子どもにスマホを持たせるとき、どんな風にルール作りをすればいいのか。自身も3人の息子を育てる、ハーバード大小児精神科医の内田舞さんは「ティーンエイジャーの場合は、スマホの利用について親とルールを決めたりすることに、強く抵抗することがある。
※本稿は、内田舞『小児精神科医で3児の母が伝える 子育てで悩んだ時に親が大切にしたいこと』(日経BP)の一部を再編集したものです。
■取り上げるのはお勧めできない
スマホやゲームばかりに夢中になっているからといって、取り上げることで解決しようとするのはお勧めできません。
取り上げることは、一時的な対策にはなるかもしれませんが、親に対して反抗する気持ちも大きくなりますし、「これからはやりすぎないようにしよう」という反省や行動の変容にはつながりにくいからです。また、子どもにしてみると、どれくらいからが「使いすぎ」なのか、どんな使い方なら適切なのかが、禁止するだけでは学ぶことができません。
学校の授業でパソコンやタブレットを活用するようになっていることからもわかる通り、デジタル機器は、現代社会では情報を得たり、情報を処理したりするために必須ともいえるツールになっています。「約束を守らなかったから」といった理由で、期間限定で取り上げることはあってもいいかもしれませんが、取り上げてずっと使わせないままでいるというのは、現実的ではないように思います。使い方によって、毒にも薬にもなりますから、うまく付き合っていく方法を私たち一人ひとりが模索する必要があるように思います。
■いい面、悪い面を本人に語らせる
対応方法は、二つのステップで考えてみてはいかがでしょうか。
まずは対話です。どこがおもしろいのか、子どもの言葉で説明してもらい、じっくり聞いてみるのです。なぜ手放すことが難しく、つい際限なく使ってしまうほどの魅力があるのかについて、自分で考えさせてみます。
魅力をしっかり話したあとは、「スマホって/SNSって/ゲームって、魅力的でいいところはたくさんあるけれど、よくない面はないだろうか?」と、ネガティブな面についても話し合ってみます。
最初から「こんなに悪い面があるよね」と親が「教える」のではなく、できるだけ本人に考えさせることが大切です。まったく出てこなければ、「例えば、昨日は○時から習い事があったけれど、ゲームをやっていて準備をし始めるのが遅くなって遅刻しそうになったよね」など、ヒントになるようなエピソードを(責める口調にならないように)出してみてもいいかもしれません。
■「中毒になりやすい仕組み」を教える
SNSやゲームなど、デジタル系のサービスは、使う人に「もっとやりたい」と思わせるためのさまざまな工夫をしていて、中毒になりやすい仕組みになっていることを、子どもの考えを聞いたうえで、親から主体的に「教える」べきこともあります。
例えば、SNSにはその人がどのような情報に反応したかを分析して、その人が食い付きそうな広告や投稿を意図的に見せるアルゴリズムが組み込まれ、またゲームには課金や継続を促す仕組みが埋め込まれていることなど、大人でも忘れてしまいがちな事実を一緒に学び直すといいでしょう。
SNSの場合は、実際は限られた一握りの人だけのことなのに、頻繁に自分の画面に出てくると「周りのみんながそうしているのに、自分だけがやっていない」と勘違いしやすいこと、早いペースで流れてくる友達からの情報に、すぐに反応しなくてはいけないように思ってしまいやすいこと、フォロワー数や「いいね」の数が少ないと不安になったりして、気持ちが乱れやすいことなども、親から具体的に説明してあげた方がいいと思います。
■いやな思いをしたら逃げてもいい
誰かから攻撃されたり、理不尽な扱いを受けたり、いやな思いをしたりした場合には、自分から離れて、逃げてもいいとも教えてあげたいです。SNSというのは、一つひとつのコメントに、すぐに反応しなくてはいけないかのようなプレッシャーがありますが、実際はコメントやレスポンスに反応する必要も、そもそもそれを見る義務もないものです。
デジタル機器に関する話をしようとすると、子どもの方は「きっと説教されるんだろうな」と構えることが多いでしょう。そうならないためにも、こうした対話をする時には、子どもの話をさえぎらないこと、子どもの意見について頭ごなしに「正しい/間違っている」といった判断をしないこと、「私」を主語にした「“I” message」(アイ・メッセージ)で親の気持ちを伝える、また事実と意見を分けて伝えることに、気を付けるとよいと思います。
こうして、良いところ、悪いところや注意点などを親子で共有できたら、二つ目のステップ、ルール作りに進みます。
