なぜコンサル業界の就職人気が高いのか。『東大生はなぜコンサルを目指すのか』(集英社)を書いた批評家のレジーさんは「コンサル業界は給与が高い上に、社会への影響力があり、羨望の眼差しも向けられる。
■とりあえずコンサル業界に就職する
かつては東大生の就職先として官僚が挙げられることが多かったが、東大卒の国家公務員試験の合格者は2014年度の438人から2024年度の189人と半分以下に減少した(「『東大から霞が関のエリートコース』は過去に 東大生の官僚離れ進む」AERA dot.、2024年10月12日)。東大生のキャリアの新たなメインストリームとして、コンサル業界の存在感が急拡大している。
「最近の傾向として、とりあえずコンサルティング業界を目指そうという学生が非常に増えていて、『とりコン(とりあえずコンサル業界に就職)』という言葉も一般的になっています」
(「『とりあえずコンサル業界に』就活市場で人気化が止まらない1つの納得理由」ダイヤモンド・オンライン、2024年5月31日より、『問題解決力を高める 外資系コンサルの入社試験』著者のひとりであるRIOのインタビューから抜粋)
偏差値の高い層に選ばれる職業には、いくつかの共通項がある。給与が高い。業務内容がダイナミックで社会への影響力がある。周囲から羨望の眼差しを向けられる。こういった基準での評価を通じて、その時代の人気業界が決まる。その最新トレンドがコンサル業界であり、だからこそ深い理由がなくてもそこへのエントリーを考える「とりコン」現象が発生する。
■官僚を辞め、コンサルへ転職した30代男性
そしてこの人気は、新卒採用にとどまらない。リクルート「2023年度 転職市場の動向」によると、ここ10年ほどでコンサル業界への転職者数は約3.5倍となった(2013年度の転職者数を1としたときに、2022年度が3.54)。これは他業種の伸びと比較しても高い水準だ。
数多ある業界の中で、コンサル業界に人気が集中する。この状況は我々に何を示唆しているのだろうか。
Cさん(30代)は東京大学を卒業後、某省庁での勤務を10年近く経て大手コンサルファームへ転職。もともと憧れていた官僚の世界を蹴ってのチャレンジだったが、結果として非常に満足度の高い決断となったようだ。
――新卒での就職先はコンサルではなく国家公務員だったんですね。
「はい。珍しいのかもしれませんが、ずっと官僚になりたいと思っていたんです。中学生のころに父親の仕事の都合で海外に住むことがあって、その期間に日本という国の枠組みについて意識したのが原点ですね。大学入学の時点で国家公務員の試験を受けると決めていましたし、政治とのつながりがあった方がいいのかなと思って議員の事務所でインターンをしたりもしていました。いろいろとやりがいのある体験をさせてもらいました」
■“雑務”が山のようにあった
――念願の、という形でキャリアを始められたと。それだけ聞くと、そのままそこで働き続ける未来もあり得たように思います。
「確かに仕事の経験だけに目を向けるとそうかもしれません。ただ、実はもともとの憧れみたいなものは最初の数年で消えてしまっていたんです。期待が高かった分、ギャップも大きかったというか……たとえば、夜中の2時とか3時とかにひたすら書類のコピーをとっていて、“自分は何をやっているんだろう?”みたいな」
――ああ、今でもよく取り上げられる「官僚の理不尽な大変さ」そのものですね。
「そういう雑務と言いたくなるような仕事が本当に山のようにありました。それに加えて、やっぱり霞が関で身につくスキルって特殊なんです。資料のてにをはを直すのは確かに大事かもしれないけど、これをやり続けていて大丈夫なのかな? と思う瞬間も結構あって。そういう葛藤がある中で、自分の結婚、あと子供ができたのも重なって、この生活を変えたい、停滞感を打破したいと真剣に考えたのが転職のトリガーになりました」
■無駄を省くことが徹底されている
――なるほど。ライフステージの変化もあって転職に踏み切ったと。
「このままだと子育てにもまったく関われないなという危機感もありました。ただ、いざ転職しようとなったときに、実は省庁から移れる場所って決して多くはないんですよね。そんな中で、自分の経験が活かせる仕事としてコンサルが選択肢として浮上しました」
――ご自身の経験が活かせるとはいえ、仕事の進め方などではカルチャーショックもあったのではないかと想像します。
「一言でまとめると、フレキシブルさが全然違いますね。
――コンサルへの転職を通じて働きやすさを手に入れたと。
「はい。給料も上がりましたし、その点では120%成功の転職でした。ただ、最初にスキル面でキャッチアップするのは大変でしたね。ワード文化で育ってきたので、パワポを作るのが苦手で……会社の研修では間に合わなくて、独学に時間もお金もかけました。タスク管理のやり方も役所とは全然違って、きっとこういうのがどの企業でも通用するスキルなんだろうなと日々感じています」
■コンサルにいけば「成長できる」
――官僚で培ったこととは違うスキルを身につけたうえで、今の自分が「どの企業でも通用するか」というのは気になりますか?
