※本稿は、船登惟希『改訂第2版 行きたい大学に行くための勉強法がわかる 高校一冊目の参考書』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■「安心」のために塾へ通わせても意味がない
「近所にある大手の塾はそこしかなかったので……」
「お友達が通っていたから……」
これらは親の皆さんがよく口にされる定番の入塾理由です。自分の子どもにとって何が必要で、どのようなカリキュラムが提供されていて……といったことを踏まえず、ただ「安心」という理由で選んでいます。たしかに、今の受験は昔と比べて複雑ですし、さまざまな情報にあふれていて不安になる気持ちもわかります。ですが、実際に通わせてみても、成績があがらずに悩むことになるでしょう。
理由は明確です。「何が成績を決めるのか」を知らないからです。授業動画の視聴時間が成績を決めるなら、ひたすら授業動画を見たらいいでしょう。授業のコマ数が成績を決めるなら、たくさん授業をとったらいいです。しかし、皆さんも直感的にお気づきでしょう。これらが成績を決めるはずがないのです。
結論からいえば、成績の9割は知識量が決めます。成績に伸び悩んでいる人の大半は、知識量に目を向けていないのです。
■塾は「成績が上がる魔法の場所」ではない
塾に通わせることは基本的に、成績向上にとっては逆効果です。机に向かって勉強して知識を定着させる時間が減ってしまうからです。
実際に成績を伸ばす子どもたちに共通する特徴は、知識を定着させる時間を確保していることにあります。それを支えるのが「参考書中心の学習」です。「参考書中心の学習」とは、単に市販の参考書だけを使うという意味ではありません。重要なのは、参考書を活用しながら、問題演習を通じて、知識の定着を行っていくことという姿勢そのものです。自学自習の力があるからこそ、塾の授業や講師のアドバイスも効果を発揮します。
塾は「魔法の場所」ではありません。目的意識をもって活用するからこそ意味があるのです。たとえば、静かな学習環境が必要、自分のペースをつかむための指導が欲しい、家庭だけでは不安だから伴走者がほしい、などです。
こうした明確な目的がある場合のみ、塾は成績向上に効果的に働くと言えます。
■塾に通う“目的”を明確にすべき
塾に通っている成績優秀者の多くは、授業をただ受けているだけではなく、自分で演習に取り組み、弱点を分析し、何度も反復するなど、足りない知識の定着に時間を使っています。一方で、授業を「聞いているだけ」で安心してしまうタイプの生徒は、知識が定着せず、結果が出にくい傾向があります。
そもそも、授業形式の塾の教材は授業に特化しているため、解説が省略されていたり、自学には不向きであったりすることもあります。そのため、成績を伸ばす生徒ほど、塾とは別に使いやすい市販の参考書や問題集を選び、自分の理解度に合わせて繰り返し使っているのです。
塾によっては、講師やチューターの質にもばらつきがあります。生徒一人ひとりに合ったきめ細やかな指導が行われるとは限らず、営業成績を達成するという目的で不要な講座の契約を勧めるケースもあります。
親としては、「塾に通わせること」自体を目的とするのではなく、「塾に通って何を得たいか」や「演習時間は十分に確保できるか」を確認しなければなりません。そうでなければ、ただお金と時間を吸い取られるだけという最悪のケースにつながりかねません。
■コツは「想起する時間」の確保
どんなに優れた指導者や教材があっても、結局は「知識として定着させること」は自分以外の誰もできません。
楽器の演奏などもそうですが、レッスンを受けただけでは何も身につきません。自宅での反復練習こそが身になるための唯一の手段です。
聞くだけ、見ただけ、ノートを写しただけでは、知識として定着しません。人は、一度見聞きしたものは頭のどこかに格納されているが、想起(検索)することができないと言われています。思い出すことができないから「覚えてない」と認定されるということです。それってもったいないことですよね。
よって、演習で想起する自学(=想起学習)の時間を出来るだけ多く確保することがコツなのです。
■「知識の入れ方」は科目で異なる
しかし、「自学」にも落とし穴があります。
たとえば、ある高校生は、英語の単語を手で書くことで覚えられると思い、ひたすら同じ英単語を書き写していました。しかし、大学受験は長文読解の配点がもっとも高いため、長文読解で使える知識にするために「ソラで答えられるか」をテストするのが効率的です。また、手で書いても覚える効率はさほど高まりません。
他の子は、数学で難しい問題をたくさんやれば勝手に“数学力”なるものが高まり、どんな問題でも解けると考え、難しい問題集にばかり手をつけていました。しかし、ただ負荷を高めても成績は上がりません。基本操作や典型問題の解法を網羅的に身につけ、「他の人が解ける問題で自分も落とさないようにすること」が、大学受験の数学において重要になるのです。
このように、大学受験において知識量が成績を決めるといっても、どんな知識を入れるべきか、どのように入れるのが効率的か、といったことまで知らなければ、努力が水の泡になってしまいます。しかも、この「知識の入れ方」は科目ごとに異なります。
「知識量が成績を決める。だから自学自習の時間を最大限確保して、参考書で演習をする」というところまではご理解いただけたでしょうか。あとは、各科目の勘所を掴み、覚えるべき知識を然るべき方法で覚えれば、最短で最大限まで成績を伸ばすことができます。
