる東京ならではの特性を把握する。Waymoのビジネス開発・戦略的パートナーシップ責任者ニコール・ガベル氏は東京でのイベントで、「この地域特有の運転環境や運転の特徴を理解することが重要です」と強調した。
米著名テックメディアのヴァージによると、Waymoは日本のタクシー会社「日本交通」、および日本交通が出資するタクシー配車アプリ「GO」と組んで実証実験を進める。港区、新宿区、渋谷区、千代田区、中央区、品川区、江東区の東京7区が対象エリアだ。
Waymoが進める自動運転の試みに、トヨタも協業の意向を示した。4月30日にトヨタは、「トヨタ自動車株式会社(以下、トヨタ)とWaymoは、自動運転の開発と普及における戦略的パートナーシップに関して基本合意しました」とのリリースを発表。
■アメリカで急拡大、1年足らずで5倍に
運転の一部を補助する運転支援技術は、すでに私たちの生活に浸透しつつある。
トヨタ チームメイト、ホンダ センシング、日産 プロパイロット、マツダ アイアクティブセンスなどを各社が展開しており、人間主体の操作を前提とした限定的な運転支援がすでに実現している。主にレベル2と呼ばれる、ステアリング(ハンドル)操作やアクセル・ブレーキ操作を限定的に補助するシステムだ。
一方、完全な自動運転となると、まだ安全性が十分に向上していないとの捉え方もある。Teslaの事故が多く報道されていた時期もあり、拒否感も根強いだろう。Waymoの場合はレベル4に相当し、運転速度や天候などに一部制限は残るものの、緊急時に路肩に停車するような対処も含め、人間ではなくシステムが主体となってこなすことを前提としている。
先行して導入が進む海外の地域では、どのような評判が聞かれるのか?
東京で実証実験が始まったばかりだが、アメリカの一部都市では、自動運転タクシーが既に街の風景として定着しつつある。Waymoはサンフランシスコ、フェニックス、ロサンゼルス、オースティンで無人運転サービスを展開中だ。米CNETによると、実車での走行は週に20万件を超える。
特に顕著なのが、先進的に実証実験を受け入れているサンフランシスコエリアだ。米ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、昨年夏に週1万件だった実車回数は、今年5月には週5万回と5倍に増加した。
現地での反応は芳しいという。テクノロジー先進都市として知られるサンフランシスコ市では、当初の反発から一転。自動運転車が市民の支持を得ている、とウォール・ストリート・ジャーナル紙は言う。
■利用者「ドライバーへの気遣いがいらない」の声
Waymoはサンフランシスコで約300台、他の地域でも計約400台を走らせているが、「ドライバーとの会話から解放される」「プライバシーが守られる」といった理由で、多くの地元住民がWaymoを選ぶようになっているという。
見ず知らずのドライバーと居合わせる必要がなく、配車サービスのUberやLyftよりも気楽というわけだ。利用者たちは新サービスに戦々恐々としつつも、乗り始めるとすぐに予想外に満足感を覚えているという。サンフランシスコに住むコラムニストのリック・ライリー氏は、米ワシントン・ポスト紙への寄稿で、カリフォルニア州サンタモニカでのWaymoの乗車を「5つ星。素晴らしかったし、お勧めできます」と評価した。
「アプリで呼ぶと、清潔な車が現れました。屋根のドーム型LEDに自分のイニシャルが点灯するのですぐ分かります。スマホで『ドアを開ける』をタップすればすぐ、広々とした後部座席に乗り込めます」と記者は振り返る。
常連からも好評だ。
プライバシーも魅力だ。同紙は、地元に住む退職者のヘンリー・ウォーカー氏(53)が、ドイツからの家族と一緒に観光中に利用した体験を紹介している。「ある時、個人的な話をしていて、『しまった、ドライバーに聞かれたくない』と思ったのですが、顔を上げるとそこには、ドライバーはいませんでした」とウォーカー氏は満足げだ。
■米紙「事故率は人間のドライバーより9割前後低い」
乗り心地の良さだけでなく、データからも自動運転の優位性が明らかになっている。
ワシントン・ポスト紙によれば、保険会社が分析した2530万マイル(約4071万キロ、地球約4000万周分)の走行データから、Waymoは人間のドライバーより物損事故を88%、人身事故を92%低減したことがわかった。トヨタもプレスリリースで、Waymoは「自動運転技術の世界的リーダー」であるとし、「人間が運転する場合と比べ、負傷を伴う衝突を81%削減」とのデータを挙げ安全性を強調している。