「そうですね。おかげさまでマネージャーになって、このランクになればどこへでも行けるみたいな言われ方もするので、あわよくば……という気持ちはあります。省庁での経験とコンサルスキルを掛け合わせたところにどんな需要があるか見えてきたので、そういう挑戦はいずれしてみたいです。コンサルを挟むことでキャリアの選択肢が広がることを実感しています」
前述の「とりコン」といわれる現象について掘り下げるにあたって、あるキーワードに注目したい。
結論を端的に述べると、「コンサルファームに行けば成長できる」という言説が昨今のコンサル人気を支える要素の一つとなっている。たとえば、東大新聞とNewsPicksが東大生約300人を対象に行った調査によると、コンサル志望の東大生はそうでない層に比べて「自分の成長が期待できること」を企業選びのポイントとして挙げる人の割合が30ポイント近く高い(「【イマドキ東大生のキャリア観】② 東大生はなぜコンサルへ?」東大新聞オンライン、2021年5月21日)。
■“成長”を後押しする環境も整っている
また、コンサル業界も入社してくる人たちの成長を後押しする体制を整えている。
「(社内でメンバーと上司がそれぞれフィードバックをし合うマッキンゼーの文化について)フィードバックって、要はダメ出し。常にフィードバックし合うのが当たり前。なんでやるかというと、それをやった方が成長するからですね。成長しないと生き残れないから。(コンサルファームには)人と知見しかない、つまりは人が商品。その商品の製造プロセスとして、一番重要な材料がフィードバックです」
(「5倍働け!世界No.1コンサルの出世できる仕事術【マッキンゼー】」NewsPicks YouTubeチャンネル、2023年4月8日より、マッキンゼーに在籍経験のあるランサーズ取締役・曽根秀晶の発言を抜粋)
「コンサル」と「成長」は切っても切り離せない関係にある。そして、この「成長」という考え方は、コンサル業界のみならず、多くのビジネスパーソンにとっての重要なテーマとなっている。
■だから令和ロマンのボケが成立する
くるま はい、みんな聞いて! 筋トレ! サウナ! 成長!
