日本製品はかつて世界中から高い評価を得ていた。現在はどうなのか。
イギリス在住で著述家の谷本真由美さんは「日本の文房具やお菓子は、ヨーロッパのものと比べて安くて高品質と評判が高い。さらに人気なのが、いわゆるガテン系の商品だ」という――。
※本稿は、谷本真由美『世界のニュースを日本人は何も知らないBEST版』(ワニブックスPLUS新書)の一部を再編集したものです。
■Amazonで日本から“輸入”する人々
コロナ禍以後、海外でもオンラインショッピングが大流行です。「オンラインで少し変わったものを買ってみよう」という人が増加。外国から商品を取り寄せる人もいて、その需要に応えるように、最近ではアマゾンなどのネット通販で海外から買い物することがたいへん便利になりました。
アマゾンで海外のものを購入すると、配送から税関での手続きまでやってくれるのですごく便利です。イギリスの場合は、国内で買い物するよりも日本から取り寄せたほうが通常は速く、私もいろいろと“輸入”しています。
それに気づいたのは私だけでなく、多くのイギリス人などヨーロッパの人々でした。
彼らは日本からいろいろなものを購入しています。その彼らが買っているモノは種々雑多な商品で、なんと日本から文房具や駄菓子、そしてカップ麺にいたるまで大量購入しています。自国にもあるのに、なぜ日本から買うのか――。

■日本の文房具は「世界一品質が良い」
実は日本の文房具や食品はたいへん優れモノなのです。独自の味付け、独自のパッケージ、そして値段が安い。食品は味も良いので、根強いファンがいるのです。
とくに文房具に関しては、日本製品の品質の良さがよく知れわたっています。学校や職場で日本のボールペンやそのほかの文房具を机の上に置いておくと、いつのまにか消えてしまうことがよくあります。日本の人には想像できないことですが、イギリスをはじめヨーロッパ大陸には手癖の悪い人も多いのです。
自分のものと他人のものを分けて考えない方もいるので、同僚の机からボールペンを持っていってそのまま返さない人も中にはいます。
学校では普段から、新品の体操着一式とか靴までほかの生徒が持っていってしまうことがよくあります。ちょっと変わった文房具や質の良さそうなものがあったら、それを軽い気持ちで拝借してしまうのです。
■安くて高品質なコクヨのノート
なぜそこまで日本の文房具が人気かというと、とにかくヨーロッパでは値段が安く質の良い文房具が少ないからです。もちろん日本のコレクターの人々が集めているようなドイツ製の超高級文房具も存在しますが、そんなものはなかなか売っている店がない。存在そのものを知らない人も多いのです。

とくにヨーロッパの紙類は品質がかなり悪いため、日本のコクヨの激安ノートを見せると現地の人々がたいへん驚きます。それでもヨーロッパにはフランスやドイツ、イタリアに高級文具メーカーがあるからまだマシですが、アメリカの場合は「文具砂漠」といった状況です。紙の質はヨーロッパよりも落ちるし、ボールペンは途中でインクが出なくなってしまうものだらけです。
日本の文房具マニアの人が欧米に住んだら1週間でノイローゼになるでしょう。流行や品質に敏感な若い人々は、日本の文房具の性能をよく知っています。とくに漫画を描く人や絵画に携わる人々は、わざわざ日本から文房具を取り寄せているのです。
■「きのこの山」「たけのこの里」の遊び心
先ほど述べたように意外と人気なのが日本の駄菓子やカップ麺です。なぜそんなものをわざわざ日本から取り寄せるのか――。
日本の加工食品のパッケージは独特のエキゾチックな文字で書かれています。ヨーロッパの人々が理解できないひらがなやカタカナが並び、そのうえ漢字も記してあり、パッケージの色の使い方やキャラクターもユニークで世界観がまったく違うのです。
お菓子のコンセプトも異なります。
たとえばヨーロッパには「きのこの山」や「たけのこの里」のような野菜や果物をお菓子にしたような遊び心のあるものがほとんどありません。
とはいえイースターの時期にはウサギの形のビスケット、クリスマスにはサンタの形のチョコレートが売られています。しかしそれは、あくまで特別な行事用。普段のお菓子に、そういった遊び心と細かい加工があるものはないのです。
■子ども向けなのに大人もおいしく楽しめる
ヨーロッパのスーパーやコンビニエンスストア(コンビニ)に並ぶのは大人向けの板チョコやトリュフチョコなどです。味は良いけど、あくまでも大人向け。子ども向けのお菓子はミミズやクマのような形にしている程度で、日本に比べると種類が限られています。
日本だとグミでお寿司を作れるお菓子のセットとか、キャラクターの形をしたものがたくさんあります。それがまたシーズンごとに続々と新作が出てくるのです。
おもちゃ付きのお菓子の品質もほかの国では考えられないような高いレベルで、100円か300円ほど出せば精巧なおもちゃ付きのお菓子が買えます。それほど細かい工夫をしたものはヨーロッパにはありません。日本のお菓子を知った人々は異常に喜びます。母国のモノとはあまりにも違うからです。