ライリー氏は同紙への寄稿で、急な車線変更など「89歳の祖父のような運転をする」こともあると一定の問題点を指摘。それでも前述のように、データから見ても人間よりも安全であると説明している。
加えてレイリー氏は、近年多くのUberドライバーにみられるような「かつてタクシー業界で働いていたであろう、気難しい顔でスピードを出し過ぎる」ようなドライバーに乗り合わせる心配もなく、「(乗車時に)48秒待たせたからといって怒鳴ったりしません。ゆっくりしていい……5分までなら喜んで待ってくれます」と利点を挙げる。利用者にとって精神的なストレスの軽減は大きい。
市街からの観光客にとっては新鮮味もあり、観光の新たな目玉にもなりつつある。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、Waymoが観光客に人気の新しい体験として定着しつつあると報じている。ゴールデンゲートブリッジのウェルカムセンターでは、1時間に少なくとも8台のWaymoが観光客を乗せており、多くが初めての乗車だったと話している。
さらには、都市全体の活性化につながる可能性も出てきた。米サンフランシスコ・クロニクル紙によると、サンフランシスコ市長ダニエル・ルーリー氏は、一般車両が通行禁止のマーケットストリート一部区間でWaymo車両の走行を許可すると発表。「マーケットストリートは市の中心部を走る道路であり、時代とともに進化し続けることが大切だ」と声明で述べた。
■高速道路の合流エリアで閉じ込められた…無視できない技術の限界
もっとも、長所ばかりではない。実用化が進むなか、技術的な限界も見えてきた。
米KTLAによると、サンタモニカのファストフード店チック・フィレイのドライブスルーで、Waymoの車両が立ち往生する事態が発生した。
4月7日午後9時30分頃、リンカーンブルバード沿いの同店で、自動運転車が出口を見つけられずに立ち往生し、注文を待つ他の車の長い列ができた。地元メディアのSFゲートによると、乗客が駐車場で降りた後、空車となったWaymoの車がドライブスルーレーンと狭いスペースに駐車された複数の車両に挟まれる形となり、方向転換できなかったのが原因だったという。
より深刻な問題も報告されている。米ニューヨーク・ポスト紙は、テキサス州オースティンでWaymoの車両が「オースティンで最も危険な道路の一つ」とされる高速道路、通称モーパックの合流レーンで停止し、乗客が閉じ込められた事例を伝えた。
「『高速道路にいるから車を動かして』と何度も言いました」と乗客のベッキー・ナバロ氏は50万回以上再生されたTikTok動画で語っている。「車は警告音を鳴らし続け、動かず、外にも出られませんでした」と緊迫の場面を彼女は振り返る。
■工事があると立ち往生…まだまだ人間のサポートが必要
完全な自律運転を掲げる自動運転車だが、現実問題としては現状、人間が裏方となってサポートしている。
ニューヨーク・タイムズ紙で10年以上にわたり自動運転車の動向を追ってきたケイド・メッツ記者は、「今のロボットタクシーはハンドルを握るドライバーがいない。車によってはハンドル自体もない。だが、実際には人間の判断力に頼っている」と指摘する。
緊急の場合には人間のオペレーターが遠隔操作で対処しているという。例えば、アマゾンが所有する自動運転車会社Zooxでは、車両が工事中の区間を自動で通過できない場合、指令センターの技術者にアラートが送信され、技術者がデジタルの道路地図上にマウスで線を引いて迂回路を指示する。
また、当初は大胆な主張を展開しつつ、現実の壁に直面し計画の修正を余儀なくされる例もある。ヴァージは、テスラCEOイーロン・マスク氏が自社の完全自動運転車について「どこでも、どんな条件でも制約なく走行できる」と長年主張してきたが、最近「マンハッタンの吹雪」などでは制約があると認めたと指摘する。
■競争が本格化している
現状では制約が存在するが、自動化への波はとどまるところを知らない。Waymoだけでなく、世界中の企業が自動運転タクシー市場に続々と参入している。
アジアだけに視点を絞っても、例えばヴァージによると中国のアポロ・ゴー(Apollo Go)は2024年第4四半期に110万件の有料の実車運転を実施し、Waymoと同様に週20万件の実車を達成した。同社は近く香港にも進出予定だ。
Teslaも自動運転タクシー事業に乗り出す方針を明らかにしているほか、自動車メーカーとライドシェア企業の提携も活発化している。米IoTワールド・トゥデイは、フォルクスワーゲンがUberと組み、アメリカで配車サービス向けモデルを投入する計画だと報じている。EVのID.Buzz ADモデルが、まずはロサンゼルスで来年にも導入される見込みだ。
