※本稿は、関圭一朗『「なんかおもしろそう」と思われる伝え方』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
■「結論から伝える」は万能ではない
僕が原稿を書いていて最も難しいと感じるのは、圧倒的に、そして絶望的に話の「入口」です。
わかる人は限られますが、あえて言わせてください。
歴代ドラクエの中でも最難関といわれ、小学生だった僕に「挫折」の二文字を刻み込んだ「ロンダルキアへの洞窟」(『ドラゴンクエストII 悪霊の神々』)くらい難しい!
いつもより頻繁に敵と出くわすわ、そいつらが理不尽に強いわ、床は落とし穴だらけだわ、道を間違えるとぐるぐるループさせられるわ……。
しつこいようですが、現代社会では「言葉のバトルロワイヤル」が勃発しています。入口で「なんかおもしろそう」と思わせないと、たった1ブロック、下手したらたった一言で離脱されてしまうわけです。それだけに、話にどう入っていくかは神経を削りまくって考えなくてはなりません。
しかし、もちろんそこには罠が待ち構えています。
そのうちの1つが“結論ファースト”です。
あなたは「会話や文章は結論から伝える」という定説を目にしたことはあるでしょうか。人はかなり早い段階で興味があるかどうかを判断するので、結論が後回しの話になんて付き合ってくれない。
ビジネスの世界で「PREP法」と呼ばれる手法も、代表的な“結論ファースト”です。
結論(Point)から入って、理由(Reason)を述べて、例(Example)を挙げて、最後にまた結論(Point)でまとめる。
■“結論ファースト”の何が問題?
例を挙げます。
P:アニメ『シティーハンター』のエンディング曲『Get Wild』が名曲すぎる。
R:曲そのものもかっこいいのだが、演出が魅力を倍増させている。本編の最後、最高に盛り上がった瞬間にイントロがオーバーラップ。タイミングとメロディがマリアージュし、エモさを爆発させる。
E:中でも「神回」といわれるのが『シティーハンター2』第50話「さらばハードボイルド・シティー(後編)」。時限爆弾のタイムリミットが迫る中、主人公とヒロインが……
P:名曲すぎるアニソン『Get Wild』を一度は堪能してみて!
え? “結論ファースト”の何が問題なの? と思ったあなた、危険です。
確かに“結論ファースト”は王道といえる手法ですが、万能ではないんです。むしろ、採用することで逆効果になるケースもあります。
では、どのような場合が危ないのか。
▼結論を真っ先に言うことで反感を買う可能性がある場合
否定的な意見を伝えたいときと、相手に「~してください」とアクションを求めたいときは“結論ファースト”が最適かどうかよく考えましょう。いきなりぶしつけな印象を与え、反感を買いかねないからです。
特に、主観的な物言いになりそうなときは、最大級に気を配ることです。
■じっくり追体験していくことに醍醐味がある話
▼結論がわかってしまうと情緒が失われる場合
結論(オチ)に向かって、じっくり追体験していくことに醍醐味がある話は“結論ファースト”に不向きです。笑える話、変化・成長を楽しむ話、謎がある話、あとは怪談も含まれるでしょうか。
ある日、僕は仕事が遅くなり、タクシーで帰宅していた。
時間は深夜の2時くらいだったか、電話が鳴った。
かけてきたのは中学生の息子だった。
「どうした、こんな時間に?」
「ねえ、大丈夫?」
「何が?」
僕は息子の答えに鳥肌が立った。
「キッチンに白い女の人が立っていて、『お父さんは?』って聞かれた」
以前、スピリチュアル方面に詳しい知人から言われたことがある。
我が家のキッチンは「霊の通り道にある」と。
僕は尋ねた。
「むしろ、お前は大丈夫なのか?」
「うん、もういなくなった」(実話です)
この話、もしも「我が家のキッチンには女性の霊がいるらしい」という結論から入ったら、恐さが半減すると思いませんか?
▼伝えたい結論に、相手が興味を持てない場合
①伝えたいことは何か
②どのように伝えるか
③それは相手にとって伝えてほしいことなのか
伝えたい結論に、相手が興味を持てないケースというのは、まさに“見切り発車”が引き起こすもの。伝えたいことと伝えてほしいことがかみ合わず、引力が生まれない状態です。
さあ、こういうときはどうしましょう。
伝えることをあきらめるか。それとも、相手のリアクションに期待せずに伝えるか。
いいえ、工夫次第ではどうにかなるかもしれませんよ。
■結論に興味がないのではない。まだ興味がないだけ
伝えたいことと伝えてほしいことが合致しない。
そんなときは“結論ファースト”をあきらめて、発想を転換しましょう。
「伝えたい結論に、相手が興味を持てない」のではない。
「伝えたい結論に、相手がまだ興味を持てていないだけ」なのだと。
突破口は、指針の「②どのように伝えるか」にあります。
結論に興味が持てるような導入を用意してあげると、打開できる場合があるんです。
一体、どういうことか。
先ほど、PREP法の例文を挙げましたよね。結論は「アニメ『シティーハンター』のエンディング曲『Get Wild』が名曲すぎる」というものでしたが、ここから始まると作品のファンか、世代的にストライクな相手にしか響かないと思うんですよ。
でも、導入(Introduction)を次のようにしたら?
