※本稿は、辻元清美・小塚かおる『日本政治の大問題 陰謀論、裏金・献金、暴走SNSの本質を問う』(朝日新書)の一部を再編集したものです。
■第2次安倍政権のメディアとの露骨な癒着
【辻元清美(以下、辻元)】権力とメディアの一体化で言うと、読売新聞の渡辺恒雄氏あたりの存在から記者が権力そのものに入っちゃって、自分が政治を動かしているような振る舞いが出てきた。実際に渡辺さんは権力を持っていたしね。それが私が覚えている中での第1期の権力とメディアの癒着。話題になったフジテレビの日枝久さんもそういう流れの人かなと思う。この人たちは主に昔の自民党と密着していたわけよね。しかし、まだ作法をわきまえていたように思うのよね。
【小塚かおる(以下、小塚)】どういう意味ですか?
【辻元】第2次安倍政権以降、政治とメディアの癒着がもっと露骨になったと思う。どういうことかというと、今度は権力側が圧力をかけ出したのね。政権に厳しいことを言うなど政権にとって気に入らないと思われるニュースキャスターたちが急に番組から消えちゃったりしてね。TBSの「NEWS23」に出ていた岸井成格さん、NHK「クローズアップ現代」の国谷裕子さん、テレビ朝日「報道ステーション」の古舘伊知郎さんもそうだよね。
国会の中でも問題になったけれども、自民党から直接テレビ局に抗議の文書が来たとかね。
■「批判はダメ」と上司から言われるメディア現場
【小塚】テレビ局で政治部記者や報道番組のプロデューサーをしていた人から聞いた話ですが、かつて政治の側は「なんだよ、この内容は」みたいな文句があっても、記者やプロデューサー、ディレクターなどの現場に言ってきたそうなんです。現場だから、間違っていれば訂正するし、間違っていないと思えばご意見拝聴で終わるなど、臨機応変に対応をする。
ところが安倍政権になったら、社長や役員、局長クラスに文句を言ってくるようになったと。経営幹部たちは現場の事情がよく分からないので、総理や官邸から言われたと過剰反応するから、会社の組織としてトップダウンで止めろという話になる。そうすると結局みんなサラリーマンだから萎縮してしまうというんですね。
【辻元】そうなんだよね。それで、メディアの中に自己規制が働くようになるわけでしょう。権力や官邸との関係で、そういうことが自社で起こる、または他社で起こっていると聞いたら、自主規制をするようになる。記者が自由に本を出版できていたのに、急に原稿を点検するから見せろといったことも起きているというしね。
自由に権力批判をしてきた記者たちが、政権から直接圧力をかけられなくても、社内の自主的なチェックや権力への配慮に耐えかねて、新聞社やテレビ局を辞めていっているよね。
■政権のスポークスマンになったジャーナリズム
【小塚】それはおかしいと私は思っていて、論評と批判は何がどう違うんですかと思うわけですよ。批判は建設的な改善点の指摘を含む論評だったりする。批判イコール反権力と考える人がいますが、そうではなく、そもそもメディアや報道機関というのは権力を監視する「権力ウォッチャー」のはずです。だから、権力を監視する立場からすると、これはおかしい、もっとこうした方がいいと批判するのは、社会をより良くしていくために当然のことじゃないですか。おかしいことをおかしいと言えなくなったり、批判はダメだと言い出したりしたら、権力を監視するというメディアの役割の放棄ですよ。
【辻元】ジャーナリズムは本来、「ウォッチ・ドッグ(番犬)」と言われて、権力を監視する役割なのに、単に「総理がこう言っています」「官房長官がああ言っています」などと伝えるだけの政権スポークスマンになってしまっているよね。
【小塚】スポークスマンであることが記者の仕事だと勘違いしている人もいます。
■権力側が源になった“攻撃の振り子”
【辻元】安倍政権時のメディアへの圧力の話に少し戻ると、テレビ局の個々の番組がその番組内で賛否両論を出さないと公平・中立な報道ではない、という圧力も掛けたよね。テレビ局は番組によって色があったとしても、報道機関としてトータルでバランスを取って活動しているのに、TBSの「サンデーモーニング」は偏向報道だと相当、批判された。安倍政権に近しい文化人や宗教団体などが、TBSの「NEWS23」のメーンキャスターだった岸井さんをターゲットにして、番組を名指しで批判する意見広告を出したりとかね。
