日本発祥の絵文字は、海外でも「EMOJI」として定着している。スマホでのコミュニケーションに欠かせない絵文字だが、その解釈は世代によって大きく異なるようだ。
海外メディアは世代間で広がるギャップを報じている――。
■週43億個の絵文字が世界を飛び交っている
毎日のように交わすメッセージに、絵文字は欠かせない。
友人たちのグループLINEに送るメッセージから、子供の学校から送られてくる連絡、そして職場の後輩と交わすコミュニケーションまで、絵文字がひとつ加わるだけで、柔らかなトーンに一変する。
コミュニケーションソフトのDiscord(ディスコード)が2022年に発表した調査結果では、世界1万6000人の16歳以上のユーザーを対象に調べた結果、日本人のほぼ全員(98%)が絵文字を知っており、「コミュニケーションが充実する」などポジティブな印象を抱いていることがわかった。
とくに日本のZ世代(同調査の定義上は18~34歳)では、約半数(46%)が「いつも」あるいは「よく」絵文字を使うと回答している。このほか世界のユーザーを含めると、ディスコード上だけでも毎週平均して43億個の絵文字が飛び交っているといい、絵文字は世界中のユーザーに愛用されている。
日本発祥の絵文字文化は、いまや「Emoji」として英語圏でも定着した。ユニコードを策定する米ユニコードコンソーシアムによると、ネットを使用している世界の人々のうち実に92%が絵文字を使用しているという。よく使われる絵文字のトップは「泣き笑い」で、総数の5%を占めている。
もちろん若い層ばかりでなく、30代以上の年代でも絵文字はよく送り合う。とくに年下の相手に対して堅苦しくないトーンを演出したい場合、ふだんはあまり使わない明るい雰囲気の絵文字を選び、意識的に添えることもあるのではないだろうか。
ところが、20代やそれ以下の若い世代はふだん、絵文字をあえて本来の意味とは異なる複雑なニュアンスで使用している。
世界の30代以上のユーザーは、若い相手にあらぬ誤解を与えるなど、副作用に四苦八苦しているという。
■「笑顔」の絵文字は「皮肉」「見下し」を意味することも
アメリカに住む21歳のハフィーザト・ビシさんは、ニューヨーク市ブルックリンのデジタル企業でインターン生活を始めた際、先輩社員から送られてきた「笑顔」の絵文字に違和感を覚えたという。米ウォール・ストリート・ジャーナル紙がその顛末を報じている。
ビシさんにとって、笑顔の絵文字は好意的な意味ではなく、むしろ見下されているように感じたという。「相手は年上なのだと考え直す必要がありました。私ならばこの絵文字は、皮肉として使うからです」とビシさんは語っている。
31歳のサラ・アンダーソンさんも、これとよく似た体験をした。チアリーディングのコーチを務める彼女は、チームへの連絡によかれと思い、必ず笑顔の絵文字を添えていた。ところがあるバスケの試合中、チームメンバーの一人から、「その笑顔は嫌味に感じる」と面と向かって指摘されることに。アンダーソンさんは心底驚いたという。
このように、かつては間違いなく純粋な温かさや喜びを表していた絵文字だが、Z世代の間では全く異なる意味合いを持つようになった。オーストラリアのニュースサイト「news.com.au」は、特にコロナ禍でリモートワークが増えて以降、絵文字の解釈違いによるコミュニケーションミスが増加していると指摘する。

