どんな集団にも、独りよがりな言動で周囲を振り回す「困った人」がいる。精神科医の和田秀樹さんは「みなさんにおすすめしている『8つのメソッド』がある。
これをマスターすれば、売り言葉を買ってトラブルになるようなケースはぐっと減るはず」という――。(第3回/全3回)
※本稿は、和田秀樹『「困ったあの人」に感情的にならない本』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■「困った人」を受け流す8つのメソッド
どんな人の周囲にも一定数の「困った人」がいます。その人たちの言動は、あなたの心に波風を立て、あなたを感情的にさせているでしょう。
「困った人」の言動を見聞きしたところで、あなたが平穏な心のままに過ごせる方法はないでしょうか。
わたしは、そんなとき、次の「8つのメソッド」をおすすめしています。
■①人の言葉を深読みしない
部下のチェックに熱心な小姑タイプの上司が、指示をする際にこう言いました。
「この決算書は部長も目を通すんだから、ミスのないように頼むよ」
言われた部下の側も、それぐらいのことは先刻承知です。「いちいちうるさいなあ、いつまで新人扱いするんだ」と不満に感じました。
しかも、時間がたつにつれ、不満はだんだん膨(ふく)らんでいきます。
「みんなの前でわかりきったことを言うなんて、まるでわたしが信用できないみたいじゃないの」

「ああいう言い方をされると、しょっちゅうミスしているとみんなに思われる」
実際にあったことは、口やかましい上司がわかりきったアドバイスをしただけです。それなのに、上司の言葉に隠された“悪意”や“意図”まで感じ取ってしまったわけですね。

