住宅ローンの金利が上がる中、家計への負担を減らす方法はあるのか。住宅コンサルタントの寺岡孝さんは「繰り上げ返済で借金を減らす手段もあるが、あえてローン返済に回さず資産を増やすという選択肢もある」という――。

■日本人の7割以上が「変動型」を選択
2024年以降、日銀の金融政策の転換により、長く続いた低金利時代に変化の兆しが出ています。
とくに変動金利型の住宅ローンを利用している方々にとって、「金利が上がったらどうなるのか?」という不安は日に日に強まっているのではないでしょうか。
変動金利は市場金利(短期プライムレート)の動向に応じて、適用金利が定期的に見直される住宅ローン金利です。住宅金融支援機構によると、新たに住宅ローンを利用した人の約77%が変動型を選んでおり、圧倒的多数派となっています(2024年10月調査)。
■金利が上がると元本がなかなか減らない
変動金利の仕組みについては、インターネットなどを調べれば数多くの解説が出てきますので、ここでは簡単に解説しておきましょう。
変動金利型の仕組み

・金利の見直し:半年に1回(多くは4月と10月)

・返済額の見直し:5年ごと

・上昇制限:返済額は直近返済額の1.25倍まで(元利均等返済の場合)
一見すると、返済額が急激に増えない安心設計のように見えますが、実は「金利上昇によって元本がなかなか減らない」というリスクが潜んでいます。現在のような金利上昇局面になると、長期間にわたって利息ばかりを払い続ける可能性があるため、定期的な見直しが必要にはなります。
変動金利のメリット・デメリットを表にすると、図表2の通りになります。
■金利に一喜一憂したくないなら借り換えを
ここからは、変動金利型の住宅ローンを借りている人の取るべき選択肢を見ていきましょう。
選択肢①固定金利型への借り換えを検討する
金利上昇が明らかに予測される場合、今のうちに固定金利型住宅ローンへ借り換えることが有効です。
メリット

・将来の返済額が固定され、家計管理がしやすくなる

・金利の上昇に一喜一憂することがなく、長期の安心を得る

・金利がさらに上がった場合のダメージを防げる
デメリット

・借り換えにかかる諸費用(事務手数料・保証料・登記費用など)がかさむ

・現在の変動金利よりも固定金利のほうがやや高い 【おすすめタイプの人】

・これから教育費や老後資金がかさむ現役世代・将来の収入減が想定される人(定年が近いなど)
選択肢② 繰り上げ返済で元本を圧縮する
「今まとまった資金がある」という方は、繰り上げ返済も効果的な選択肢です。繰り上げ返済には2種類あります。

・期間短縮型:返済期間を短縮し、利息を大幅に減らす(おすすめ)

・返済額軽減型:月々の返済額を軽減(資金に余裕のない方向け)
■無理な繰り上げ返済は破綻につながる
「繰り上げ返済をすべきか、すべきでないか」には賛否両論あります。
繰り上げ返済をするためにはまとまった資金が必要になりますが、教育資金や老後資金に充当しようと思っているお金をローンの繰り上げ返済に使ってしまうと、後々になって資金不足で家計が破綻する恐れがあります。
したがって、無理な繰り上げ返済は本末転倒になってしまうので注意が必要です。
繰り上げ返済したほうがよい理由

・利息軽減効果が高い(特に変動金利が1.5%以上の場合)

・精神的な安心を得たい(早期完済)

・老後にローンを残したくない人に適している
繰り上げ返済しないほうがよい理由

・住宅ローン控除の恩恵を減らしてしまう可能性がある

・超低金利(例:0.8%)で借りている場合、資産運用のほうが有利

・手元資金が減り、流動性が低下するリスク
結論としては、金利・家計の余裕・ライフプランの3点から総合的に判断するのがベストです。どうすればいいか迷った場合は、以下の無料ツールを活用して具体的な数字で比較してみましょう。

