子どもが「どうしてもやりたい!」「あれがほしい」と言い出して聞かないときには、どうしたらいいのか。9歳、7歳、3歳の息子を育てる、ハーバード大小児精神科医の内田舞さんは「『本人の願いをいったん受け止める』『問題解決や意思決定の一端を子どもにも担ってもらう』『子どもの思いに共感する』という三つを組み合わせると、双方が納得できる結果に着地しやすいように感じる」という――。
(第2回/全3回)
※本稿は、内田舞『小児精神科医で3児の母が伝える 子育てで悩んだ時に親が大切にしたいこと』(日経BP)の一部を再編集したものです。
■子どもが言うことを聞かない時はどうするか
子どもが小さい時に遭遇することの多い、つい「こっちにしなさい」「我慢しなさい」など、頭ごなしに言い聞かせようとしてしまいそうなシチュエーション二つについて、我が家でうまくいった(うまくいきそうだった)対応方法をご紹介します。
■「どうしてもあの風船がいい!」と聞かない息子
数年ほど前、息子と近所のお祭りに行った時のことです。何かの景品で、風船を一つ、もらえることになりました。対象の風船は二つあって、どちらか一つがもらえます。同じ色、同じ形や大きさでしたが、一つは手の届く近いところにあって、もう一つは届かないところにあります。でも息子はなぜか、どうしても取りにくい方の風船がほしいと言って聞きません。
「手前の風船にしなさい!」と言いそうになったのですが、「ここで頭ごなしに叱って近い方の風船を選ばせても、この子は多分納得しないだろうな。余計に意固地になって遠い方の風船に固執して、泣いたり癇癪を起したりするかもしれない」と思いました。それでまずは、彼の思いを受け止める努力をしてみたのです。
「ママには、どっちの風船も同じに見えるけど、あなたにはきっと、何か違うように見えるんだね。あっちの風船のどんなところが好きなの?」