■「お金を払っているのは親なんだからすべて言う通りに」はNG
スマホやゲーム機は、子どもが自分でお小遣いやお年玉を貯めて買ったということもあるかもしれませんが、親がお金を出しているケースも多いと思います。その場合、「お金を払っているのは親なのだから、文句を言う筋合いはない。すべて親の言う通りにしなさい」と言いたくなるかもしれませんが、ちょっと立ち止まってみてください。
親が子どもに関わるお金を払うことは、親が子どもを持つ判断をした時点で請け負った、当然の責任です。子どもに対する「貸し」が発生するわけではないので、見返りを期待したり、それを利用して子どもをコントロールしようとしたりすることがあってはならないと思います。
もちろん当然の責任と言っても、お金を稼ぐことは簡単なことではなく、たくさんの苦労や困難が存在しますから、どんなに当然であっても、子どもから親への感謝はあって然るべきでしょう。でも、そのことと、「だから親の言う通りにしなさい」と親の意向を押し付けるのは、別物であることは忘れてはならないと思います。
■約束が守れなければ取り上げることも
一方で、親が子どもにスマホやゲーム機を買って使うことを許しているのは、「あなたが、SNSやゲームに夢中になりすぎて、勉強などの『やるべきこと』をおろそかにしたり、睡眠時間を削ってしまったりすることなく、約束を守って、頻度や付き合い方を調整しながら適切な使い方ができるだろうと信じたからなんだよ」ということを、伝える必要はあるでしょう。そのうえで、対話をしながら約束事を決め、「ちゃんと約束を守りながら楽しむことができることを、自分で証明していってほしい。もし約束が守れないなら、機器を取り上げることもある」ということも、あらかじめ伝えておくといいでしょう。
親の方もある程度、子どもたちがデジタル機器をどんな風に使っているのか、どんな危険性があるのかを、学んでおく必要はあると思います。
■「約束を守りながら使えることを見せてほしい」
具体的なルールの中身については、子どもの年齢や性格、好みなどにもよるので一概には言えませんが、「1日○時間」「○時から○時まで」など、利用時間を制限したり、「家族で出掛ける時には見ない」「食事中は見ない」「寝る時にベッドの中で見ない」などのルールを設けるのはいいと思います。
我が家でも先日、息子が、これまで許していなかった、あるゲームをやり始めたいと言ってきたのですが、じっくり話し合ったうえでOKにしました。その際、「ゲームを開発して売っている人たちとしては、使う人になるべく長時間使わせたいし、なるべく課金してほしいので、途中でプレイするのをやめさせないようにしたり、いろんなキャンペーンをしてどんどん課金したくなるような仕組みを作ったりしているんだよ。だからあなたも、プレイし始めると『途中でやめたくない』『課金してみたい』と思うかもしれない。でも、そこで踏みとどまることができず、宿題を後回しにしたり、チェロの練習ができなくなったりするのはよくないよね。ちゃんと約束を守りながら楽しむことができるということを、ママに見せてほしい」といった話をしました。
■子どものプライドをくすぐってみても
SNSやゲームの仕組みについて話し合い、スマホやゲーム機、SNSやゲームなどを“仮想敵”にするという手もあります。これらを作り、売っているのは、資本主義社会の中で巨額マネーを稼ぐ大企業です。人びとをいかに夢中にさせるかを考え、利用時間を増やすことで収益を増やそうとしているわけですから、「その罠にはまって、カモになってしまうのは悔しいよね」と、子どものプライドをくすぐってみるのです。特にティーンエイジャーは、大人や社会に自分の行動をコントロールされるのを嫌うことが多いので、効果があるかもしれません。
■ルール作りに抵抗するときの「かかし戦術」
SNSやゲームが、自分の生活や友人関係に深く入り込んでいるティーンエイジャーの場合は、その利用について親とルールを決めたり約束をしたりすることに、強く抵抗することもあります。
「夜寝る前にSNSにアクセスできないと、周りの友達は私がみんなを無視していると思ってしまう。お母さんは、私がみんなに嫌われてもいいと思っているんだね!」「たった○時間しか友達とゲームができないなんて、お父さんは僕に友達がいなくなってもいいと思ってるんでしょう!」などです。
かかし戦術は、英語ではStrawman Strategy(ストローマンストラテジー)といいます。Strawman とは、中身のない藁人形や、人間の形をしている作り物のかかしを指します。転じて、かかし戦術は、相手の論点に直接反論するのではなく、ダミー(かかし)のような論点を別に作り出して、そのかかしを攻撃する手法です。
