※本稿は、高濱正伸『13歳のキミへ 中学生生活に自信がつくヒント35』(実務教育出版)の一部を再編集したものです。
■生まれて初めて、自殺しようと思った
いじめの話。
キミの年代、小学校5年から中学2年くらいにかけては、ちょうどいじめがいっぱいある頃(ころ)だ。いちばん厳しい時期だと思うんだよね。現に、いじめをしている人もいるかもしれないし、いじめられている人もいるかもしれない。
ここで言いたいのは、「いじめられた体験は財産になる」ということ。逆説じゃなく、いじめをくぐり抜(ぬ)けた人ほど強い人はいないからなんだ。
ぼく自身がいじめられたことを話そう。
自分の身体(からだ)のことで悩(なや)んでいた。頭が、大きいんだよ。
コンプレックスって、その人にしかわからないんだよね。
たとえば、髪が天然パーマでクルクルの人はそのことを気にしてて、周りから見たらかわいいだけなんだけれど、「そのことについては何も触(ふ)れないで!」って思う。ただメガネをかけてるだけでも、それについて言われるのが嫌(いや)だっていう人はいっぱいいる。
思えば、ぼくの頭が大きいことも、周りからすると結構かわいいものだろうし、おもしろいものだろうけど、ぼく自身は「やめて‼」って思ってた。
4年生まではなんともなかったけど、5年生になってから、とうとういじめが来たんだ。
朝、ぼくが学校にやって来ると、伝令係みたいな子が「来ました!」ってクラスじゅうに伝えるわけ。
彼らからすれば、単に喜びや遊びでやっているだけなんだけど、こっちは「やっぱりおれは奇形(きけい)だったんだ……」と死ぬ思いさ。しかも、初恋の女の子まで「でこっぱち、でこっぱち」ってやってるんだからね。
そのときの気持ちっていったら、もうクラスじゅう真っ暗。真昼の暗黒みたい。誰(だれ)も友達がいない。生まれて初めて、自殺しようと思った。
■子どもの世界は子どもにまかせる
それで、「死のう。でもぼくが死んだら、お母さん悲しむだろうな」と思って家に帰ると、やっぱり母親だから、元気をなくしているのがすぐにわかっちゃう。
そのときに、母親がどうしたか。
じーっとぼくを見て、「ちょっとおいで」と呼んで、こう言った。
「言っとくけどね、お母さんはね、あんたが元気ならよかとばい」
それから、ぎゅーっと抱(だ)きしめてくれた。
これは、大正解のやり方だったと思う。今は、いじめを事件化しちゃうお父さん、お母さんが多い。すぐ、「あのー、うちの子がいじめられたって言ってるんですけど」って学校へ連絡(れんらく)しちゃう。これはよくない。
キミだって、親にこんなことをされたくないでしょ。いじめられた自分が、被害者(ひがいしゃ)あつかいされてさ。親も先生も、何かやってあげたい気持ちはわかるけど、「子どもの世界は、子どもにまかせる」という方針で、変な介入(かいにゅう)はしないでほしいよね。
ある中学校では、いじめた子を先生がつきとめて、いじめられた子の自宅へ謝りに行かせた。そうしたら、いじめられた子が自殺してしまった。大人が、やってはいけない介入をしてしまったんだね。
でもね、大人だって不完全。
■笑いを武器にする
いじめられていたぼくが、どうなったか。
家ではいじめられているつらさを忘れて、学校では死ぬ思い。これを繰(く)り返していたわけ。そうすると、人間、自然と強くなるんだね。ドストエフスキーの言葉に「人間は、どんなことにでも慣れる生き物だ」っていうのがあるけど、本当にそのとおりだと思う。1カ月続くと、例のでこっぱちコールが始まっても「あいつ、今日はいつもよりこっちに来るのが遅(おそ)いな」って感じで、冷静に見られるようになっていった。
そして5月に、児童会の副会長に立候補したんだ。全校生徒1500人の前であいさつをするそのときに、ぼくはピンとひらめいた。
「おはようございます! ぼくが頭のデッカイ高濱正伸(たかはままさのぶ)と申します‼」
と言って、パッと横を向いた。大きな頭が丸見え!
「お~!」と沸(わ)く子どもたちに、
「みんなの2倍、3倍は脳みそがあります!」
これがバカ受け。
ここからわかるのは、笑いにもっていかれたら、いじめてる側としてはまったくかいがなくなっちゃうってこと。ぼくは、「常に周りを笑わせ続けていたら、いじめは降りかからない」ということを体得したわけ。
お笑いタレントの自伝を読むと、いじめられた経験を持っていることが多い。いじめられている渦中(かちゅう)の人は、今本当につらいだろうけど、応援(おうえん)しています。いろんな経験は必ず生きるから。
■今の悩みは、社会に出てからの肥やし
中1のときには、こんな経験があった。
中2の先輩(せんぱい)のしごきがきつくて、「うさぎ跳(と)び10周!」なんて理不尽(りふじん)なことを言われるわけです。もう疲(つか)れきって立てないくらい大変な状態。
そこで、中1のみんなで団結して「もう辞(や)めよう」ってことになった。でもぼくは、「いや、続けよう」って言った。負けたくなかったんだな。
でも、5年生のときに一度いじめを経験していたからなんともなかった。こういうときに大事なのは、毅然(きぜん)とした態度でいることだ。モジモジして、困ったような態度をとっちゃうと、いじめはどんどんひどくなる。
「いじめのない世界になりますように」っていうのは現実的に無理な話だ。だから、いじめる人間になれ、っていうわけじゃなく、いじめが来ても、それをはねのける人間になってほしい。社会に出たらもっと厳しいことに出会うよ。仕事がなくなることだってある。
そこで大事なのは反発することなんだけど、ぼくのいじめられ体験みたいに、なんとか立ち向かった経験がないまま大人になると、なかなか耐(た)えられない。
今、つらかったり、悩みがたくさんあるというのは必ず肥やしとなってキミの将来の力になるからね。
そのつらい経験が、将来役に立つときがきっと来る。打たれ強くなれ! 負けるな!
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高濱 正伸(たかはま・まさのぶ)
花まる学習会代表
東京大学卒、同大学院修士課程修了後、1993年、「メシが食える大人に育てる」という理念のもと、「作文」「読書」「思考力」「野外体験」を主軸にすえた学習塾「花まる学習会」を設立。1995年には、小学校4年生から中学3年生を対象とした進学塾「スクールFC」を設立。全国に生徒数は増え続け、近年は音楽教室「アノネ音楽教室」、スポーツ教室「はなスポ」、囲碁教室や英語教室など全国で多岐にわたる教室を展開している。算数オリンピック委員会の作問委員や日本棋院理事も務める。
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(花まる学習会代表 高濱 正伸)