40歳を過ぎて転職して成功する人は、何が違うのか。ミドル世代専門転職コンサルタントの黒田真行さんは「採用側は、一管理職としてだけではなく、将来の経営幹部候補として期待できる人物なのかを見定めている。
転職市場で価値を上げられる人には5つの共通点がある」という――。
※本稿は、黒田真行『いつでも会社を辞められる自分になる』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
■40代前半はキャリアの「強制折り返し地点」
これまでたくさんのミドル世代の方々と面談をしてきましたが、仕事人生の前半と後半で、キャリアの描き方を異質なものとして考える必要性を感じています。その分岐点になるのが、40代前半です。
40代前半を境にした前半の20年と後半の20年は、まるっきり変わるものになる――そう考えておいたほうがいいでしょう。
私自身も40代後半以降、会社内における役割が変わり、仕事が変わり、ポジションが変わる経験をしてきました。私の場合には、独立もしたので、ここでまた環境は激変しました。
しかし、それ以上に変わったのはこうした表面的な変化ではなく、時間の密度であったり、日々の過ごし方の比重のようなものです。何に時間を使うか。どう日々を過ごしていくか。それは前半の20年とはまるで違いました。
心身面でも変わります。
体力も変わるし、健康面でも変化が出る。あるいは心の持ちよう、心のありようも変わってくる。
家族、親、子どもなどの環境も変わり、仕事をめぐる状況にも大きく影響します。自分のことだけを考えているわけにはいかなくなるのです。
■体力は衰えても「知恵とスキル」で勝負する
後半の20年は、体力は衰えますが、一方で知恵は深まってきます。いろいろなスキルも高まってくる。そして、「時間」というものに意識が向かいます。
若い頃は、夜中も仕事をしたり、遊びもしたりと無茶ができましたが、年をとるとともに、そうはいかなくなります。休まないと体力が持たなくなったり、家族のために使う時間が増えたりと、仕事に没頭する時間が短くなります。
だから、知恵やスキルが重要になる。使える時間が短くなる中、知恵やスキルを使うことで、同じ時間でも密度が変わってくるのです。
ですから、後半の20年は、前半の20年とはまったく違う世界がやってくるというつもりで、キャリア設計をすることが重要になります。

自分が想像する以上に、心身の変化がやってくる可能性が高い。それを織り込み、社会が変化する中で、どんな後半のキャリアを描いていくかを考えていく必要があります。
■「40歳」で周囲からの「見られ方」は一変する
キャリアの折り返し地点である40代前半ですが、40歳を超えると半ば強制的に、問答無用に、周囲からの見られ方が変化することに気づいておく必要があります。
周囲が自分を見る目は年齢によって変化していますが、それが40代からはさらに大きく変化するのです。
20代前半から30代いっぱいまでは、「一人前」から「リーダー」クラスになり、現場の第一線のプレイヤーとして、最も脂が乗った時期を指すことが多いのが、この若手の時代です。そして30代後半くらいからマネジャーや管理職に昇格したりする人が増えていく。しかし、まだ若手のマネジャー、若手の管理職といった捉え方をされることが少なくありません。
ところが、40歳を超えてくると、もう現場第一線、若手とは言われなくなるのです。周囲の期待としては一段重みが上がってくる。転職マーケットでも、一プレイヤーとしてではなく、管理職として仕事がどれだけできるのか、組織を動かして結果を出していける人なのかどうかが問われ始める。それが、40歳を超えてからです。
■わずか5年で求められる「経営幹部候補」の視点
一管理職としてだけではなく、さらに高い期待をする会社は、将来の経営幹部候補として期待できる人物かどうか、という目線でも見ます。
つまり、20代から40代にかけては、プレイヤー、管理職、経営幹部と大きく3段階の見られ方をしていくということです。
プレイヤーとしての活躍が期待されるところから、一気に2段階上の経営幹部として育っていく可能性があるかどうかまで見られるのが、20代から40代。実は、その変化は30代から一気に起こってくるのです。
しかし本人としては、37歳から42歳の5年間ではわずか5年が経っただけ。28歳から32歳の5年間と、大した違いがあるとは思っていなかったりする。ところが、28歳から32歳の5年間と37歳から42歳の5年間とでは大きく違うのです。プレイヤー、管理職、経営幹部と大きく3段階の見られ方をしていくのです。
それなのに、40歳以降の見られ方に、十分な備えをしていない人が少なくありません。
■最も危ない「20代のつもりの40代」
この変化にうまく対応し、周囲の期待にうまく応えて、あるいは周囲の期待を超えるような見られ方ができれば、周囲からも評価されるし、自分自身も納得いく働き方ができます。
人間は、自分のことは自分自身ではよくわからないけれど、他者からはよく見えるというところがあります。
仕事やキャリアに関していうと、30代から40代に年齢が上がっていっても、自分の中では地続きのイメージを持っています。ところが、周囲からは、30代と40代では見られ方は明らかに変わります。