ケムリ めっちゃベンチャーじゃん……
これは2024年のM-1グランプリ3回戦にて、この年に2連覇を果たした令和ロマンが披露したネタの冒頭のくだりである。
ここで指摘したいのは、「筋トレ」「サウナ」という何を指しているか明確にイメージできる単語と、「成長」という抽象的な言葉が並列になっていることだ。このネタでは「社員の90%以上が義務教育終わってない」「子供じゃないですか(笑)。身体の成長ですよそれ」というやり取りがあるが、くるまの連呼する「成長」は背が伸びるといった類いの意味を示さないことをオーディエンスが理解しているからこそ、このボケは成立する。
■成長を“強いられている”かもしれない
お笑いの最前線にいる漫才師が、気合の入ったビジネスパーソンの特徴をデフォルメするにあたって取り上げた「成長」。このチョイスに、彼らの時代に対する批評眼が表れている。今の時代の、特にホワイトカラーの仕事について考えるうえで、成長というものとの向き合い方は外せないテーマである。
「成長を信じる」くらいであればよいかもしれない。今の時代のビジネスパーソンは、「成長を“強いられている”」とすら言える。「終身雇用の時代は終わった」というムードにさらされながら、日常生活のあらゆる場面で自己啓発コンテンツに包囲され、SNSを通じて常に他者との比較に接続される。そのような状況において、何かをしなければならないという圧迫感から逃れるのは決して簡単ではない。
そんな圧迫感と常にとなり合わせだからこそ、その成長というものが何なのかじっくり考える機会に多くのビジネスパーソンは恵まれない。
■コンサルで力をつければ「将来安泰」
「成長したい」と常套句のように言う人たちは、実は何かに乗せられて成長“させられている”のではないか。成長を追い立てる何かが、今の時代の根底に横たわっているのではないか。
2020年代のコンサル業界は、人気の職場となり得る要素を高い水準で満たしており、そこにスキル面での成長という魅力が加わっている。この業界で力をつければ将来安泰といった考え方が広まっていて、それによって新卒の大学生のみならず転職を目指すビジネスパーソンにも選ばれる職業となっている。キャリアの終着点というよりは、その先の選択肢を広げるための通過点としてコンサル業界は人気を博しているとも言える。
終身雇用は終わったと喧伝される時代の「将来安泰」。コンサル業界の人気を支えるのは、この会社に入れば最後まで居場所があることへの期待ではなく、この会社に入ればいずれどこへでも行けることへの期待である。
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レジー(れじー)
批評家・会社員
批評家・会社員。1981年生まれ。一般企業で事業戦略・マーケティング戦略に関わる仕事に従事しながら、日本のポップカルチャーに関する論考を各種媒体で発信。著書に『増補版 夏フェス革命 音楽が変わる、社会が変わる』(blueprint)、『日本代表とMr.Children』(ソル・メディア、宇野維正との共著)、『ファスト教養 10分で答えが欲しい人たち』(集英社新書)。
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(批評家・会社員 レジー)
だが、それ以外にも若者たちをひきつける理由がある」という――。(第1回)
■とりあえずコンサル業界に就職する
かつては東大生の就職先として官僚が挙げられることが多かったが、東大卒の国家公務員試験の合格者は2014年度の438人から2024年度の189人と半分以下に減少した(「『東大から霞が関のエリートコース』は過去に 東大生の官僚離れ進む」AERA dot.、2024年10月12日)。東大生のキャリアの新たなメインストリームとして、コンサル業界の存在感が急拡大している。
「最近の傾向として、とりあえずコンサルティング業界を目指そうという学生が非常に増えていて、『とりコン(とりあえずコンサル業界に就職)』という言葉も一般的になっています」
(「『とりあえずコンサル業界に』就活市場で人気化が止まらない1つの納得理由」ダイヤモンド・オンライン、2024年5月31日より、『問題解決力を高める 外資系コンサルの入社試験』著者のひとりであるRIOのインタビューから抜粋)
偏差値の高い層に選ばれる職業には、いくつかの共通項がある。給与が高い。業務内容がダイナミックで社会への影響力がある。周囲から羨望の眼差しを向けられる。こういった基準での評価を通じて、その時代の人気業界が決まる。その最新トレンドがコンサル業界であり、だからこそ深い理由がなくてもそこへのエントリーを考える「とりコン」現象が発生する。
■官僚を辞め、コンサルへ転職した30代男性
そしてこの人気は、新卒採用にとどまらない。リクルート「2023年度 転職市場の動向」によると、ここ10年ほどでコンサル業界への転職者数は約3.5倍となった(2013年度の転職者数を1としたときに、2022年度が3.54)。これは他業種の伸びと比較しても高い水準だ。
「とりコン」が中途採用にも波及しているとも言えそうである。
数多ある業界の中で、コンサル業界に人気が集中する。この状況は我々に何を示唆しているのだろうか。
Cさん(30代)は東京大学を卒業後、某省庁での勤務を10年近く経て大手コンサルファームへ転職。もともと憧れていた官僚の世界を蹴ってのチャレンジだったが、結果として非常に満足度の高い決断となったようだ。