著者に『デジタル・ボディ・ランゲージ』があるエリカ・ダワン氏は同サイトの取材に、30代以上は絵文字を本来の意味で活用することが多い一方、デジタルネイティブの若者たちは皮肉を込めたり、全く別の意図で使ったりする傾向が強まっていると解説している。
笑顔の絵文字にとどまらず、世代間で絵文字の解釈が大きく異なる例は他にも散見される。
■「いいね!」のつもりが「もう会話したくない」の誤解
笑顔に続いて世代間で大きく意味が異なるのが、「サムズアップ」の絵文字だ。親指を立てた「いいね」のアイコンをイメージすると分かりやすいだろう。
インディペンデント紙は、ネット掲示板レディット(Reddit)で話題となったスレッドを取りあげている。あるユーザーが「サムズアップの返信をもらうと不安になる」と投稿。これに若者世代のユーザーが大きく共感した。
返信を書き込んだあるユーザーは、「参考までに私は24歳ですが、私たち若者はサムズアップの絵文字を、受動攻撃的な意味で使います」と綴っている。受動攻撃的(passive aggressive)とは、あからさまには反論しないし表面上は友好的に振る舞うが、不満や敵対心を言外にありありと滲ませる態度を指す。
サムズアップの絵文字を送る場合、表面上は「いいね」の絵文字を使いつつ、賛同できないしこの会話はここで打ち切りたい、との不満を感じさせる。このユーザーは続けて、「誰かがサムズアップの絵文字を1つだけ送ってきたとすれば、それは非常に無礼なことです」と加えた。
ライフスタイル情報を取りあげる英ウェブサイトのHer.ieは、「世代間のコミュニケーション文化の違い」が根底にあると解説している。

30代以上の世代にとっては、この絵文字は全く別の意味を持つ。インディペンデント紙のヘレン・コフィー記者は、この絵文字は「軽やかさとプロフェッショナルな雰囲気が同居しており、常に無駄のない中立性を保ちながらもポジティブな印象を与える」ものだと捉えているという。
コフィー氏の職場でもコミュニケーションの潤滑剤として機能しており、「『了解』『できます』『今やっています』『グッドジョブ!』『ありがとう』」などあらゆるポジティブな場面で活用できる「無敵のパッケージ」だと表現している。
■「ドクロ」は大爆笑の意味…新たに生まれた絵文字の解釈
反対に、30代以上にとってネガティブなイメージを持つが、20代以下が好んで使う絵文字も存在する。
「ドクロと交差した骨の絵文字」は、30代以上のミレニアル世代にとって「死」や「危険」を連想させる。ところがZ世代は、「爆笑して死にそう」といった感覚で日常的によく利用しているという。
コンテンツクリエイターであり、若者世代の言語を研究している言語学者でもあるアダム・アレクシック氏は、米ワシントン・ポスト紙への寄稿で、ドクロの絵文字は感情表現において重要な役割を担っていると述べている。
「私の文章において、ドクロは非常に重要な役目を負っています。もし絵文字なしであるメッセージを友人に送ったら、自慢げに聞こえるか、不自然に形式ばって感じられることがあるでしょう。そこで、句読点の代わりにドクロで文章をつなぐことで、トーンが軽くなります。状況の不条理さ(面白おかしさ)が強調できますので、(書き手として)謙虚さを表すことができるのです」
文末に「笑い」を意味する「w」を付けてトーンを軽くすることがあるが、これに似ている。ただしドクロの場合、使えるシチュエーションが若干異なる。
自分または相手にちょっとした不運が降りかかり、それを自虐的に茶化したり相手を皮肉ったりするニュアンスだ。
■「おじさんくさい」「おばさんくさい」と感じる若者も
より誤解なく使えるのは「泣き笑い」の絵文字だが、こちらはむしろ平凡すぎて避けているというユーザーもいる。ロサンゼルス近郊で救急医療技術者として働く19歳のザイオン・ラミレスさんは、ウォール・ストリート・ジャーナル紙に、年上の同僚たちがあまりに日常的に使っているため、自分はこの絵文字を使わないようにしていると語った。「平凡すぎる」と感じており、誰かが皮肉の文脈でなく送ってきた場合、返信すらしない傾向があるそうだ。
「泣き笑い」は現在でも若い世代に使われているが、ジャーナリストのクロエ・ハミルトン氏は英ガーディアン紙への寄稿で、過剰に使用すると「おじさんくさい」「おばさんくさい」と捉える若者もいると釘を刺す。絵文字の受け取り方は世代間だけでなく各人によっても異なるようだ。
■「怒りの鼻息」があらぬ誤解を招く
絵文字が別の意味を帯びている例はまだある。
「カウボーイハットをかぶった笑顔の絵文字」について、30代以上は素直に「幸せ」「テンションが上がる」といった意味で捉えるが、Z世代は「表面では笑っているが内心は辛い」という複雑な感情の意味で受け取るという。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、見せかけの笑顔で内面の苦悩を隠している、との意味合いを取りあげている。
「鼻息を荒げた不機嫌な絵文字」も、解釈が大きく異なる事例のひとつだ。30代以上にはフラストレーションを表すが、Z世代では「魅力的な相手に対する憧れのため息」という性的なニュアンスを含むと、同紙は報じている。よりやわらかいニュアンスとしては、意中の相手への憧れを示すこともあるようだ。