■進学校に“特別なシステム”はない
「進学校に行けば成績が伸びる」「私立中高一貫校なら大学受験に有利」という声もよく聞かれます。しかし、こうした学校に通うこと自体が学力向上を保証してくれるわけではありません。
進学校に特別な授業やカリキュラムがあるかというと、実はそうではありません。とくに公立進学校であれば、使用する教材や授業内容は全国共通の学習指導要領に沿っています。教員も定期的に異動しますし、指導力に大きな差があるわけでもないのです。
それでも進学校が高い進学実績を出している背景には、「勉強が当たり前の空気」があります。周囲の生徒が黙々と努力している環境に身を置くことで、学習習慣が自然に身につき、自分も頑張らざるを得なくなるという効果です。
進学校は、けっして「楽に成績を伸ばす魔法の指導システム」を備えているわけではありません。勉強したい人にとって有益な情報が揃っていて、「やった分だけ伸びる環境」にあるだけなのです。また、市販の参考書や問題集を基盤とし、定期テストや模試を通じて反復学習を重ねるという文化も特徴的です。
■「私立中高一貫校」に安心してはいけない
私立の中高一貫校も同様です。自由な校風や高度なカリキュラムが特徴である一方で、大学入試に直結しない授業も多く、生徒自身が自学自習や塾を通じて補完することが求められます。
周囲の生徒のレベルが高く、学習意欲も高いため、刺激を受けやすい反面、この自由な校風が「中だるみ」や「勉強への自信喪失」といったリスクとなることもあります。
つまり、頑張って熾烈な中学受験を乗り越え、環境が整っている学校に進学したとしても結局は本人がどう学ぶかが鍵になってしまうのです。「自由だからこそ自分で学ぶ」「周囲が優秀だからこそ、自分のペースを大事にする」といった自己管理力が求められるため、ただ進学校に入っただけで成績が勝手に伸びるわけではないのです。
では、親の皆さんはどのように子どもの学習を支えればよいのでしょうか。求められるのは、「勉強の勘所を間接的に伝え、生活のサポートを主にすること」です。
成績を伸ばされているご家庭に共通するのは「勉強は塾と子どもに任せていました」とおっしゃるケースです。もちろん、塾に任せるというのは「授業をただ聴くだけの塾」でなく「演習時間を十分に確保してくれる塾」であることは言うまでもありません。
■“全面的に任せられる塾”かどうかを見極める
思春期の子どもたちは、勉強について親から口出しされることを非常に嫌います。入塾面談でも、親が子どもを連れてきた感じや、親が前のめりで子どもは無気力、といったケースでうまくいったことはほとんどありません。
まずは全面的に信頼でき、任せられる塾を選びましょう。そして、信じたなら塾に任せ、それ以外のサポートに徹します。栄養価の高い食事の用意や、塾の送迎、部屋の掃除、静かに勉強できる環境といった、安心して日々生活ができる環境の整備です。そのような姿をみて、子どもたちも自然と「結果で報いたい」という気持ちが湧いてくるものです。
塾選びでは、「必要十分な知識量が身につけられるか」「そのための自学自習の時間は十分に確保できるか」という観点を大切にしてみてください。これが学びの本質です。
■“親が口出し”して成功するケースはない
なかなか家で勉強しないこともあるでしょう。成績が伸びずに苦しんでいるところを見るかもしれません。そういった時に「あなたは頑張っていない」や「そんなにダラダラしてていいの?」といった声がけは最悪です。愚痴の一つも言いたい気持ちは抑えて、そういう時は間接的に干渉するのがいいでしょう。
例えば、勉強法の本をオススメしてみる。本を介して伝えたいことを伝えてみる。または、知り合いの大学生や、志望校の先輩を見つけて、その人を紹介してみる。その人から勉強のアドバイスをもらったり、叱咤激励してもらったりするという手もあります。
親子関係によりますが、親が子どもの勉強に口出しをしてうまくいっているケースはほとんど見かけません。中学受験の経験を引きずり、親が全面に出てしまうと却ってうまくいかないのです。
受験や成績をめぐる情報はあふれていますが、どんなに便利な教材やサポートがあっても、最終的に知識を定着させるのは子ども自身しかできません。塾も進学校も、あくまで「環境」に過ぎず、その環境をどう活かすかは本人次第です。
■「環境の整備」が学力向上の最短ルート
親は、進学校や塾に行かせたから安心するのではなく、「子どもがその環境を活かせるよう支える」という視点を持つことが求められます。
学力向上に“魔法の方法”はありません。あるのは、子ども自身の地道な努力と、それを支える親の環境整備能力です。そのためにも親自身が現状を見直し、子どもの学力向上に最適な環境を用意するという「積極的な間接的支援」を行うことが、お子さんの成績向上の最短ルートとなるのです。
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船登 惟希(ふなと・よしあき)
参考書作家
1987年新潟県佐渡島生まれ。東京大学理学部化学科卒業。新卒入社したDeNAを経て独立。東京大学へは、独学で現役合格した。在学中から参考書の執筆をスタートし、『宇宙一わかりやすい高校化学』シリーズ(学研プラス)をはじめとした、ベストセラー学習参考書を多数上梓。幼児向けや一般向け書籍も多数執筆している。
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(参考書作家 船登 惟希)