■高齢者の足、運送業の人手不足解消につながるか
自動運転タクシーは人命に関わる技術であり、慎重な導入が必要だ。これまでの事例から、完全自律走行には技術的課題が残っていることに疑いはない。
一方で事故率の低下やドライバー不在による快適な乗車体験など、良い面も多い。安全を最優先とすることは当然だが、徐々に普及が進むことは間違いないだろう。
自動化は世界的な流れだ。アメリカと中国の企業が急速に市場を広げているが、日本も強みを生かした展開が必要となるだろう。狭い生活道路が張り巡らされた日本の道路環境や交通ルールは、アメリカより複雑な面もある。こうした環境で安全運用のノウハウを積めば、同じく狭い道が各所に残るヨーロッパの都市も含め、世界な競争力の獲得につながる可能性がある。
自動運転は利用者にとって便利なだけでなく、高齢者の生活の足の確保や運送業界の人材不足解消など、日本社会が抱える課題の解決にも直結する。まずはGoogle関連企業のWaymoが東京での実証実験に踏み出したが、すでにトヨタが協業への積極姿勢を示しているように、日本企業がイニシアチブを発揮する形で同様の試みが続いてもおかしくないだろう。
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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。
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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)
海外ではすでにドライバーなしの完全自動運転が実用化されており、安全面の課題は一部残るものの総じて好評だという。“無人タクシー”は日本で受け入れられるのだろうか――。
■Google系列の企業が東京で実証実験をスタート
自動運転タクシーの試みが、ついに日本でも始まった。
Googleの親会社「アルファベット」傘下の自動運転部門「Waymo(ウェイモ)」は4月、東京での自動運転タクシーの実証実験を開始すると発表。この動きは海外でも報じられており、ロイター通信は、Waymoがアメリカ以外の公道で自動運転車を走らせる試みとして初のものだと解説している。
カリフォルニア州を拠点とする同社はこの実証実験に、電気自動車(EV)のジャガーI-PACE 2台を投入。東京の主要部で地図データを収集し、現地のインフラや自動運転に求められる東京ならではの特性を把握する。Waymoのビジネス開発・戦略的パートナーシップ責任者ニコール・ガベル氏は東京でのイベントで、「この地域特有の運転環境や運転の特徴を理解することが重要です」と強調した。
米著名テックメディアのヴァージによると、Waymoは日本のタクシー会社「日本交通」、および日本交通が出資するタクシー配車アプリ「GO」と組んで実証実験を進める。港区、新宿区、渋谷区、千代田区、中央区、品川区、江東区の東京7区が対象エリアだ。
Waymoが進める自動運転の試みに、トヨタも協業の意向を示した。4月30日にトヨタは、「トヨタ自動車株式会社(以下、トヨタ)とWaymoは、自動運転の開発と普及における戦略的パートナーシップに関して基本合意しました」とのリリースを発表。
具体的な協業の範囲については今後詳細を議論するとしつつ、「互いの強みを結集し、新たな自動運転の車両プラットフォーム開発における協業を目指します」としている。
■アメリカで急拡大、1年足らずで5倍に
運転の一部を補助する運転支援技術は、すでに私たちの生活に浸透しつつある。
トヨタ チームメイト、ホンダ センシング、日産 プロパイロット、マツダ アイアクティブセンスなどを各社が展開しており、人間主体の操作を前提とした限定的な運転支援がすでに実現している。主にレベル2と呼ばれる、ステアリング(ハンドル)操作やアクセル・ブレーキ操作を限定的に補助するシステムだ。
一方、完全な自動運転となると、まだ安全性が十分に向上していないとの捉え方もある。Teslaの事故が多く報道されていた時期もあり、拒否感も根強いだろう。Waymoの場合はレベル4に相当し、運転速度や天候などに一部制限は残るものの、緊急時に路肩に停車するような対処も含め、人間ではなくシステムが主体となってこなすことを前提としている。
先行して導入が進む海外の地域では、どのような評判が聞かれるのか?
