※本稿は山村聡『糖尿病専門ドクターが検証! 血糖値を下げる食事法について、実際に試してみた』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■うどんとそばを食べた後の血糖値上昇を計ってみたら…
うどんとそばを比べると、多くのかたが、うどんよりそばのほうがヘルシーとお考えになっているのではないでしょうか。実際、お昼にうどんか、そばのどちらかを食べようとなったら、血糖値を気にしているかたは、おそらくそばをセレクトするかたが多いに違いありません。
たしかに、GI値を比べてみても、うどんよりそばのほうが低いと報告されています。また、うどんのような白い糖質よりも、そばのような茶色の糖質のほうが血糖値が上がりにくいというイメージをお持ちのかたもいらっしやるでしょう。しかし、残念なことに、一般に広まっているこうした常識は、ほぼ誤解といってよいのです。
うどんとそばを1杯ずつ食べ、血糖値の変動を検証しました。
うどんの食前の初期値は77mg/dL。食後、血糖値は急上昇し、50分後にピークとなり、167mg/dLまで上がりました。その上昇幅は90mg/dLとなっています。
一方、そばの初期値は72mg/dL。ピークはやはり50分後でうどんと同じように急上昇し、172mg/dLまで上がっています。
図表1のグラフを見ていただければ、はっきりとわかるように、そばも、うどんとまるで同じように、食後の血糖値が急上昇しているのですね。「これはいったい、どういうこと? そばはヘルシーじゃないの?」と怪訝(けげん)に思っているかたも多いでしよう。
■GI値が低めでも糖質は多く、血糖値を上昇させてしまう
うどんは小麦粉、そばはそば粉、いずれも炭水化物からできています。つまり、そばやうどんを食べるということは炭水化物そのものを摂取することになります。それらが消化・吸収されると、それぞれに含有される炭水化物(=糖質)の量を反映して、その分だけ血糖値が上昇してしまうということなのです。
今回なら、うどんには63.8g、そばには、54.0gの炭水化物が含まれているため、消化・吸収した炭水化物量に応じて、血糖値が上昇してしまっています。
実は、GI値は例外的な値も多いのです。糖尿病内科医として、血糖値を気にされているかたにはGI値をあまり重要視しないほうがよいとアドバイスしています。GI値が低めだからといって、たくさん食べていると、かえって血糖値を上昇させてしまうことにもなりかねません。あくまでGI値は参考程度に。糖尿病のかたや、血糖値が気になるかたが注意しなければいけないのは、それぞれの食品に含まれる炭水化物(=糖質)量です。
そばにおいても、このことがあてはまります。
■そばに含まれるルチンなどは健康に良いと考えられるが…
なお、ここで私は「そばがヘルシーではない」といいたいのではありません。そばは、ポリフェノールの一種であるルチンという成分を豊富に含みます。ルチンは、腸内細菌のエサになって腸内環境を整える効能があるとされています。ほかに、そばにはビタミンB群、カリウム、マグネシウム等のミネラルも含まれ、そうした点からヘルシーな食品としてのそばを選択することはむろん間違いではありません。ただ、血糖値という観点からは、そばはうどんと同様に食べ方に配慮が必要となるということなのです。
前項のうどんとそばの検証動画をYouTubeにアップすると、大きな反響がありました。うどんよりそばのほうが血糖値の上昇の度合いが低いだろうとお考えになっていて、私の検証結果に驚いたかたがたくさんいらっしゃったのです。
ただ、中には、検証方法に疑問を持ったかたもいたようです。
そばの血糖値が上昇してしまったのは、そばの成分自体に問題があったのではないか。つまり、「そばに含まれるそば粉の比率が少なく、かわりに、つなぎとして小麦粉が多く含まれていたため、その小麦粉によって血糖値の急激な上昇が引き起こされてしまったのでは?」。そんなコメントが多数寄せられました。
■実験第2回、「十割そば」vs.「二八そば」では?