安倍政権が源になって、振り子があちこちで共振し合っているような気がした。振り子はひとつ振れ出すと共振して、いくつもが大きく振れていくじゃない。政権や官邸が振り子を振るわけよ。これが最初。敵を決めて、みんなでここを攻撃しろ、みたいに権力が指差して、それに呼応する文化人や言論人と言われる人たちが、さらに振り子を大きくする。そこに、一般のインフルエンサーと呼ばれるような人たちも呼応して振り子をもっと大きくして、そしてメディアを窒息させていく。当時はそんな構図に見えたよね。
【小塚】大手メディアの政治部の番記者制度が政治家との癒着を生むという話で、辻元さんはジレンマとおっしゃいましたが、私は、与党の政治家を取材することと、野党の政治家を取材することは微妙に違うかなと思っています。
■メディアとの暗黙のラインを超えた長期政権
【小塚】与党は政権与党ですから、圧倒的な権力を持っているわけです。だから、与党の政治家と癒着しすぎると、無意識のうちに権力側のスポークスマンになってしまう恐れがあると思いますが、逆に野党の政治家から「国会でこういう質問をするよ」と言われて、それが良い提言ならば積極的に記事にする。野党の提言は政権がやっていることへの対案であったり、改善策だったりするわけですから。
【辻元】与党は物事を決定していくじゃない。だから、取材される量は多いわけよ。野党は物事を決定していかないから、こっちから仕掛けないとなかなか取材をしてくれない。記事の量にかなり差があるんだよね。
与党と野党は決定的に違って、メディア関係だけじゃなく、経済界や産業界、団体は与党にはものすごく近づいてくる。野党には情報も来ない。それは永遠のテーマで。ただ、やっぱり権力を持っている側が注意をしないとダメだと思う。権力側がメディアの役割をよく理解して、これを利用しようとか、これを使って世の中を煽ろうとか、政敵を倒そうとか、というようなメディアとの付き合い方は慎む。そういうことなんじゃないかと思うんだけどね。
【小塚】安倍政権以前のかつての自民党には少なくともそういう慎みはあったし、民主党政権の時だって、メディアとの関係性において超えてはいけない暗黙のラインがあったと思うんですよね。
■安倍政権で地に落ちた「報道の自由度」
【辻元】菅義偉政権も安倍時代を引きずっていたと思う。菅さんは官房長官として安倍さんと一体化してメディアコントロールをやっていたし、総務大臣の経験もあったから、総務省に対してすごく力を持っていた。ところが、岸田政権あたりからメディアへの圧力は薄れてきたように感じる。今の石破政権はさらに薄れている。国際NGO「国境なき記者団」が毎年発表する「報道の自由度ランキング」を見れば明白だよね。民主党政権の時はすごく自由度が高いと評価され、最高で11位までランクが上がった。だけど、安倍政権になったら地に落ちているでしょう。
【小塚】60~70位台に低迷し、最新の2024年は70位でした。
【辻元】民主党政権の時は、メディアを恣意的に利用しようとしてはいけないと当たり前に考えている人たちが権力を握っていた。もちろん、まったくやっていないとは言えないけれど、大方がそういう意識だった。だから、民主党政権は、朝の情報番組でMCのみのもんたさんにボコボコに言われて、朝から晩まで一日中批判されていたわけですよ。
長年権力を持ってきた自民党と一緒にやっていた方が甘い汁を吸えるような人たちは、メディアも含めて、もう一度、自民党政権に戻そうという力が働いたからね。
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辻元 清美(つじもと・きよみ)
参議院議員、立憲民主党代表代行
1960年奈良県生まれ、大阪育ち。参議院議員(2022年~)。早稲田大学教育学部卒。学生時代にNGO「ピースボート」を創設。96年、衆議院選挙で初当選し7期務める。野党第一党では女性初の国対委員長を歴任。現在、立憲民主党代表代行。著書多数。
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小塚 かおる(こづか・かおる)
日刊現代第一編集局長
1968年名古屋市生まれ。日刊現代第一編集局長。東京外国語大学スペイン語学科卒。関西テレビ放送、東京MXテレビを経て「日刊ゲンダイ」記者に。著書に『小沢一郎の権力論』、『安倍晋三vs.日刊ゲンダイ「 強権政治」との10年戦争』などがある。
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(参議院議員、立憲民主党代表代行 辻元 清美、日刊現代第一編集局長 小塚 かおる)