I:今回は社会人のあなたにオススメしたい
「仕事終わりの達成感を爆上げできる方法」がある。
退勤時、会社のドアを開けると同時に「ある曲」を聴くだけ。
TM NETWORKの『Get Wild』だ。
この行為は「Get Wild退勤」と呼ばれ、SNSで大反響。
Z世代にも広く認知されることとなった。
それにしても、この曲を聴くと達成感を爆上げできるのはなぜか。
■P(結論)以降
P:そもそも『Get Wild』とは
アニメ『シティーハンター』のエンディング曲なのだが、ただの名曲ではないのだ!
R:曲そのものもかっこいいのだが、演出が魅力を倍増させている。
本編の最後、最高に盛り上がった瞬間にイントロがオーバーラップ。
タイミングとメロディがマリアージュし、エモさを爆発させる。
E:中でも「神回」といわれるのが『シティーハンター2』第50話「さらばハードボイルド・シティー(後編)」。
時限爆弾のタイムリミットが迫る中、主人公とヒロインが……
P:退勤する際は、名曲すぎるアニソン『Get Wild』を是非!
どうでしょう。
導入(I)に「社会人」「Z世代」といったワードを入れることで、ターゲットの「幅」が広がったように思いませんか。『シティーハンター』に興味がない人でも「なんかおもしろそう」と思われる可能性が出てきましたよね。
参考までに、他の導入も考えてみましょう。こんなパターンは?
I:カラオケは好きだけど、あまり高音は出ない。
そんなあなたにオススメしたい曲がある。
TM NETWORKの『Get Wild』だ。
最高音は「ソ」とかなり低めで、たった1音だけ。
この曲は近年、再び脚光を浴びて広い世代に知られている。
時代を超えて愛される理由は一体何なのか。(以下PREP)
■変化球で、もう1パターン
ついでに変化球で、もう1パターン。
I:きょう、4月8日は何の日?
日本記念日協会にはいくつもの記念日が登録されているが、ひときわ異彩を放っているのが「Get Wildの日」だ。
2023年、TM NETWORK結成40周年を機に申請。
楽曲タイトルが認定されたのは、邦楽としては初の快挙だという。
記念日になるほどの曲とは、一体どんなものなのか。(以下PREP)
もちろん「導入(I)」の後は、PREPの順番でなくても構いません。
では、このように“結論ファースト”がハマらなくて、他の導入が必要な場合はどんな点を意識したらいいのでしょうか。
▼自分ごと化
1つは、いかに「自分ごと」として捉えさせるか。
たとえば、災害のニュース。遠く離れた外国で起こったものと、国内の自分に縁のある土地で起こったものとでは、関心の強さが違ってきますよね。
あるいは、診断・占いの類。ああいうのって、すべてのタイプを熟読しますか? ほとんどの人は、自分があてはまる項目しか読まないのではないでしょうか。
人の興味は、自分と関係がありそうかどうかに大きく左右されます。なので、「Get Wild退勤」の例のように導入では相手の「属性」や「気になりそうなワード」を提示すると、効果的なんです。
■相手にとってのメリットを提示する
▼メリットファースト
もう1つ、新たな導入を設ける際に意識することは、いかに必要性のある話だと思ってもらえるか。
この話に付き合ってくれたら……、
あなたの悩みが解消されますよ。
あなたの疑問にお答えできますよ。
あなたの生活が豊かになりますよ。
あなたの心に健康と栄養を与えますよ。
あなたの人生に役立つ話ですよ。
あなたの考えが前向きに変わりますよ。
きっと誰かに話したくなるような情報ですよ。
今、知っておかないと損ですよ。
といったメッセージを組み込むのです。
いわば「メリットファースト」。
相手が悩んでいること、困っていることを見つけ、解決策を提案する。これはマーケティングの基本ともいわれています。『Get Wild』の例でいうと、カラオケで高音が出せない人への導入が該当します。
導入で「自分ごと化」を試みるにしろ「メリットファースト」を掲げるにしろ、大事なのは相手像を想定することです。
相手は、こちらが伝えたい話に興味があるのか、ないのか。あるとしたら、どれくらいなのか。逆にないとしたら、どんな層を取り込むか。その人たちが求めるメリットとは何なのか。要するに「気働き」ですね。
振り向かせたいなら、話の入口で歩み寄るべし。
「I(愛)」があれば、相手の見る目が変わります。
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関 圭一朗
放送作家
1976年山形県生まれ、福島県育ち。これまでに担当した主な番組は、『報道ステーション』『TOKYO応援宣言』『NANDA!?』『バスケ☆FIVE 日本バスケ応援宣言』『テレビ朝日オリンピック中継』など。スポーツ番組を主戦場とし、特に『報道ステーション』では2004年の番組立ち上げから松岡修造氏のスポーツコーナーを担当。『横浜DeNAベイスターズ公式ドキュメンタリー ダグアウトの向こう2013』『横浜DeNAベイスターズ公式ドキュメンタリー ダグアウトの向こう─今を生きるということ。』『あの日、侍がいたグラウンド~2017 WORLD BASEBALL CLASSIC™~』などのドキュメンタリー作品も担当した。放送作家として常に、制作者・視聴者・取材対象者の三者がwin-win-winとなる「三方よし」を心掛けている。人生の師はオリックス・バファローズと週刊少年ジャンプ。
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(放送作家 関 圭一朗)