■戦術に巻き込まれず、対話をしながら交渉する
この場合、かかしを攻撃することで、ずれた論点(お母さん/お父さんは、私/僕のことを大切に思っていない)に焦点が移り、本来の論点(SNSやゲームをやりすぎるのは良くないので、適切に楽しむためのルールを設けよう)に関しては議論しなくてもいいような状況が生まれる可能性があります。
かかし戦術を受けた親の方は「そんなことはない。私はあなたのことを大切に思っているし、友達と仲良くしてほしいと思っている」ということを説明し始め、いつの間にか「SNSやゲーム利用のルールについて」という当初の議論から話がそれてしまうかもしれません。親は、「私たちは、SNS/ゲームの話をしているのであって、あなたの幸せを取り上げる話などしていない」と、かかし戦術に巻き込まれないよう注意してほしいと思います。
子どもの方は、少しでも長くスマホやゲーム機を手にしていたいと必死になるでしょう。親としては、その気持ちに理解を示しつつも、言いなりになるのではなく、対話をしながら交渉し、両者で落としどころを見つけていくとよいと思います。
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内田 舞(うちだ・まい)
小児精神科医、ハーバード大学医学部准教授
マサチューセッツ総合病院小児うつ病センター長。北海道大学医学部卒。イェール大学精神科研修修了、ハーバード大学・マサチューセッツ総合病院小児精神科研修修了。日本の医学部在学中に米国医師国家試験に合格・研修医として採用され、日本の医学部卒業者として史上最年少の米国臨床医となった。著書に『ソーシャルジャスティス』『まいにちメンタル危機の処方箋』『子育てで悩んだ時に親が大切にしたいこと』など。
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(小児精神科医、ハーバード大学医学部准教授 内田 舞)
そして、無意識のうちに論点をずらそうとして『かかし戦術』という手法で反論してくることがある」という――。(第3回/全3回)
※本稿は、内田舞『小児精神科医で3児の母が伝える 子育てで悩んだ時に親が大切にしたいこと』(日経BP)の一部を再編集したものです。
■取り上げるのはお勧めできない
スマホやゲームばかりに夢中になっているからといって、取り上げることで解決しようとするのはお勧めできません。
取り上げることは、一時的な対策にはなるかもしれませんが、親に対して反抗する気持ちも大きくなりますし、「これからはやりすぎないようにしよう」という反省や行動の変容にはつながりにくいからです。また、子どもにしてみると、どれくらいからが「使いすぎ」なのか、どんな使い方なら適切なのかが、禁止するだけでは学ぶことができません。
学校の授業でパソコンやタブレットを活用するようになっていることからもわかる通り、デジタル機器は、現代社会では情報を得たり、情報を処理したりするために必須ともいえるツールになっています。「約束を守らなかったから」といった理由で、期間限定で取り上げることはあってもいいかもしれませんが、取り上げてずっと使わせないままでいるというのは、現実的ではないように思います。使い方によって、毒にも薬にもなりますから、うまく付き合っていく方法を私たち一人ひとりが模索する必要があるように思います。
■いい面、悪い面を本人に語らせる
対応方法は、二つのステップで考えてみてはいかがでしょうか。
まずは対話です。どこがおもしろいのか、子どもの言葉で説明してもらい、じっくり聞いてみるのです。なぜ手放すことが難しく、つい際限なく使ってしまうほどの魅力があるのかについて、自分で考えさせてみます。
場合によっては、子どもに楽しみ方を教えてもらって、一緒にやってみるのもいいと思います。
魅力をしっかり話したあとは、「スマホって/SNSって/ゲームって、魅力的でいいところはたくさんあるけれど、よくない面はないだろうか?」と、ネガティブな面についても話し合ってみます。
最初から「こんなに悪い面があるよね」と親が「教える」のではなく、できるだけ本人に考えさせることが大切です。まったく出てこなければ、「例えば、昨日は○時から習い事があったけれど、ゲームをやっていて準備をし始めるのが遅くなって遅刻しそうになったよね」など、ヒントになるようなエピソードを(責める口調にならないように)出してみてもいいかもしれません。
■「中毒になりやすい仕組み」を教える