東京で実証実験が始まったばかりだが、アメリカの一部都市では、自動運転タクシーが既に街の風景として定着しつつある。Waymoはサンフランシスコ、フェニックス、ロサンゼルス、オースティンで無人運転サービスを展開中だ。米CNETによると、実車での走行は週に20万件を超える。
特に顕著なのが、先進的に実証実験を受け入れているサンフランシスコエリアだ。米ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、昨年夏に週1万件だった実車回数は、今年5月には週5万回と5倍に増加した。
現地での反応は芳しいという。テクノロジー先進都市として知られるサンフランシスコ市では、当初の反発から一転。自動運転車が市民の支持を得ている、とウォール・ストリート・ジャーナル紙は言う。
■利用者「ドライバーへの気遣いがいらない」の声
Waymoはサンフランシスコで約300台、他の地域でも計約400台を走らせているが、「ドライバーとの会話から解放される」「プライバシーが守られる」といった理由で、多くの地元住民がWaymoを選ぶようになっているという。
見ず知らずのドライバーと居合わせる必要がなく、配車サービスのUberやLyftよりも気楽というわけだ。利用者たちは新サービスに戦々恐々としつつも、乗り始めるとすぐに予想外に満足感を覚えているという。サンフランシスコに住むコラムニストのリック・ライリー氏は、米ワシントン・ポスト紙への寄稿で、カリフォルニア州サンタモニカでのWaymoの乗車を「5つ星。素晴らしかったし、お勧めできます」と評価した。
「アプリで呼ぶと、清潔な車が現れました。屋根のドーム型LEDに自分のイニシャルが点灯するのですぐ分かります。スマホで『ドアを開ける』をタップすればすぐ、広々とした後部座席に乗り込めます」と記者は振り返る。
常連からも好評だ。
サンフランシスコの病院の熱傷ユニットで働く看護師マッケナ・ディクソン氏(27)は通勤のため、週に数回Waymoを使っている。彼女はウォール・ストリート・ジャーナル紙に、「帰り道に車に乗り、音楽をかけ、シートを倒せば、あとはずっと目を閉じているだけ。一日の終え方として最高です」と語った。疲れ切った勤務後、ドライバーとの世間話で間をつながなくて良くなったことで、家への乗車時間は快適な自分時間に変わった。
プライバシーも魅力だ。同紙は、地元に住む退職者のヘンリー・ウォーカー氏(53)が、ドイツからの家族と一緒に観光中に利用した体験を紹介している。「ある時、個人的な話をしていて、『しまった、ドライバーに聞かれたくない』と思ったのですが、顔を上げるとそこには、ドライバーはいませんでした」とウォーカー氏は満足げだ。
■米紙「事故率は人間のドライバーより9割前後低い」
乗り心地の良さだけでなく、データからも自動運転の優位性が明らかになっている。
ワシントン・ポスト紙によれば、保険会社が分析した2530万マイル(約4071万キロ、地球約4000万周分)の走行データから、Waymoは人間のドライバーより物損事故を88%、人身事故を92%低減したことがわかった。トヨタもプレスリリースで、Waymoは「自動運転技術の世界的リーダー」であるとし、「人間が運転する場合と比べ、負傷を伴う衝突を81%削減」とのデータを挙げ安全性を強調している。
ライリー氏は同紙への寄稿で、急な車線変更など「89歳の祖父のような運転をする」こともあると一定の問題点を指摘。それでも前述のように、データから見ても人間よりも安全であると説明している。
加えてレイリー氏は、近年多くのUberドライバーにみられるような「かつてタクシー業界で働いていたであろう、気難しい顔でスピードを出し過ぎる」ようなドライバーに乗り合わせる心配もなく、「(乗車時に)48秒待たせたからといって怒鳴ったりしません。ゆっくりしていい……5分までなら喜んで待ってくれます」と利点を挙げる。利用者にとって精神的なストレスの軽減は大きい。
市街からの観光客にとっては新鮮味もあり、観光の新たな目玉にもなりつつある。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、Waymoが観光客に人気の新しい体験として定着しつつあると報じている。ゴールデンゲートブリッジのウェルカムセンターでは、1時間に少なくとも8台のWaymoが観光客を乗せており、多くが初めての乗車だったと話している。
さらには、都市全体の活性化につながる可能性も出てきた。米サンフランシスコ・クロニクル紙によると、サンフランシスコ市長ダニエル・ルーリー氏は、一般車両が通行禁止のマーケットストリート一部区間でWaymo車両の走行を許可すると発表。「マーケットストリートは市の中心部を走る道路であり、時代とともに進化し続けることが大切だ」と声明で述べた。
■高速道路の合流エリアで閉じ込められた…無視できない技術の限界