こうした深読みは、イヤな感情を膨らませてしまいます。「はい、注意します」と返事をして、さっさと自分の仕事に戻ることをおすすめします。
■②「わたしはわたし、大丈夫」と言い聞かせる
感情を明るく保ついちばん簡単な技術は、胸を張ることです。文字通り、姿勢の問題として「胸を張る」。これだってけっこう大事です。
それから心の問題として「胸を張る」。つまり自分に自信を持つことです。といっても仕事の能力とか、結果に対する自信ではありません。それはそれで大事ですが、もっと基本的な自信のことです。
朗らかな人の考え方に、調子が悪いとき、あるいは何か失敗をしたときに、「大丈夫だモン」ととらえる、という方法があります。
「こんなのよくあることだ。でもいつだって、ちゃんと立ち直ってきたもの」
そう考えると、失敗や不調をいつまでも気にかけないで明日に目を向けることができます。
済んだことや今の不調を気にするのは、内向きになって自分のイヤな感情を見つめることですから、いいことはひとつもありません。
「困った人」のイヤな言動に触れたときには、「わたしはわたし、大丈夫!」と呟(つぶや)いて胸を張ってみましょう。これは、自分の感情のコンディションを整えるために有効な言葉なのです。
■③「それもそうだね」と一呼吸置いてみよう
あなたがリラックスしてつき合える人は、いろんな話をしてくれるし、時には自分の意見もはっきり口にするでしょう。あなたも、その人の意見にいつも賛成するわけではなく、「わたしは違うと思うな」と反論することもあるでしょう。
でも、2人とも自分の意見に固執せず、「それもそうだね」とか「なるほどなあ」と柔らかい受け止め方をするのではないでしょうか。お互いに「そういう考え方もあるね」と思い、とりあえずウヤムヤなままに終わらせて、人間関係上は困ることはありません。
じつは自分の優位性にこだわる人というのは、この“ウヤムヤ”というのが苦手なのです。はっきり白黒の決着をつけたがります。
もちろん黒(負け)はイヤですから、白(勝ち)にこだわります。ここで押し合いへし合いが始まるのです。
ところが「それもそうだね」と言われると、押し合いは始まりません。
言われたほうは自分の意見をとりあえず聞いてもらえたので、ひとまず満足するからです。
「それもそうだね」というのは、どんな場面でも使える言葉です。嫌いな相手が何を言おうが、「それもそうだね」。今日からぜひ使ってみてください。
■④「引く」ことは簡単、少しも疲れない
押されれば押し返すのが感情の法則のようなものですから、その逆に、引かれれば引いてしまうのもまた、感情の法則です。
気の合わない相手でも、あっさり「ゴメン」と言われれば「そんな謝るようなことじゃないよ」と受けるのが、わたしたち人間です。
自分の意見を強く主張してくる相手だって、「それもそうだね」とか「なるほどなあ」といった簡単な相槌(あいづち)を打ってもらえれば、あえてその意見にこだわる気持ちはなくなります。少なくとも、頭ごなしに反対されるより対抗心はなくなるでしょう。
押したり押し返したりは疲れますが、相手を許容して自分をすっと引いてしまえば、それで相手も押さなくなるのですから楽なのです。しかも疲れません。
それに、結果は同じなのです。
押し合いになっても決着がつくことはないでしょう。
お互い自分の意見に固執して聞く耳を持たないのですから、引き分けです。腹立たしさだけが残って、結局、何の進展もありません。
お互いにすっと引けば、これも引き分けです。でも腹立たしさは残りませんから、押し合いよりはるかに“まし”ということです。
■⑤話にならない人は放っておく
時に、相手のわがままのために、つい感情的になってしまうことがあることでしょう。
あなたにしてみれば、「なぜ、こんな当たり前のことがわからないんだろう」と思い、「何言ってんだ!」と怒りたくなることもあることでしょう。当たり前のことすらわからない人が、なぜこんなに威張っていられるんだろうと考えてしまいます。
たしかに、わたしたちの周りには話にならない人がいます。
でも、そういう人間に振り回されない人もたくさんいます。むしろ大部分の人は、まともに取り合わず、気にもかけないのです。
「話にならない人」は、ごく一部の人間にすぎませんし、たとえ怒ったとしても状況は変わりません。
ですから、腹を立てても意味がないのです。
放っておくしかありません。
■⑥「人の悪感情」とは、まともにつき合わない
人間の感情、とくに悪感情は「うつる」のです。
1人でいるだけなら、その人の感情はその人だけのものですが、家庭でも職場でも、身近に何人かの人間がいれば、1人の悪感情は相手や周囲にうつるのです。
たとえば妻が上機嫌なら、夫は「どうしたのかな?」とか「何かいいことあったのかな?」と思います。別に理由は尋ねなくても、夫もなんとなく気持ちが明るくなります。
妻が不機嫌なら逆です。自分のイヤな感情を隠そうともしない妻であれば、たいていの夫は「何をプリプリしているんだ」と思い、しだいに不機嫌になっていきます。
これは、職場での人間関係でも同じです。上司が不機嫌だったり、隣の席の同僚がイライラしたりしていると、こちらもイヤな気分になります。
ですから、こちらが感情的にならないためには、相手の悪い感情から身をかわすのがいちばんです。取り合わなければいいのです。
「どうして」とか「迷惑だ」とか「一言言ってやろうか」といった受け止め方などしないことです。
それをやれば、相手のイヤな感情とまともに向き合うことになるからです。
■⑦人の気持ちは変えられないものと割り切る
「困った人」は、気づかいがない、常識がない、わかっていない、おまけにキレやすかったり感情的になりやすい人でもあります。
ということは、何をしてもムダです。教え諭して通じる相手ではないし、ガツンと叱っても素直に従う相手でもありません。それどころか、かえって悪感情をまともに浴びてしまい、あなたのほうがキレてしまいます。
基本的なことをいうと、他人の気持ちや感情を変えることはできません。悪い感情はとくにそうで、怒りや憎しみや疑いといった感情はいくら説得してもなくならないのです。それどころか、かえって膨らんでしまうこともあります。
悪い感情に満たされている人間は、相手にしないで放っておくしかありません。職場だからそうもいかない、ということでしたら、なるべく自然に距離を取って、淡々と仕事を依頼したり確認や報告をしたり、要するに感情的ではない作業を進めればいいでしょう。
それが結局、あなたが感情的にならずにものごとが片づいていく最善の方法です。他人は変えられないものと割り切ってください。
■⑧攻撃的な人には「反論」ではなく「相談」する
多くの人がやりとりに使うメールですが、えてしてメールの文章では細かいニュアンスが伝わりません。
相手の表情もわかりませんから、まさに「文面通り」。イヤな感じが強く伝わってくることもあります。
そこに怒りの種(たね)を見つけてしまいます。相手の文章と同じ調子で反論のメールを書いたりすれば、その数倍の反論が待っているかもしれません。
相手の「売り言葉」を買ってはいけません。買ってしまえば、次の「売り言葉」が返ってきます。
そういう相手に対しては、反論するのではなく「相談するかたち」を取ることが、賢い対処法です。「自分はよくわからないから、教えてほしい」と下手(したて)に出るのです。
■「下手」に出ると「上手」になる
たとえば、企画に高飛車なダメ出しをした相手に「いろいろと教えてください。どこをどう直せばいいでしょうか? それをもとに、みんなで話し合えればと思います」と返事をしてみてはどうでしょうか。
すると向こうは悪い気がしないはずです。
高飛車な怒りの感情には、「下手に出る」という技で応じる。それが結果的に、あなたという存在を「上手(うわて)」にしてくれるのです。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)

精神科医

1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。

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(精神科医 和田 秀樹)
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