――新卒での就職先はコンサルではなく国家公務員だったんですね。
「はい。珍しいのかもしれませんが、ずっと官僚になりたいと思っていたんです。中学生のころに父親の仕事の都合で海外に住むことがあって、その期間に日本という国の枠組みについて意識したのが原点ですね。大学入学の時点で国家公務員の試験を受けると決めていましたし、政治とのつながりがあった方がいいのかなと思って議員の事務所でインターンをしたりもしていました。いろいろとやりがいのある体験をさせてもらいました」
■“雑務”が山のようにあった
――念願の、という形でキャリアを始められたと。それだけ聞くと、そのままそこで働き続ける未来もあり得たように思います。
「確かに仕事の経験だけに目を向けるとそうかもしれません。ただ、実はもともとの憧れみたいなものは最初の数年で消えてしまっていたんです。期待が高かった分、ギャップも大きかったというか……たとえば、夜中の2時とか3時とかにひたすら書類のコピーをとっていて、“自分は何をやっているんだろう?”みたいな」
――ああ、今でもよく取り上げられる「官僚の理不尽な大変さ」そのものですね。
「そういう雑務と言いたくなるような仕事が本当に山のようにありました。それに加えて、やっぱり霞が関で身につくスキルって特殊なんです。資料のてにをはを直すのは確かに大事かもしれないけど、これをやり続けていて大丈夫なのかな? と思う瞬間も結構あって。そういう葛藤がある中で、自分の結婚、あと子供ができたのも重なって、この生活を変えたい、停滞感を打破したいと真剣に考えたのが転職のトリガーになりました」
■無駄を省くことが徹底されている
――なるほど。ライフステージの変化もあって転職に踏み切ったと。
「このままだと子育てにもまったく関われないなという危機感もありました。ただ、いざ転職しようとなったときに、実は省庁から移れる場所って決して多くはないんですよね。そんな中で、自分の経験が活かせる仕事としてコンサルが選択肢として浮上しました」
――ご自身の経験が活かせるとはいえ、仕事の進め方などではカルチャーショックもあったのではないかと想像します。
「一言でまとめると、フレキシブルさが全然違いますね。
仕事の進め方も無駄を省くことが徹底されています。そもそも書類をコピーしないですし(笑)。人員計画も柔軟で、勤務時間も自由度が高いです。今はリモート主体で働いていて、子供の送り迎えにも対応できています」
――コンサルへの転職を通じて働きやすさを手に入れたと。
「はい。給料も上がりましたし、その点では120%成功の転職でした。ただ、最初にスキル面でキャッチアップするのは大変でしたね。ワード文化で育ってきたので、パワポを作るのが苦手で……会社の研修では間に合わなくて、独学に時間もお金もかけました。タスク管理のやり方も役所とは全然違って、きっとこういうのがどの企業でも通用するスキルなんだろうなと日々感じています」
■コンサルにいけば「成長できる」
――官僚で培ったこととは違うスキルを身につけたうえで、今の自分が「どの企業でも通用するか」というのは気になりますか?
「そうですね。おかげさまでマネージャーになって、このランクになればどこへでも行けるみたいな言われ方もするので、あわよくば……という気持ちはあります。省庁での経験とコンサルスキルを掛け合わせたところにどんな需要があるか見えてきたので、そういう挑戦はいずれしてみたいです。コンサルを挟むことでキャリアの選択肢が広がることを実感しています」
前述の「とりコン」といわれる現象について掘り下げるにあたって、あるキーワードに注目したい。
それが「成長」である。
結論を端的に述べると、「コンサルファームに行けば成長できる」という言説が昨今のコンサル人気を支える要素の一つとなっている。たとえば、東大新聞とNewsPicksが東大生約300人を対象に行った調査によると、コンサル志望の東大生はそうでない層に比べて「自分の成長が期待できること」を企業選びのポイントとして挙げる人の割合が30ポイント近く高い(「【イマドキ東大生のキャリア観】② 東大生はなぜコンサルへ?」東大新聞オンライン、2021年5月21日)。
■“成長”を後押しする環境も整っている
また、コンサル業界も入社してくる人たちの成長を後押しする体制を整えている。
「(社内でメンバーと上司がそれぞれフィードバックをし合うマッキンゼーの文化について)フィードバックって、要はダメ出し。常にフィードバックし合うのが当たり前。なんでやるかというと、それをやった方が成長するからですね。成長しないと生き残れないから。(コンサルファームには)人と知見しかない、つまりは人が商品。その商品の製造プロセスとして、一番重要な材料がフィードバックです」
(「5倍働け!世界No.1コンサルの出世できる仕事術【マッキンゼー】」NewsPicks YouTubeチャンネル、2023年4月8日より、マッキンゼーに在籍経験のあるランサーズ取締役・曽根秀晶の発言を抜粋)
「コンサル」と「成長」は切っても切り離せない関係にある。そして、この「成長」という考え方は、コンサル業界のみならず、多くのビジネスパーソンにとっての重要なテーマとなっている。
■だから令和ロマンのボケが成立する
くるま はい、みんな聞いて! 筋トレ! サウナ! 成長!