SNSやゲームなど、デジタル系のサービスは、使う人に「もっとやりたい」と思わせるためのさまざまな工夫をしていて、中毒になりやすい仕組みになっていることを、子どもの考えを聞いたうえで、親から主体的に「教える」べきこともあります。
例えば、SNSにはその人がどのような情報に反応したかを分析して、その人が食い付きそうな広告や投稿を意図的に見せるアルゴリズムが組み込まれ、またゲームには課金や継続を促す仕組みが埋め込まれていることなど、大人でも忘れてしまいがちな事実を一緒に学び直すといいでしょう。
SNSの場合は、実際は限られた一握りの人だけのことなのに、頻繁に自分の画面に出てくると「周りのみんながそうしているのに、自分だけがやっていない」と勘違いしやすいこと、早いペースで流れてくる友達からの情報に、すぐに反応しなくてはいけないように思ってしまいやすいこと、フォロワー数や「いいね」の数が少ないと不安になったりして、気持ちが乱れやすいことなども、親から具体的に説明してあげた方がいいと思います。
■いやな思いをしたら逃げてもいい
誰かから攻撃されたり、理不尽な扱いを受けたり、いやな思いをしたりした場合には、自分から離れて、逃げてもいいとも教えてあげたいです。SNSというのは、一つひとつのコメントに、すぐに反応しなくてはいけないかのようなプレッシャーがありますが、実際はコメントやレスポンスに反応する必要も、そもそもそれを見る義務もないものです。
デジタル機器に関する話をしようとすると、子どもの方は「きっと説教されるんだろうな」と構えることが多いでしょう。そうならないためにも、こうした対話をする時には、子どもの話をさえぎらないこと、子どもの意見について頭ごなしに「正しい/間違っている」といった判断をしないこと、「私」を主語にした「“I” message」(アイ・メッセージ)で親の気持ちを伝える、また事実と意見を分けて伝えることに、気を付けるとよいと思います。
こうして、良いところ、悪いところや注意点などを親子で共有できたら、二つ目のステップ、ルール作りに進みます。
先に対話しておくことで、なぜルールが必要なのかという理由について納得感が高くなると思います。
■「お金を払っているのは親なんだからすべて言う通りに」はNG
スマホやゲーム機は、子どもが自分でお小遣いやお年玉を貯めて買ったということもあるかもしれませんが、親がお金を出しているケースも多いと思います。その場合、「お金を払っているのは親なのだから、文句を言う筋合いはない。すべて親の言う通りにしなさい」と言いたくなるかもしれませんが、ちょっと立ち止まってみてください。
親が子どもに関わるお金を払うことは、親が子どもを持つ判断をした時点で請け負った、当然の責任です。子どもに対する「貸し」が発生するわけではないので、見返りを期待したり、それを利用して子どもをコントロールしようとしたりすることがあってはならないと思います。
もちろん当然の責任と言っても、お金を稼ぐことは簡単なことではなく、たくさんの苦労や困難が存在しますから、どんなに当然であっても、子どもから親への感謝はあって然るべきでしょう。でも、そのことと、「だから親の言う通りにしなさい」と親の意向を押し付けるのは、別物であることは忘れてはならないと思います。
■約束が守れなければ取り上げることも
一方で、親が子どもにスマホやゲーム機を買って使うことを許しているのは、「あなたが、SNSやゲームに夢中になりすぎて、勉強などの『やるべきこと』をおろそかにしたり、睡眠時間を削ってしまったりすることなく、約束を守って、頻度や付き合い方を調整しながら適切な使い方ができるだろうと信じたからなんだよ」ということを、伝える必要はあるでしょう。そのうえで、対話をしながら約束事を決め、「ちゃんと約束を守りながら楽しむことができることを、自分で証明していってほしい。もし約束が守れないなら、機器を取り上げることもある」ということも、あらかじめ伝えておくといいでしょう。
親の方もある程度、子どもたちがデジタル機器をどんな風に使っているのか、どんな危険性があるのかを、学んでおく必要はあると思います。
子どもが有害なサイトにアクセスできないように制限をかけるフィルタリングや、子どもが使っているデジタル機器の機能を管理するペアレンタルコントロールなどの機能を活用してもいいでしょう。
■「約束を守りながら使えることを見せてほしい」
具体的なルールの中身については、子どもの年齢や性格、好みなどにもよるので一概には言えませんが、「1日○時間」「○時から○時まで」など、利用時間を制限したり、「家族で出掛ける時には見ない」「食事中は見ない」「寝る時にベッドの中で見ない」などのルールを設けるのはいいと思います。