もっとも、長所ばかりではない。実用化が進むなか、技術的な限界も見えてきた。
米KTLAによると、サンタモニカのファストフード店チック・フィレイのドライブスルーで、Waymoの車両が立ち往生する事態が発生した。
4月7日午後9時30分頃、リンカーンブルバード沿いの同店で、自動運転車が出口を見つけられずに立ち往生し、注文を待つ他の車の長い列ができた。地元メディアのSFゲートによると、乗客が駐車場で降りた後、空車となったWaymoの車がドライブスルーレーンと狭いスペースに駐車された複数の車両に挟まれる形となり、方向転換できなかったのが原因だったという。
より深刻な問題も報告されている。米ニューヨーク・ポスト紙は、テキサス州オースティンでWaymoの車両が「オースティンで最も危険な道路の一つ」とされる高速道路、通称モーパックの合流レーンで停止し、乗客が閉じ込められた事例を伝えた。
「『高速道路にいるから車を動かして』と何度も言いました」と乗客のベッキー・ナバロ氏は50万回以上再生されたTikTok動画で語っている。「車は警告音を鳴らし続け、動かず、外にも出られませんでした」と緊迫の場面を彼女は振り返る。
■工事があると立ち往生…まだまだ人間のサポートが必要
完全な自律運転を掲げる自動運転車だが、現実問題としては現状、人間が裏方となってサポートしている。
ニューヨーク・タイムズ紙で10年以上にわたり自動運転車の動向を追ってきたケイド・メッツ記者は、「今のロボットタクシーはハンドルを握るドライバーがいない。車によってはハンドル自体もない。だが、実際には人間の判断力に頼っている」と指摘する。
緊急の場合には人間のオペレーターが遠隔操作で対処しているという。例えば、アマゾンが所有する自動運転車会社Zooxでは、車両が工事中の区間を自動で通過できない場合、指令センターの技術者にアラートが送信され、技術者がデジタルの道路地図上にマウスで線を引いて迂回路を指示する。
また、当初は大胆な主張を展開しつつ、現実の壁に直面し計画の修正を余儀なくされる例もある。ヴァージは、テスラCEOイーロン・マスク氏が自社の完全自動運転車について「どこでも、どんな条件でも制約なく走行できる」と長年主張してきたが、最近「マンハッタンの吹雪」などでは制約があると認めたと指摘する。
■競争が本格化している
現状では制約が存在するが、自動化への波はとどまるところを知らない。Waymoだけでなく、世界中の企業が自動運転タクシー市場に続々と参入している。
アジアだけに視点を絞っても、例えばヴァージによると中国のアポロ・ゴー(Apollo Go)は2024年第4四半期に110万件の有料の実車運転を実施し、Waymoと同様に週20万件の実車を達成した。同社は近く香港にも進出予定だ。
Teslaも自動運転タクシー事業に乗り出す方針を明らかにしているほか、自動車メーカーとライドシェア企業の提携も活発化している。米IoTワールド・トゥデイは、フォルクスワーゲンがUberと組み、アメリカで配車サービス向けモデルを投入する計画だと報じている。EVのID.Buzz ADモデルが、まずはロサンゼルスで来年にも導入される見込みだ。
■高齢者の足、運送業の人手不足解消につながるか
自動運転タクシーは人命に関わる技術であり、慎重な導入が必要だ。これまでの事例から、完全自律走行には技術的課題が残っていることに疑いはない。
一方で事故率の低下やドライバー不在による快適な乗車体験など、良い面も多い。安全を最優先とすることは当然だが、徐々に普及が進むことは間違いないだろう。
自動化は世界的な流れだ。アメリカと中国の企業が急速に市場を広げているが、日本も強みを生かした展開が必要となるだろう。狭い生活道路が張り巡らされた日本の道路環境や交通ルールは、アメリカより複雑な面もある。こうした環境で安全運用のノウハウを積めば、同じく狭い道が各所に残るヨーロッパの都市も含め、世界な競争力の獲得につながる可能性がある。
自動運転は利用者にとって便利なだけでなく、高齢者の生活の足の確保や運送業界の人材不足解消など、日本社会が抱える課題の解決にも直結する。まずはGoogle関連企業のWaymoが東京での実証実験に踏み出したが、すでにトヨタが協業への積極姿勢を示しているように、日本企業がイニシアチブを発揮する形で同様の試みが続いてもおかしくないだろう。
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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。
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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)
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