※住宅金融支援機構のシミュレーション
■投資で手元資金を増やす“第三の選択肢”
選択肢③ 投資を優先し、ローンはそのまま温存する
借り換えにも繰り上げ返済にもデメリットがあるため、「やっぱり現状維持しかない」と思う人も多いでしょう。そういった方にぜひ一度、考えてみてほしいことがあります。
住宅ローン金利が0.5~0.8%など極端に低い場合、「あえて返さず、手元資金を資産運用に回す」という選択肢があるのです。
例えば、ローン金利が0.8%、投資利回りが4%~5%(税引後3.2%~4%)の場合、差額の2~3%分、資産形成に有利になります。
運用先は一般的な株式投資などのほか、非課税枠の大きい新NISAを利用すると効果が期待できます。
ただし、投資の場合は元本保証がないため、自分のリスク許容度に合った運用が必要ですし、老後の資金計画や万が一の支出に備えてまとまった現金(生活防衛資金)を残しておくことを忘れてはいけません。あくまでも投資は自己責任であり、損した場合にはだれも補填してくれません。


■「ローン残高3000万円」さて、どうする?
今回紹介した3つの選択肢について、ローン残高3000万円、変動金利0.8%、返済期間25年という条件でシミュレーションしてみましょう。
「損益分岐点金利」とは、ローン金利が何%に達すると運用益と相殺されるか、という数字です。例えば、運用期間3年の場合、ローン金利が0.8%から1.84%に上昇すると、ローン残債の減りが投資利益と同額近くになります。
■ローン金利が急騰しない限り、投資がおトク
図表5の結果をまとめると、
・短期(3年)では、金利が1.84%以上になると投資の優位性が薄れる

・中期(5年)では1.98%が分岐点

・長期(10年)なら金利が2.5%近くにならない限り、投資が有利
となります。
つまり、「金利が今後数年で急激に上昇しない限りは、投資のほうが有利である」と言えます。
また、投資利回りが3%の場合のシミュレーションは以下の通りです。
このシミュレーションでも分かるように、短期間でも変動のローン金利が1.5%程度まで上昇するまでは投資利益のほうが大きいので、手元資金で繰り上げ返済をしないほうがおトクということになります。
一方、利回りが下がる・金利が急上昇すると「繰り上げ返済」が有利になるため、経済情勢や自身の資金状況を見ながら柔軟に判断する必要があります。
■「借金を減らす」か、「資産を増やす」か
3つめの選択肢「投資優先」をおすすめする人とその理由を表にまとめると、図表7のようになります。
投資優先にはメリットだけ見ると非常に魅力的ですが、それなりのリスクが存在します。不安材料が多くあるならば、一度、お金の専門家などに相談することをお勧めします。
ここまで、変動型の住宅ローンを借りている人に対して、これからの金利上昇にどう向き合ったらいいのかをシミュレーションしてきました。
「結局、どうしていいのかわからない」という人は図表8の判断早見表を参考にされてみてはいかがでしょうか。
今後の金利動向、資産運用のリテラシー、家庭の生活防衛資金の厚みなどを踏まえ、「借金を減らす」か「資産を増やす」か、を総合的に判断することが大切です。
住宅ローン返済をめぐる「正解」は一つではありませんので、慌てず、数字で見て、落ち着いて選ぶ。それが、これからの時代に求められる住宅ローンとの付き合い方なのでしょう。

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寺岡 孝(てらおか・たかし)

住宅コンサルタント

1960年東京都生まれ。アネシスプランニング株式会社代表取締役。住宅セカンドオピニオン。大手ハウスメーカーに勤務した後、2006年にアネシスプランニング株式会社を設立。住宅の建築や不動産購入・売却などのあらゆる場面において、お客様を主体とする中立的なアドバイスおよびサポートを行っている。これまでに2000件以上の相談を受けている。NHK名古屋「ほっとイブニング」「おはよう東海」などTV出演。東洋経済オンライン、ZUU online、スマイスター、楽待などのWEBメディアに住宅、ローンや不動産投資についてのコラム等を多数寄稿。
著書に『不動産投資は出口戦略が9割』『学校では教えてくれない! 一生役立つ「お金と住まい」の話』『不動産投資の曲がり角で、どうする?』(いずれもクロスメディア・パブリッシング)がある。

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(住宅コンサルタント 寺岡 孝)
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