この変化に自分で気づいていないと、40代なのに20代のつもりでいた、といったことが起こります。頼りない印象や、軽薄な印象を持たれかねません。
とりわけ自分のキャリアをどう設計していくかを考えた時には、20代、30代のキャリアと、40代、50代、長く働きたい人は60代も含めて、人生の前半、後半の分かれ目を意識しておいたほうがいい。
この違いを認識し、この違いを前提に、キャリアをどう作っていくのかを考える必要があるのです。
■転職市場で価値の高い人「5つの原則」
人材は二極化しています。複数の企業から引く手あまたの人と、会社からお荷物扱いされ転職先も決まらない人との差が大きく開いていく中で、自分が「会社を辞めてもいい人」なのか、「会社を辞めてはいけない人」なのか、きちんと見極める必要があります。
会社をいますぐ辞めても問題ない人は、端的に言うと今の会社でも成果を上げて満足度の高い仕事をしている人です。そんな人はどんな考え方や習慣をもっているのか。ここでは、私がミドルの転職市場で多くの方を見てきた経験から、少しメタ的な観点でお伝えしたいと思います。
繰り返しますが、35歳以降、40歳を過ぎていくと、5年ごとに自分が対象となる求人が半減していく実態があります。
特に2020年以降、徐々に労働力人口の減少が明確化し、じわじわとミドル世代の転職実数は増えてきていますが、転職希望者に対しての転職決定者の割合はそこまで大きく上がっていません。正確に言うと、ミドル世代の転職決定率は上昇してはいるものの、30代未満の若年層の激増っぷりと比べると、微増にとどまっている状況です。