ちなみに、前回の検証で使われたそばは、そば粉4割、つなぎ(小麦粉)6割という比率でした。「ほらほら、つなぎがいっぱい入っているじゃないか」と思ったみなさんのために、そば粉の比率を増やして検証してみました。
まず、十割そばの初期値が94mg/dL、その後、血糖値は急上昇し50分後にピークを記録。202mg/dLまで上昇しました。その上昇幅は108mg/dLです。
次に、二八そば。初期値が102mg/dLで、その後、血糖値は急上昇し、ピーク(60分後)では218mg/dLまで上昇。上昇幅は116mg/dLとなっています。
このように、そばに含まれるそば粉の割合が十割であれ、八割であれ、急激な血糖値上昇が引き起こされていることが示されました。そば粉が増えたからといって、血糖値の上昇度合いが低くなるということはありません。血糖値の上昇は、その食品に含まれる炭水化物(糖質)が消化・吸収された結果として引き起こされます。
■低GIの十割そばでも「つなぎ」が入ったそばとほぼ同じ
つなぎの小麦粉がたくさん使われていても、100%そば粉でも、それが炭水化物である限り、血糖値上昇を引き起こすということなのです。
十割そばの血糖値の変動のグラフ(図表2)を見てください。
50分後でピークを迎えたのち、血糖値はいったん急降下します。その後、120分を過ぎると、再び血糖値が上昇し、小さな山を作ります。これが、「二峰性の変動」と呼ばれる反応です。
二峰性の変動は、摂取した炭水化物(糖質)の量が多すぎたときに起こる現象です。食事から摂取した糖質量が多すぎると、1つ目のピークを作る最初のインスリンの分泌量だけでは血糖値が下がりきれません。そうすると、もう一度インスリンが分泌されることになり、二度目の血糖値上昇の小さなピークが作られます。血糖値上昇の2つの山ができるとは、インスリンが二度分泌されるということ。その分、すい臓はよけいに働かなくてはならなくなり、すい臓の負担が増えるのです。
二峰性の変動が起きてしまう場合、明らかに炭水化物の摂取量が多すぎなのですね。
■実験第3回、「白米」vs.「玄米」ではどっちがヘルシーか?
玄米は、白米よりもヘルシーだといわれており、白米にない栄養成分が多く含まれています。というのも、玄米は、もみからもみ殻のみを取り除き、米ぬかや胚芽を残したもの。白米に比べると、ビタミンB群や、マグネシウム、カルシウム、食物繊維などが豊富なうえ、それらの有効成分による健康効果も期待されるところがあるからでしょう。また、玄米には食物繊維が多いことから、血糖値の上昇抑制効果があるとされています。
今回は、玄米と白米とで、その血糖値上昇の程度を比べる検証を行ってみました。ごはん1杯(150g)を食べ、血糖値の変動を追いかけたものです(図表3)。
まずは、白米です。
初期値が101mg/dL。食後、血糖値は順調に上昇し、60分でピーク。217mg/dLまで上昇しました。上昇幅は116mg/dLです。
■白米と玄米では炭水化物量はほぼ同じ、血糖値も急上昇する
次に、玄米です。初期値は98mg/dLで、血糖値はゆったりと上がり、70分でピーク。201mg/dLまで上がりました。上昇幅は103mg/dLとなっています。
白米に比べると、玄米はややピークが抑えられていて、血糖値の上昇の仕方も多少ゆるやかになっているといってもいいもしれません。しかし、白米に負けないくらい、玄米も血糖値が上昇してしまうことも事実なのです。
ヘルシーといわれる玄米ですが、少なくとも血糖値の上昇抑制という点では、あまり玄米には期待してはいけないと思います。
患者さんからも、「白米を玄米に変えました」とか、「雑穀米を白米に混ぜています」といったお話をよく聞くのですが、炊いた玄米でもこうした結果なので、雑穀米をちょっと混ぜた程度では、血糖値に関してはほぼ変わらないのですね。モニタリング機器をつけてもらって、血糖値を継続的に確認できるようになると、患者さんもわかってきます。「玄米にしてもほとんど変わりませんでした」と。
■レトルトの「ごはん」を比べてみると…意外な結果に
ただ玄米には、白米では摂取できない栄養素も多いので、それらの有効成分をとるために主食に玄米を選択することは、もちろん「あり」だと思います。
なお、レトルトの白米(180g)と玄米(160g)を食べ、それぞれの血糖値の変動を追跡すると、また違った発見がありました。白米の初期値が101mg/dL、ピーク値243mg/dL(90分)、上昇幅142mg/dL。
玄米の初期値が119mg/dL、ピーク値270mg/dL(80分)、上昇幅152mg/dL。
パックごはんになると、さらに激しく血糖値が上昇した結果となりました。パックごはんは口当たりも消化もよく、噛んでいると甘みが出てくるような加工がされています。その加工の影響で吸収が早くなり、血糖値が急上昇しやすいのです。パックごはん(しかも、玄米のほうがピーク値も上昇幅も高かった)の場合、よく配慮して食べないといけないことがわかってきます。
玄米だから安心ということでは決してないので、摂取量を減らしたり、おかずから先に食べたり等々、そのへんをしっかり意識して食べましょう。
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山村 聡(やまむら・そう)
糖尿病内科医
九州大学医学部卒業後、研修医を経て昭和大学糖尿病内科に入局。糖尿病をはじめとする生活習慣病、内分泌疾患の診療に従事する。その後、フリーランスの内科医となり、2018年にYouTubeで「やさしい内科医のY’s TV」を開設。現在は8万人のチャンネル登録者を獲得する(2025年2月現在)。2024年には、やさしい内科クリニックを開業する。
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(糖尿病内科医 山村 聡)