ケムリ めっちゃベンチャーじゃん……
これは2024年のM-1グランプリ3回戦にて、この年に2連覇を果たした令和ロマンが披露したネタの冒頭のくだりである。
「2027年にお笑い芸人が法律で禁止される」という突飛な設定の下、就職のために架空の企業を訪れたツッコミの松井ケムリに対して、ボケの髙比良くるま扮する社長が出会い頭にこんなセリフを発する。
ここで指摘したいのは、「筋トレ」「サウナ」という何を指しているか明確にイメージできる単語と、「成長」という抽象的な言葉が並列になっていることだ。このネタでは「社員の90%以上が義務教育終わってない」「子供じゃないですか(笑)。身体の成長ですよそれ」というやり取りがあるが、くるまの連呼する「成長」は背が伸びるといった類いの意味を示さないことをオーディエンスが理解しているからこそ、このボケは成立する。
■成長を“強いられている”かもしれない
お笑いの最前線にいる漫才師が、気合の入ったビジネスパーソンの特徴をデフォルメするにあたって取り上げた「成長」。このチョイスに、彼らの時代に対する批評眼が表れている。今の時代の、特にホワイトカラーの仕事について考えるうえで、成長というものとの向き合い方は外せないテーマである。
「成長を信じる」くらいであればよいかもしれない。今の時代のビジネスパーソンは、「成長を“強いられている”」とすら言える。「終身雇用の時代は終わった」というムードにさらされながら、日常生活のあらゆる場面で自己啓発コンテンツに包囲され、SNSを通じて常に他者との比較に接続される。そのような状況において、何かをしなければならないという圧迫感から逃れるのは決して簡単ではない。
そんな圧迫感と常にとなり合わせだからこそ、その成長というものが何なのかじっくり考える機会に多くのビジネスパーソンは恵まれない。
なぜ成長したいのか、どうなったら成長なのか、正直よくわからない。それでも「成長する」のが悪いこととは誰も思わないので、特に前提も問い直さないし、何となく流布している世の中の基準で成長の進み具合を測ってしまう。
■コンサルで力をつければ「将来安泰」
「成長したい」と常套句のように言う人たちは、実は何かに乗せられて成長“させられている”のではないか。成長を追い立てる何かが、今の時代の根底に横たわっているのではないか。
2020年代のコンサル業界は、人気の職場となり得る要素を高い水準で満たしており、そこにスキル面での成長という魅力が加わっている。この業界で力をつければ将来安泰といった考え方が広まっていて、それによって新卒の大学生のみならず転職を目指すビジネスパーソンにも選ばれる職業となっている。キャリアの終着点というよりは、その先の選択肢を広げるための通過点としてコンサル業界は人気を博しているとも言える。
終身雇用は終わったと喧伝される時代の「将来安泰」。コンサル業界の人気を支えるのは、この会社に入れば最後まで居場所があることへの期待ではなく、この会社に入ればいずれどこへでも行けることへの期待である。
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レジー(れじー)
批評家・会社員
批評家・会社員。1981年生まれ。一般企業で事業戦略・マーケティング戦略に関わる仕事に従事しながら、日本のポップカルチャーに関する論考を各種媒体で発信。著書に『増補版 夏フェス革命 音楽が変わる、社会が変わる』(blueprint)、『日本代表とMr.Children』(ソル・メディア、宇野維正との共著)、『ファスト教養 10分で答えが欲しい人たち』(集英社新書)。
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(批評家・会社員 レジー)
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