「色とか、結び目とか、ひもとか……」
どう見ても同じにしか見えないと思ったのですが、「そうなんだ。
色とか結び目とかが違っていて、こっちの風船よりもあっちの方が好きなんだね」と答えました。そうしているうちに、お店の人が机の上にのぼって風船を取ってくれました。
■「一緒にアイデアを出し合おう」と子どもを誘う
でも、もしもここで、どうしても遠い方の風船が取れなかったらどうしたか、もう少し考えてみました。
「あっちの風船の方が好きなんだね。でも、あっちの風船は手が届かなくて、取れないところにあるんだよね。どうしたらいいと思う? 一緒にアイデアを出し合おう」と言って、この問題を解決するのを手伝ってくれないかと、子どもを誘っていたと思います。
「すごーく長いはしごを持ってくる」「背の高い人を探してきて肩車させてもらう」「消防車のはしご車を呼んでくる」「似た風船を選ぶ」「スーパーマンに空を飛んで取ってきてもらう」……。どんなアイデアも否定せず、「なるほどなるほど」と聞きます。
いくつかアイデアがあがったら、「消防車を呼ぶと、火事で困っている人のところに行けないから迷惑になっちゃうね」「背の高い人に、急に『肩車させてください』って話しかけたら、びっくりされちゃうね」など、一つひとつ検討していきます。そうするうちに「やっぱりこっちの風船にする」と考えを変えてくれるかもしれません。
他人任せではなく、自分自身に決定権があり、判断の責任があると思ったら、急に合理的な判断ができるようになったりするのは、大人も子どもも同じです。
または、私がふざけて「いろいろ考えてみたけど、やっぱりスーパーマンを呼ぶしかないと思う。
スーパーマーン!」と、真剣な顔でスーパーマンを呼ぶふりをしたら、子どもも笑顔になって、イライラした雰囲気が和らぐかもしれません。
「ママも空を飛べたらいいのに!」「ママの身長が今の2倍くらいあったらすぐに取れるのに!」と、叶わない思いを悔しそうに共有すると、息子の方も「ママも真剣に解決策を考えてくれいるけれど、ちょっと無理かもしれない」と、あきらめてくれるかもしれません。
■合理的な判断をしようという気持ちが生まれる
ポイントは、まずは子どもの願いを受け止めること、問題解決や意思決定の一端を子どもにも担ってもらうこと、そして、親の方も「その願いを叶えてあげたい」という思いを持っていると伝えること、の三つです。
子どもの方は、「親が自分の希望を真剣に受け止めてくれているのだ」と感じるだけでも、気持ちが落ち着くと思います。さらに、「自分=望みを言う人」「親=それを叶えるかどうか決める人」という、ある種「受け身」の立場から、「自分にも決定権があり、判断の責任があるんだ」という自覚を持つことで、子どもの方にも、より論理的、合理的な判断をしようという気持ちが生まれるのではないでしょうか。
■買い物の「あれがほしい」「これがほしい」
我が家では、子どもと一緒に買い物に行くと、必ずといっていいほど、この間買ったおもちゃとそっくりなおもちゃ、絶対に必要なさそうな工具、見た目は派手だけれど途中で飽きて全部食べられなさそうなお菓子などをほしいとせがんできます。
お店では、ちょうど子どもの目につきやすそうな高さの棚に、たくさんのものが魅力的にディスプレイされています。人間、「必要ではない」とわかっていても、同じようなものを持っていても、何かをほしいと思うのは自然なことで、それは大人も子どもも同じです。
ただ、大人の場合は、予算や家のスペース、どれだけ長く使えるか、など、論理的に考えたうえで、買うべきかどうかを判断します。でも、子どもは「ほしい」という気持ちを正直に表現します。それは悪いことではありませんが、だからといって、子どもがほしがるものすべてを買い与えられるわけではないですし、その必要もありません。
子どもの「ほしい」という気持ちは否定したくないけれど、買い与えることもしたくない時、我が家では「ほしいものリスト」を使っています。
子どもが何かをほしいと言ったら、どんなに大きなものでも小さなものでも、「OK! じゃあ『ほしいものリスト』に載せよう!」と言って、携帯で写真を撮ったり、ほしいものの名前を書いたり、絵を描いたりして記録します。
先ほどの風船の例であげた、三つのステップのうちの一つ目、「子どもの願いを受け止めること」を、ほしいものリストで実現するのです。
■「ほしいものリスト」を活用する
このリストを後でどのように活用するかは、それぞれのご家庭で考えてみてほしいと思います。誕生日プレゼントやクリスマスプレゼントを何にするか考える時に、このリストから選ぶようにしてもいいでしょう。「これはとってもかっこいいけど、うちに置く場所があるかな?」「ちょっと高すぎるから難しいね。似たものでもう少し安いのがないか、一緒に探してみよう」など、子どもと一緒に話し合うと、三つのステップの二つ目、「意思決定の一端を子どもにも担ってもらう」ことができそうです。
リストに載せた時にはすごくほしかったものが、1カ月後に見てみると関心がなくなっているかもしれません。リストに載せることで「ほしい」という気持ちを親に受け止めてもらい、それで満足するということもあるでしょう。子どもの「あれがほしい」「これがほしい」で困っている場合は、試してみるとよいと思います。
■受け止める→巻き込む→共感を伝える
ここで挙げた風船の事例も「ほしいものリスト」も、すべての子どもに響く万能の方法というわけではないと思います。何かに集中すると、なかなか親の言葉が耳に入ってこなくなることもあるでしょうし、こだわりが強いお子さんの場合は、気持ちを切り替えたりすることが難しいかもしれません。
我が家の場合もそうなのですが、子育てのさまざまな対処法は、書籍やネットの情報、ママ友やパパ友、学校・保育園の先生の話を参考にしながら、目の前の子どもたちの様子を見てアレンジし、いろいろなやり方を試してみるしかないのかもしれません。

ただ、息子たちを見ていると、「子どもの願いを受け止める」「問題解決や意思決定の一端を子どもにも担ってもらう」「『できるならあなたの願いを叶えてあげたいと思っているんだよ』と伝える」という三つを組み合わせて対話すると、親と子どもの双方が納得できる結果に着地しやすいように感じています。参考にしていただけるとうれしいです。

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内田 舞(うちだ・まい)

小児精神科医、ハーバード大学医学部准教授

マサチューセッツ総合病院小児うつ病センター長。北海道大学医学部卒。イェール大学精神科研修修了、ハーバード大学・マサチューセッツ総合病院小児精神科研修修了。日本の医学部在学中に米国医師国家試験に合格・研修医として採用され、日本の医学部卒業者として史上最年少の米国臨床医となった。著書に『ソーシャルジャスティス』『まいにちメンタル危機の処方箋』『子育てで悩んだ時に親が大切にしたいこと』など。

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(小児精神科医、ハーバード大学医学部准教授 内田 舞)
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