日本のお菓子はさまざまな工夫があるだけではなく味も良いです。ビスケットは軽やかな風合いになるようにいくつかの油脂を組み合わせています。そのため100円程度のビスケットであっても、いくつもフレーバーが用意されています。
■お菓子メーカーの創意工夫の賜物
グミにしても、日本の製品には濃縮果汁入りやビタミン入りのものまであります。
ヨーロッパのグミには果汁がほとんど含まれていません。砂糖とゼラチンで固めただけの無骨で昭和的なものばかりです。味も形も何十年と変わりません。
消費者がそういった新しいものを求めないからなのか、それとも売る方にやる気がないからなのかはよくわかりません。とにかく同じものを延々と売っています。創意工夫とか「新しいものをどうにかつくろう」という気力がないようです。ところが日本のメーカーは何かに追い立てられるように次々に新しいものを開発します。
さらにそういったお菓子のパッケージも少量のものを個別包装するなど、衛生にもたいへんな気を遣っています。
100円もしないような駄菓子でも、そんな気の遣いようだから海外の人はたいへん驚きます。しかも値段は激安です。母国のお菓子に比べたら3分の1か4分の1なので日本からの輸送費を払っても安く感じるのです。
■ガテン型アイテムがヨーロッパで大人気
ヨーロッパの人々に大人気な日本の道具や工業製品があることをご存じですか。
それはDIYの道具、大工道具、そして建築用の重機、商業トラックなどです。日本は“ガテン系ワールド”ではスーパーヒーローなのです。
投資をされている方は知っているかもしれません。日本の主要なメーカーは海外での販売比率がかなり高いです。これらのメーカーは日本国内で消費者向けに派手に広告宣伝をしているわけではないので、業界以外の方は知らなくて当然でしょう。
日本の少子高齢化をいち早く見据え、海外にターゲットを絞っていくなかで、地道な営業をしていた成果が出ているのです。
■マキタの製品は値引きしなくても売れる
DIYの道具でもっとも人気があるメーカーのひとつはマキタです。イギリスだけではなくヨーロッパ各国の家庭や建築現場で脚光を浴びた、あの緑のドリルなどが大人気です。
一般家庭向けの道具だけではありません。プロの大工さんや電気工事士などがマキタの製品を愛用しているのです。
マキタはいち早く国際化を遂げた企業です。1990年代にアメリカのハードロックバンド、ミスタービッグのギタリストのポール・ギルバート氏がマキタのドリルにピックをつけてギターを弾くというステージアクションをやった時は、間髪入れず彼を広告に登場させました。保守的な日本の企業であれば、ありえない選択ですね。
マキタはイギリスであまり値引き販売をやりません。ほかのメーカーはどんどんプライスダウンをします。しかしマキタ製品は高くても売れるのです。
マキタと並んで最近人気なのが、同じくDIY器具を売るRYOBIです。
ヨーロッパのDIY市場や中古住宅の改修マーケット規模は大きく、地元の人々は古い家を購入し、それを自分で改修するとか業者に仕事を依頼するのが当たり前。ここで使う機器の需要が高いのです。
家の改築だけではなく、日本よりはるかに広い庭の草刈りやパティオ(中庭や裏庭)の洗浄などでも大活躍です。いままでは主にBOSCHのようなヨーロッパのメーカーが展開してきました。保守的な人だらけのマーケットでこれだけ日本のメーカーが大人気なのは誇らしいことです。
■日本人より日本庭園を愛している
ほかに大人気な日本の製品は庭用品です。それもおしゃれ系のガーデニング用品ではありません。伝統的な盆栽の剪定用ハサミやノコギリなどです。日本の道具は切れ味がよく使い勝手も良いので庭を愛好する人々には大人気です。
さらに盆栽をやっている方や家に日本庭園がある方の中には、道具を日本のものに統一して本質を極めるために日本から道具一式を取り寄せる方もいます。日本ではそんな人はなかなかいません。ヨーロッパの人々のほうが日本庭園に対する思い入れがいかに強いかということがおわかりでしょう。
それに関連して人気なのが錦鯉関連のグッズです。錦鯉の餌や池用のグッズがこれまた人気です。日本庭園の錦鯉向けグッズや、日本風の池は独特なので、そういったものが求められているのでしょう。
日本庭園に入れ込むような人はある程度お金持ち。文化レベルも高いので、中国や韓国製のコピー製品では満足しません。それに加えて石で灯籠をつくったり池の上に日本式の橋をかけたり池を眺める部屋には畳をしいて障子を置いたりして本格的に追求するのです。
海外のみなさんがわが国の伝統文化に真摯に向き合ってくれるのは非常に喜ばしいことです。一方で日本の人々はこういったジャンルにほとんど興味がありません。中年以上でも若い世代でも同様です。これは誠に残念なことではないでしょうか。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

著述家、元国連職員

1975年、神奈川県生まれ。シラキュース大学大学院にて国際関係論および情報管理学修士を取得。ITベンチャー、コンサルティングファーム、国連専門機関、外資系金融会社を経て、現在はロンドン在住。日本、イギリス、アメリカ、イタリアなど世界各国での就労経験がある。ツイッター上では、「May_Roma」(めいろま)として舌鋒鋭いツイートで好評を博する。

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(著述家、元国連職員 谷本 真由美)
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