我が家でも先日、息子が、これまで許していなかった、あるゲームをやり始めたいと言ってきたのですが、じっくり話し合ったうえでOKにしました。その際、「ゲームを開発して売っている人たちとしては、使う人になるべく長時間使わせたいし、なるべく課金してほしいので、途中でプレイするのをやめさせないようにしたり、いろんなキャンペーンをしてどんどん課金したくなるような仕組みを作ったりしているんだよ。だからあなたも、プレイし始めると『途中でやめたくない』『課金してみたい』と思うかもしれない。でも、そこで踏みとどまることができず、宿題を後回しにしたり、チェロの練習ができなくなったりするのはよくないよね。ちゃんと約束を守りながら楽しむことができるということを、ママに見せてほしい」といった話をしました。
■子どものプライドをくすぐってみても
SNSやゲームの仕組みについて話し合い、スマホやゲーム機、SNSやゲームなどを“仮想敵”にするという手もあります。これらを作り、売っているのは、資本主義社会の中で巨額マネーを稼ぐ大企業です。人びとをいかに夢中にさせるかを考え、利用時間を増やすことで収益を増やそうとしているわけですから、「その罠にはまって、カモになってしまうのは悔しいよね」と、子どものプライドをくすぐってみるのです。特にティーンエイジャーは、大人や社会に自分の行動をコントロールされるのを嫌うことが多いので、効果があるかもしれません。
■ルール作りに抵抗するときの「かかし戦術」
SNSやゲームが、自分の生活や友人関係に深く入り込んでいるティーンエイジャーの場合は、その利用について親とルールを決めたり約束をしたりすることに、強く抵抗することもあります。
そして、無意識のうちに論点をずらそうとして「かかし戦術」という手法で反論してくることがあります。
「夜寝る前にSNSにアクセスできないと、周りの友達は私がみんなを無視していると思ってしまう。お母さんは、私がみんなに嫌われてもいいと思っているんだね!」「たった○時間しか友達とゲームができないなんて、お父さんは僕に友達がいなくなってもいいと思ってるんでしょう!」などです。
かかし戦術は、英語ではStrawman Strategy(ストローマンストラテジー)といいます。Strawman とは、中身のない藁人形や、人間の形をしている作り物のかかしを指します。転じて、かかし戦術は、相手の論点に直接反論するのではなく、ダミー(かかし)のような論点を別に作り出して、そのかかしを攻撃する手法です。
■戦術に巻き込まれず、対話をしながら交渉する
この場合、かかしを攻撃することで、ずれた論点(お母さん/お父さんは、私/僕のことを大切に思っていない)に焦点が移り、本来の論点(SNSやゲームをやりすぎるのは良くないので、適切に楽しむためのルールを設けよう)に関しては議論しなくてもいいような状況が生まれる可能性があります。
かかし戦術を受けた親の方は「そんなことはない。私はあなたのことを大切に思っているし、友達と仲良くしてほしいと思っている」ということを説明し始め、いつの間にか「SNSやゲーム利用のルールについて」という当初の議論から話がそれてしまうかもしれません。親は、「私たちは、SNS/ゲームの話をしているのであって、あなたの幸せを取り上げる話などしていない」と、かかし戦術に巻き込まれないよう注意してほしいと思います。
子どもの方は、少しでも長くスマホやゲーム機を手にしていたいと必死になるでしょう。親としては、その気持ちに理解を示しつつも、言いなりになるのではなく、対話をしながら交渉し、両者で落としどころを見つけていくとよいと思います。
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内田 舞(うちだ・まい)
小児精神科医、ハーバード大学医学部准教授
マサチューセッツ総合病院小児うつ病センター長。北海道大学医学部卒。イェール大学精神科研修修了、ハーバード大学・マサチューセッツ総合病院小児精神科研修修了。日本の医学部在学中に米国医師国家試験に合格・研修医として採用され、日本の医学部卒業者として史上最年少の米国臨床医となった。著書に『ソーシャルジャスティス』『まいにちメンタル危機の処方箋』『子育てで悩んだ時に親が大切にしたいこと』など。
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(小児精神科医、ハーバード大学医学部准教授 内田 舞)
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