こうした変化は、言語学の観点からも説明できるという。言語学者のアレクシック氏はワシントン・ポスト紙で、「意味の漂白」と呼ばれる現象だと解説する。別名「脱意味化」とも呼ばれるもので、単語から元々の意味が抜け落ち、新たな文脈で使われる現象を指す。絵文字の場合、感情表現を繰り返し使うことによって元の意味が薄れていき、より強烈な表現に置き換わるのだという。
例えばこれまでにも「大声で笑う(laughing out loud)」を省略した「lol」が好んで使われたが、陳腐化すると「LITERALLY CRYING」が登場した流れがあった。絵文字では、泣き笑いの絵文字が飽きられると涙の絵文字となり、さらにドクロ絵文字へと変遷した経緯がある。この急速な変化サイクルが若い層で活発に起こり、世代間ギャップを生んでいる。
応用例として英フィナンシャル・タイムズ紙は、Z世代は「妖精コメント」と呼ばれる独特の表現方法をマスターしていると解説する。辛辣な皮肉を込めた発言を、あえて妖精や蝶、輝くハートなどのかわいらしい絵文字で飾るというものだ。きらびやかな妖精で憎しみを込めた一言を装飾するという、なんともパンチの効いた表現だ。
■若い世代に身近に感じてもらいたい親世代のジレンマ
Z世代はオンラインとの接し方について、ミレニアル世代とは異なる独自の価値観や表現スタイルを持っているようだ。では、30代以上が若者と同じようなニュアンスで絵文字を使うべきかというと、それもまたぎこちなさが残るだろう。

意図して若い世代の習慣を取り入れようとすること自体、「格好悪い」との印象を与えかねない。英ノーサンブリア大学デジタル市民センターのソーシャルメディア研究者であるカロライナ・アレ博士は、ガーディアン紙に対し、若い世代はそもそも、自然体を好む傾向にあると語っている。
「ミレニアル世代が(中略)自分がどう見られているかを気にしたり、プロフェッショナルだったり洗練されたりといった見栄えを保とうとしたりすることは、彼ら(若者)の目には格好悪く映るかもしれません」
インディペンデント紙の筆者であるコフィー氏は、彼女自身がミレニアル世代という立場から、「私はすでに(古いカルチャーとなりつつある)横分けの髪型やトレーナーソックスを諦め、ハリー・ポッターや(TVドラマ)『フレンズ』への言及も極力控えてきました。どうか私たちの愛するサムズアップだけは奪わないでください。さもないと、笑い泣きの絵文字が本当の泣き顔に変わってしまいます」と切実に訴えている。
新しい世代のカルチャーを受け入れようとするほど、どうしても不自然な振る舞いになってしまう。絵文字のジェネレーションギャップは、若い世代に身近に感じてもらいたい親世代と、それを敬遠する子世代の、消えることのないすれ違いを象徴するかのようだ。

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青葉 やまと(あおば・やまと)

フリーライター・翻訳者

1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)
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