そんな中でも40代以降も市場価値を高め続けておられる方の共通点を5つ挙げておきます。
■数字で証明できないと「説得力が半減する」
1.定量的な成果を生み出せる
一つ目は、転職先の事業や会社に対して、定量的な結果を生み出せる人です。「定量的」とは、目に見える数字で表されるもので、業績や利益、顧客増などが挙げられます。転職活動中はまだ入社していませんから、定量的な結果を生み出せそうな人、ということになりますが、それを書類選考や面接の段階でいかに証明できるかがポイントになります。
同じスキルであっても、どう表現するかによって、採用側の受け止め方が大きく変わることは先にも触れてきました。あくまで採用側の立場に立ち、採用側が活躍をイメージできるような表現が必要になるのです。
実際、定量的な結果を生み出せること、定量的な結果を生み出すための要素やKPI(重要業績評価指数=企業や組織が設定した目標に対して、その達成度を測るための指標)をしっかり説明できる人は、市場価値が高いと言われる結果になっています。裏を返すと、数字で表されない「定性的(信頼関係などで生み出される)」な成果やプロセスを強調する人は、定量的な結果の確からしさを薄めてしまっている可能性があります。
相手の事業の成果をどう生み出すのかという「HOW」の部分と、それがなぜ生み出せるのかという「WHY」の部分を強調することが求められています。
■1馬力から「10馬力」に変換できる実力者になる
2.採用市場で需要がある業界にいる
市場からの期待値が高い仕事領域を選んでいる人は当然、結果として市場価値も高くなります。需要がない業界にいる人は、市場価値はつきにくくなるのが現実です。
3.周囲の力を借りて5馬力、10馬力に変えられる
3つ目は、自分の存在をレバレッジとして、結果を最大化できるかどうかです。
レバレッジとはテコの原理のことですが、自分をテコにしてチームや組織で結果を最大化できる人は、市場価値が高まります。
ただ、やみくもに自分が走り回って頑張って成果を出すのではなく、自分の知識やスキルを活かして多くの人を巻き込み、より大きな成果を出していける人です。自分単独の1馬力に拘らず、周囲の力を借りて5馬力、10馬力に変えられる。
こういうことは若手では難しく、40代以降のベテランになればなるほど、そのポテンシャルへの期待が高まります。
ただ、20代、30代でやってきた走り方に固執してしまい、40歳を過ぎてもレバレッジを使った働き方ができない人もいます。
35歳を切り替えポイントとして、自分単独で頑張るのではなく、チームや組織で戦うスタイルを意識していくことができるかが大事になってくるのです。
■「組織を動かす力」が人材市場の評価を決める
4.周囲を「巻き込んで」組織に好影響を与える
4つ目は、自分だけでこんな結果が出せるというプレイヤー的な視点ではなく、チームや組織に好影響が与えられるか、という意識を強く持っている人です。言い換えれば、マネジメント能力ですが、必ずしもマネジメントができなければいけないわけではありません。
プレイヤーとして、まわりを巻き込んで組織としての成果を生み出すこともできるからです。実際、管理職でなくても、それができる人がいます。
人をマネジメントするのが好きではない、得意ではないという人は実は少なくありませんが、とはいえ単独で作業する職人型スタイルだけでなく、周囲のキーマンを巻き込んで大きな成果を生み出すやり方も評価されるのです。
5.経営に近い目線で事業の存在目的を考えられる
5つ目は、経営的な視点になりますが、その事業にとっていかに正しい命題を設定できるか、です。
これは経営者の仕事ですが、経営に近い目線で、事業が何をやるべきか、今この会社は何を目標に置くべきかに対して、経営者に論理的にプレゼンテーションができる力を持っている人は、経営幹部として経営者から頼られるポジションにつきやすいのです。
逆に40歳を過ぎているのに、言われた命題をこなすだけの人や、与えられた役割をまっとうすることだけを考える人は、事業環境や競合の変化に対応できません。企業が他社と差別化するためには、事業の存在目的を再設定する必要があるのです。
事業成長を推進するアイデアを持ち、それを説得力を持って伝えられる人は、市場価値が高いと言えます。

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黒田 真行(くろだ・まさゆき)

転職コンサルタント、ルーセントドアーズ代表取締役

1965年兵庫県生まれ、関西大学法学部卒業。1988年、リクルート入社。以降、30年以上転職サービスの企画・開発の業務に関わり、「リクナビNEXT」編集長、「リクルートエージェント」HRプラットフォーム事業部部長、「リクルートメディカルキャリア」取締役などを歴任。2014年、リクルートを退職し、ミドル・シニア世代に特化した転職支援と、企業向け採用支援を手掛けるルーセントドアーズを設立。30年以上にわたって「人と仕事」が出会う転職市場に関わり続け、独立後は特に数多くのミドル世代のキャリア相談を受けている。著書に『採用100年史から読む 人材業界の未来シナリオ』(クロスメディア・パブリッシング)、『35歳からの後悔しない転職ノート』(大和書房)など。

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(転職コンサルタント、ルーセントドアーズ代表取締役 黒田 真行)
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